「ハリウッドがひれ伏した銀行マン」:80年代のインディーズ・ブームの原動力となったフランズ・アフマンの軌跡を追うドキュメンタリー
「ハリウッドがひれ伏した銀行マン」は、2014年公開のオランダのドキュメンタリー映画です。新興の映画会社向けに新たな資金調達システムを編み出し、900本もの作品の製作をサポートしたオランダの銀行家フランズ・アフマンの娘、ローゼマイン・アフマンの監督・脚本で、映画配給会社に対し作品の配給権を作品完成前に販売することでその対価を制作費に充当することができる「プリセールス」というシステムを開発、これにより、新興の映画会社による映画製作が盛んとなり、1970年代半ばから90年代にかけて、「コンドル」、「キングコング」、「ターミネーター」、「プラトーン」といった優れたインディーズの作品群の実現を可能にした父の足跡を、自伝の代わりに撮影したという死期の近づく父が思い出を語る映像や、ケビン・コスナー、オリバー・ストーン、ポール・バーホーベンら数多くの映画人の証言により構成された作品です。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:ローゼマイン・アフマン
脚本:ローゼマイン・アフマン
出演:フランズ・アフマン
アンニャ・アフマン
ローゼマイン・アフマン
ケビン・コスナー
ガイ・イースト
デレク・ギブソン
ヨーラン・グローバス
メナハム・ゴーラン
ピーター・ホフマン
アーノルド・コペルソン
マーサ・デ・ラウレンティス
スティーブン・ポール
ミッキー・ローク
ピエール・スペングラー
オリバー・ストーン
ポール・バーホーベン
ほか
あらすじ
- ロッテルダムの銀行員だったアフマンは、イタリア出身のプロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスの知己を得て、ともに「プリセールス」というシステムを開発しました。これは、映画配給会社に対し作品の配給権を作品完成前に販売することでその対価を制作費に充当することができるシステムで、この方法を利用してアフマンは新興映画会社に次々と融資を行い傑作を生みだしていきます。
- アフマンのもとに参じたのはデ・ラウレンティスを筆頭に、キャノンを率いるイスラエル人メナハム・ゴーランとヨーラム・グローバス、カロルコ・ピクチャーズのレバノン人出身マリオ・カサールとハンガリー出身のアンドリュー・G・ヴァイナをはじめとする映画会社トップから資金集めに奔走するプロデューサー、監督に至るまで多岐に及びます。アフマンがカンヌをはじめとする国際映画祭に顔を出すと、面会を希望する映画人が跡を絶たなかったといいます。
- 1987年に開催された第59回アカデミー授賞式では、アフマンが資金提供を手がけた「追想のかなた」、「眺めのいい部屋」、「プラトーン」が8つのアカデミー賞を受賞するに至ります。「プラトーン」のプロデューサーであるアーノルド・コペルソンは授賞式で「本当に必要とする時にフィリピンのジャングルに資金を用意してくれた」と、普段は表に出ることのない銀行家フランズへの感謝の意を表しました。
- 本作は、かくしてアメリカ映画界を陰で支えたアフマンの波乱万丈の軌跡を、自伝の代わりに娘のローゼマインが撮影した、死期の近づく父が思い出を語る映像や、ケビン・コスナー、オリバー・ストーン、ポール・バーホーベンら数多くの映画人の証言により、描き出しています。
レビュー・解説
80年代のインディーズ・ブームの原動力となった銀行家フランズ・アフマンの軌跡を追った本作は、インディーズ映画の資金調達の仕組みを解き明かす稀有な作品であるだけではなく、客観的でしっかりとした構成をとりながらも亡き父の自伝代わりにと監督・脚本を務めた愛娘と父の絆を感じさせる優れたドキュメンタリーです。
アメリカの映画は、
- ウォルト・ディズニー・カンパニー系
- ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント系
- 20世紀フォックス系
- パラマウント映画(バイアコム傘下)系
- ユニバーサル・スタジオ (NBCユニバーサル傘下)系
- ワーナー・ブラザース・エンターテイメント (WB、タイム・ワーナー傘下)系
のメジャー系制作会社による作品と、独立資本やアートハウス系製作会社の作品、即ちインディーズ映画に大別されます。メジャー系制作会社は大規模予算を組みやすい反面、意思決定プロセスが複雑で、作品の内容が制作者の思い通りにならない場合があります。一方、インディーズ映画は一般に小規模予算ですが、映画制作者の意図を忠実に反映する卓越した内容やスタイルの作品が少なくありません。しかし、小規模予算と言っても映画制作には莫大な費用がかかります。インディーズ映画がどうように制作費をかき集めるのか、日頃から疑問に思っていましたが、本作は80年代に「プリセールス・システム」を開発し未曾有のインディーズ・ブームの原動力となった銀行家フランズ・アフマンの伝記を通して資金調達の仕組みを解き明かしてくれる、稀有なドキュメンタリーです。
フランズ・アフマンと幼い頃のローゼマイン
本作のもうひとつの魅力は、アフマンの愛娘ローゼマインが監督・脚本を務めていることです。晩年、膵臓がんに侵されたフランズとともに過ごす為、ローゼマインはアメリカから父のいるオランダに戻ります。フランズは自伝を書くことを希望していましたが、もはや時間がないことを見てとったローゼマインは父に向けてカメラを回し、父は娘の向けるカメラに向かって思い出を率直に語っていきます。父亡き後、ローゼマインはゆかりの映画人を訪ね、父の軌跡を補強して制作したのが本作です。身内による制作となると手前味噌になりがちですが、本作はフランズが巻き込まれた収賄疑惑も扱うなど、ドキュメンタリーとしての客観性を保つ一方、エンディングのポール・バーホーベン監督のインタビューでは、カメラを挟んでのローゼマインとの感動的なやりとりが、この優れた作品が父と強い絆を持つ娘の手によるものであることを強く印象づけます。
80年代のインディーズ映画や、映画業界の裏舞台に興味のある方にお勧めのドキュメンタリーです。
フランズ・アフマン(プリセールス・システムを開発したオランダの銀行家)
アンニャ・アフマン(フランズの妻)
ローゼマイン・アフマン(フランズの娘、本作の監督)
ケビン・コスナー(映画俳優)
オリバー・ストーン(映画監督)
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関連作品
フランズ・アフマンが手がけた主な作品のDVD(Amazon)
「スーパーマンII」 (1980年)
「眺めのいい部屋」(1985年)
「勝利への旅立ち」(1986年)
「プラトーン」(1986年)
「ロンリー・ハート」(1986年)
「ドライビング Miss デイジー」(1989年)
「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」(1989年)
「恋人たちの予感」(1989年)
「ダンス・ウィズ・ウルブズ」(1990年)
「トータル・リコール」(1990年)
「ターミネーター2」(1991年)