夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

【閑話休題】家族を描いた邦画:「万引き家族」と「未来のミライ」

たまたま、家族を描いた邦画を二本、続けて見ました。是枝裕和監督のドラマ映画「万引き家族」(2018年)と細田守監督のアニメ映画「未来のミライ」(2018年)です。

 

家族を描いた邦画

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目次

万引き家族」(2018年)

家族をテーマにした映画を得意とする是枝裕和監督は、「家族とは血の繋がりなのか、共に過ごす時間なのか?」をテーマにした「そして父になる」(2015年)を制作しています。貧困、失業、家出、性風俗不妊や、ネグレクト、誘拐、年金詐取、万引といった犯罪を題材にする本作では、「血の繋がりのない訳有の人々が疑似家族を作り、犯罪で生計を立てた場合、それは家族と言えるのか?」をテーマに、人間臭いドラマを描き出しています。商業的なインパクトを狙って「万引き家族」というタイトルに変更されましたが、制作中は(お父さん、お母さんと、)「声に出して呼んで」というタイトルで撮影されていました。構想に10年以上かけ、数多くの社会的な要素を取り込んだ、凝った作りの本作は、リリー・フランキー安藤サクラ樹木希林松岡茉優池脇千鶴といった豪華キャストを迎え、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを受賞する快挙を成し遂げました。審査委員長のケイト・ブランシェットは、「演出と撮影と、役者と全てトータルでよかった」と評しましたが、特に安藤サクラについて「彼女のお芝居、特に泣くシーンの芝居がとにかく凄くて、もし今回の審査員の私たちがこれから撮る映画の中で、あの泣き方をしたら、安藤サクラの真似をしたと思ってください」と絶賛していたと言います。

 

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国内外で非常に評価が高い作品ですが、私には技巧的な作品に映りました。貧困、失業、家出、性風俗不妊や、ネグレクト、誘拐、年金詐取、万引といった犯罪など、幅広い社会的要素をパズルをはめ込むように一本の脚本に取り込み、「この家族は一体なに?」という謎解きを混じえてながら社会派クライム・サスペンス的性格を持つヒューマン・ドラマにまとめ上げたのは、非常に見事としか言いようがありません。しかし、間口を広げすぎた為か、私には肝心の疑似家族の葛藤が散漫になってしまったような気がしてなりません。個人的にはゆり(りん、じゅり)を演じた佐々木みゆが印象的だっただけに、ネグレクトする実の家族か、犯罪に手を染める疑似家族かという葛藤をもっと見せて欲しかったと思います。

未来のミライ」(2018年)

サマーウォーズ」(2009年)、「おおかみこどもの雨と雪」(2012年)、「バケモノの子」(2015年)と、結婚以来、自らのライフステージに対応する家族を描き続けている細田守監督の作品です。本作は彼の第二子誕生という実体験を題材に制作されたもので、同じ家族を描きながら是枝裕和監督の三面記事を組み合わせたような家族と対照的です。第91回アカデミー賞で長編アニメーション映画賞にノミネートされるほどの高い評価を得た作品ですが、国内では賛否が分かれた作品です。

 

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本作のオープニングで、舞台となる街を俯瞰する2Dの精細画がチルトされます。3Dアニメ全盛の昨今ですが、こうした精細描写は逆に2Dの方が優れているのではないかと感じさせるイントロです。

 

舞台となる街を俯瞰するオープンニングのシーン

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横浜市磯子区付近が舞台(グーグルマップ)

 

生まれた妹に両親の愛情を奪われ戸惑う4歳の男の子が、不思議な少女に導かれ、時をこえた家族の旅にでかけ、王子だったと名乗る謎の男、幼い頃の母との不思議な体験、
父の面影を宿す青年と出会い、家族の愛の形を知り、さまざまな冒険を経て成長する様を描いています。日頃から、子供は大家族や近所の人々に囲まれて育つのが理想ではないかと思っていますが、核家族化が進み、近所付き合いも希薄になる昨今、時間旅行で過去未来の家族を旅しながら成長するという、大胆な構成がとても気に入りました。

どちらの監督が描く家族が好きか?

奇しくも二人の監督が家族をテーマに描いたフィクションですが、私は文句なしに「未来のミライ」が好きです。芸術性という意味では「万引き家族」の方が高いかもしれませんし、安藤サクラが泣く姿や佐々木みゆの健気な姿が大好きなのですが、いかんせん、是枝裕和監督の「狙った」観が鼻についてしょうがありません。確かに脚本も演出も立派ですが、もう少し絞り込んで、「ネグレクトする実の家族か、犯罪に手を染める疑似家族か」という葛藤に突っ込んで欲しかったと思います。

 

一方、「未来のミライ」は、4歳の男の子が時間旅行で過去未来の家族を旅をしながら成長するという、斬新で大胆な設定が気に入りました。男の子の成長はいらいらするほどゆったりです。また、本作はファンタジーで、核家族や希薄な近所付き合いといった現実の問題を解決するものではありません。それでもいいのです。本作の最大の魅力は、斬新で大胆な設定に夢があり、観客が余白を楽しむことができること、制作者の子供への愛情、暖かな眼差しが感じられることです。

類似のテーマを描いた洋画

是枝監督の「家族とは血の繋がりなのか、共に過ごす時間なのか?」という視点に、明確な答えを示す作品です。

 

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同種の問題を、子供の視点から見た映画です。

 

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