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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「クローサー・トゥ・ザ・エッジ マン島TTライダー」:世界で最も危険なレースに密着、リアルな映像とインタビューでレースの魔力に迫る

イギリス映画

クローサー・トゥ・ザ・エッジ マン島TTライダー」は、2011年公開のイギリスのドキュメンタリー映画です。リチャード・デ・アラグエス監督が、100年以上の歴史を誇るオートバイレースの最高峰、マン島TT(ツーリスト・トロフィー)の2010年に開催されたレースを題材に、公道を最高時速320km以上で走り死と隣り合わせになるこの競技に命を賭ける選手たちを追っています。

 

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監督: 
出演:ガイ・マーティン
   ジョン・マクギネス
   マイケル・ダンロップ
   コナー・カミンス
   イアン・ハッチンソン
   ほか

 

【あらすじ】

マン島はイギリス本土と北アイルランドの間にある小さな島です。1907年、この島を舞台にバイクレースの最高峰とも言われるマン島TT(ツーリスト・トロフィー)が生まれました。200以上のカーブや大きな高低差のある1周60km強の公道をコースとして使用しながら最高時速320kmを超えるこのレースには常に危険がつきまとい、100年を超えるの歴史の中で200人以上が命を落としています。ライダーたちはそんなリスクを背負いながらも、スリルと名誉を求めて限界に挑みます。本作は、2010年に開催されたTTを映し出します。何かとお騒がせだが、虎視眈々と優勝を狙うガイ・マーティン、普段は物静かながらレースになると闘志の塊になるイアン・ハッチソン、優勝回数15回を誇るジョン・マクギネス、地元出身で期待を背負うコーナー・カミンズ、情熱と死の覚悟を併せ持つ彼らのレースが始まります・・・。

 

世界で最も危険と言われるマン島TTレースに密着、スリリングなオンボード映像と、死をも恐れぬライダーや関係者のインタビューを通してレースの魔力に迫る、優れたドキュメンタリー映画です。

 

マン島TTは世界一、危険なレースだと言われています。通常レースが行われるサーキットには、エスケープゾーンと呼ばれ、転倒やコースアウトの際にも安全なように、砂が敷き詰められた広い退避スペースが設けられ、その先にある壁もスポンジやタイヤバリアが設置してあって、衝撃をある程度和らげてくれます。しかし、マン島TTは、一般公道を使用するため、コース幅も狭く、またコーナーも多く、脇に石壁や崖があったりします。さらに、郊外の直線路では、最大320キロ超という非常に高い速度に達するため、転倒やコースアウトしたライダーが重大なダメージを受けることが少なくありません。路面もサーキットのように専用の舗装ではなく、一般のアスファルト舗装で滑りやすく、バンピーです。バイクが振られやすく、ピッチング(上下の揺れ)やウォブル(左右の揺れ)が起こして、バイクをコントロールすることができなくなることもあります。そんなコースを平均200キロ以上、最大320キロ以上で走るのですから、他のサーキットに比べて桁違いに危険なわけです。

 

ちなみに、2014年現在の、危険と言われるレース・サーキットとその死者数は以下の通りですが、マン島TTの危険さがよく分かると思います。

 

そんなマン島TTを追った本作は、バイクの車載カメラとライダーのヘルメット内に取り付けられたカメラの映像が見どころで、どんなコースをどんな風に走っているのか一目でわかり、まるで自分がライダーになったかのように感じます。整備されたサーキットでも十分に怖い走りですが、バイクに乗ったことのある人ならば、一般公道でこのような走りをすることの怖さを感じずにはいられないと思います。その一方で、死をも恐れぬライダーたちやレース関係者へのインタビューが、レースの持つ魔力を伝えます。これらインタビューの言葉も奥が深く、何度も繰り返して観たくなる作品です。 

体験した最悪な事故は、2008年のノースウェストだな。時速193.1キロでコーナーを曲がり損ねた。俺は無傷だったけどマシンは大破した。命拾いしたものの、怖かったな。だが、一瞬、ワクワクもした。死ぬかもしれない時にスリルを味わっていた。自分を痛めつけたいんじゃない。優勝したいんだ。勝ちたい気持ちが強いと、スリルを味わうハメになる。金を出しても味わえないね。その瞬間、パニックに陥らず、「お終いだ」と思うんだ。そんな思いを10年で4回、味わった。そのうち3回はTTレースだ。(ガイ・マーティン)

生まれ持った才能である程度までは行く。でも、レースで厳しい戦いを強いられて、体力がないばかりに負けたら落ち込むだろうね。僕はレースに取り憑かれている。唯一、望んでいる結果は勝つことだ。(イアン・ハッチンソン)

イタズラしているみたいに感じるのよ。道路を駆け抜けて罪を犯しているみたい。そこがおもしろいんだけど。ブレイヒルを下りていくとニヤけちゃうわ。(ジェニー・ティンマウス)

僕の人生はTTを中心に回っている。レースをしても、していなくても、暑くなるからね。僕は参戦して8-9年になる。未だに生き方がわからない。究極の興奮を味わってしまうと、普通の生活にまんぞくできなくなるんだ。その興奮が忘れられずに、癖になるんだ。レーストラックの脇に座ると走りたくなる。床を磨いていようが、ゴミを出していようが、ライダーや記者を案内していようが、頭から離れないんだ。(ミルキー・クウェル、2002年TT優勝者)
ロードレースの魅力は、サーキットレースとは比較できない。サーキトレースが命綱をつけたロッククライミングだとしたら、サーキットレースはまさにフリークライミングだ。ミスは許されない。ひとつのミスで重傷か、最悪の目にあう。マシンに足をかける前から、危険なことはわかっている。いろいろな思いが交錯し不安になるが、スタートの合図が送られると、迷いは消える。走り出すと音も風も緊張感もピークに達する。そこに待っているのは地獄だ。ヒヤッとする感覚が魅力でもある。(カール・ロバーツ、TTマーシャル)

  

マン島で生まれた者は、レースを見て育つのよ。白黒の田舎道が、突然、変わるの。ライダーが走り回ると、島が活気に満ちるのよ。(マン島の住人)
道がでこぼこしているここで、我々は世界の勇者を見る。それで興奮しなければ、生きていると言えないね。(マン島の住人)
フェリーも予約したし、キャンピング・カーで行く。家でじっとしてられないわ。電話を待つより、観戦していた方が良い。(リタ・マーティン、ガイの母親)
TTが開催される二週間のうち、1〜2回、ある瞬間が訪れるの。立つと、バイクと作業服が見渡せてピットインの合図が聞こえる。それを好きだと思う瞬間がある。バカなことも考えたわ。夫に万一のことがあれば、この感覚を味わえないんだって。その、1時間後のことよ・・・。毎日、人は亡くなる。明日、自分が愛する人を失うことだってある。「来週、私は生きてないかも」と、それが潜在意識にあると、人生を愛せるようになる。彼と出会って家庭を作り、自分はとても運が良いと感謝できるの。夫のレースを応援すると決めたのも、人生を楽しむためよ。人生は楽しむためにあるの。それを子供たちもわかってくれてる。彼と楽しい時間を過ごせたから、今の私たちがあるの。子供達は強いわ。楽しく過ごしている。これからも人生を楽しく過ごすの。バイクに乗ったり、台所で踊ったり。私たちはマン島もレースも愛している。死を愛することはできない。でも、死があることを知らずに人生を愛することはできない。危険でなければ楽しくもない。だからレースがある。」(ブリジット・ドブス、撮影中のTTレースで亡くなったポール・ドブスの未亡人)

 

予測できないレースを追いながら、これが監督デビュー作ながら、ひとつの感動的なドキュメンタリーにまとめ上げたリチャード・デ・アラグエス監督の確かな力量を感じる作品です。

 

ガイ・マーティン

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お騒がせの人気者レーサー。本作では、最も出番が多い。

 

ジョン・マクギネス

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何度も優勝を果たしているレーサー。2015年のマン島TTでラップ・レコードを叩き出したが、翌年、マイケル・ダンロップに塗り替えらえている。

 

マイケル・ダンロップ

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ライダー一家に生まれ、マン島TTレースで通算26勝を記録し「キング・オブ・ザ・ロード」と呼ばれたジョイ・ダンロップを伯父に持つ。父、ロバート・ダンロップマン島TTに初出場で優勝、その後5回にわたり表彰台に上がった優秀なロードレーサーだが、マイケルは二人をレース中の事故で失っている。2016年、マン島TTでコースレコードとラップレコードを叩き出した。

 

コナー・カミンス

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地元の期待を担うマン島出身の期待のライダー。

 

イアン・ハッチンソン

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史上初のマン島TT5レース制覇の偉業を成し遂げたレーサー。物静かで、ガイ・マーティンとは対照的。

 

バンピーでバイクが跳ねやすいマン島の路面

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マン島TTグランドスタンド

スタート/ゴールやピットレーン、観客席がある。

 

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