夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「戦場の小さな天使たち」:戦時下の英国流ヒューマン・コメディ

「戦場の小さな天使たち」(原題:Hope and Glory)は、1987年公開のイギリスの映画。邦題は『戦場の…』となっていますが、第二次世界大戦中のドイツ軍によるロンドン空爆を題材に、前線ではなく銃後の近郊の町に生きる人々を子供の視点から描いたヒューマン・コメディです。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ジョン・ブアマン
脚本:ジョン・ブアマン
出演:デイヴィッド・ヘイマン(クライヴ・ローハン)
   サラ・マイルズ(グレース・ローハン)
   サミ・デイヴィス(ドーン・ローハン)
   セバスチャン・ライス・エドワーズ(ビル(ビリー)・ローハン)
   ジェラルディン・ミュア(スー・ローハン)
   ジーン=マーク・バー(ブルース) 
   デリック・オコナー(マック)
   スーザン・ウォルドリッジ(モリー
   イアン・バネン(ジョージおじいちゃん)
   アン・レオン (おばあちゃん)
   ほか

あらすじ

  • 1939年9月、イギリス首相チェンバレン第二次世界大戦の勃発を告げ、ロンドン郊外に住む少年ビル・ローハン(セバスチャン・ライス・エドワーズ)にとっても戦争は徐々に身近なものになっていきます。父のクライヴ(デイヴィッド・ヘイマン)は勇んで出征を志願し、母のグレース(サラ・マイルズ)はビルと妹のスー(ジェラルディン・ミュア)を集団疎開させようとしますが、駅で子供たちが嫌がったため、別れがたくなり、手許に置くことにします。
  • ドイツ軍の爆撃が始まり、ビルの町の家は次々に焼け、その焼跡は悪童たちの恰好の遊び場になり、またビルの姉のドーン(サミ・デイヴィス)とカナダ兵のブルースとの逢引きの場所にもなりました。母のグレースは、こっそり外出するドーンを引き止め続けることが出来きませんでした。明日は空襲で死ぬかもしれないという思いは、グレースの初恋の人への未練を呼び覚ましました。雪の日、クライヴが休暇で帰って来て、久し振りに皆が揃い、楽しい時を過ごしますが、やがてクライヴもブルースも戦場に戻っていきます。
  • 翌年の夏、ビルたちがピクニックに行っている間に、家が焼けてしまい、一家は揃って母方の田舎のおじいちゃん(イアン・バネン)の家に引越します。ビルは森の中を駆け回ったり、クリケットをしたり、魚つりをしたりと、楽しい時を過ごします。ある日突然、ブルースが田舎の家に現われ、続いてクライヴも帰ってきます・・・。 

レビュー・解説

爆撃跡の廃墟で遊ぶ子供たちの屈託のなさと母親役のサラ・マイルズのコミカルな演技が、戦時下でも暗くならずに生きる人々の逞しさを感じさせます。イギリス流のユーモアもたっぷりです。

GRANDFATHER GEORGE: Want to know why they're called Faith, Hope, Grace and Charity?
BILL: Why?
GRANDFATHER GEORGE: Your grandmother. She named them after virtues I lack. That's marriage for you.

祖父ジョージ:「何故、わしの娘が、フェイス(信仰)、ホープ(希望)、グレース(恩寵)、チャリティ(慈愛)という名前か知りたいか?」
孫ビル:「何故?」
祖父ジョージ:「お前の婆さんだよ。わしに欠けている美徳を娘たちの名前にしたんだ。結婚とはそういうものだよ。」

 

ちなみに、信仰、希望、慈愛はキリスト教で神が作った三つの徳と言われ、恩寵も美徳とされています。こうした名前の付け方をするのはあり得ないことではないのですが、いかにもウィットとユーモアに富んだ会話です。

 

原題の「Hope and Glory」は、エルガー作曲による「威風堂々」第1番のメロディに歌詞をつけたイギリスの愛国歌「Land of Hope and Glory」由来で、戦時下でも暗くならずに生きる人々の逞しさと祖国への誇りを重ねています。本作でもこの曲が使用されていますが、夏のロンドンの風物詩、BBCプロムス最終夜のクライマックスに聴衆が国旗を振りながら歌うなど、現代のイギリス人にも馴染みの深い曲です。

 

今もイギリスの人々に愛される「Land of Hope and Glory」

 

子供たちを描いた戦争映画で対照的なのは、1952年公開のフランス映画「禁じられた遊び」です。ドイツ軍の機銃掃射で両親と愛犬を失った少女が、出会った少年とともにお墓を作って遊ぶうちに十字架泥棒がばれてしまい、大好きな少年と引き離され、戦災孤児としてひきとられていくという、なんとも哀しい話です。

 

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「戦場の小さな天使たち」と明暗を分けているのは、両親や親戚の有無や周囲の大人の寛容さの有無です。何が子供の幸・不幸を決めるのか、見比べてみても面白いと思います。

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