夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」:老いた頑固な父と子のヒューマン・コメディ

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」(原題:Nebraska)は、2013年公開のアメリカのヒューマン・コメディ&ドラマ映画です。アレクサンダー・ペイン監督、ブルース・ダーン。ウィル・フォーテら出演で、しばらく疎遠になっていた父子がモンタナ州からネブラスカまでの車での旅を通して歩み寄っていく姿を描いています。第66回カンヌ国際映画祭でのコンペティション部門でパルム・ドールを争い、ブルース・ダーンが男優賞を獲得した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ブルース・ダーン(父、ウディ・グラント、百万ドルの当選を信じ込む老人)
   ウィル・フォーテ(次男、デヴィッド・グラント、電気店の店長)
   ジューン・スキッブ(母、ケイト・グラント、ウディの妻)
   ステイシー・キーチエド・ピグラム、かつてウディと自動車整備工場を経営)
   ロス・グラント(長男ボブ・オデンカーク、ニュースキャスター)
   マリー・ルイーズ・ウィルソン(マーサ伯母さん、ウディの兄嫁)
   ミッシー・ドーティ(ノエル、同棲するもデヴィッドを捨てる女性)
   アンジェラ・マキューアン(ペグ・ナギー、ウディの昔の恋人、地方紙を経営)
   ランス・ハワード(レイ伯父さん、ウディの兄、マーサの夫)
   デヴィン・ラトレイ(コール、レイとマーサの息子、前科者)
   ほか 

あらすじ 

モンタナ州のウディ・グラント様 我々は貴殿に100万ドルをお支払いいたします」という、誰が見ても古典的でインチキな手紙をすっかり信じてしまったウディ(ブルース・ダーン)は、遠く離れたネブラスカ州リンカーンまで歩いてでも賞金を取りに行くと言ってききません。大酒飲みで頑固なウディと距離を置いてきた息子のデイビッド(ウィル・フォーテ)ですが、父の様子を見兼ねて、無駄だと知りながらも一緒に車に乗って4州に渡る旅に出ます。途中に立ち寄ったウディの故郷で、昔の共同経営者だった父の友人や親戚、知人と出会い、デイビッドは想像もしなかった両親の過去に直面します・・・。

レビュー・解説

老いた父と息子を描いた「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」は、笑いながらも思わず共感してしまう、アレクサンダー・ペインの監督の美しく、シンプルで詩的なメッセージです。

 

白黒で撮影されたこの映画は、父親の故郷があるネブラスカに向かった父と子と周囲の人々をコミカルに描き出す、ユニークで心温まるロードムービーです。ブルース・ダーンは頑固な老人の特徴を非常にうまく捉えて演じており、本当にそこに老人がいるかのようにリアルです。ブルース・ダーンは、「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞しましたが、彼は1960年のデビュー以降、脇役や悪役が多く、主役を演じることはほとんどありませんでした。本作のパフォーマンスは、長年、地道に積み重ねてきたキャリアの賜物でしょう。

 

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」では、老人とその家族やネブラスカの人々の会話がとても面白く楽しめます。とっておきのシーンを下の動画クリップに貼っておきますが、ブルース・ダーンの表情が抜群です。お母さんも傑物で下ねたを連発、息子にたしなめられてもどこ吹く風です。頑固な老人の相手をするのは大変だと思いますが、そうした老人をユーモラスに描くこの映画を見ていると、思わず応援したくなります。もうひとつ、インチキなダイレクト・メールを出した会社の受付とデイヴィッドの会話です。

Receptionist: Does he have Alzheimer's?
David Grant: No, he just believes what people tell him.
Receptionist: That's too bad.

受付の女性:(ウッディ(父)を指して)彼はアルツハイマーなの?
デイヴィッド(息子):いや、彼は人の言った事を信じているだけだ。
受付の女性:それは、まずいわ。

 

他にも故郷の親戚や知人が出てくるのですが、万事この調子です。アレクサンダー・ペイン監督の故郷ネブラスカは広大な農地が広がる、いわばアメリカの大いなる田舎です。そのゆったりとした一種独特の雰囲気の中で、父と子が理解し合い、心が触れ合っていきます。

 

ウッディ役には、ジーン・ハックマンジャック・ニコルソンロバート・デュバルの起用も考えられました。最終的に起用されたブルース・ダーンアルコール中毒で足を引きずるウッディを演じていますが、実生活では酒を飲まず、また、熱心なマラソン・ランナーであった彼は、70代後半の今でもトレーニングをしているそうです。

 

監督のアレクサンダー・ペインは脚本家でもあり、レックス・ピケットの原作に基づいた「サイドウェイ」を自らの脚本で監督し、2004年度のアカデミー脚色賞を受賞しています。

動画クリップ(YouTube

(As David reveals breakup with his girlfriend to his father, )
DAVID: How did you and Mom end up getting married?
WOODY: She wanted to.
DAVID: You didn’t?
WOODY: I figured what the hell.
DAVID: Were you ever sorry you married her?
WOODY: All the time. It could have been worse.
DAVID: You must have been in love. At least at first.
WOODY: Never came up.
DAVID: Did you ever talk about having kids -- how many you wanted, stuff like that? 
WOODY: Nope.
DAVID: Then why did you have us?
WOODY: I wanted to screw, and your mother’s Catholic, so you figure it out.
DAVID: So you and Mom never actually talked about whether you wanted kids or not?
WOODY: I figured if we kept on screwin’, we’d end up with a couple of you.

(デイヴィッドが彼女と別れた事を打ち明けて)
デイヴィッド(息子):母さんと結婚した時はどうだった。
ウッディ(父):母さんが望んだ。
デイヴィッド(息子):父さんは?
ウッディ(父):「なんてこった」と。
デイヴィッド(息子):後悔した事は?
ウッディ(父):しょっちゅうだが、まあ何とかなった。
デイヴィッド(息子):少なくとも最初は愛していたよね。
ウッディ(父):考えたことない。
デイヴィッド(息子):子供が何人欲しいとか、相談は?
ウッディ(父):してない。
デイヴィッド(息子):じゃ、何故作ったの?
ウッディ(父):ヤりたいからさ。母さんはカトリックだし、わかるだろ。
デイヴィッド(息子):子供について話し合ってないの?
ウッディ(父):ヤり続けりゃ、子供ができるに決まっているだろ。

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関連作品

 

アレクサンダー・ペイン監督作品のDVD(Amazon

  「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!」(1999年)

  「アバウト・シュミット」(2002年)

  「サイドウェイ」(2004年)

  「ファミリー・ツリー」(2011年)

 

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