夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「サンドラの週末」:鬱病から回復するも解雇、復職の為には同僚の賞与返上が必要という過酷な状況を、マリオン・コティヤールが好演

「サンドラの週末」(原題:deux jours, une nuit)は2014年のベルギー・フランス・イタリア合作の映画です。解雇の窮地に立たされ、自分の存在価値を疑いながらも同僚たちに賞与を諦めるよう説得して回り、自身の拠り所を見つけ出していくひとりの女性を、ダルデンヌ兄弟監督、マリオン・コティヤール主演で描いています。第87回アカデミー賞で、マリオン・コティヤールが主演女優賞にノミネートされた作品です。

 

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監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

出演:マリオン・コティヤール(サンドラ)

   ファブリツィオ・ロンジォーネ(マニュ)

   ほか

 

【あらすじ】

体調不良のため休職していたサンドラ(マリオン・コティヤール)が職場に復帰しようとした矢先、会社側から職員へボーナス支給するために解雇せざるをえないと告げられてしまいます。ようやくマイホームを手に入れ、夫とともに家族を養うためにも仕事は必要でした。同僚が掛けあってくれたおかげで、週明けの月曜日に投票を行い、16人の同僚のうち過半数がボーナスを諦めてサンドラを選べば仕事を続けられることになります。ともに働く仲間をとるか、ボーナスを取るか、シビアな選択です。家族たちに支えられながら、同僚たちを訪ね説得して回る、サンドラの長い週末が始まります・・・。

 

押しも押されぬオスカー女優のマリオン・コティヤールが演じる、鬱病からの病み上がりの労働者階級の女性サンドラが見事です。低予算で、彼女の演技が全てのような映画ですが、タンクトップを着てうつむき加減にとぼとぼと説得に歩く彼女にオスカー女優の華やかさはなく、まさに労働者階級の女性のように見えます。

 

突然、解雇を言い渡された時、人は会社を恨むか、自分を蔑むかのどちらかに陥りがちでしょう。鬱病からの病み上がりに解雇を言い渡されたサンドラは自分を蔑みがちですが、夫や同僚に後押しされながら、自分の復職の為にボーナスを我慢して欲しいと16人の同僚の自宅を訪ねて説得に回るという、過酷な設定の映画です。鬱病は回復もさることながら、社会復帰が難しいと言われ、大企業ではこうした従業員の復職プログラムを用意していますが、労働組合もない小さな会社の話です。

 

離婚して新生活を始める、リフォームをする、家族の中で働き手が自分ひとりなど、同僚がボーナスを必要とする理由が見えてくる中、サンドラの恩を忘れずに協力を申し出る人も出て来ます。何かと世知辛い昨今、利己的な人、他罰的な人が幅を利かす様な気がしますが、鬱の傾向があり、利他的、自罰的な性格のサンドラがどのような解を見いだすかが、この映画のひとつのポイントになります。

きっかけはヨーロッパが今直面している経済的、社会的危機からです。数年前から、同僚たちの多数決で解雇されそうになっている人物についての映画を考えていました。「サンドラの週末」は、逆境にあって結束する夫婦、サンドラとマニュを思いついた時に本当の意味で生まれたのです。(中略)私達は、サンドラを最初は寝ている、それから立ち上がる、最後には一人歩きが出来るようになるという風にイメージしました。何回も途中で転んだり、落ち込んだりします、それはいわば彼女の肉体のあり方を考えた時に、最初は横になっている、それから誰かがやってきたり、電話が鳴ったりして起きなければならない、それで、また倒れ、横になる、また立ち上がる、そして結局最後は歩き出せる、そういう風に考えていたんです。(中略)彼女は存在したいという欲求を持っていません、いわば自分の中に引きこもりがちで、前に進まず、むしろ引き潮が引くように自分の中に戻ろうとしてしまいます。(中略)今日我々が生きている社会では、こんなサンドラのような脆弱な存在は受け入れられません、むしろ見捨てられます。弱いし、生活のための戦いをしない、むしろ障害者とみなされて排除され、社会の中で居場所がない人々です。そういう人間をスクリーンの中心に据えたいと思ったのです。(リュック・ダルデンヌ監督)

 私たちにとって重要だったのは、「弱いから」「十分な働きがないから」と言って誰かが排除される事態を示すことでした。この映画は、そんな「働きのない人」への応援歌です。彼女は夫と共に戦うことを通して、勇気と力を取り戻すのです。(中略)サンドラはうつ病から抜け出してきたばかりで、周囲から弱い人、もろい人と思われますが、そんな彼女が他の人の意見を変えることができる。またそうすることで、自分自身も変わることができる。その道程を描いたのです。(ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督)

 

余談になりますが、ソ連における社会主義経済の失敗、市場経済の導入による中国の成功する中、資本主義経済や競争原理が世の中の唯一無二の真理になりつつあるような気がします。こうした社会では、サンドラのような利他的な性格を持った人は経済的に評価されにくく、生きづらい世の中です。一方、こうした自己利益最大化一辺倒の社会は格差の拡大、ひいては系の崩壊を招きかねません。経済を持続可能なものにする為には、人間が本質のひとつである「利他」により価値を見いだしていく必要があるような気がします。

 

ワーク・シェアリングについて

解雇を避ける為にボーナスの支給を止めるのはワーク・シェアリングのひとつです。ワーク・シェアリングは、勤労者同士で雇用を分け合うことで、各々の労働時間を短くする時短によるのが典型的です。労働市場の悪化を背景に、労働者の過労死・失業による自殺の解決方法として考えられたものですが、雇用を安定させ、労働流動化と産業構造の転換を促進することが、マクロ経済政策として重要になるとも言われています。ヨーロッパ型の社会民主主義的発想と言われますが、アメリカのデルタ航空では従業員同士がワーク・シェアを行い、さらに貯金を出し合って旅客機を購入、社長にプレゼントして会社の危機を救ったという事例もあります。しかしながら、今世紀に入って厳しいリストラが進む日本では、

  • 他の企業で現在の賃金水準を維持できる者の離職を促すことなり、優秀な従業員が流出してしまう
  • 人員整理に比べて、同じだけの人件費削減につながらない可能性がある
  • 労働意欲が低下する可能性がある

と言ったり理由から、ワーク・シェアリングはあまり行われていないようです。

 

マリオン・コティヤール(サンドラ)

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ダルデン兄弟監督作品のDVD(Amazon

  「息子のまなざし」(2002年)

  「ある子供」(2005年)

  「ロルナの祈り」(2008年)

  「少年と自転車」(2011年)

 

マリオン・コティヤール出演作品のDVD(Amazon

  「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」(2007年)

  「インセプション」(2010年)

  「コンテイジョン」(2011年)

  「ミッドナイト・イン・パリ」(2011年)

  「ダークナイト ライジング」(2012年)

  「君と歩く世界」(2012年)

  「エヴァの告白」(2013年)

  「ディオールと私」(2015年)

 

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サンドラの週末(字幕版)

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サンドラの週末(字幕版)

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