「ローン・サバイバー」(原題:Lone Survivor)は、2013年公開のアメリカの戦争アクション&ドラマ映画です。アメリカの精鋭特殊部隊ネイビー・シールズ創設以来最大の悲劇と言われるレッド・ウィング作戦に参加した、元隊員のマーカス・ラトレルの手記「アフガン、たった一人の生還」を原作に、ピーター・バーグ監督、マーク・ウォールバーグら出演で、タリバンのリーダー掃討作戦の為にアフガニスタンの戦地に送り込まれたシールズの隊員4人が、80〜200名の敵兵の攻撃にさらされる中、ただ一人が奇跡の生還を果たす様を描いています。第86回アカデミー賞で、録音賞、音響効果賞にノミネートされた作品です。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:ピーター・バーグ
脚本:ピーター・バーグ
原作:マーカス・ラトレル/パトリック・ロビンソン著「アフガン、たった一人の生還」
出演:マーク・ウォールバーグ(マーカス・ラトレル一等兵曹)
テイラー・キッチュ(マイケル・マーフィ大尉 )
エミール・ハーシュ(ダニー・ディーツ、二等兵曹)
ベン・フォスター(マシュー・アクセルソン、二等兵曹)
エリック・バナ(エリック・クリステンセン少佐)
アリ・スリマン(グーラーブ)
アレクサンダー・ルドウィグ(シェーン・パットン二等兵曹)
ジェリー・フェレーラ(ハスラート海兵隊軍曹)
ユセフ・アザミ(アフマド・シャー)
サミー・シーク(タラク)
ローハン・チャンド(グーラーブの息子)
ほか
あらすじ
- 2005年6月、アフガニスタン東部の山岳地帯。武装集団を率いるタリバンのリーダーの排除・殺害を目的とするレッド・ウィング作戦遂行の為、米海軍特殊部隊ネイビー・シールズのマイケル・マーフィー大尉(テイラー・キッチュ)ら4名の偵察チームが、ヘリコプターからロープで険しい山地に降下します。
- 彼らの目的は、現地を偵察して無線連絡、味方の攻撃チームを誘導すること、可能であればターゲットを殺害することでした。しかし彼らは、山中で山羊飼いの現地人3名と遭遇してしまいます。電波状態が悪く前線基地との連絡が取れない中、彼らは作戦を中止し、タリバンに彼等の存在が漏れる危険を冒して3名の現地人を解放します。その後まもなく、彼らは山中で80〜100名のタリバン兵に囲まれ、交戦状態になります。
- 偵察任務の為、装備は小火器のみでしたが、特殊部隊の厳しい訓練で鍛え上げられた4名は懸命に抗戦します。しかし、数に勝り、ライフル、機関銃、RPG擲弾筒で武装するタリバンの猛烈な攻撃の前に彼等は次々に被弾、負傷、仲間を背負って後退を余儀なくされ、断崖から飛び降ります。
- この戦闘でマイケル大尉ら偵察チームの3名が死亡しますが、その直前に衛星電話で決死の連絡を試みた大尉が救援の要請に成功します。護衛のアパッチヘリが出払っていた為、救援部隊を載せた輸送ヘリが単独で戦闘現場にかけつけます。救援部隊の降下の為に空中で停止したところをタリバンのRPGで迎撃され、ヘリは救援部隊もろとも撃墜されてしまいます。
- 深手を負い、たった一人生き残ったマーカス・ラトレル一等兵曹(マーク・ウォールバーグ)は、現地人の親子に救われ、彼らの村に匿われます。後を追って来たタリバンはマーカスを広場で処刑しようとしますが、村人らは部族の掟である「パシュトゥーンワーリ」に従ってマーカスを守り、タリバンを追い返します。マーカスが書いた地図を手に村人が一人、救援を求め、徒歩で米軍基地へ向かいますが、村は多数のタリバン兵からの猛烈な攻撃を受けます・・・。
レビュー・解説
米海軍特殊部隊ネイビー・シールズ史上最悪の悲劇と言われたレッド・ウィング作戦を、ピーター・バーグ監督 x マーク・ウォールバーグが常人のヒロイズム全開で描いた、リアルでスリリングな実録戦争アクション映画です。
米海軍特殊部隊史上最悪の悲劇「レッド・ウィング作戦」を描いた実録戦争アクション
ピーター・バーグ監督 x マーク・ウォールバーグの魅力全開
「ハンコック」(2008年)、バトルシップ「(2012年)など、SFバトルアクション映画も手がけるピーター・バーグ監督ですが、彼はもとより「プライド 栄光への絆」 (2004年) 、「キングダム/見えざる敵」(2007年)など、ノンフィクションや実話に基づくドラマ映画を得意とします。特にマーク・ウォーバーグと組んだ実話系アクション映画三作は、非常に高い評価を得ています。
ピーター・バーグ監督 x マーク・ウォールバーグの実話系アクション映画
タイトル | 公開年 | 題材 |
ローン・サバイバー | 2013年 | ネイビー・シールズ「レッド・ウィング作戦」(2005年) |
バーニング・オーシャン | 2016年 | メキシコ湾原油流出事故(2010年) |
パトリオット・デイ | 2016年 | ボストン・マラソン爆弾テロ事件(2013年) |
アクションや、実話を劇的に見せる演出に長けたピーター・バーグ監督が、普通の人々のヒロイズムを描くこれら三作にすっぽりとはまるマーク・ウォールバーグを迎えたことが、より評価に繋がりました。マーク・ウォールバーグは、「ディパーテッド」(2006年)でアカデミー助演男優賞に、「ザ・ファイター」(2010年)ではプロデューサーとして同作品賞にノミネートされ、2017年には最も稼いだ俳優のトップにランクされるなど、すっかり売れっ子になりましたが、かつてワルだったという彼には、隣のお姉さんならぬ、隣のお兄さんにような親しみやすい魅力があります。
マーク・ウォールバーグ(マーカス・ラトレル一等兵曹)
マーク・ウォールバーグ(1971年〜)は、ボストン出身のアメリカの俳優、プロデューサー、歌手。貧しい家庭に生まれ、高校中退後、様々な職につくが長続きせず、ドラッグや暴力沙汰に明け暮れ、遠足中の黒人児童たちに投石して負傷させたり、コカインとアルコールで酩酊してベトナム人男性を襲撃し木の棒で殴りつけたりし、殺人未遂容疑で起訴され、感化院に収容された。成人後も、人に言いがかりをつけて暴力を振るい顎の骨を砕く重傷を負わせるなど、ボストン警察には25回も世話になっている。やがて反省し、自身の行いを改めることを決心、1994年に映画デビューして以来、仕事に専念している。「ディパーテッド」(2006年)の演技が高く評価され、第79回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、 主演・製作を務めた「ザ・ファイター」(2010年)は第83回アカデミー作品賞にノミネートされている。
圧巻の戦闘シーン
実話系の話はリアリティを追求しすぎると地味で退屈になってしまいますが、ピーター・バーグ監督は話にわかりやすくメリハリをつけ、観客を惹き付ける脚色、演出が得意です。例えば「パトリオット・デイ」では、様々な実在の人物を複合した架空の主人公を作り上げるという大胆なアーティスティック・ライセンス(作家が歴史的事実や現実を物語に合わせて設定変更する創作上の特権)を使っています。実話を基にした作品ですが、事件の概要と市井の人々の勇気をわかりやすく効果的に伝えることができるのであれば、このような創作も許されるわけです。本作に関しては、ピーター・バーグ監督は原作や原作者の話に忠実なアプローチをしていますが、その一方で、メリハリを効かせ、ビビッドでスリリングな見せ方をしています。また、遺族に対する配慮から、一部、原作と変えているシーンもあります。
そして、何よりも戦闘シーンが圧巻です。ピーター・バーグ監督は撮影に先立ち、イラク駐留のネイビー・シールズ部隊に従軍、一ヶ月半、生活をともにし、さらに撮影にも原作者を含む数人のネーイビー・シールズが立ち会って、演技指導しています。身をかすめる銃弾の音や被弾の描写も丁寧で、戦場のリアルさが伝わってくるようです。
原作ではマーカスが、ヴィヴィッドで生々しいディテールを描いている。実際は5時間の銃撃戦だが、最初にやったのがマーカスの書いたことの分析だ。マーカスを自宅に招き、一ヶ月かけて、銃撃シーンを逐一、確認していったんだ。崖からのジャンプ、木々の一本一本、傷のひとつひとつ、弾丸の一発一発、すべてだ。死亡した兵士たちの父親のひとりが、検死報告書を読んでくれた。骨、踵、膝、太もも、鼠径、胃、喉の、すべての傷に関する報告書だ。私はできるだけ完璧な知識を身につけようとしていた。私は実際の銃撃戦について、できるだけ多くのことを知り、理解しようとした。誰かが傷つく銃撃のひとつひとつを、とても具体的に描こうとした。銃撃の一発一発、傷の一つ一つをだ。メイクは傷がどう見えるか、サウンドはどんな音がするかを、とても具体的に描いた。私達は、バイオレンスの詳細にまで入り込んだ。バイオレンスをまるごと観客に放り出すようなことはしなかった。(ピーター・バーグ監督)
https://globalecco.org/ja/ctap-interview-peter-berg-director-of-lone-survivor
新選組の階段落ちならぬ、「崖落ち」のシーン。エッっと思うほど、リアル。CGは一切、使っておらず、機械もワイヤーもダミーの人形も使っていない、すべてスタントマンを使った実写。ネイビー・シールズが撮影現場に立ち会たこともあり、スタントマンのアクションに熱が入っている。原作通りにシーンを再現しようと、難易度の高いことに挑戦しており、脳震盪を起こす人、怪我をする人、激突で肋骨を折り肺に穴をあける人が出ている。
原作/映画は事実と相違?
生還したマーカスが、米軍を題材にした数々のベストセラー小説で知られるパトリック・ロビンソンとまとめたノンフィクション「アフガン、たった一人の生還」は、全米でベストセラーとなります。ピーター・バーグ監督が映画化権を獲得、本作が制作され、プロモーションの為に、マーカスを救ったグーラーブ本人をアフガニスタンから呼び寄せます。ところが、ここで事態は思わぬ展開を見せます。ロビンソンから原作の翻訳を聞かされたグーラーブが、彼が記憶している事実と異なると指摘したのです。原作や映画の描写と、グーラーブや一部のジャーナリストの指摘する主な相違点は以下のようになります。
原作/映画とグーラーブらの指摘の相違点
論点 | 原作/映画 | グーラーブ/一部ジャーナリスト |
ターゲット | オサマ・ビンラディンの側近の一人 米本土攻撃も辞さないテロリスト |
タリバン関連の小さな軍隊の長 ビンラディンの側近ではない 国際的なテロリストではない |
会敵 | ヤギ飼いと遭遇、交戦規定に従い解放 タリバンへの通報を懸念、作戦中止 一時間半後にタリバンと会敵 |
タリバンがシールズの夜間降下を察知 翌日シールズの足跡を追跡 ヤギ飼いと接触するシールズを発見 ヤギ飼いの存在に攻撃を躊躇 |
敵の規模 | 80人〜200人(作戦ブリーフィング) 実際に会敵したのは30~40人? 映画で見せているのは30人ほど |
推定8〜10人 タリバンの戦闘ビデオに映るのは7人 |
交戦 | ヤギ飼い解放一時間半後に交戦 4時間半の戦闘 |
シールズがヤギ飼い解放した直後に交戦 村に聞こえてくる銃声はすぐに止んだ |
敵の死者数 | 50人以上は殺したに違いない(原作) 推定35人(米海軍特殊戦コマンド) 20人程度(映画) |
翌日の捜索でタリバンの遺体は発見されず |
残弾数 | 未使用の弾倉は2個 | 未使用の弾倉は11個 |
マーカスは一兵卒の視点で書いており、グーラーブは戦闘現場近くの住民の視点での指摘で、おそらくどちらも完璧ではなく、どちらか一方が正しいと断定するのは難しいのですが、もしもグーラーブらの指摘が正しいとすれば、シールズの偵察チームは最初から動向を把握されており、タリバンに有利な状況でほとんど反撃もできないまま一気に殲滅させられた可能性があります。実際、戦闘の有利、不利を決めるのは頭数だけではありません。例えば、
シールズ偵察隊 | タリバン | |
武装 | 小火器のみの軽武装 | ライフル、機関銃、RPG擲弾筒などの重武装 |
位置 | 山の下からタリバンを見上げる | 山の上からシールズを見下ろす |
遮蔽物/退路 | なし/なし | あり/あり |
索敵 | 目標を未確認 | 射程内に目標を確認 |
といった場合、状況は圧倒的にタリバンに有利になります。タリバンが勝手知ったる自陣の中で、グーラーブの言う通りにシールズ偵察隊をしっかりと補足していたとすれば、シールズ偵察隊は圧倒的に不利な状況にあったことになります。
疑義は作品の価値を貶めるか?
それでは、こうした疑義は作品の価値を貶めるのでしょうか?少なくても、私自身に関しては全くもって「ノー」です。レッド・ウィング作戦は失敗したことがわかっていますので、私の興味は、シールズが何人のタリバンを殺したかではなく、 どうようにして偵察チームが窮地に追い込まれていったか、 偵察チームの3人に加えヘリ乗員8名とヘリに搭乗していたシールズ隊員8名、計19名が戦死という、ネイビー・シールズ創設以来最悪の悲劇にどうようにしてつながったのか、です。私にとってシールズの反撃は単なるアクションの演出のひとつに過ぎません。
また、ピーター・バーグ監督の演出も、タリバンへの応戦をヒロイックに描くよりは、シールズが崖から転落するシーンなど、むしろシールズの絶望的な状況をリアルに描くことに注力されています。タリバンを何人殺したかは、必ずしも重要な取り扱いにはなっておらず、グーラーブが提起した疑義は作品の価値を決定的に貶めることはないと思われます。もちろん、事実と違うとしたらそれは許せないという人もいるかもしれませんが、ピーター・バーグ監督とマーク・ウォールバーグが評判を落とすことなく本作に続く実話系アクション映画を成功させているところを見る限り、グーラーブが提起した疑義を寛容に受け止める人が多かったものと思われます。
悲しい後日談
マーカスを救ったことからグーラーブはタリバンの殺害リストに載り、再三、命を狙われ、資産と生業を失います。彼は近くの米軍基地で現金と仕事を得、その後、労働者を雇って木材運搬の仕事を始めます。一方、マーカスはシールズを引退、回顧録を出しますが、アフガニスタンでの体験が頭から離れませんでした。特に、胸に被弾し、救いを求めるマーフィーを見殺しにした自責の念から逃れることができませんでした。マーカスは悲しみと怒りと混乱で一杯でしたが、アメリカでは誰もが彼の作品を読みたがり、2007年にはユニバーサルが数百万ドルで映画化の権利を獲得します。マーカスは、PTSD等に苦しむ帰還兵を救済する為に、ローン・サバイバー基金(英文) を設立し、その創立記念式典にグーラーブを招待します。グーラーブはフェアチャイルド財団の全面的な支援を受け訪米、マーカスと再会し、通訳付きで二週間のアメリカ国内旅行を堪能します。募金で総額三万ドルを調達したマーカスは、グーラーブ分17000ドル、村人分13000ドルを、三年かけてアフガニスタンに分割送金します。一方、グーラーブは2012年、タリバンの襲撃で甥を失います。
2013年、マーカスは、訪米して映画のプロモーションに協力するようグーラーブに依頼します。通訳から映画の収益が入ると言われたグーラーブは、タリバンから逃れてカブールやアメリカに引っ越しできると考え、マーカスの協力要請に応じます。今や起業家となったマーカスは、グーラーブの仕事を手伝うと申し出、また、グーラーブに身の危険が迫っていることから、アメリカに亡命すること勧めます。しかし、亡命すると家族と会えなくなると考えたグーラーブは、亡命ではなくグリーンカード取得を考えます。グーラーブが自身の回顧録で稼げるようにと、マーカスは「アフガン、たった一人の生還」の共著者ロビンソンを紹介します。グーラーブは、この時、マーカスが映画の収益の半分をグーラーブに渡すと約束したと言います(マーカスの弁護士は、グーラーブが金目当ての誰かに操られているとこれを否定)。自身の回顧録作成の為、ロビンソンに会ったグーラーブは、「アフガン、たった一人の生還」の翻訳を聞いて、自分の記憶と違うとマーカスに矛盾点を指摘します。映画公開に先駆けてCBSの「60ミニッツ」のインタビューを受ける直前の、最悪のタイミングでした。通訳の機転でインタビューは事なきを得ましたが、以降、マーカスはグーラーブと距離を置くようになり、マーカスの妻がグーラーブにパソコン等、数千ドル分の物品を買い与え、グーラーブは帰国します。
2014年、グーラーブの回顧録に関して、収益をロビンソン、グーラーブ、マーカスで三分割する不本意な契約を結ばされたいう暴露記事が出ます。マーカスは自分の取り分の受け取りを拒否、グーラーブの本の販売を手伝わない、彼とはもう関わりたくないと怒りを露わにし、さらに態度を硬化させます。一方、グーラーブは米軍基地で働いた期間が短いためグリーンカードを取得できず、アメリカ大使館に保護を求めて第三国に避難するしかなくなります。2015年、彼はインドに出国、借金をして妻と7人の子供を呼び寄せ、9ヶ月後にアメリカのビザを取得します。彼は再び、テキサスに降り立ちますが、マーカスからは支援も出迎えもありませんでした。国務省は彼を地元の救援機関に送り込み、家賃と数千ドルの現金を援助します。文盲で英語もほとんど話すことができないグーラーブは職を得ることもできず、国務省の援助が失効して以降はフードスタンプと時給$10の息子の収入に頼ります。グーラーブは、アメリカ政府に感謝していますが、マーカスには見捨てられたと怒りを感じています。「マーカスを救ったことを後悔していないが、映画を手伝ったのは間違いだった、マーカスはいつか真実を話して欲しい」と、彼は主張しています。
経緯に関する記事を一通り読みましたが、募金を集め送金したり、亡命を勧めたり、仕事を手伝うと申し出、実際にグーラーブの回顧録出版のお膳立てをするなど、マーカスはそれなりにグーラーブを支えていました。マーカスはアフガンでの体験に苦しみながらもそれを出版、映画化し、PTSD等に苦しむ帰還兵の為の事業を運営していました。その根幹となるアフガンでの体験に、真偽は別にしてもマーカスの命の恩人が疑義を挟むことの意味を、グーラーブはおそらく理解していなかったでしょう。互いに視点の異なる過去の記憶を議論したところで、誰が利益を得るのでしょうか?二人の話し合いでいかようになる話です。グーラーブがどのような指摘の仕方をしたのかわかりませんが、意思疎通もままならない中、マーカスが防衛的になったとしても不思議ではありません。
「キリング・フィールド」(1984年)でニューヨーク・タイムズのシドニー・シャンバーグ記者と生き別れにったカンボジア人助手、ディス・プランは、ただ一人でクメール・ルージュの大虐殺を生き延びます。その後シャンバーグ記者と再会した彼はアメリカ国籍を取得し、報道写真家として活躍する傍ら、クメール・ルージュの大虐殺の啓蒙活動を推進しました。ディス・プランは英語堪能で、欧米人の考え方をよく理解し、写真家としてのスキルも持ち合わせていました。一方、グーラーブは文盲で英語もほとんど話せず、通訳がいなければコミュニケーションもままなりません。アメリカで収入を得るようなスキルもありません。もしも、
- 英語ができ、マーカスやアメリカの文化を理解することができたら・・・
- アメリカで稼ぐスキルがあり、マーカスに過度に依存せずに済んだら・・・
- 妻と7人の子供を抱え、アメリカでの生活を設計する力があったら・・・
金ではない、友情だ、真実だと主張し、命を助けた友人への不満をぶちまけながら、妻と7人の子供を抱えてアメリカの生活保護で暮らすアフガン人の正義感(?)に、難民問題の難しさを垣間見るような気がします。
この項の参考:
Marcus Luttrell's Savior, Mohammad Gulab, Claims 'Lone Survivor' Got It Wrong(News Week)
付録:レッド・ウイング作戦
本作は2005年に行われたレッド・ウィング作戦を題材にしています。アフガニスタン東部のクナル州アサダバード付近では、80〜200人程度の武装勢力を率いるアフマド・シャーを中心に旧タリバン勢力の活動が活発化していました。米軍はネイビー・シールズを派遣、シャーを排除することを決定し、レッド・ウィング作戦が立案されました。
- フェーズ1:特定
シールズ偵察チームは、シャーが潜む区域一帯を調査、シャーとその部下を特定し、フェーズ2の攻撃チームを誘導する。可能であれば、そのまま排除を実行する。 - フェーズ2:排除
シールズ攻撃チームは、海兵隊のMH-47チヌークに搭乗、シャーとその部下を捕獲又は殺害する。 - フェーズ3:警戒線設定と周囲の安全確保
アフガニスタン国軍兵と連携して、海兵隊は現場周辺の山岳地帯に存在する武装集団を掃討する。 - フェーズ4:地域の安定化
海兵隊、アフガン国軍兵と海軍衛生部隊は、地域住民の要望に応じて医療、道路、井戸、学校などのインフラを整備する。 - フェーズ5(撤退)
状況に応じて、海兵隊は最長1ヶ月間当該区域に残留し、更なる安定化に寄与した後、撤退する。
という計画でしたが、フェーズ1でシールズ偵察部隊が現地人に遭遇してしまった為、やむなく作戦を中止します。まもなくタリバンの猛攻を受け、救援ヘリを要請しますが、ヘリがタリバンに撃墜され、偵察チーム3人、ヘリ乗員8名と共にヘリに搭乗していたシールズ隊員8名、計19名が戦死という、ネイビー・シールズ創設以来最悪の悲劇となりました。唯一の生存者であるマーカス・ラトレルは、現地人に匿われ、6日後に米軍によって収容されました。
本作でシールズ偵察部隊が降下したコレンガル峡谷一帯は、国境を越えてパキスタンから物資を調達するタリバンの重要拠点で、激しい戦闘が繰り返され、アフガニスタン国内の爆撃の75%がこの一帯に集中する激戦区でした。レッド・ウィング作戦の翌年にコレンガル前哨基地が設置されましたが、2006年から2010年に撤退するまでの4年間で42人の米兵が戦死しています(2005年のレッド・ウィング作戦の犠牲者19人を含まず)。ドキュメンタリー映画「レストレポ前哨基地」はこの一帯の戦闘の厳しさを、生々しく捉えています。
撮影地(グーグル・マップ)
- 4人が降下したサウテロ山
「レストレポ 前哨基地」(2010年)で描かれたコレンガル前哨基地/レストレポ前哨基地のすぐ近く、南東数キロの地点にある(実際の撮影はアメリカのニューメキシコ州アルバカーキーの山岳地帯で行われた)。レッド・ウィング作戦はこれらの前哨基地が設置される前年に行われたもので、本作の降下部隊は数十キロ離れたジャラーラーバード前哨基地から飛び立っている。因みにジャラーラーバードは、今般、中村哲医師一行が襲撃、殺害された場所。
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アフガン紛争(2001年〜)を題材にした映画
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