夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「インクレディブル・ハルク」:ブルースの苦悩を見事に浮かび上がらせた傑作

インクレディブル・ハルク」(原題:The Incredible Hulk)は2008年公開のアメリカのSF/アクション映画です。マーベル・コミックによるアメコミ「ハルク」を実写化した映画で、感情の爆発を機に緑色の巨人ハルクに変身してしまう科学者と、彼を軍事利用しようとする軍の戦いを描いています。

 

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監督: ルイ・レテリエ

脚本: ザック・ペン

    エドワード・ノートン

原案: ザック・ペン

原作: ジャック・カービー/スタン・リー「ハルク」

出演: エドワード・ノートン(ブルース・バナー/ハルク)

    リヴ・タイラー(ベティ・ロス)

    ティム・ロス(エミル・ブロンスキー/アボミネーション)

    ティム・ブレイク・ネルソン(サミュエル・スターンズ)

    タイ・バーレル(レナード)

    ウィリアム・ハート(ロス将軍)

    ピーター・メンサー(ジョー・グレラー)

    ルー・フェリグノ(ハルクの声、大学の警備員 )

    ポール・ソールズ(スタンリー)

    ヒクソン・グレイシー合気道のインストラクター)

    スタン・リー(ミルウォーキーの男 )

    ロバート・ダウニー・Jr(トニー・スターク)

    ほか

 

【あらすじ】

人体への放射線の影響を研究していた科学者ブルース・バナー(エドワード・ノートン)は、研究中の事故により怒りとともに巨大な緑色のモンスター=ハルクに変身する能力を得ます。その能力の軍事利用を目論む実験責任者のロス将軍(ウィリアム・ハート)に追われる身となったブルースは、ブラジルのリオデジャネイロに潜伏します。武道家に師事し、変身の原因となる感情の制御方法を学びながら、「ブルー」と名乗る研究者の協力を得て体を元に戻す方法を模索していました。感情の制御は簡単ではなく、詳細データの不足で研究もうまくいかないまま焦りが募るある日、ブルースは勤め先のジュース工場で手を切り、血液が混入したジュースが出荷されてしまいます。それを飲みガンマ線に汚染された人が現れたことからロス将軍は工場を突き止め、エミル・ブロンスキー(ティム・ロス)を含む特殊部隊を送り込みます。窮地に追い込まれたブルースは、間一髪でハルクに変身し、部隊を壊滅させます。辛くも生き残り、初めて目にしたハルクの圧倒的なパワーに魅了されたブロンスキーは、それが兵士強化実験の結果であることを知り、肉体を強化し自分もその力を得ようと、軍が極秘に進めていた兵力強化の「スーパー・ソルジャー計画」に志願します。ブルースは、治療の鍵を握る「ミスター・ブルー」を訪ねて5年ぶりにアメリカ国内へに入り、かつての恋人でロス将軍の愛娘でもあるベティ(リヴ・タイラー)に会います。新しい恋人と交際しつつもブルースを思い続けていたベティは、彼との再会を喜びますが、ロス将軍とブロンスキーの追跡の手が二人に迫ります。絶体絶命のピンチにハルクとなったブルースは、ベティを救出して姿を消します。逃亡の途中、ベティはブルースの苦悩を理解し、ブルースを「ミスター・ブルー」ことスターンズ(ティム・ブレイク・ネルソン)と引き合わせ、ブルースは遂に肉体を元に戻すことに成功します。そこにロス将軍率いる部隊が乗り込み、ブルースを拘束、ブルースはヘリで移送され、ブルースの血清を手に入れたブロンスキーがそれを自らの体内に注入すると、彼の肉体は変異してロス将軍の予測をはるかに超えた事態を引き起こします。ニューヨーク、そしてベティの身に迫る危機が迫り、ブルースは愛する者のために、再びハルクになることを決意します・・・。

 

プロットはシンプルですが、この映画の魅力は何と言っても、逃亡→忍耐→怒りの爆発という古典的なパターンを踏襲しながら、怒りのコントロールが難しいことがもどかしく、観衆がどきどきするところでしょう。

 

ハルクとアボミネーションの乱闘シーンは、モーション・キャプチャと37台のデジタルカメラを使って撮影されました。最後にハルクの目が緑になり笑うシーンは、彼が怒りをコントロールする術を学んだ、あるいは悪人になってしまった、どちらにも見える様に、注意深く撮影したと、ルイ・レテリエ監督は語っています。

 

ルイ・レテリエは、当初、「アイアンマン」を監督することを希望していましたが、これがジョン・ファヴローに行ったため、マーベル・スタジオのアヴィ・アラッドは、ルイ・レテリエに「インクレディブル・ハルク」を与えました。ルイ・レテリエは、2003年公開版の「ハルク」を気に入っていましたが、シリーズを続ける為には、アン・リー監督の知的なスタイルから離れ、アクション主体のトーンにすべきであるというマーベルスタジオの意見に同意しました(アン・リー監督の「ハルク」は、人間ドラマに焦点を当てた事からヒーロー物としては高い評価を得られなかった)。

 

ルイ・レテリエ監督とマーベルスタジオは、2003年版「ハルク」のリブートとして満足の行く者として脚本原稿を既に了解していましたが、彼が出演した他の作品同様、エドワード・ノートンはこれを書き換えました。偉大な作品においてそのルーツを最初の語る事は第一義とは思わない、観衆はストーリーを知っているので、もっとうまく扱うべきだと、彼は語っています。

 

エドワード・ノートンは、ブルース・バーナーの親友リック・ジョンソンを脚本から削り、ドク・サムソンを加え、他のマーベル・コミックに言及しました。彼は、将来の作品で説明される「全体に動きを与える新事実」を、加えたいと思っていました。共演のティム・ロスによると、彼は毎日、シーンを書き換え、リブ・タイラーと、特にハルク以前のキャラクターの人生について何時間も議論していました。

 

エドワード・ノートンの起用は、テレビ・ドラマ・シリーズ「超人ハルク」の主演ルー・フェリンゴによるものでした。エドワード・ノートンはハルクの大ファンでしたが、映画がどうなるかわからなかったので、これを辞退しました。ルイ・レテリエ監督とマーベルと会って、彼らのビジョンを聞き、出演を受諾しました。ルイ・レテリエ監督は当初、ブルース役にマーク・ラファロを希望しましたが、マーベルスタジオはエドワード・ノートンを主張、ルイ・レテリエ監督はこれに従いました。皮肉なことに、「アベンジャーズ」でエドワード・ノートンが降板、マーク・ラファロがブルース/ハルク役を演ずることになりました。

 

これに関してマーベルスタジオは、

今回このような決定になったのは、金銭的な問題ではなく、『アベンジャーズ』の他の出演者たちと協調性や創造力を共にできる俳優がわれわれには必要だと考えたからです。

と表明しています。エドワード・ノートンも、

さまざまな理由で出演することができなかったんだ。ハルクを演じるのはとても楽しかったよ。ただ横柄だと思わないでほしいんだけど、僕はああいった種類の映画に出演することに時間を費やしたいとは思わないんだ。ほかにたくさんやりたいことがあるからね。スタジオは中規模の予算で、大人向けの思慮深い作品を作りたがらないんだ。そういった映画を作るのはとても難しいんだよ。

と語っています。アン・リー監督版の「ハルク」の評判はあまり高くありませんでした。これを引き上げたのがエドワード・ノートンでしたが、いろいろと難しいものですね。

 

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