夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら」:巧みな脚本・演出と配役で、思いやりと愛情まで描く希有なスプラッター・コメディ

「タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら」(原題:Tucker and Dale vs Evil)は2010年後悔のカナダ、アメリカ合作のスプラッター・コメディ映画です。イーライ・クレイグ監督、イーライ・クレイグ/モーガン・ユルゲンソン脚本、タイラー・ラビン、アラン・テュディックらの出演で、思わぬ誤解からキャンプ中の若者たちに凶悪な殺人鬼と勘違いされ、死人が続出する事態に陥っていく気のいい中年男2人を描いています。

 

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監督:イーライ・クレイグ
脚本:イーライ・クレイグ/モーガン・ユルゲンソン
出演:タイラー・ラビン(デイル 、劣等感の塊のおデブ、気は優しくて力持ち)
   アラン・テュディック(タッカー、デイルの親友、デイルをいつも励ます)
   カトリーナ・ボウデン(アリソン、真面目な女子大生)
   ジェシー・モス(チャド、リーダー格、アリソンに言い寄る)
   フィリップ・グレンジャー(保安官)
   ブランドン・マクラレン(ジェイソン)
   クリスティ・ラング(ナオミ)
   シャーラン・シモンズ(クロエ)
   ほか

 

【あらすじ】

気のいい中年男の2人組、タッカー(アラン・テュディック)とデイル(タイラー・ラビン)は幼なじみの親友同士です。トイレ工事でこつこつ貯めた金で朽ちかけた山小屋を手に入れた彼らは、休暇を過ごしにやって来ます。ところが見た目が強面なため、近くにキャンプをしに来た大学生グループから、殺人鬼と勘違いされてしまいます。山小屋のある地域は、20年前に惨殺事件が起きたいわくつきの場所でした。

一日目の夜、湖でタッカーたちが夜釣りをしていると、彼らの存在に気づいた女子大生のアリソン(カトリーナ・ボウデン)が驚いて湖に落ちてしまいます。デイルは彼女を救い出し、介抱のために別荘へ連れ帰りますが、その様子を遠くから見ていた仲間たちはアリソンが殺人鬼にさらわれたと思い込みます。

翌朝、山小屋で意識を取り戻したアリソンは、デイルが心優しい親切な男だと知り、自然に打ち解けます。一方、大学生グループはアリソンを「殺人鬼」たちから救い出そうとしますが、不幸な偶然が重なり、木材粉砕機に巻き込まれたり、枯れ木に串刺しになるなど惨たらしい形で事故死してしまいます・・・。その様子を目の当たりにしたタッカーたちは「自分たちが殺したと疑われてしまう」と慌て、生き残った大学生らは保安官に助けを求めますが、その保安官までもが勝手に事故死してしまいます。

事態を受けた大学生グループは全面的に戦いを挑み、タッカーを捕らえた挙句、指を切断してデイルに送りつけるなど、言動が徐々に常軌を逸して行きます。アリソンは、何とか仲間たちの誤解を解こうと話し合いの場を設けると、リーダー格のチャド(ジェシー・モス)は、彼の母親は20年前の惨殺事件の唯一の生き残りで彼の父親は惨殺されたと語り、殺人鬼に対する憎悪を露にします・・・。

 

「タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら」は、笑いを追求するのみならず、絶妙な脚本・演出とキャスティングにより、スプラッターとコメディを融合させ、思いやりと愛情まで描く、希有な作品です。

 

スプラッター映画とは、殺害シーンが生々しく描写される映画様式で、身体の一部が切断されて跳ね飛んだり、血しぶきが吹き上がったりするといった、誇張を含むあからさまな表現で特徴づけられます。スプラッター(Splatter)は、スプラッシュ(Splash:勢い良く飛び散らす)と(Spatter:はねかけて汚す)から成る造語で、映画においては血しぶきが勢い良く飛び散り周囲を汚す様を象徴する言葉として1980年代から使われています。スプラッター映画は広い意味でホラー映画に含まれますが、スプラッター的要素の全く無いホラー映画は少なくありません。

 

この映画の素晴らしいのは、スプラッター要素とコメディ要素、さらに思いやり、友情、愛情といった異質なものを巧みに融合させている点です。これはひとえにイーライ・クレイグ監督の脚本・演出と、タイラー・ラビン、アラン・テュディック、カトリーナ・ボウデンの的確な演技の賜物でしょう。本作は、ホラー・コメディの「ショーン・オブ・ザ・デッド」(2004年)や「最終絶叫計画」シリーズ(2000年〜)と比較されますが、この点に関して、イーライ・クレイグ監督は次の様に語っています。

比較してどうかは観る人が判断することだが、「ショーン・オブ・ザ・デッド」はこの作品を作る道をつけてくれた。僕は大ファンで、良く研究したけれど、何か全く違った事をやりたかった。それを胸に抱きながら、このジャンルをちょっとつっついてみたかったんだ。「最終絶叫計画」のような映画は作りたくないと明確に思っていたよ。いろんな(ホラー)映画のシーンをパロったり、だじゃれを言ったり、今日の映画のステレオタイプをからかったりするような映画はね。独自の映画を作りたかったんだ。でも、そんなわけで、「ショーン・オブ・ザ・デッド」に似ていると思う。

(他の作品と異なるのは)結局のところこれはコメディだということなんだ。そして、コメディは心なんだ。僕は、この映画をコメディ・ホラーと呼んでる。最も残忍なシーンは最も可笑しいシーンにすべきと、僕たちは実に早い段階に決めたんだ。もうひとつは、タッカーとデイルを本当に好きになってもらうこと。彼らは本物の役者が演ずる本物のキャラクターで、カメラに向かってウィンクする為にいるんじゃないんだ。彼らは、本物の感情を演じている。僕たちは、この映画をホラー映画の中の「本物の」映画として扱った。単なる間抜けを演じるのではなく、本物の心を吹き込まなければならなかったんだ。

 

 

結局、快心の作が出来た訳ですが、脚本を書いてからファイナンスがつくまで三年かかるなど、劇場公開への道は平坦ではなかった様です。脚本を見せても「大学生が木材粉砕器に飛び込むはちっとも可笑しくない」などと断られ続け、永遠に実現しないのではないかと思われた頃、産業界はリーマンショックに襲われます。音楽ビデオのプロデューサーをしていた彼は、業界の底が抜けるの見て二進も三進も行かないと感じ、どんな犠牲を払ってでも「タッカーとデイル」に実現するしかないと悟ります。予告編を撮影すると、ようやくインディーズ系のプロデューサーたちがファイナンスをつけてくれることになりました。2011年にサンダンス映画祭で上映されると、大手配給会社から次々とオッファーが来ましたが、テストの結果、「ホラー・コメディ・ビジネスはやらない」と、ことごとく断られたそうです。その後、ようやく配給してくれる会社が見つかり、劇場公開にこぎ着けることができました。

 

タイラー・ラビン(デイル 、左)とアラン・テュディック(タッカー、右)

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カトリーナ・ボウデン(アリソン)

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ジェシー・モス(チャド)

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タッカーとデイルは休暇を過ごす為に山小屋にやってくる・・・

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大学生たちも楽しいキャンプを過ごすはずだったが・・・

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スプラッターなシーン(閲覧注意)

スプラッター要素がしっかり入っており、また後半にはホラーっぽい描写もあるが、映画を通じていたずらに恐怖心を煽るような演出はない。

 

タッカーとデイル、大学生達が立ち寄ったガソリンスタンド>

 

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