「天使の分け前」(原題:The Angels' Share)は、2012年のイギリス・フランス・ベルギー・イタリア合作のヒューマン・コメディ/ドラマ映画です。ケン・ローチ監督と本作でデビューを果たしたポール・ブラニガンらが、トラブルばかり起こす青年がウイスキーと出会ったことにより成長していく姿をコミカルに、ハート・ウォーミングに描いています。第65回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した作品です。
目次
スタッフ・キャスト
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァーティ
出演:ポール・ブラニンガン(ロビー)
ジョン・ヘンショウ(ハリー)
ガリー・メイトランド(アルバート)
ジャスミン・リギンズ(モー)
ウィリアム・ルアン(ライノ)
ロジャー・アラム(タデウス)
デヴィッド・グッドール(アンガス・ドビー)
シボーン・ライリー(レオニー)
フォード・キアーナン(駅長)
ほか
あらすじ
不況にあえぐスコッチ・ウィスキーの故郷、スコットランドの恵まれない環境に生まれ育った青年ロビー(ポール・ブラニガン)は、たびたび暴力沙汰を起こしてきました。またしても問題を起こし捕まったロビーは、恋人との間にできた子どもがじき生まれることを鑑みて、刑務所送りをまぬがれ、裁判所から300時間の社会奉仕活動を言い渡されます。社会奉仕活動の指導するウイスキー愛好家のハリーの影響でウィスキーの魅力に引き込まれたロビーは、次第にテイスティングの才能を目覚めさせていきます・・・。
レビュー・解説
「天使の分け前」は、同じスコットランドの労働者階級の犯罪との関わりを描きながらも、ブラック・ユーモアと社会性をスパイスに明るく元気づけられるハート・ウォーミングなコメディで、ほろ苦い「SWEET SIXTEEN」とは対照的な作品です。冒頭、ウィスキー片手の酔っぱらいが駅のホームから線路に転落し、続いて裁判所で何人かの罪状が読み上げられます。
- 酔っぱらって駅のホームから線路に落ちた男
- インコを盗んだ上に「レイプ犯や連続殺人犯を捕まえたらどうなのさ」と警察官を罵る少女
- 生活苦から刑務所に戻りたいが故に、遠慮がちに自動販売機を壊す男
- 酒とドラッグに酔っぱらい、記念碑にいたずらをして歩く男
- 働いているのに社会保障の不正請求を止められない女
- 恋人との間にできた子どもがじき生まれるのに問題ばかり起こしている男
と、冒頭からコミカルな調子が全開です。これらのメンバーが社会奉仕作業の為に、ジョン・ヘンショウ扮するハリーの元へ送り込まれるのですから、わくわくします。おまけに、例によって愛おしいスコットランド訛りも全開です。
ケン・ローチは本作でもアマチュアを起用していますが、主役のロビーを演じるポール・ブラニンガンは、本作がデビュー作で、なんと役柄のロビー同様、実際に受刑していた青年です。ウイスキー愛好家のハリーは、社会奉仕のメンバーを内緒で蒸留酒製造所連れて行くのですが、ここで一行を案内するガイドが歯切れ良く楽しげで、プロはだしです。調べてみたら、ジェイムズ・マカヴォイの妹のジョイ・マカヴォイでした。このパフォーマンスは血筋かもしれません。
映画には、いくつかのウィスキーの銘柄が出てきます。ポールの息子の誕生を祝う為に、ハリーが乾杯に持ち出したきたのがスプリングバンクの32年ものです。
ハリーが社会奉仕のメンバーを連れて行ったウィスキーの会で講師が紹介、テイスティングするのがラガヴーリンの16年です。
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同じウィスキーの会でポールとハリーがブラインド・テイスティングするのが、クラガンモアです。
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ウィスキーの会で講師が最後に紹介するのがモルトミルの幻の樽です。モルトミルは、ラガヴーリン蒸溜所敷地内にもうひとつあった小さな蒸溜所で、生産量は少なく、また、シングルモルトとしてボトリングされたことはない為、「モルトミル」というボトルは現存しないと言われていますが、その幻の樽が見つかったという話をします・・・。
タイトルの「天使の分け前」(原題:The Angels' Share)とは、ウイスキーが熟成する過程で年2%ずつ減っていくその減少分を指す言葉ですが、映画はその素敵な言葉を地でいくような展開をします。ケン・ローチ監督は本作を、寓話と称しています。グラスゴーの貧しい労働階級をベースにしながら、ちょっとした夢物語になっています。
ポール・ブラニンガン(手前)とジョン・ヘンショウ(奥)
社会奉仕を命じられたメンバーたち
「天使の分け前」を説明するジョイ・マカヴォイ(ジェイムズ・マカヴォイの妹)
撮影地(グーグルマップ)
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