夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「バックコーラスの歌姫たち」:ノリの良い歌で彼女らの情熱、才能を讃えるともに、洞察に富む、繰り返して見たくなるドキュメンタリー

「バックコーラスの歌姫たち」(原題:20 Feet from Stardom)は2013年公開のアメリカのドキュメンタリー映画です。監督:モーガン・ネヴィル監督による本作は、1960~90年代の音楽シーンで伝説と言われたアーティストのバックシンガーを務めた女性たちにスポットを当て、ダーレン・ラヴやメリー・クレイトン、ジュディス・ヒル、リサ・フィッシャーなど、陰で名レコーディングを支えてきた彼女たちの知られざる成功と挫折を描き、ブルース・スプリングスティーンミック・ジャガーといったトップミュージシャンが、バックシンガーとの関わりについて語っています。第86回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:モーガン・ネヴィル
出演:ダーレン・ラヴ
   メリー・クレイトン
   カイリー・ミノーグ
   ジュディス・ヒル
   リサ・フィッシャー
   クラウディア・リニア
   タタ・ヴェガ
   ウォーターズ・ファミリー
   ミック・ジャガー
   ブルース・スプリングスティーン
   スティング
   スティーヴィー・ワンダー
   ベット・ミドラー
   デヴィッド・ボウイ
   ジョージ・ハリスン
   リンゴ・スター
   デヴィッド・バーン
   トム・ジョーンズ
   ジョー・コッカー
   シェリル・クロウ
   フィル・スペクター
   クリス・ボッティ
   ルー・アドラー
   レイ・チャールズ(アーカイヴ映像)
   マイケル・ジャクソン(アーカイヴ映像)
   ルーサー・ヴァンドロス(アーカイヴ映像)
   ほか

あらすじ

  • ステージのメインで歌うスターに負けない歌唱力を持ちながら、バックシンガーが注目されることはありません。彼女達の多くは、子供の頃に教会の聖歌隊で歌う歓びに目覚め、才能を開花させています。
  • 現在70歳を超えたダーレン・ラヴは、60年代に黒人コーラスグループ、ブロッサムズに加入しました。やがて、エルヴィス・プレスリーフランク・シナトラなど様々なスターのレコーディングに呼ばれるようになりました。
  • クラウディア・リニアは60年代にアイク&ターナーのバックコーラス、アイケッツに加入しました。セクシーな衣装と派手なダンスを強いられた「動くフィギア」のような彼女達は、ステージのお飾りとして侮辱されることも少なくありませんでした。そんな中、バックシンガーを積極的に迎え入れたのが70年代のロックミュージシャンでした。クラウディアはジョージ・ハリソンが71年に主宰した「バングラディッシュ・コンサート」に参加したことをきっかけにイギリスのロック界で知られるようになり、ミック・ジャガーデヴィッド・ボウイと浮き名を流しました。
  • 子供の頃からレイ・チャールズのコーラス隊に入ることを目指して来たメリー・クレイトンは、その夢を叶えた後、ジョー・コッカーレーナード・スキナードなどのバックコーラスを通じて名を馳せていきますが、なかでもローリング・ストーンズの名曲「ギミー・シェルター」をレコーディングした時の想い出を活き活きと回想します。
  • ジュディス・ヒルは、09年にロンドンで開催する予定だったマイケル・ジャクソンのコンサート「ディス・イズ・イット」で彼と共演するはずでしたが、マイケルが急死、彼女はマイケルの追悼式で「ヒール・ザ・ワールド」を歌い、世界から注目を浴びて華々しくソロデビューを飾りました。
  • リサ・フィッシャーもバックコーラス出身でソロデビューし成功を収めたシンガーの一人です。ルーサー・ヴァンドロスに才能を見出された彼女は92年のグラミー賞で「ベスト・フィメール・R&Bヴォーカル」を受賞するほど高い評価を得ました。現在はスティングローリング・ストーンズのツアーに参加するなどバックシンガーの世界で最高峰の一人として活躍しています。
  • しかし、90年代に入ってから、様々な事情でバックシンガーの出番は少なくなってきました。フィル・スペクターとの確執が原因で音楽業界を離れ、一時は掃除婦の仕事をしていたダーレン・ラヴは80年代に音楽業界に復帰しました。メリー・クライトンもクラブで歌い続けています。そんな中、「バックコーラスの歌姫たち」が世代を超えてスタジオに集まり、そのソウルフルなコーラスを披露します・・・。

レビュー・解説 

普段、何気なく見過ごしているバックコーラスに焦点を当て、彼女らの情熱、才能と業績を讃える「バックコーラスの歌姫たち」は、ポップスのちょっとした歴史を描く音楽番組としても楽しめるだけではなく、ソロへの転向を阻む壁や、敢えてコーラスにとどまる理由など、洞察に富んでおり、繰り返して見たくなる感動的なドキュメンタリーです。

 

アフリカ系アメリカ人によるバックコーラスは、1954年に結成された「ブラッサムズ」に遡ります。彼女らは教会で幼いころから聖歌を歌っており、実力に裏打ちされたパワフルでソウルフルな、感情のこもったコーラスは斬新かつ魅力的で、あっという間に業界に広がります。本作で使用されている曲の数々も、ノリノリでポップスのちょっとした歴史を描く音楽番組としても楽しめるくらいです。

 

技量では素晴らしいものを持つと言われるバックコーラスですが、幼い頃、同じように聖歌隊で歌い、コーラス・グループ「デスティニーズ・チャイルド」の解散後、ソロとしてスターダムを上り詰めたビヨンセのように、コーラスからソロに転向したいと思う人は必ずしも多くないようです。

 

リードシンガーがバックコーラスより優れているかというと、必ずしもそうではありません。バックコーラスには、リード・シンガーを補いながらも目立ちすぎないという微妙なバランスをコントロールするスキルが必要です。また、バックコーラスには極めて正確な音程が要求され、リード・シンガーが音程をはずすことがあっても、彼女らが音程をはずすことは絶対に許されません。また、リードシンガーの中には初見で歌うことができない人もいますが、レコーディングのバックコーラスは初見で歌えることが絶対条件となります。

 

さらにバック・コーラスにはリードシンガーの音楽性を理解し、共感する能力が必要であり、その為か、優しい人が多いようです。

You don't hold on necessarily to your individual vocal persona. Could you try and get your persona to blend in mesh with other voices, it's awesome.

歌に個性を出す必要がないの。他の人の声と網の目のようにブレンドできれば、最高よ。(ジャニス・ヴェンダーヴィス)

Basic difference in singing background is someway, because you are so into make them happy, make sure what they have and they need. But, then, once you do your own thing, it's like you have to try to understand what you need, what's make you happy.

バックコーラスをやる時は、歌手に喜んでもらうことに集中し、彼らが持っているものと必要としているものを、何としてでもわかろうとするのよ。でもリード・シンガーになると、自分が何を必要としているのか、自分は何が嬉しいのか、自分で理解しないといけないの。(リサ・フィッシャー)

 

本作に登場するリサ・フィッシャーは、人間離れした技量を持ち、最初のシングル「How Can I Ease the Pain」(1992年)でグラミー賞を受賞しますが、二枚目を完成させることはありませんでした。時間をかけすぎたという面もあるようですが、業界やスポットライトの熱さが性に合わなかったようでもあります。バックコーラスが彼女の天職でした。

I reject the notion that the job you excel at is somehow not enough to aspire to, that there has to be something more. I love supporting other artists. Some people will do anything to be famous. I just wanted to sing. I guess it came down to not letting other people decide what was right for me. Everyone’s needs are unique. My happy is different from your happy.

好きなだけでは優れた仕事ができないという考え方には、私は賛成できないわ。好きなことにはそれ以上のものがある。私は他のアーティストをサポートするのが好きなのよ。私は歌いたかっただけ。私にとって何が正しかったかを、他の人に判断されたくないわ。人それぞれよ。私の幸せは、他の人の幸せと違うの。(リサ・フィッシャー) 

 

類まれなる音楽の才能と優れた共感性は、リードシンガーにとっても大きな魅力だったようです。本作に登場するクラウディア・リニアは、ローリング・ストーンズから「ブラウン・シュガー」という曲を捧げられ、ミック・ジャガーデヴィッド・ボウイと浮き名を流しました。音楽の才能を持つだけではなく、自分の音楽をよく理解し、合わせてくれるバックコーラスの女性は、アーティストにとってミューズのよう存在にだったに違いありません。

 

しかしながら、こうしたバックコーラスの収入や認知には厳しいものがあります。本作に登場するダーレン・ラブは、1960年代以降、エルヴィス・プレスリーフランク・シナトラビーチ・ボーイズサム・クック、ディオンヌ・ワーウィックといった一流ミュージシャンのレコーディングにバックボーカルとして参加しますが、ほとんどクレジットされることもなく、1980年代には生計を立てる為にビバリーヒルズで掃除婦をしなければなりませんでした(浴室を掃除している時に、ラジオから流れてきた自分の曲を聴いてもう一度歌おうと決意し、再起した)。また、最近では、アーティストや仲間内の多重録音で済ましてしまい、バック・コーラスを呼ばなくなった為、仕事が減っているそうです。

 

バック・コーラスの素晴らしさが伝わって来るとともに、示唆に富んでおり、繰り返して観る度に新しい発見がある映画です。世の中、独自性の高い一部のアーティストだけで回っているわけではありません。共感性の高いバック・コーラスの人々とのコラボにより、より感動的な作品が生まれてきたのは紛れもない事実です。競争力に富んだ一部の人だけではなく、それを支える共感性の高い人々も認知され、報われる世界であって欲しいと思います。

 

ちなみに、本作に登場する若手のジュディス・ヒルは、父親がベース奏者のアメリカ人、母親が東京出身のピアノ奏者という日系アメリカ人ハーフです。2009年のマイケル・ジャクソンの カムバックツアー「THIS IS IT」のデュエット・パートナーとして起用され、練習を積みましたが、彼の休止によってツアーが中止となりました。ジュディス・ヒルが、彼の追悼式典で「ヒール・ザ・ワールド」のリードボーカルの大役を務め、世界的な注目を浴びたのを記憶されている方もいると思います。その後、アメリカのオーディション番組「ザ・ヴォイス」に出演、最有力候補とみられていましたが、上位8位の演奏後、惜しくも敗退しています。その後、彼女にぞっこんのプリンスが彼女のデビューアルバム「Back in Time」をプロデュースしますが、ジュディス・ヒルらとプライベート・ジェットで移動中に薬物の過剰摂取により意識不明となり、6日後に逝去するという不幸に見舞われました。二度も大物ミュージシャンの死に直面した彼女も、バックコーラスとソロシンガーの間で揺れているようです。

 

ダーレン・ラヴ

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エルヴィス・プレスリーフランク・シナトラビーチ・ボーイズサム・クック、ディオンヌ・ワーウィックといった一流ミュージシャンのレコーディングにバックボーカルとして参加した。61年にビートルズラモーンズのプロデューサーのフィル・スペクターと出会い、歌唱力を認められてフィレスでも歌い始める。のちに「ザ・ブロッサムズ」という3人のヴォーカルで構成する自分のバンドを結成。また「ホームアローン2」の主題歌「ひとりぼっちのクリスマス」の主題歌を歌っている。アメリカントップ40入りした20数曲のバックシンガーとして活躍し、「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第84位にランクインされるとともに、ロックの殿堂入りしている。

 

メリー・クレイトン

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R&B歌手。牧師の娘として生まれ、教会でゴスペルを歌っていた。彼女の魂がこもった歌声は、キャロル・キングのアルバム「つづれおり」の大ヒットに貢献。さらに、レーナード・スキナードの「スウィート・ホーム・アラバマ」やジョー・コッカーの「フィーリン・オーライ」に加え、ローリング・ストーンズの1969年の名曲「ギミー・シェルター」での共演で広く知られる。他にもレイ・チャールズのバックコーラスを担当したグループ、レイレッツでの活動等で知られており、70年にはソロ活動も行う。80年代以降は女優としても活動している。

 

リサ・フィッシャー

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ニューヨーク出身のリサ・フィッシャーは、R&Bシンガー、ルーサー・ヴァンドロスのバックコーラス・ヴォーカリストとしてデビュー。その後セッション・ヴォーカリストとして、スティング、クリス・ボッティチャカ・カーンティナ・ターナー、ビリー・オーシャン等の一流アーティストなどと仕事をしている。1991年にリリースしたソロアルバム、「ソー・インテンス」がR&B部門のチャート1位に輝き、翌年には「ハウ・キャン・アイ・イース・ザ・ペイン」にてグラミー賞を受賞した。1987年からは、ローリング・ストーンズのセッション・ヴォーカリストとしてツアーに参加した。

 

タタ・ヴェガ

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ミュージカル女優から出発して、ゴスペルシンガーとして鳴らした実力派。スティーヴィー・ワンダーチャカ・カーンパティ・ラベルマイケル・ジャクソンエルトン・ジョン、そしてマドンナと、さまざまなビッグアーティストのバックボーカルとしても活躍した。モータウンとの契約を果たし、本人名義のアルバムも、「フル・スピード・アヘッド」(76)、「トータリー・タタ」(77)など、ディスコ全盛期の70年代後半を中心に何枚か出している。その後、ゴスペル歌手のアンドレ・クラウチと仕事をするようになり、彼のツテでクインシー・ジョーンズと知り合う。スティーブン・スピルバーグの映画「カラーパープル」にも参加している。

 

クラウディア・リニア

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ミック・ジャガーデヴィッド・ボウイに好かれた黒人女性。ストーンズの「ブラウン・シュガー」はティナ・ターナーのバックコーラスをしていた彼女に捧げられた曲であり、デヴィッド・ボウイは「薄笑いソウルの淑女」という曲を書いた。ジョー・コッカーの1970年の全米ツアーを映画化した「マッド・ドックス&イングリッシュメン」の中で「レット・イット・ビー」を歌ったことで知られており、数々のスワンプ系の名盤にコーラスで参加している。ジョージ・ハリソンのバックコーラスとしても知られている。

 

ジュディス・ヒル

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父親がベース奏者のアメリカ人、母親が東京出身のピアノ奏者という日系アメリカ人ハーフ。南カリフォルニア州バイオラ・ユニバーシティで音楽(作曲)の学位を取得した後、2007年 ミッシェル・ポルナレフの公演に参加。その後、アメリカに帰国、カティス・バッキンハムと共演を重ねシンガーソングライターとしてのキャリアをスタートさせる。2009年マイケル・ジャクソンのカムバックツアー「ディス・イズ・イット」 のバックシンガーとして採用されるが、マイケル・ジャクソン逝去に伴いツアーは中止となる。マイケル・ジャクソン追悼式典で「ヒール・ザ・ワールド」のリードボーカルの大役を務め、その模様を10億人が視聴、世界的な注目を浴びた。またスパイク・リー監督の「Red Hook Summer」に彼女が作曲したバラードが多数使用されている。

動画クリップ(YouTube

サウンドトラック 

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