夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ヴェラ・ドレイク」:イギリス労働者階級の違法妊娠中絶の功罪を、人情と家族の絆の視点から描く

「ヴェラ・ドレイク」(原題:Vera Drake)は、2004年公開のイギリスのヒューマン・ドラマ映画です。マイク・リー脚本・監督、イメルダ・スタウントンらの出演で、中絶が禁じられていた1950年代のロンドンを舞台に、善意からタブーを冒した主婦の悲痛な運命を真摯に描き出しています。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞と主演女優賞を受賞、アカデミー賞で主演女優賞、脚本賞、監督賞の3部門にノミネートされた作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:マイク・リー
脚本:マイク・リー
出演:イメルダ・スタウントン(ヴェラ・ドレイク)
   フィル・デイヴィス(スタン・ドレイク)
   ダニエル・メイズ(シド・ドレイク)
   アレックス・ケリー(エセル・ドレイク)
   エディ・マーサン(レグ)
   ジム・ブロードベント (判事)
   エイドリアン・スカーボロー(フランク・ドレイク)
   サリー・ホーキンス(スーザン・ウェルズ)
   ほか

あらすじ

1950年、ロンドンの労働者階級の人々が住む界隈で暮らすヴェラ・ドレイク(イメルダ・スタウントン)は、愛する夫と二人の子供を持ち、勤勉な妻、献身的な母親であると同時に、家政婦の仕事をしながら、年老いた母親の面倒を見、更に病気の隣人を世話するなど、困っている人を見ると助けずにおれない人柄で、周囲の人々からも良い評判を得ていました。愛する夫のスタン(フィル・デイヴィス)、息子のシド(ダニエル・メイズ)や娘のエセル(アレックス・ケリー)ら家族に囲まれて、笑顔を絶やさない彼女は周囲の人々にとってかけがえのない存在でしたが、彼女は一つの秘密を抱えていました。長い間、望まない妊娠をした女性に秘密裏に無償で堕胎の手助けをしていたのです。女たちとヴェラを仲介するのは、ヴェラの子供の頃からの友人リリー(ルース・シーン)でしたが、堕胎料金はすべて彼女が着服していました。そんなある日、近所に住む一人暮らしの青年レジーエディ・マーサン)が、エセルと婚約、スタンとヴェラは弟夫婦を自宅に呼んで、ささやかなお祝いの席を設けますが、そこにウェブスター警部(ピーター・ワイト)が現われます。ヴェラが助けた娘の体調が急変し、堕胎のが明るみ出たのでした・・・。

レビュー・解説

困っている人を見ると黙っていられない性分のヴェラ・ドレイクが、育てられない子を宿して困っている女性の堕胎を助けた為に罪を問われ、家族に悪い事をしたいう思いに苛まれて行く様を演じるイメルダ・スタウントンが圧巻です。何かと議論の的になりやすい人口妊娠中絶ですが、この問題に労働者階級の人々の人情や家族の絆の視点からアプローチした素晴しい作品です。

 

この時代、子供を育てる余裕のある富裕層は合法的に中絶する道がありましたが、金のない労働者階級は闇でヴェラ・ドレイクのような人を頼るしかありませんでした。イメルダ・スタウントンがこの映画の為に調査をしたところ、実際の堕胎幇助の罪で服役した多くの女性は、困った女性達を助ける為に無償で行ったお母さんや、お婆さん達だったことに衝撃を受けたといいます。その後、イギリスでは1967年に24週までの中絶が合法化されましたが、マイク・リー監督は次のように語っています。

It's an ongoing major issue. In many countries it is still illegal, and even though in this country someone that needs it can get an abortion, that doesn't diminish the pain of the whole thing.(問題が解決されたわけではない。多くの国ではいまだに非合法だし、この国(イギリス)のように必要な人が中絶できても、その痛みをすべて消せるわけではない。)

 

脚本がなく、俳優と話し合いながら即興で映画を作っていくというマイク・リー監督ですが、この作品でも罪に問われるヴェラ・ドレイクのみならず、彼女を囲む家族の夫のスタン、息子のシド、娘のエセル、娘婿のレグなどの人物描写や家族の絆の描写が素晴しく、1950年代に本当にこういう人達、こんな家族がいたのではないかと思わせるほどリアルです。

 

イメルダ・スタウントン(ヴェラ・ドレイク)

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フィル・デイヴィス(スタン・ドレイク)

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ダニエル・メイズ(シド)

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アレックス・ケリー(エセル)

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エディ・マーサン(レグ)

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撮影地(グーグルマップ) 

ドレイク一家が住んでいたアパート

 

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関連作品

マイク・リー監督作品のDVD(Amazon

  「ハイ・ホープス 」(1988年)

  「ネイキッド」(1993年)

  「秘密と嘘 」(1996年)

  「キャリア・ガールズ」(1997年)

  「人生は、時々晴れ」(2002年)

  「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年)

  「家族の庭」(2010年)

  「ターナー、光に愛を求めて」(2014年)

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