「リトルプリンス 星の王子さまと私」(原題:The Little Prince、仏題:Le Petit Prince)は、2015年公開のフランス・イタリア合作のファンタジー・アニメーション映画です。世界的なベストセラーとなっているアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの名作小説「星の王子さま」原作に、砂漠に不時着し、小さな星からやってきた小さな王子と出会った飛行士の後日談を、マーク・オズボーン監督が9歳の少女の目を通して描いています。
目次
スタッフ・キャスト
監督:マーク・オズボーン
脚本:イリーナ・ブリヌル/ボブ・パーシケッティ
原作:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「星の王子さま」
出演:ジェフ・ブリッジス(飛行士)
マッケンジー・フォイ(女の子)
レイチェル・マクアダムス(お母さん)
ジェームズ・フランコ(キツネ)
ベニチオ・デル・トロ(ヘビ)
マリオン・コティヤール(バラ)
ポール・ジアマッティ(アカデミーの教師)
アルバート・ブルックス(ビジネスマン)
リッキー・ジャーヴェイス(うぬぼれ男)
バッド・コート(王様)
ライリー・オズボーン(星の王子)
ポール・ラッド(ミスター・プリンス)
ほか
あらすじ
- 9歳の女の子(声:マッケンジー・フォイ)が、教育熱心な母親(声:レイチェル・マクアダムス)とともに名門校の学区内に引っ越してきます。入学試験に合格する為に、女の子は母親から与えられた厳しいスケジュールに従い、夏の間中、友だち遊ぶこともなく一生懸命勉強に励みます。
- そんな中、壊れた飛行機を修理したり夜空を望遠鏡を眺めたりする隣家の老人(声:ジェフ・ブリッジス)が気になった女の子は、母親の目を盗んで老人と会うようになります。老人は、かつて飛行士だった頃に不時着した砂漠で出会った「星の王子さま」(声:ライリー・オズボーン)の話を女の子にします。
- 女の子はその物語に夢中になり、老飛行士と仲良くなり、それを快く思わない母親に叱られてしまいます。それでも女の子は物語の続きを聞く為に、こっそりと老飛行士に会いに行きますが、やがて少年の物語の悲しい結末を知り、困惑してしまいます。
- 夏の終わりが近付いたある日、老飛行士は病気で倒れ、入院してしまいます。その夜、女の子は意を決し、老飛行士がいつかまた会いたいと言っていた王子さまを探す為に、オンボロの飛行機に乗って飛び立ちます・・・。
レビュー・解説
フランスの名作ファンタジー小説「星の王子さま」の後日談で、CGアニメで描いた現実世界とストップモーション・アニメで描いた原作の世界をシームレスにつなぎ合わせ、原作の精神を見事に再現した、大人も子供も楽しめるスリリングかつ繊細で心癒されるアニメ映画です。
原作が有名小説とあって、読んだことがある人も少なくないと思います。その昔に読んだ私は、本作にも登場するウワバミのエピソードが印象深かったことと、飛行士でもあった原作者のサン=テグジュペリに想いを馳せたことを思い出しました。本作は後日談ですが、原作から受けたイメージが現在のことのように蘇りました。星の王子さまのアートワークや、サン=テグジュペリや物語の飛行士が乗った複葉機を部屋に飾り、甦ったイメージにたびたび浸りたい、思わずそんな気にさせる作品です。
名作小説の後日談
原作の「星の王子さま」は、フランスの飛行士で小説家でもあるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリのファンタジー小説です。1943年にアメリカで初版が出版され、全世界200以上の国々と地域の言葉に翻訳され、累計販売数が一億冊を越えるベストセラーであり、超ロングセラーです。サン=テグジュペリは1935年にリビア砂漠で飛行機の墜落事故を経験しており、原作小説はこの時の体験をもとに書かれたものと考えられていますが、原作に登場する飛行士が最後にどうなったかははっきりと書かれていません。本作はその後日談として老人となった飛行士が「星の王子さま」に出会ったことを女の子に話して聞かせるという展開になっています。原作は児童文学の体裁をとりながらも、大人の愚かさの風刺、友情や愛情、別れと永遠の想いに関するエピソードなど、子供の心を失ってしまった大人に向けたメッセージに溢れています。また、原作者自身による素朴な主人公やキャラクターたちの挿絵も人々に長く愛されており、本作でもその雰囲気がフルに生かされています。
原作を生かしながら現実世界とシームレスに繋ぐ
小説「星の王子さま」は小さいが奥深いエピソードがたくさん登場する詩的な作品で、感動する部分や解釈は読む人によって様々です。学生時代に遠距離恋愛中だった現在の奥さんからこの小説をプレゼントされたというオズボーンが監督にとってもこの小説は思い入れのあるものでしたが、人々が原作に抱いている様々イメージを壊すことなく映画として統一的に描くことが難しく、彼は一度、監督を辞退しました。しかし、映画の現実世界に原作を登場させ、原作の精神や世界観を現実世界に反映させた映画を制作をすれば良いことにその後、気がつき、監督を引き受けたと言います。
本作では、現実世界をCGアニメで、原作の世界をストップモーション・アニメでと、異なる技術で描き分けています。これは、映画としての独自の解釈を、人々が原作に抱いている様々なイメージを損なうことなく成立させる上で、非常に重要な役割を果たしています。オズボーン監督は、卒業制作でストップモーション・アニメと手書きアニメの融合に取り組んでおり、その後もオスカーにノミネートされた短編アニメ「More」(1998年)では白黒映像とカラー映像、大ヒット作では「カンフー・パンダ」(2008年)では墨絵風アニメのイントロとCGの本編と、異なるテクニックを効果的に組み合わせることを得意としています。そういう意味では、本作はオズボーン監督だから実現できた作品と言えます。なお、CGアニメからストップモーション・アニメに急に切り替わると違和感が出やすいのですが、本作では紙を媒介にして現実世界から原作の世界にシームレスに切り替えるという巧みな演出がなされています。
CGアニメの現実世界で絵本を読む
→ページの上に飛行機が現れる
→飛行機が雲の中に飛び込んでいく
→原作の世界(ペーパークラフトによるストップモーション・アニメ)に不時着する
同じくフランス映画の「美女と野獣」(2014年)で、母親が子供に「美女と野獣」の絵本を読み聞かせる現実世界から、「美女と野獣」の物語の世界に切り替わる際に、絵本の挿絵から物語の動画にモーフィングするという類似の演出がありました。「星の王子さま」も「美女と野獣」もフランスが世界に誇る名作物語ですが、いずれも原作の存在を感じさせる心憎い演出です。
マジック・スーツケースで関係者を巻き込む
2010年、オズボーン監督はアーティストと脚本家で小さなチームを作り、コンセプト・アートと脚本の初稿を作ります。その後、彼は家族とパリに渡り、制作準備に入ります。ストーリーボード作家、ライティングと質感を作り上げるアーティスト、キャラクター・デザイナー、製作工程管理の専門家からなるチームを作って、映画の実現プロセスが動き始めます。作品のトーンや想いを伝える為の手作りのアートワークを詰め込んだマジック・スーツケースがここから大活躍、アーティストやクリエーターのみならず、世界中の映画配給会社や出資者を巻き込む為に、4年間に400回も使用されました。また、本作はフランスの制作会社によりフランスで制作されましたが、最初に英語で脚本が書かれ、英語で演出、吹き込みを行い、後にフランス語版を制作するという、当初からグローバルな展開が強く意識された制作プロセスとなっています。
手作りのアートワークとマジック・スーツケース
手前右から星の王子、女の子、飛行士、キツネ。背後に見えるのがマジック・スーツケース。
Had a lovely chat with @happyproduct about Little Prince. He showed me the magic suitcase he used to pitch the film! pic.twitter.com/LvUOfrq1wB
— Emily Rome (@EmilyNRome) July 28, 2016
驚きのキャスティング
制作の早い段階では、オズボーン監督の娘と息子が暫定的に女の子と王子の声を吹き込みました。その後、娘が変声期に入ったこともあり、女の子の声は当時12歳だったマッケンジー・フォイに切り替わりました。しかし、当時11歳だったオズボーン監督の息子の声はとてもナチュラルだった為、そのまま王子の声に採用されています。その他の声優陣はさらに驚きで、七人ものオスカー級俳優が出演しています。有名な原作と、マジック・スーツケースを活用して周囲を巻き込んでいったオズボーン監督の熱意で実現した夢のようなオールスター・キャスティングです。
- ジェフ・ブリッジス(飛行士役):「クレイジー・ハート」(2009年)で主演男優賞受賞
- ベニチオ・デル・トロ(ヘビ役):「トラフィック」(2000年)で助演男優賞受賞
- マリオン・コティヤール(バラ役):「エディット・ピアフ 愛の讃歌」(2007年)で主演女優賞受賞
- レイチェル・マクアダムス(お母さん役):「スポットライト 世紀のスクープ」(2015年)で助演女優賞候補
- ジェームズ・フランコ(キツネ役):「127時間」(2010年)で主演男優賞候補
- ポール・ジアマッティ(学園の教師役):「シンデレラマン」(2005年)でアカデミー助演男優賞候補
- アルバート・ブルックス(ビジネスマン役):「ブロードキャスト・ニュース」(1987年)で助演男優賞候補
飛行士(声:ジェフ・ブリッジス)
女の子(声:マッケンジー・フォイ)
お母さん(左、声:レイチェル・マクアダムス)
キツネ(左、声:ジェームズ・フランコ)
ヘビ(左、声:ベニチオ・デル・トロ)
バラ(右、声:マリオン・コティヤール)
アカデミーの教師(左、声:ポール・ジアマッティ)
ビジネスマン(左、声:アルバート・ブルックス)
うぬぼれ男(声:リッキー・ジャーヴェイス)
王様(右、声:バッド・コート)
星の王子(ライリー・オズボーン)
ミスター・プリンス(ポール・ラッド)
動画クリップ(YouTube)
関連作品
「リトルプリンス 星の王子さまと私」の原作本(Amazon)
マーク・オズボーン監督作品のDVD(Amazon)
「カンフー・パンダ」(2008年)
おすすめストップモーション・アニメーション映画のDVD(Amazon)
「ファンタスティック・プラネット」(1973年)
「The Adventures of Mark Twain」(1985年):輸入版、日本語なし
「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」(1993年)
「ジャイアント・ピーチ」(1996年)
「チキンラン」(2000年)
「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」(2005年)
「ティム・バートンのコープスブライド」 (2005年)
「A Town Called Panic」(2009年):輸入版、リージョン1,日本語なし
「コララインとボタンの魔女」(2009年)
「ファンタスティック Mr.FOX」 (2009年)
「フランケンウィニー」(2012年)
「パラノーマン ブライス・ホローの謎」(2012年)
「ザ・パイレーツ! バンド・オブ・ミスフィッツ」(2012年)
「LEGO ムービー」(2014年)
「ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム」(2015年)
「KUBO クボ 二本の弦の秘密」(2016年)
「ぼくの名前はズッキーニ」(2017年)
「犬ヶ島」(2018年)