「ボストン ストロング〜ダメな僕だから英雄になれた〜」:強いボストンの象徴となる爆破テロ被害者と家族をビビッドに描いた人間ドラマ
「ボストン ストロング 〜ダメな僕だから英雄になれた〜」(原題: Stronger)は、2017年公開のアメリカの伝記映画です。2013年4月15日に起きたボストン・マラソンの会場で爆破テロに遭い、両脚を切断する悲劇に見舞われたジェフ・ボーマンとブレット・ウィッターによる回顧録「Stronger」を原作に、デヴィッド・ゴードン・グリーン監督、ジェイク・ジレンホール、 タチアナ・マスラニーら出演で、家族や恋人、友人らに支えられながら、両足を失った主人公が自分を取り戻していく姿をリアルに描いています。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン
脚本:ジョン・ポローノ
原作:ジェフ・ボーマン/ブレット・ウィッター著「Stronger」
出演:ジェイク・ジレンホール(ジェフ・ボーマン、爆破テロに遭い両足を失う)
タチアナ・マスラニー(エリン・ハーリー、ジェフの恋人)
ミランダ・リチャードソン(パティ・ボーマン、ジェフの母)
クランシー・ブラウン(ジェフ・ボーマン・シニア、ジェフの父)
カルロス・サンス(カルロス)
リチャード・レイン・Jr(サリー)
フランキー・ショウ(ゲイル・ハーリー、エリンの妹)
ジミー・レブランク(ラリー)
パティ・オニール(ジェンおばさん)
ダニー・マッカーシー(ケヴィン)
ほか
あらすじ
2013年4月、ボストンで暮らすジェフ・ボーマン(ジェイク・ジレンホール)は、元カノのエリン(タチアナ・マスラニー)の愛情を取り戻すため、彼女が出場するマラソン会場に応援に駆け付けます。挙動不審な男を目撃したその直後に、ジェフは爆発に巻き込まれ、両足を失う重傷を負います。意識を取り戻した彼は、意思の疎通が困難な状況にあったにもかかわらず、テロリストの風貌を警察に伝えます。4日後にテロ事件の犯人は逮捕され、全米がジェフの勇気を称賛しますが、ジェフは両足を失ったという現実に直面にしていました。やがて彼はリハビリを開始しますが、それは義足を使って歩き方を一から学び直す、長い道のりの始まりでした・・・。
レビュー・解説
爆破テロで両足を失った被害者の自伝に基づき、テロに負けない強いボストンの象徴という新たな役割をトラウマと戦いながら受け入れていく主人公とその家族を生々しく描いた、感動的なヒューマン・ドラマ映画です。
爆破テロで両足を失った被害者の自伝に基づく感動的ヒューマン・ドラマ
テロ事件の枠を超えて普遍的な共感を誘う後日談
テロ事件の被害者が障害を克服する過程を描いた英雄伝かと思いきや、なかなか深い味わいのある感動的なヒューマン・ドラマでした。同じくボストン・マラソン爆破テロ事件を暑かった作品に「パトリオット・デイ」(2016年)がありますが、もし事件そのものを追いたいのであるならば、そちらの方を観た方が良いでしょう。多くの日本人にとってテロは日常から縁遠い存在ですが、テロに限らず、病気、事故など、様々な不運や不幸は誰にとっても身近なもので、例え、今は順風満帆でも、いつどんな不運や不幸に遭遇するかわからないのが我々の人生でもあります。爆破テロ事件そのものというよりはその後日談を扱う本作は、事件に巻き込まれた、どこにでもいそうな市井の人々をヴィヴィドに描きながら、他の様々な不運・不幸に見舞われた人々と緩く関連づけることにより裾野を広げ、深みのある、テロ事件の枠を超えて普遍的な共感を誘う作品に仕上がっています。
受け身な主人公と二人の強い女性によるユニークな構成
原題はシンプルな「Stronger」ですが、邦題は「ボストン ストロング 〜ダメな僕だから英雄になれた〜」と非常にサービス精神が旺盛です。「ダメな僕」と言い切ってしまうのもどうかと思うのですが、主人公のジェフはどちらかと言うと受動的な人間で、ヒロイックな性格でもありません。ストーリーもジェフの母親のパティと恋人のエリンという、二人の強い女性がぐいぐいとジェフを引っ張っていくという、英雄伝にはありえないようなユニークな展開です。ジェイク・ジレンホールというと濃い役を演じることが多いのですが、本作では受け身のジェフというやや薄口な役を演じながらも、じわりと感動を生む渋いパフォーマンスを見せています。一方、彼に強い影響を与えるジェフの母パティを演じるミランダ・リチャードソンは、無学だけれど前向きないかにも労働者階級のお母さんを巧みに演じ、同様、彼に強い影響を与える恋人エリンを演じるタチアナ・マスラニーは、いかにも隣のお姉さんといった庶民的な息づかいを感じさせる好演で、さらに女性同士のちょっとした軋轢もあったりと手の込んだ展開を見せます。
不完全な登場人物たちが成長しながら自分を取り戻す深みのある展開
アメリカや最近の日本では受動的な姿勢というのはあまり評価されないようですが、これが良くないことかと言うと、必ずしもそうではありません。事件の報道で有名人となったジェフはヒーローに祭り上げられますが、彼はそれを拒否したり、或いは天狗になったりすることがありません。事件のトラウマに苛まれながらも様々なイベントに対応していくうちに、彼は自分は単なる事件の被害者ではなく、様々な不運・不幸を背負う人々に勇気を与えるという役割を担っていることに気づき、それを受け入れていきます。受け身であるが故に新たな自分の社会的な役割を素直に受け入れていくことができたというのが、邦題のサブタイトルの「〜ダメな僕だから英雄になれた〜」が意味するところです(本当に「ダメな僕」なのかどうかは別としても)。背負った不幸を愛と勇気で乗り越えるのはありがちな話ですが、受け身な主人公や不完全な登場人物たちが他の不運・不幸な人々の存在に気づき、成長しながら自分を取り戻していくという深みのある展開が本作の特徴で、見る人に新鮮で普遍的な感動をもたらします。
ボストンらしさを生かしたリアリティに溢れる作品
本作の魅力のひとつが、ドキュメンタリーのようなリアリティです。ジェフ・ボーマン自身による自伝が原作で、さらにボストン魂の気骨と皮肉がわかるニューイングランド生まれのジョン・ポローノが労働者階級のライフスタイルを正しく脚本に反映、独特の雰囲気を歪曲することなく表現しています。さらに、有名なボストンのコメディアン、レニー・クラーク、パティ・オニール、ダニー・マッカーシーなど地元俳優が多数出演、また、医師、看護師、理学療法士、義肢装具士には、実際にジェフを担当した本人に出演してもらい、彼らがいつも話すように話してもらっています。撮影もボストンで行われ、エキストラもほとんどを地元の人から起用しています。ジェフらが暮らす小さな部屋の撮影では、機材やスタッフが入り切らない為、多少、暗くても撮影できるARRI ALEXAを使用し、外から窓越しにライトを当てたりしながら、リアリティを出しています。また、中盤、ジェフがアイスホッケーの試合に応援に駆けつけるシーンでは、公式戦の後に5000人のファンにエキストラとして残ってもらい、臨場感溢れる撮影が行われています。
ジェイク・ジレンホール(ジェフ・ボーマン、爆破テロに遭い両足を失う)
ジェイク・ジレンホール(1980年〜)は、ロス・アンジェルス出身のアメリカの俳優。父親はスウェーデン系の映画監督、母親はユダヤ系の脚本家、姉は女優。1991年、子役として映画デビュー、「遠い空の向こうに」(1999年)で映画初主演を果たし、高い評価を得、「ドニー・ダーコ」(2001年)でも主人公ドニーを演じ、注目を浴びる。「ブロークバック・マウンテン」(2005年)で、アカデミー助演男優賞にノミネートされている。
タチアナ・マスラニー(エリン・ハーリー、ジェフのガールフレンド)
タチアナ・マスラニー(1985年〜)はカナダの女優。TVシリーズ「オーファン・ブラック 暴走遺伝子」(2013〜2017年)の主役でもよく知られている。同じ顔をもつ人物が世界中に多数いるという設定で、彼女は母国語や階級階層等が異なる登場人物など多数の役を同時に演じ、2016年にエミー賞を受賞している。1995年、ミュージカル「オリバー!」で舞台デビュー、高校卒業後、即興演劇で頭角を現す。2004年に映画デビュー、「ウルフマン リターンズ」(2004年)、「イースタン・プロミス」(2007年)、「Picture Day」(2012年)、「ホワイト・ラバーズ」(2016年)などに出演している。
ミランダ・リチャードソン(中央、パティ・ボーマン、ジェフの母)
ミランダ・リチャードソン(1958年〜)は、イギリスの女優。「クライング・ゲーム」(1992年)、「スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする」(2002年)、「めぐりあう時間たち」(2002年)、「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」(2005年)、「パリ、ジュテーム」(2006年)、「ファクトリー・ウーマン 」(2010年)、「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」(2011年)、「ベル~ある伯爵令嬢の恋~」(2013年)、「戦場からのラブレター」(2014年)などに出演している。
カルロス・サンス(右、カルロス)
カルロス・サンスは、アメリカの俳優。「アドレナリン」(2006年)の悪役で良く知られる。
サウンドトラック
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1. ジェフの日常 2. ゴールで待つよ 3. ボストンマラソン当日 4. 爆発 5. 時が止まった瞬間 6. 失われた両脚 7. “爆破犯を見た” 8. 脚の上に座ってる 9. 包帯の交換 10. 退院の日 11. 帰っていいよ 12. 義足 |
13. 君なしでできる自信がない 14. アイスホッケーの試合 15. 痛む? 16. 寄りかかってほしい 17. リハビリテーション 18. 何処かへ 19. 再び立ち上がるために 20. カルロスとの再会 21. 始球式を終えて 22. コンセッション・コンフェッション 23. またね、パティ |
撮影地(グーグル・マップ)
- 爆発のあったボストン・マラソンのゴール付近
手前で1回目の爆発、1ブロックほど先で2回目の爆発があった。 - レナード・P・ザキム・バンカーヒル記念橋
ボストンのシンボル的な橋で、「イコライザー」(2014年)などボストンを舞台にした映画にしばしば登場する。 - ジェフが運び込まれた病院
現在は閉鎖されている病院の内部を使用して撮影された。 - ジェフが応援に駆り出されたスケートリンク
ボストンを本拠としているナショナルホッケーリーグのプロアイスホッケーチーム「ボストン・ブルーインズ」のホームリンク。 - ジェフが通うリハビリセンター(内部)
ジェフが実際にリハビリに通った Spaulding Rehabilitation Hospital Bostonで撮影されている。 - ジェフが応援に駆り出された球場(フェンウェイ・パーク)
フェンウェイパーク球場。ボストンの代名詞レッドソックスのホームグランド。
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関連作品
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ボストン・マラソン爆破テロ事件を題材にした映画のDVD(Amazon)
「パトリオット・デイ」(2017年)
デヴィッド・ゴードン・グリーン監督・脚本作品のDVD(Amazon)
「George Washington」(2000年)監督・脚本・製作、輸入版、Region 1、日本語なし
「ハロウィン」(2018年)監督
「遠い空の向こうに」(1999年)
「ドニー・ダーコ」(2001年)
「ブロークバック・マウンテン」(2005年)
「ミッション:8ミニッツ」(2011年)
「エンド・オブ・ウォッチ」(2012年)
「プリズナーズ」(2013年)
「ナイトクローラー」(2015年)
「イースタン・プロミス」(2007年)
「Picture Day」(2012年)、輸入盤、日本語なし