【閑話休題】比較的地味なアフガン紛争(2001年〜)が映画の題材となる理由
本記事は、拙稿
「ローン・サバイバー」:米海軍特殊部隊史上最悪の悲劇と言われたレッド・ウィング作戦を描いたリアルでスリリングな実録戦争アクション - 夢は洋画をかけ廻る
の「アフガニスタン紛争(2001年〜)と関連映画」の項を加筆編集したものです(重複を避ける為、もとの項は削除)。
目次
比較的地味な印象のアフガン紛争(2001年〜)
19世紀のイギリスの侵攻、20世紀の二度にわたるイギリス侵攻、アフガン内戦とソ連の軍事介入、2001年の米同時多発テロ事件に端を発するNATOおよび北部同盟のタリバンに対する「対テロ戦争」と、アフガニスタンは戦争の多い地域です。アフガン紛争(2001年〜)は、米国の9.11同時多発テロの首謀者の身柄引き渡し要求を時のタリバン政権が拒否したことに端を発しますが、2002年、時のブッシュ大統領が一般教書演説でイラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」名指しし、翌2003年にはイラクの大量破壊兵器の開発・保持を理由にイラク戦争が勃発、アフガン紛争(2001年〜)はイラク戦争に至る通過点の印象が強くなりました。また、その後、より過激で残虐なイスラム国のイスラム過激派が注目された為、アフガン紛争(2001年〜)は比較的地味な印象となりました。
アフガン紛争(2001年〜)が映画の題材となる理由
アフガン紛争(2001年〜)では、有志連合と北部同盟があっという間に首都カブールを制圧したのですが、カブールから数十キロ、パキスタンに通ずる3000メートル級の山岳地帯にタリバンやアルカイダが潜伏し、徹底抗戦します。結果、有志連合は武装勢力を相手に、長い間、苦戦を強いられ、ベトナム戦争を上回る「史上最長の戦争」となりました。近年、このような泥沼化を避ける為に、欧米諸国は地上軍の派遣を躊躇する傾向があり、イスラム国との戦闘ではイラクやクルド人の地上部隊と連携し、有志連合が空爆を行うような作戦が多用されました。そうした中、アフガン紛争(2001年〜)を以下のように特徴づけすることができます。
- イラク戦争同様、米国、有志連合が地上軍を派遣した戦争
- しかし、住民の反発を避ける為に小部隊しか派遣されなかった
- また、イラク戦争に兵員を振り分けた為、兵力がより手薄となった
- タリバン等、敵の武装勢力は国境の山岳地帯に潜伏し、ゲリラ戦を展開した
- 敵の武装勢力は、国境を越えてパキスタンから物資、兵員を調達した
- 米国、有志連合は敵の補給路を断つことができず、戦いが長期化した
即ち、厳しい山地などで兵力が拮抗する中、生死をかけて戦う地上の兵士たちの姿が浮かび上がってくるのがアフガン紛争(2001年〜)です。地上戦では自軍の犠牲も多くなり、必然的に母国の国民の関心が高まりますが、アフガン紛争(2001年〜)を扱う映画は現場不在の電子戦や一瞬にして破壊し尽くす絨毯爆撃とは異なり、戦闘の過程において人間の実存を深く問うものになります。
アフガン紛争(2001年〜)は戦闘の過程において人間の実存を深く問う
アフガン紛争(2001年〜)を題材にした主な映画
アフガン紛争(2001年〜)は、一見、地味な位置づけの戦争ですが、このように米国や有志国がタリバンやアルカイダ相手の山岳ゲリラ戦などの地上戦で苦戦したことから、多くの映画の題材となっています。2001年以降のアフガン紛争の主な出来事と、関連する映画(赤字)を下表に示します。アメリカのみならず、有志国として参加したデンマーク(「ある戦争」、{アルマジロ」)や、オランダ(「キャンプ・アフガン」)が制作した作品もあります。各国の部隊の配置により、米国映画はアフガンの北東部を、欧州各国の映画は南部を舞台にすることが多くなっています。
時期 | 主な出来事 |
2001年 | アメリカで同時多発テロ事件勃発、米政府、首謀者をオサマ・ビンラディンと特定 米政府が身柄引き渡しを要求するも、アフガニスタンのタリバン政権が拒否 NATO軍が集団的自衛権を行使、アフガニスタンへの空爆を開始 少数の特殊部隊が派遣され、北部同盟軍とともに戦う(→「ホース・ソルジャー」) ビンラディンが潜伏していたトラボラ山脈を空爆するも、ビンラディンは逃亡 北部同盟軍が首都カブールを制圧、アフガニスタン暫定政府を設立 |
2002年 | アフガニスタン移行政府設立 シャハ・エ・コット渓谷に潜伏するタリバン兵等を掃討する「アナコンダ作戦」実施 |
2003年 | アフガニスタンの憲法制定 イラク戦争勃発、米軍が大幅にイラクに振り向けられ、タリバンが勢力を回復する |
2004年 | アフガニスタン大統領選の実施 「国境なき医師団」がスタッフ5人を殺害され、アフガニスタンから撤退 |
2005年 | コレンガル峡谷近傍でレッドウィング作戦実施(→「ローン・サバイバー」) 南部でタリバン等の武装勢力の攻撃が増え、治安が悪化。 |
2006年 | コレンガル前哨基地設置(→「レストレポ前哨基地」) アフガニスタン国軍と連携、地域のインフラ整備をしながら、武装勢力を掃討を図る 国境を越えてパキスタンから物資を調達するタリバンと激しい戦闘が繰り返される アフガニスタン国内の爆撃の75%がコレンガル渓谷に集中する激戦区 2006年から2010年に撤退するまでの4年間で42人の米兵が戦死 ISAF、南部で大規模掃討作戦「メドゥーサ」を展開 |
2007年 | 首都カブールで自爆テロ頻発 ISAF(国際治安支援部隊)、南部の武装勢力と戦闘激化(→「ある戦争」) 南東部でタリバンが韓国人23人を拉致、2人を殺害、韓国政府が交渉、アフガンから撤兵 |
2008年 | 東部でNPOペシャワール会の日本人スタッフがタリバンに誘拐・殺害される ISAF、南部の武装勢力と戦闘激化(→「キャンプ・アフガン」) |
2009年 |
タリバン兵300人がヌーリスターン州キーティングの米軍拠点を急襲 |
2010年 | ヘルマンド州で、ISAF他がタリバン大規模掃討作戦(モシュタラク作戦)を実施 |
2011年 | 米軍特殊部隊がパキスタンに潜むビンラディンを殺害(→「ゼロ・ダーク・サーティ」) ワルダク州で反政府組織が米軍ヘリを撃墜、米特殊部隊30人を含む38人が死亡 |
2014年 | 米軍の駐留兵削減完了、戦闘任務を正式に終了 |
2019年 | ナンガルハル州ジャラーラーバードで日本人医師中村哲ら6名が襲撃を受け死亡 |
関連作品
アフガン紛争(2001年〜)を題材にした映画のDVD(Amazon)
「アルマジロ アフガン戦争最前線基地 」(2010年)
「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012年)
「ローン・サバイバー」(2013年)
「ホース・ソルジャー」(2018年)
「レッド・プラトーン」(未)
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