夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「フラメンコ・フラメンコ」:フラメンコの息吹をダイナミックに描く、フラメンコを撮り続けたカルロス・サウラ監督の集大成的傑作

「フラメンコ・フラメンコ」は、2010年公開のスペインのドキュメンタリー映画です。スペイン映画界を代表する存在でもあり、フラメンコやスペインの伝統的舞踊を題材にした作品を数多く手がけた巨匠カルロス・サウラ監督が、現在のフラメンコ界を牽引する若いアーティスト、新世代の才能あふれるダンサー、歌手、ギタリストたちの姿を、「フラメンコ」(1995年)に登場した大御所たちとともに捉えています。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:カルロス・サウラ
脚本:カルロス・サウラ
撮影:ビットリオ・ストラーロ
音楽:イシドロ・ムニョス
出演:サラ・バラス
   パコ・デ・ルシア
   マノロ・サンルーカル
   ホセ・メルセー
   ミゲル・ポベダ
   エストレージャ・モレンテ
   イスラエル・ガルバン
   エバ・ジェルバブエナ
   ファルキート
   ニーニャ・パストーリ
   ほか

あらすじ

フラメンコはスペイン・アンダルシア地方に伝わるダイナミックで情熱的な民俗芸術で、歌(カンテ)、踊り(バイレ)、ギター(トケ)などの伴奏から構成されます。本作では、パコ・デ・ルシア、マノロ・サンルーカル、ホセ・メルセーら、フラメンコ界の名匠たちが、サラ・バラス、エストレージャ・モレンテ、ミゲル・ポベダ、イスラエル・ガルバン、エバ・ジェルバブエナ、ファルキート、ニーニャ・パストーリなどの新世代のアーティストたちとともに、華麗なフラメンコの世界を繰り広げます。人の誕生から晩年、そして蘇生までの「生命の旅と光」を、多彩なパロ(曲種)を用い、

  • 誕生(アンダルシアの素朴な子守歌)
  • 幼少期(アンダルシア、パキスタンの音楽とそれが融合した音楽)
  • 思春期(より成熟したパロ)
  • 成人期(重厚なカンテ)
  • 死期(奥深く、純粋で清浄な感情)、希望に満ちた再生、命の蘇りへの期待

と、全21幕の構成で描いています。光の魔術師と称されるヴィットリオ・ストラーロ撮影監督が、この「人生の旅」の独創的なセッションを幻想的な光で照らし出しています。

レビュー・解説

全21幕、トップ・アーティストのパフォーマンスにより、フラメンコの新たな息吹を描き、さらなる発展を期待させる、巨匠カルロス・サウラ監督が取り続けたフラメンコの映画の集大成とも言える傑作です。

 

パコ・デ・ルシアのフラメンコ・ギターに惹かれて観たのですが、彼の出演は1幕のみでした。21幕、全て異なるアーティストのパフォーマンスで、若手も、ベテランもトップレベルの人ばかり、間違いなく、今日のフラメンコの最高の部分を描いた映画ではないかと思います。個々のパフォーマンスのみならず、芸術性の高いカルロス・サウラ監督の演出も素晴らしく、繰り返し鑑賞に耐える作品です。

 

カルロス・サウラ監督は、カンヌ国際映画祭ベルリン国際映画祭ヴェネツィア国際映画祭を初めとする数多くの賞に常連にノミネートされ、幾多の賞を受賞している、スペイン映画界を代表する巨匠で、「ママは百歳」(1980年)、「カルメン」(1984年) 、「タンゴ」(1999年)と、アカデミー外国映画賞にも三度、ノミネートされています。サウラ監督は、

  • カルメン」(1983年)
  • 「フラメンコ」(1995年)
  • サロメ」(2002年)
  • 「イベリア 魂のフラメンコ」(2005年)

などフラメンコを題材にした映画を撮り続けており、本作は長年の経験に基づいた集大成とも言える作品です。

 

そんなフラメンコを知り尽くしたサウラ監督の作品からひしひしと感じられるのは、いわゆるフラメンコというひとつの典型があるわけではなく、生き物のように様々な形があり、ダイナミックに変化するものだということです。カリスマ的人気を誇るサラ・バラスの踊り(バイレ)はフラメンコでありながら舞台芸術の高みにありますが、本場スペインでもまだ十分に認知されていないというピアノ・デュオによるフラメンコをはじめ、歌(カンテ)、踊り(バイレ)、拍子やギター(トケ)などの伴奏おのおのに、様々な形があり、それらがすべてフラメンコなのです。

 

フラメンコはもともと、

  • インドを起源として西に流れてきたロマ族(ジプシー、西語:ヒターノ)
  • かつてスペインに君臨したアラブ系民族(モーロ人(ムーア人)、イスラム教徒)
  • 在来のアンダルシア人

たちの民族芸能が融合してできた国際的な芸術です。歌(カンテ)がその発祥の根を作ったと言われ、仲間内の喜びや悲しみの吟じ合いからリズムと旋律が生まれ、伴奏が加わり、踊りだし、それが洗練されてフラメンコになりました。その歴史は意外に浅く、19世紀初頭と言われ、当初は個人の家などプライベートな空間が中心でした。ギターが使用されることは少なく、手拍子や掛け声(ハレオ)による伴奏が主でしたが、19世紀前半にアンダルシアにカフェ・カンタンテと呼ばれるフラメンコが上演される飲食店が現れ、19世紀後半にこれがスペイン国内に広まるともに、ギターが伴奏の主流になり、現在に至ります。

 

そうした流れの中でさらなるフラメンコの進化の触媒となったのが、パコ・デ・ルシアです。彼はフラメンコ・ギタリスト、作曲家、プロデューサーで、新たなフラメンコのスタイルを取り入れることにより、フラメンコ・ギターを単なる伴奏ではなく、ひとつの音楽芸術として確立させたと言われています。クラシックやジャズなど他のジャンルとのクロスオーバーを初めて成功させたフラメンコ・ギタリストで、「フラメンコ・ギターの巨人」、「歴史上、最も偉大なギタリストの一人」と評されています。

 

彼のフラメンコ・ギターは難解な前衛と全く異なりで、非常に聞きやすいものです。その昔、フラメンコギターを無性に聞きたくなった探したことがあるのですが、どれも痒いところに手が届かないような感じで、ピッタリくるものがありませんでした。そんな中で、たまたま彼のアルバム「アルモライマ」と出会い、聞きたかったフラメンコ・ギターはまさにこれだと思いました。何の予備知識もなく聞いたのですが、デ・ルシアが登りつめた最初の極みを示す一枚で、収録された全曲が傑作と言っていい、歴史的な名盤と言われています。

 

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デ・ルシアは早くて流れるようなピカドス(運指)で知られ、伝統的なフラメンコのレスゲドス(かき鳴らし)と対置しながらより感情豊かな演奏をするとともに、ジャズから擬似コードやスケール・トーンを取り入れています。これらは、従来のフラメンコ音楽を発展させるとともに、新しいフラメンコとラテン・ジャズ・フュージョンを展開しました。また、1967年から1992年まで続いたカンタオール(カンテの唄い手)カマロン・デ・ラ・イスラとの共演アルバムの数々は、フラメンコ史上、最も重要で影響力のあるものと考えられています。よく知られている彼の曲には

    • Río Ancho*3
    • Entre dos aguas*4
    • La Barrosa, Ímpetu*5
    • Cepa Andaluza*6
    • Gloria al Niño Ricardo*7

などがあります。残念なことに、2014年に彼は滞在先で心臓発作により急逝してしまいました。2015年には、7歳でギターを手にしてから最後のアルバムまでの60年間を辿る映画「パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト」が公開されています。

 

この映画に収められているパッフォーマンスは、デ・ルシアが作り出したような新たなムーブメントを反映するなものですが、最後の21幕目を、カフェ・カンタンテを彷彿とさせるパフォーマンスで締めくくっているのが粋です。カンタオール(カンテの唄い手)が歌い、みんなが手拍子をとる、バイラオーラ(踊り手の女性)は自分の出番が来ると、椅子から立ち上がって踊る、みんなが参加して楽しそうです。踊り(バイレ)や、歌(カンテ)、ギター(フラメンコギター)がステージ・アートになる一方で、カフェ・カンタンテやパーティ、自宅など、庶民のフラメンコの楽しさを暗示しているかのような締めです。

「フラメンコ・フラメンコ」の演目

  1. ルンバ「緑よ、お前を愛している」M・A・フェルナンデス、カルロス・デ・ペパ
  2. アレグリア「いとしのサリータ」サラ・バラス
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  3. ソレア・ポル・ブレリアス「フアン・モラオ」モンセ・コルテス、ディエゴ・デル・モラオ
  4. カルタヘネーラとブレリアス「二つの魂」ダビ・ドランテス、ディエゴ・アマドール
  5. ガロティン、ロシオ・モリー
  6. コプラ・ポル・ブレリア「四枚のマント」ミゲル・ポベダ

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  7. ソレア「叫び」エバ・ジェルバブエナ

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  8. サエタ、マリア・バラ
  9. 「行列」ぺぺ・デ・ラ・ベガ、ハビエル・ラトーレ
  10. マルティネーテとトナ、ホセ・メルセー

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  11. ブレリア、エル・カルペタ
  12. 「静寂」イスラエル・ガルバン

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  13. グアヒーラ「夜明けの朝に」、アルカンヘル
  14. アレグリア七面鳥の舞」、マノロ・サンルーカル

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  15. タンゴス、エストレージャ・モレンテ

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  16. 「エル・ティエンポ」J.C.ロメロ、ハビエル・ラトーレ

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  17. ブレリア「時の伝説」、ニーニャ・パストーリ、トマティー
  18. 「子守歌」ミゲル・ポベダ、エバ・ジェルバブエナ

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  19. サパテアード「イリュージョンの雨」、ファルキート

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  20. ブレリア・ポル・ソレア「アントニア」パコ・デ・ルシア

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  21. ブレリア・デ・ヘレス、モライート・チコ、ルイス・エル・サンボほか

サウンド・トラック 

  リンク先で試聴できます

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1. ルンバ「緑よ、お前を愛している」
2. アレグリア「いとしのサリータ」
3. ソレア・ポル・ブレリアス「フアン・モラオ」
4. カルタヘネーラとブレリアス「二つの魂」
5. コプラ・ポル・ブレリア「四枚のマント」
6. ソレア「叫び」
7. マルティネーテとトナ
8. ブレリア
9. グアヒーラ「夜明けの朝に」
10. アレグリア七面鳥の舞」
11. タンゴス
12. ブレリア「時の伝説」
13. 「子守歌」
14. サパテアード「イリュージョンの雨」
15. ブレリア・ポル・ソレア「アントニア」
16. ブレリア・デ・ヘレス

動画クリップ(YouTube

撮影地(グーグルマップ)

セビリア・エクスポ’92・未来パビリオン

 

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関連作品

フラメンコを描いたカルロス・サウラ監督作品のDVD(Amazon

  「カルメン」(1983年)

  「フラメンコ」(1995年)

  「サロメ」(2002年)

  「イベリア 魂のフラメンコ」(2005年)

 

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  「パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト」(2015年)

 

おすすめアート系ドキュメンタリー映画

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  「バッド・エデュケーション」(2004年) 

  「パンズ・ラビリンス」(2006年)

  「ボルベール〈帰郷〉」(2006年) 

  「永遠のこどもたち」(2007年)

  「それでも恋するバルセロナ」(2008年)

  「抱擁のかけら」(2009年)

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  「ブランカ二エベス」(2012年)

  「インポッシブル」(2012年)

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ジュリエッタ」(2016年)

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