夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

【閑話休題】最近、観た邦画と雑感

本ブログでは洋画のみを扱っていますが、筆者はほとんど邦画を観ることはありません。もともとは、といっても10年以上前ですが、洋画、邦画、半々くらいの比率で見ていました。しかし、邦画を観た後にがっかりすることが多く、自然に手が出なくなったというのが真相です。洋画偏重になった理由を自分なりに整理すると、

  • 洋画の方が選択の幅が広く、質の高い作品に出会いやすい
  • 洋画には言葉、地理、文化など未知の要素が大きく、非日常的な体験を得やすい
  • 題材が身近な邦画は良くも悪しくも生々しく、また粗も見えやすい

といったあたりですが、質の良い邦画は少なからずあり、一切の邦画を拒絶しているわけではありません。ネットで話題作をチェックしたり、テレビで放映された作品を少しづつ録画したりしています。なかなか観る時間を取れないのですが、最近、録りためた何本かを観たので、普段、洋画を観ている目で、雑感を書き留めてみました。

 

最近見た邦画

 

ちはやふる」シリーズの広瀬すず(左)と松岡茉優(右)

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目次

世界を魅了した宮崎駿のパワフルな作品

洋画を観ている目で、となりのトトロ(1988年)、もののけ姫(1997年)、崖の上のポニョ(2008年)といった宮崎駿作品を観てみると、日本に特有なものを題材に自然や人間を超えるものへの畏敬の念が描きこまれた、圧倒的に美しく壮大な世界観が彼の最大の魅力であるように思われます。東西で宮崎駿とよく並び称させるジョン・ラセターピクサー・アニメ*1では15人の脚本家が書いたシナリオがバランスよく統合されているのに対して、宮崎駿の作品はワンマンな思い入れが押し込まれがちで、ストーリー展開のリズムがいまいちなものが少なくありません。しかしながら、日本に特有なものを描きながら独特の表現で世界の観客を魅了した彼のパワーには鬼気迫るものを感じます。もののけ姫(1997年)以降、彼は何度も引退を口にしましたが、逆に言うと、彼はそれだけ作品作りにエネルギーを注ぎ込まねばならなかったということでしょう。

 

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となりのトトロ(1988年)

もののけ姫(1997年)

崖の上のポニョ(2008年)

 

風立ちぬ」(2013年)を最後に、長編アニメからの引退を表明した宮崎駿監督ですが、「君たちはどう生きるか」という冒険活劇ファンタジー・アニメにふたたび取り組んでいる模様です。来年以降の公開になりそうですが、楽しみです。

日本アニメの層の厚さを感じさせる「君の名は。

新海誠監督に「君の名は。」(2016年)は、筒井康隆原作の「時をかける少女」を彷彿とさせる爽やかでロマンティックなSFアニメ映画で、非常に完成度が高い作品です。正直、日本的なアニメ表現をベースに洗練された質の高さには舌を巻いてしまいました。世界125の国と地域で配給され、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」(2001年)を抜いて、日本映画史上最高の世界興行収入を記録するなど、世界的な評価も高い作品です。

 

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宮崎駿作品の流れの一部は、ジブリで数多くの昨品を手がけ、自らも「借りぐらしのアリエッティ」(2010年)、「思い出のマーニー」(2014年)、「メアリと魔女の花」(2017年) の監督を務めた米林宏昌が引き継いでいくものと思われますが、ジブリ宮崎駿と双璧を成した故高畑勲監督は別格としても、本作の新海誠監督、「バケモノの子」(2015年)、「未来のミライ」(2018年)の細田守監督と、世界に通用する監督を何人も輩出する日本のアニメ映画界の層の厚さには心強いものがあります。男尊女卑が根強く残るこの業界ですが、「聲の形」(2016年)や「リズと青い鳥」(2018年)で若くして頭角を現している山田尚子監督にも注目したいところです。

卒なくまとめられた是枝裕和監督の「海街diary

海街diary」(2015年)は吉田秋生による同名の漫画を映画化した作品です。綾瀬はるか長澤まさみ夏帆とキャラを立てた経験豊富な先輩女優とともに、公開時17歳、新進の広瀬すずが四人姉妹の末っ子を演じ、数多くの映画賞で新人賞を総なめにした作品で、やはり広瀬すずの活躍ぶりに目が行きます。原作漫画を気に入った是枝裕和監督が、自ら脚本を書いて映画化した作品で、鎌倉を舞台に四姉妹を卒なく描いていますが、綾瀬はるか長澤まさみ夏帆のキャラの立て方に対して、広瀬すずナチュラルな一方、母親役の大竹しのぶのキャラが無駄に濃い印象が否めません。

 

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姉妹ものとしては三姉妹と父親を描いたアン・リー監督の「恋人たちの食卓」(1995年)*2の方が統一感、凝縮感が感じられ、個人的にはより好みです。もっとも、このあたりのバランスのとり方は様々でしょうし、是枝裕和監督は「万引き家族」(2018年)でカンヌ映画祭の最高賞パルム・ドールを受賞するほどの実力派監督です。これ以前にも、

など、世界的に評価の高い作品を数多く手がけており、どこまで世界を魅了できるか、さらなる活躍が楽しみです。

広瀬すずの魅力をフルに引き出す「ちはやふる」シリーズ

ちはやふる」シリーズは、末次由紀による日本の少女漫画の映画化作品ですが、何よりも日本古来の文化であるかるたを題材にしている点に好感が持てます。「タイヨウのうた」(2006年)を手がけた小泉徳宏が監督を務めており、主役の広瀬すずのキャラを反映するかのように明るく華やかで生き生きとしたトーンが ‐上の句‐(2016年)、‐下の句‐(2016年)、‐結び-(2018年)の3編にわたって一貫、演出のコントロールが行き届いている印象です。小泉徳宏監督は、主演の広瀬すずの魅力をフルに引き出すだけではなく、‐下の句‐で は松岡茉優の魅力をも再開発、若手俳優の魅力を活かす演出が際立っています。

 

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ちはやふる‐上の句‐(2016年)
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ちはやふる‐下の句‐(2016年)

ちはやふる‐結び-(2018年)

 

事務所からの独立騒動で起用できなかった能年玲奈に代わって主役に抜擢された広瀬すずですが、現役高校生(当時)とは思えないほどの素晴らしいパフォーマンスを見せ、降って湧いたチャンスをものにしたというよりは、成功すべくして成功したという印象です。その後もNHK連続テレビ小説なつぞら」でヒロインを務めるなど、着実にキャリアを積んでいますが、若くしてここまで成功してしまうと日本に閉じこもっていたのでは伸びしろが限られてしまうような気がします。広瀬すず是枝裕和監督の「海街diary」、「三度目の殺人」に、松岡茉優も同監督の「万引き家族」に出演していますが、是非とも是枝監督同様、世界に通用する女優に育って欲しいと思います。

 

なお、本作は「ピッチ・パーフェクト」(2012年)*3とその続編に比較してみても面白いのではないかと思います。かたや漫画を原作に高校生チームのかるた選手権を、かたや実録本を原作に大学生チームのアカペラ選手権を題材に、いずれ若者のニッチな文化の取り組みを描いています。また、主演女優の広瀬すずアナ・ケンドリックの経歴や芸域などを比較してみても面白いのではないかと思います。

3.11をなぞり、老若男女が楽しめるように作り込まれた力作「シン・ゴジラ」

3.11の津波被害や福島原発事故をなぞりながら、縦割りの官僚制度や大臣、政治家や官僚たち、世界の中での日本といったものをリアルに描く力作で、老若男女が楽しめるように作り込まれた力作です。

 

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巨大化したゴジラがレーザー光線を放射するシーンは実に美しく感動的ですが、ちょっと残念なのは、

  • 会議など屋内のシーンがリアリティを追求しているのに対して、ゴジラの登場するシーンや災害シーンの多くに作り物感が否めず、ちぐはぐ感がある
  • 石原さとみは非常に綺麗な英語を話しているが、日系アメリカ人という設定を印象づけるには実際のネイティブを起用するか、さもなくば設定を変えた方が良い

などと言った点です。ゴジラの登場するシーンや災害シーンの多くに作り物感が否めないのは、フルCGでリアルに描くには予算が十分ではなかった為と思われますが、いずれにせよ、全体のコントロールが十分行き届けば、より完成度を高めることができると思われます。

長回しを題材に誰でも興味を持つ部分を突いた「カメラを止めるな!」

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)、「ヴィクトリア」(2015年)など、全編をワンカットの長回しで捉えた作品が話題になりましたが(「バードマン」は擬似的な長回し)、本作はそんな長回しを題材にした作品です。誰でも興味を持つ部分を巧みに突いた作品で「ショーン・オブ・ザ・デッド」(2004年)*4の後を追うゾンビ・コメディとも言え、海外での評価もなかなかのようです。

 

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低予算でここまで見せるの作品はそうそうありませんが、難点は本作の魅力がアイディアに大きく依存してしまっている点です。また、そのアイディアもパクリだという告発があったり、また監督や出演者の本作を足がかかりにした将来の発展が見えにくいなどという点が残念です。例えば前述の「ショーン・オブ・ザ・デッド」(2004年)を手がけたエドガー・ライト監督は、出演者のサイモン・ペグ、ニック・フロストを主演に据えた「ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!- 」(2007年)、「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う! 」(2013年)を続けてヒットさせ(コルネット三部作と言われるが、設定は全く異なり続編ではない)、また、サイモン・ペグに至っては、「ミッション・インポッシブル」シリーズ、「スター・トレックシリーズ」、「スター・ウォーズ」シリーズのすべてに出演するなど、大躍進を遂げました。ちょっと酷な言い方になりますが、本作に関してはそうした発展性、成長性を感じさせるものがあまりなく、同じアイディアをより魅力的に見せることができる監督や出演者は少なくない気がします。

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