夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「博士と彼女のセオリー」:ホーキング博士を介護しながら三人の子供を育てた元妻の愛と人生の難しさ

博士と彼女のセオリー」(原題: The Theory of Everything)は、2014年公開のイギリスの伝記映画です。理論物理学者のスティーヴン・ホーキング博士の元妻であるジェーン・ホーキングの手記「Travelling to Infinity: My Life with Stephen」を基に、難病ALSと闘う車椅子の天才物理学スティーヴン・ホーキング博士と彼を長年支え続けた妻ジェーンの出逢いのエピソードと、試練に満ちた結婚生活に立ち向かう二人の愛の行方を描い描いています。第87回アカデミー賞で5部門にノミネートされ、エディ・レッドメイン主演男優賞を受賞しています。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督: ジェームズ・マーシュ
脚本: アンソニー・マッカーテン
原作: ジェーン・ホーキング「Traveling to Infinity: My Life with Stephen」
出演: エディ・レッドメインスティーヴン・ホーキング
    フェリシティ・ジョーンズ(ジェーン・ワイルド・ホーキング)
    マキシン・ピーク(エレイン・マッソン:スティーヴンの2番目の妻)
    チャーリー・コックス(ジョナサン・ジョーンズ:ジェーンの2番目の夫)
    エミリー・ワトソン(ベリル・ワイルド:ジェーンの母親)
    ガイ・オリヴァー=ワッツ(ジョージ・ワイルド:ジェーンの父親
    サイモン・マクバーニー(フランク・ホーキング :スティーヴンの父親
    アビゲイル・クラッテンデン(イソベル・ホーキング:スティーヴンの母親)
    シャーロット・ホープ(フィリパ・ホーキング :スティーヴンの妹)
    ルーシー・チャペル(メアリー・ホーキング:スティーヴンの妹)
    デヴィッド・シューリス(デニス・シャーマ)
    エンゾ・シレンティ(キップ・ソーン)
    ゲオルグ・ニコロフ(アイザック・カラトニコフ)
    ハリー・ロイド(ブライアン )
    ほか

あらすじ

1963年、ケンブリッジ大学の大学院に在籍し、天才物理学者として将来を嘱望されていたスティーヴン・ホーキングエディ・レッドメイン)は、詩を学ぶジェーン・ワイルド(フェリシティ・ジョーンズ)と出会い、二人は恋に落ちます。直後にスティーヴンは難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症、余命2年の宣告を受けます。将来を悲観し、ジェーンとの未来も諦めるスティーヴンでしたが、ジェーンはひるむことなく、周囲の反対を押し切ってスティーヴンと結婚する道を選びます。結婚2年目には長男のロバートも誕生し、当初の余命を越えて生き続けるスティーヴンは、悪化するALSとの闘病生活の中、時には壁に突き当たり、限界を感じ、自身の無力さに打ちひしがれながらも、ジェーンの励ましに支えられ、持ち前のユーモアで乗り越え、「車椅子の科学者」として最先端の研究を精力的に行い、講演活動や執筆活動へ意欲的に取り組んでいきますが・・・。

レビュー・解説 

エディ・レッドメインフェリシティ・ジョーンズの好演が光ります。エディ・レッドメインはイートン校/ケンブリッジ大学フェリシティ・ジョーンズオックスフォード大学の出身と、二人ともホーキング夫妻同様、知的能力に秀でています。

 

ホーキング博士は写真等で見た事がありますが、エディ・レッドメインは彼の持つ雰囲気を良く再現しているだけでなく、目や不自由な顔の筋肉で表現する感情が見事で、まさにアカデミー主演男優賞に値する演技です。彼は体重を6キロ落とし、4ヶ月間、ダンサーに体のコントロールの仕方を学びました。40人のALS患者に会い、ホーキング博士の筋力がどの順番で衰えていったか表を作成し、何時間も鏡の前に立って顔の表情をコントロールしました。最後には、撮影の合間も前屈みのままじっと動かずにおり、整骨医が背骨の位置が変わってしまったと言う程でした。また、撮影は必ずしも時代順に行われない為、彼はシーン毎に表を見て、ホーキング博士の病状の進行の度合いを確認しました。

 

フェリシティ・ジョーンズも、周囲の反対を押し切ってホーキング博士と結婚するジェーンのイギリス女性らしい知性と意思の強さをうまく演じています。第87回アカデミー賞の主演女優賞は「アリスのままで STILL ALICE」のジュリアン・ムーアに行ってしまいましたが、フェリシティ・ジョーンズも同賞にノミネートされており、彼女が受賞しても不思議ないほどの演技です。端正で芯の強さを伺わせる美しさを持ち、また、幅広い年齢を自然に演じる力も持っており、今後のさらなる活躍に期待したいところです。

 

この映画への評価は高いのですが、「博士が驚くべきアイデアを思いついたことに対する掘り下げが足りない。博士がどのようにして従来の時空理論を覆したかということを描き出す代わりに、博士が神の存在に言及したかしないかという、些細なことが語られている。」といった批判が一部に見られます。しかしながら、この映画は元妻の手記を基に二人の関係を描いたものであり、彼の物理学を語るのは別の作品*3に譲った方が良いでしょう。また、彼が無神論を主張したのは事実で少なからず注目されましたが、映画では敬虔なクリスチャンである元妻との関係性で描かれています。

 

それよりも私が素晴らしいと感じたのは、恐らく当事者や関係者が存命であることから様々なところで不調和を見え隠れさせながらも、イギリスらしい奥ゆかしさで予定調和的に見せているところです。介護の大変さも描ききっていません。この映画は脚本を書き始めてから映画公開されるまで、10年かかりました。そのうち、3年をジェーン・ホーキングの合意を得る為に費やしています。邦題の「博士と彼女のセオリー」は、美しい青春ものを連想させますが、映画には「ホーキング家が歓迎しておらず、また第三子を夫以外の子と疑う」、「ケアの女性がホーキング博士に影響力を行使する」など、必ずしも一筋縄ではいかない部分が見え隠れしています。

 

以降は映画では必ずしも描かれていませんが、ホーキング家は家風になじまないとしてジェーンを嫌っており、堪え兼ねてジェーンが出て行ったらケンブリッジに引っ越してホーキング博士の面倒を見るつもりでいましたので、ほとんど支援らしい支援をしませんでした。「二人の結婚生活には、ホーキング、ジェーン、物理学、ALSの四者がいた」という大変さに加え、これはジェーンにとって大きなストレスで、後にチャーリー・コックスに精神的な支えを求める一因となります。

 

但し、チャーリーとジェーンの関係はホーキング博士も認めるものであり、これでギクシャクすることはありませんでした。むしろ、二人の離婚の原因となったのは、ケアの女性エレイン・マッソンの存在でした。彼女らは夫妻の家に同居し、彼らの生活を非難し、夫妻にプライバシーが無くなりました。「ひそひそ話をされ、私は傷つけられました」と、ジェーンの傷は未だ癒えていないようです。ホーキング博士は、1990年にジェーンの元を去り、1995年にエレインと結婚、ジェーンとジョナサンが結婚するのは1997年になってからのことです。その後、エレインはホーキング博士の子供達とスタッフに暴力的虐待で訴えられ、2006年に離婚しています。現在、ホーキング博士はチャーリーとジェーンのすぐそばに住んでおり、彼らの良好な関係は続いていますが、ジェーンは「介護の負担は軽減されたが、時計の針を元に戻す事はできない」と語っています。

 

現実がどうであったにせよ、ジェーンが周囲の反対を押し切ってホーキングの博士と結婚したこと、ホーキング家の支えがない中、ジョナサンという理解者を得ながら博士の介護を独力でやり通し、三人の子供まで育て上げた事は賞賛に値します。知的で意思の強い彼女にとっての人生の難しさは、介護の大変さもさることながら、ホーキング博士が成功し、外部の人間が介護に出入りするようになって、それまで通りに行かなくなったことにあったのかもしれません。

 

エディ・レッドメインスティーヴン・ホーキング

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フェリシティ・ジョーンズ(ジェーン・ワイルド・ホーキング) 

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関連動画(YouTube) 

君は、これからどうなるのか知らない〜「博士と彼女のセオリー

STEPHEN: Leave me now.
JANE: Are you going to talk about this or not?
STEPHEN: Will you just go?
JANE: Is that what you want?
STEPHEN: Yes it is what I want. If you care about me at all, then please just go.
JANE: I can't.
STEPHEN: I've got two years to live. I need to work.
JANE: I love you.
STEPHEN: That's a false conclusion.
JANE: I want us to be together for as long as we've go and if that's not very long, well, then that's just how it is. It will have to do.
STEPHEN: You don't know what's coming. It'll affect everything.
JANE: Your glasses are always dirty.
JANE (CONT’D): There. That's better. Isn't it?
STEPHEN: Yes. Yes, it is.

ステファン:僕に構うな。
ジェーン:ちゃんと話して。
ステファン:出て行ってくれ。
ジェーン:本気なの?
ステファン:本気だ。僕を思うなら帰ってくれ。
ジェーン:嫌よ。
ステファン:余命二年だ。研究したい。
ジェーン:愛しているの。
ステファン:それは誤った結論だ。
ジェーン:あなたと一緒にいたい。たとえ長い間でなくても、私は構わない。
ステファン:この病気はすべてに影響を及ぼすんだ。
ジェーン:いつも眼鏡が汚れている。
ジェーン:ほら。良くなった?
ステファン:よく見えるよ。

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関連作品 

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