夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「悲しみに、こんにちは」:両親を亡くした都会っ娘が田舎の叔父夫婦、年下の従姉妹と過ごすカタルーニャの夏を描いた自伝的人間ドラマ

「悲しみに、こんにちは」(原題:Estiu 1993、英題:Summer 1993)は、2017年公開のスペインのドラマ映画です。監督自身の幼少期の体験に基づき、カルラ・シモン監督・脚本、ライア・アルティガス、パウラ・ロブレスら出演で、病気で両親を亡くしたバルセロナの都会っ娘が、カタルーニャの田舎で自給自足の生活をする若い叔父夫婦と年下の従姉妹と共に過ごす夏を描いています。第32回ゴヤ賞で新人監督賞(カルラ・シモン)、助演男優賞(ダビド・ヴェルダグエル)、助演女優賞ブルーナ・クッシ)、第67回ベルリン国際映画祭で新人監督賞を受賞、第90回アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表に選出された作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:カルラ・シモン
脚本:カルラ・シモン
出演;ライア・アルティガス (フリダ、両親の亡くし若い叔父夫婦の下で暮らす少女)
   パウラ・ロブレス(アナ、フリダの年下の従姉妹)
   ダビド・ヴェルダグエル(エステバ、フリダの叔父)
   ブルーナ・クッシ(マルガ、フリダの叔母)
   フェルミ・レイザック(フリダの祖父)
   イザベル・ロカッティ(フルダの祖母)
   モンセ・サンズ(ロラ、フリダの叔母、低身長症)
   ベルタ・ピポ(アンジェラ、フリダの叔母)
   ほか

あらすじ

フリダ(ライア・アルティガス)は、荷物がダンボールに詰められるのを静かに見つめています。両親を病気で亡くし、一人になってしまった彼女は、バルセロナからカタルーニャの田舎へ引っ越し、若い叔父夫婦と共に暮らすことになります。叔父エステバ(ダビド・ヴェルダグエル)と叔母マルガ(ブルーナ・クッシ)、幼い従姉妹のアナ(パウラ・ロブレス)はフリダを新しい家族の一員として温かく迎え入れます。しかし、母親の闘病中、祖母たちに甘やかされて育てられた都会っ子のフリダは、田舎で自給自足の生活を送る叔父一家になかなか馴染むことができません・・・・。

レビュー・解説

監督自身の実体験に基づき、両親を亡くしたバルセロナの都会っ娘が田舎の叔父夫婦に引き取られ、年下の従姉妹とともに過ごすカタルーニャの夏をリアルに瑞々しく描いた、自伝的ヒューマン・ドラマ映画です。

 

両親を亡くした都会っ娘が、田舎の叔父夫婦、年下の従姉妹とともに過ごす夏

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巨大人形や頭の大きな人形が練り歩く聖体祭などカタルーニャの風物が満載

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幼くして両親を失うこと

私事で恐縮ですが、小学生の時、同級生の女の子がお母さんを病気で亡くしました。お母さんはシングルマザーだったので、女の子はひとりぼっちになってしまいました。幼くして両親を失うなんてとても耐えられない悲しさだと思いましたが、女の子は気丈にも葬儀に出席した友人に苦笑いして見せたと言います。母親の死以前に、彼女は健康で優しい両親や一家の団らんなど、同級生が当たり前のように享受している幸せの多くを、既に失っていました。じりじりとやって来る不幸に泣き叫ぶことはなくても、子供が両親を亡くすというのは間違いなく最悪の出来事であり、それが子供の心に落とす影には計り知れないものがあると思います。親戚に引き取られたのか、施設に入所したのか、彼女はそのまま登校することなく転校してしまい、その後の消息を聞くことはありませんでした。

 

もうひとり、小学の同級生に孤児の男の子がいました。彼とは別の同級生の家がちょっと羽振りの良い自営業だったのですが、彼はその家に引き取られることになりました。同級生が、同居する義兄弟になったわけですが、何ヶ月もしないうちに喧嘩でもしたのでしょうか、引き取った家の息子が全身を包帯でぐるぐる巻きしなければならないほどの大怪我をしました。孤児の男の子は施設に逆戻りになり、その後、二度と里親に恵まれることはありませんでした。日本の孤児に里親が見つかるのはとても幸運なケースですが、里親一家に迎えられる孤児も、迎える里親一家も一筋縄ではいかないものだと思った記憶があります。

 

もちろん、悪いことだけではありません。父の友人の娘さんが養女で、何回かお会いしてしたことがありますが、自分が養女であることを公言してはばからず、私は幸せだと、口癖のように繰り返していました。孤児、養子といっても各人各様と思いますが、プライベートなことでもあり、実際にその心理がどういうものなのかを実感する機会はほとんどありません。監督自身の実体験に基づいて孤児の心理体験をリアルに描く本作は、そういう意味では貴重な作品です。

事実に基づいたリアルな作品

監督・脚本のカルラ・シモンが自らの体験に基づく本作は、カタルーニャの田舎の叔母夫婦と従姉妹のもとに引き取られた、両親を亡くしたバルセロナの都会っ娘の心理体験をリアルにヴィヴィッドに描いた、自伝的なヒューマン・ドラマ映画です。大事件が起こるわけではありませんが、幼くして両親を失うということがどういうことなのか、養子として迎えられるということがどういうことなのか、とてもリアルに瑞々しく感じさせてくれる作品です。プロットは、

  • 両親を病気で亡くしたこと
  • 両親が闘病中はバルセロナの祖父母や叔母が面倒を見てくれたこと
  • 母の遺言でカタルーニャの田舎の叔父夫婦、従姉妹と暮らすことになったこと
  • 叔父夫婦の家から家出を企てたこと

と、カルラ・シモン監督が実際に経験したことに基づいており、脚本も緻密に書かれています。スペイン映画としては薄口ですが、徹底的に子供たちや里親の心情に寄り添った描写はスペイン映画ならではです。

ヴィヴィッドで瑞々しい演出

ヴィヴィッドで瑞々しい本作の秘密は、緻密な脚本に加えて子役たちのキャスティングやカルラ・シモン監督の女性らしい観察の行き届いた演出にあります。アナ役のパウラ・ロブレスはバルセロナの郊外の出身ですが、田舎をよく訪れており田舎に慣れた子供で、お兄さんたちが一緒に遊んでくれたり、よく褒められたりと、素直で育ちの良い、愛情をたっぷりと注がれている子供です。一方、フリダ役のライア・アルティガスは家族構成が複雑で、あまり一般的ではない環境で育っており、愛に飢えた面があるのか、撮影中も年長のライアが年少のアナに嫉妬するような一幕がありました。そういった生い立ちの異なる二人の関係性が、本作にそのまま生かされています。おむつがとれて間もないような無垢で可愛らしいパウラと、愛に飢えて嫉妬が交錯する複雑なライアが好対照で、映画的にお互いを引き立てています。

 

子どもたちが物語を理解することよりも、子ども同士の関係や周囲の大人たちとの関係が重要だと気づいたカルラ・シモン監督は、一緒に買い物に行ったり、料理を作ったり、遊んだりといった日常的なことに時間をかけ、さらに撮影する前に撮影シーンの3〜4時間前の出来事を即興で演じてもらうなど、撮影の準備段階にたっぷりと時間をかけています。これは、大人の俳優たちと共に過ごすことで本当の家族のように感じてもらい、家族のような関係性を作り、脚本通りの家族構成に見せる為です。本番は比較的自由に伸び伸びと演技させ、セリフも子どもたちが言いやすいように話したり、遊びのシーンでは自由に演じてもらったり、彼女らが自然におしゃべりしたりするのを、ハンディカメラで子供の目の高さから撮影しています。しっかりとした脚本、キャスティングに加え、このように準備に重きを置いたナチュラルで辛抱強い演出が功を奏し、まさにバルセロナの孤児がカタルーニャの田舎の叔母夫婦と従姉妹のもとに引き取られてくるときっとこうなるに違いないと感じさせます。素晴らしくリアルで瑞々しい作品に仕上がっており、それがそのまま本作最大の見どころとなっています。

 

ライア・アルティガス (フリダ、両親の亡くし若い叔父夫婦の下で暮らす少女)

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パウラ・ロブレス(アナ、フリダの従姉妹)

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ダビド・ヴェルダグエル(右、エステバ、フリダの叔父) 

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ブルーナ・クッシ(左、マルガ、フリダの叔母)

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余談:里親になるということ

亡き母の遺言により血縁のある叔父夫婦に引きとられ、従姉妹と別け隔てなく育てられた本作のフリダのケース(実際のカルラ・シモン監督のケース)は、大家族制度の名残が残るスペインならではの幸運なケースと思われます。実は本作のサウンドトラックはカルラ・シモン監督の義理の弟(アナの実の弟)が作曲しており、また、フリダの叔母アンジェラ役をカルラ・シモン監督の義理の妹(アナの実の妹)が演じているなど、今も家族として良い関係が続いています。

 

日本ではなかなかこうはいかないかもしれません。私の従姉妹夫婦が亡くなりましたが、夫婦の両親が既に亡くなっていたこと、親戚と疎遠だったこともあってか、夫婦の幼い娘を血縁者が引き取ることもなく、娘は施設に入りました。欧米諸国では孤児の過半数が里親のもとで育つのに対し、日本では里親1に対して施設9とかなり施設偏重となっています。近年、

  • 社会参加、自己実現と育児の両立は容易ではない
  • 収入格差が広がる中、費用のかさむ育児は容易ではない

という傾向が強まる日本では、里親になって他人の子供を育てるなんてとんでもないことなのかもしれません。種の保存という人類にとって重要な仕事であるにも関わらず、育児は社会参加や自己実現に対して不当に蔑まれているような気がします。そんな日本でも、里子ひとりに対して月数万円の補助が出て、他に教育費や医療費も支給される制度ができました。施設に押し付けるのではなく、実子、養子に関わらず、一般市民が育児の労をとることは、社会が持続可能である為の尊い行いであるという認識が、是非とも広がって欲しいものです。

撮影地(グーグルマップ)

 

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