夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「グッバイ、サマー」:現実と夢の記憶を再構成、少年のファンタジックな冒険と友情をノスタルジックにほろ苦く描き出した自伝的青春映画

「グッバイ、サマー」( 原題:Microbe et Gasoil、英題:Microbe and Gasoline)は、2015年公開のフランスの自伝的青春コメディ映画です。「自らが体験したことを元に冒険したかった」というミシェル・ゴンドリーの監督・脚本、アンジュ・ダルジャン、テオフィル・バケ、オドレイ・トトゥら出演で、様々な悩みを抱える14歳の少年と風変わりな転校生の二人が、エンジンで動く自作の小屋に乗ってパリからフランスの田舎を旅をする様をコミカルに、そしてほろ苦く、描いたロードムービーです。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:ミシェル・ゴンドリー
出演:アンジュ・ダルジャン(ダニエル)
   テオフィル・バケ(テオ)
   ディアーヌ・ベニエ(ローラ)
   オドレイ・トトゥ(ダニエルの母)
   ジャナ・ビトゥネロヴァ(テオの母)
   ほか

あらすじ

画家を目指す14歳のダニエル(アンジュ・ダルジャン)は、大人と子供の狭間でたくさんの悩みを抱えています。中学生になっても女の子のような容姿で、クラスメイトからは「Microbe」(チビの意:原義は微生物、病原菌)と呼ばれ、恋するローラ(ディアーヌ・ベニエ)からは全く相手にしてもらえません。母親は過保護、兄はパンク野郎で、誰も本当の自分を理解してくれません。そんなある日、ダニエルのクラスにテオ(テオフィル・バケ)という名の、風変わりな転校生がやって来ます。目立ちたがり屋で、自分で改造した奇妙な自転車を乗り回し、家業のせいで身体からガソリンの匂いを漂わせています。周囲から浮いた存在のダニエルとテオは意気投合し、親友になります。息苦しく、うんざりするような学校や家族、仲間から脱出する為、彼らはスクラップを集めて夢の車を作り、夏休みを利用して旅に出ます・・・。

レビュー・解説

現実の個人的体験と夢に見た幻想的体験の記憶を再構成しながら、十代の少年の友情と青春のほろ苦さを見事に描き出した、ノスタルジックでファンタジックな自伝的青春映画です。

 

14歳は微妙な年齢です。性に目覚め、女の子に憧れる一方、様々な劣等感に苛まれます。本作はそんなローティーンの少年が、彼を励ましてくれる友人と出会い、エンジンで動く手作りの小屋に乗ってパリからフランスの田舎を旅する冒険談を、ミシェル・ゴンドリー監督がノスタルジックに、ファンタジックに、そしてほろ苦く描いています。

 

ミシェル・ゴンドリー監督と言えば、

などの個性的な作品が強く印象に残っています。特に、「エターナル・サンシャイン」では、消されまいと逃げ回る愛し合う二人の記憶に思わず感情移入、無事に逃がしてやりたいと強く思いました。こうした個性的な作品に比べると本作はマイルドな仕上がりですが、例えば、同じ少年の日々をノスタルジックに描いた

といった作品に比べると、ミシェル・ゴンドリー監督らしさが滲み出ている作品です。

 

「ノスタルジーは失った瞬間を再び作り出すことであり、今を楽しめない時に過去を思って今を忘れる」と、ゴンドリー監督は言います。奇しくも、彼が難易度の高い映画への期待に押し潰されそうになった時に、本作にも出演しているオドレイ・トトゥに個人的な映画を制作をしてみたらと言われて、本作の制作を思いったったといいます。

私はノスタルジーが美学だとは思いません。それは失われた瞬間を再創造すること、脳に残るかすかなイメージを呼び戻し命を与えることです。しかし、再創造された記憶と本来の記憶は異なることに私たちは気づきません。それは、映画で夢を描くようなものです。ノスタルジーとは誰もが心の中に持つものであり、それを映画を通して他の人々に伝えることができるのは、とても幸運なことです。

私はノスタルジックな人間で、しばしば記憶を辿ります。二度と私に訪れることはないだろうと思う瞬間もあります。私が記憶を遡るのは、今、この瞬間を十分に楽しむことができないと思うからかもしれません。記憶を辿っていると、この瞬間を生きることを忘れることができます。これは悪循環ですが、監督である現在の私を題材に映画を作ることは難しい。自分自身のことを映画にするには、監督になる前の少年時代に戻る必要があったのです。(ミシェル・ゴンドリー監督)

 

本作の前半は、ゴンドリー監督の現実の記憶に基づいています。ゴンドリー監督は創作活動の為に見た夢の記録をとっているのですが、本作の後半はその彼が実際に見た夢の記憶で構成されています。

 

現実の記憶

  • 鬱で過保護、身体的接触を必要とする母、パンクに夢中な兄
  • 長髪でいつも女の子に間違えられていた自分
  • 絵を描くことやアイディアを考えることが得意な自分
  • 女の子に恋していた自分
  • いつもスクラップで工作をしていた、父親が古物商の友達
  • 友達と中古のゴーカートを買い、スーパーの駐車場で乗り回していた
  • 自分たちで車を作るという計画を思いついた(が、実現しなかった)

 

夢の記憶

  • 歯医者の家に泊まるエピソード
  • 風俗店で散髪するエピソード
  • アメフト選手に追いかけられるエピソード
  • 後ろ向きに飛ぶ旅客機のエピソード

 

車を自作してしまう辺りは、「僕らのミライへ逆回転」同様、ゴンドリー監督らしい手作り志向ですが、少年の頃に実現できなかった願望の実現という点では、ウェス・アンダーソン監督が「ムーンライズ・キングダム」で「空想の記憶」を実現したのと似ています。しかし、ゴンドリー監督は自分自身の現実と夢の記憶に徹底的にこだわります。空想は往々にして願望ですが、夢は必ずしもそうではなく、むしろ意外なものです。また、湖の中からローラが現れたり、飛行機でパリに戻るなど、願望が現実となるシーンで、ゴンドリー監督は映像を逆回しに、敢えてファンタジーであることを強調している点も興味深いです。(因みに、韓国系の風俗店の美容師が日本語を話すシーンがありますが、これも日本語のオムニバス短編映画を監督したことがあるゴンドリー監督が見た「夢」が元になっていると思えば、合点がいきます。)

 

本作の見所のひとつは、テオが誰も見に来ないダニエルの個展を訪れ、あたかも会場が混んでいるかのような芝居をして、ダニエルを笑わせるシーンです。実は、お互いに夢を見続けさせることが、ダニエルとテオの友情のベースになっています。テオは役にたたないスクラップから物を作り出し、ダニエルの想像力を刺激します。また、ダニエルが芸術家肌で創造的であることを、テオは称賛します。周囲からはまともに相手にしてもらえませんが、二人は互いに信じあっています。

 

お互いに夢を見続けさせることが二人の友情のベース

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大人になってしまえば、お互いに夢を見続けさせるような関係は難しくなります。今や映像作家として大成功したゴンドリー監督ですが、金や名声目当てで彼を賞賛する人はいても、なんでも聞けて、潰れそうな時には励ましてくれるテオのような無垢な友人は、彼の前に二度と現れることはないでしょう。何故、湖から現れるローラや、パリに戻る飛行機の映像が逆回転なのか、エンディングの後、ローラとの関係は果たしてどうなるのか、これらはゴンドリー監督にとってテオとの関係が何物にも代えがたい記憶であり、より強いノスタルジーであることを暗示しています。14歳という微妙な年齢、性への目覚め、女の子への憧れ、その一方での様々な劣等感といった普遍的な題材が多くの人々の共感を呼びますが、裏を返せば、よくある話になりかねません。ゴンドリー監督の自身の記憶へのこだわりとともに、自分を創造的に刺激し、励ましてくれる友人への強いノスタルジーが、彼の作品であることを強く特徴づけています。

 

アンジュ・ダルジャン(ダニエル)

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フランス生まれ。本作が映画初出演ですが、役柄通り、女の子の様にキレイで、繊細な男の子を見事に演じている。

 

テオフィル・バケ(テオ)

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フランス生まれ。本格的な映画出演は本作が初めですが、ダニエルと対称的な役柄を見事に演じている。「素晴らしい風船旅行」(1960)や「天使」(1982)などに出演したフランスの俳優、モーリス・バケ(1911年~2005年)の孫。

 

ディアーヌ・ベニエ(ローラ)

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フランス生まれ。本作が映画初出演。あどけない少女から女性に変貌する端境期の14歳をうまく演じている。とても綺麗な顔立ちで、将来、美人になりそう。

 

オドレイ・トトゥ(ダニエルの母)

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1976年、フランス生まれ。パリの演劇学校で学び、映画初主演の「エステサロン/ヴィーナス・ビューティ」(1999年)でセザール賞有望新人賞を受賞する。「アメリ」(2001年)が世界的大ヒットとなり、一躍その名を知られる。「スパニッシュ・アパートメント」(2002年)を初めとするセドリック・クラピッシュ監督の青春三部作でメインキャストを務める一方、また『堕天使のパスポート』(2002年)、「プライスレス 素敵な恋の見つけ方」(2006年)などに出演、「ダ・ヴィンチ・コード」(2006年)でハリウッド進出を果たす。

 

余談になりますが、私たちが日常的に経験する出来事に関する記憶を自伝的記憶と言い、この記憶は再構成されることが知られています。「再創造された記憶と本来の記憶の違いは本人にはわからない」とゴンドリー監督が言っているのは、この記憶の再構成を意味しています。再構成には、思い出す人の性別、年齢、気分、性格、過去と未来の捉え方などが影響すると言われています。平たく言うと、その人特有のバイアスがかかり、思い出しやすいように思い出すということです。「私の人生は不幸だった」と嘆く私の母を、「いいこともあったはずだ」と諭す父を見るにつけても、なるほどと思います。

 

私自身はあまり記憶を辿るタイプではないのですが、記憶が再構成されものと知ると、逆に興味が湧いてきます。ゴンドリー監督にならって14歳の頃の自分を思い出してみると、

  • 背が小さく、奥手で、コンプレックスを感じていた
  • 野球の選手に憧れ、毎晩、素振りをしていた
  • 英語の先生が美人で、ハッスルして勉強した
  • 友人の影響でオーディオに興味を持ち、映画音楽ばかり聞いていた
  • ・・・

これらが再構成された記憶であると自分では認識できないのですが、もし、これらの記憶をベースに物語を作るとしたら、そこには現在の自分が反映するような気がします。一から物語を作るのは大変ですが、こうした自分の記憶を様々な映画の設定に当てはめ、物語の中で自分がどう動くか見てみたい気がします。

サウンドトラック

 「グッバイ、サマー」サウンドトラックCD(Amazon

動画クリップ(YouTube

撮影地(グーグルマップ)

関連作品

ミシェル・ゴンドリー監督作品のDVD(Amazon

  「エターナル・サンシャイン」(2004年)

  「ブロックパーティー」(2004年)

  「僕らのミライへ逆回転」(2008年)

  
TOKYO!」(2008年) オムニバス映画・・・短編「インテリア・デザイン」を監督

 

ミシェル・ゴンドリー監督のミュージック・ビデオYouTube

 

オドレイ・トトゥ出演作品のDVD(Amazon

  「アメリ」(2001年)

  「スパニッシュ・アパートメント」(2002年)

  「堕天使のパスポート」(2002年)

  「ロング・エンゲージメント」(2004年)

  「ロシアン・ドールズ」(2005年)

  「プライスレス 素敵な恋の見つけ方」(2006年)

  「ニューヨークの巴里夫(パリジャン)」(2013年)

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