夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「トゥルーマン・ショー」:その生活がドラマとして24時間生中継される男の姿を、面白可笑しく優しい眼差しで描いた、示唆に富む名作

トゥルーマン・ショー」(原題:The Truman Show)は、1998年公開のアメリカのコメディ&ドラマ映画です。アンドリュー・ニコル脚本、ピーター・ウィアー監督、ジム・キャリーらの出演で、その生涯が連続テレビドラマとして24時間生中継される男の姿を描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:ピーター・ウィアー
脚本:アンドリュー・ニコル
出演:ジム・キャリートゥルーマン・バーバンク)
   エド・ハリス(クリストフ)
   ローラ・リニー(メリル・バーバンク/ハンナ・ジル)
   ノア・エメリッヒ(マーロン/ルイス・コルトラン)
   ナターシャ・マケルホーン(ローレン・ガーランド/シルビア)
   ほか 

あらすじ

周りを海で囲まれた平和な離れ小島のシーヘブンで、保険のセールスマン、トゥルーマン・バーバンク(ジム・キャリー)は看護婦でしっかり者の妻メリル(ローラ・リニー)や親友のマーロン(ノア・エメリッヒ)らとともに幸せな毎日を送っています。「おはよう!そして会えない時のために、こんにちはとこんばんは!」が口癖の明るい青年ですが、彼は生まれてから1度も島から出たことがありませんでした。それは、父と一緒に海でボートを漕いでいたときに「嵐が来るぞ」という彼の警告を無視して船を進め、嵐を回避できず海に投げ出された父親を亡くしてしまい、水恐怖症を患ってしまったからでしたが、彼には大学時代に出会った忘れられない女性、ローレン(ナターシャ・マケルホーン)に会うためフィジー島へ行くというささやかな夢がありました。

ある日、いつものようにキヨスクで新聞を買った後、雑踏の中にひとり佇むホームレスの老人とすれ違います。それは幼い頃、海に沈み亡くなったはずの父親でした。しかし、その老人は間もなく何者かに連れ去られてしまいます。彼は自分の周囲を不審に感じ始めます。実は、彼は生まれたときから人生の全てを24時間撮影され、人生がそのまま「リアリティ番組」として世界220か国に放送されていたのです。彼の住む街は巨大ドームのセットであり、周囲の人物は全て俳優。死んでしまったという父も本当の父ではなく俳優で、また実際は死んでおらず、後に「感動の再会」を果たすことになります。いつもと違う行動を取るとまわりの様子が落ち着かなくなることを発見したトゥルーマンは不安と疑問がつのり、妻のメリルに怒りをぶつけた末、海にボートで漕ぎ出して行きます・・・。

レビュー・解説 

リアリティを求める視聴者と、ギリギリのところでそれに応えようとする番組制作者・出演者を、極端な設定ながら面白可笑しく、優しい眼差しで描いた、示唆に富む作品です。

 

自分の生活が連続テレビドラマとして24時間生中継されており、自分の住む町は巨大なセットで、周囲の人間はすべて俳優と、何やらパラノイアを描くような奇異な設定ですが、この作品はサイコ・スリラーではありません。世のメディアにはやらせや再現ドラマ、劇的なニュースや番組、防犯カメラや車載カメラ、空撮などのリアルで映像がリアルタイムに溢れ、視聴者は椅子に座ったままそれを観て少なからぬ影響を受けています。果たしてそれが良い事なのか、どうなのか、この映画はやさしく問いかけてくいるような気がします。

 

冒頭に劇中劇のスタッフ、キャストのオープニング・クレジットに合わせ、インタビュー風のシーンが流れ、そこに生中継されているトゥルーマンのボケた独白が挿入されます。これが彼らの会話ともとれる構成になっており、物語の展開を予告するようなしゃれたオープニングになっています。

Christoph: We've become bored with watching actors give us phony emotions. We're tired of pyrotechnics and special effects while the world he inhabits is, in some respects, counterfeit. There's nothing fake about truman himself--no scripts, no cue cards. It isn't always shakespeare but it's genuine. It's a life.

クリストフ:俳優の作り物の演技にはいい加減、飽き飽き。派手な爆破シーン、氾濫するSFX、彼が住む世界もある意味、作り物だ。でも、トゥルーマン自身に嘘や偽りはない - 脚本もなければ、キュー・カードもない。シェイクスピアには及ばないが、それは本物の人生だ。

 

Truman: I'm not going to make it. You're going to have to go on without me. No way, mister. You're going to the top of this mountain, broken legs and all.

トゥルーマン:自信がない。僕抜きでやってくれ。くじけるな、山のてっぺんを極めるんだ。例え足を折っても。

 

Christoph: We find many viewers leave him on all night for comfort.

クリストフ:一晩中、彼を見続けるファンも多い。

 

Truman: You're crazy.

トゥルーマン:お前はいかれてる。

 

Hannah: You know that? Well, for me, there is no difference between a private life and a public life. My life...is my life, Is the truman show. The truman show Is... a lifestyle. It's a noble life. It is... a truly blessed life.

ハンナ:私は公と個人の生活を区別していないの。私の生活は私の生活。それがたまたま素敵なトゥルーマン・ショウなの。とても幸せよ。

 

Truman: Yeah, tell me something I don't know. All right. Promise me one thing, though. If i die before i reach the summit, you'll use me as an alternative source of food. Ew. Gross.

トゥルーマン:頑張るんだ。ひとつだけ、約束を。山頂前で遭難したら、僕の体を食っていい。うっ、気持ち悪い。

 

Lewis: It's all true. It's all real. Nothing here is fake. Nothing you see on this show is fake. It's merely controlled. ルイス:全てが本物でリアルだ。この番組に作り物はない。単に操作されているんだけなんだ。

 

Truman: Eat me, damn it. That's an order. Maybe just Your love handles. I have love handles? Yeah. Little ones.

トゥルーマン:僕を食うんだ。命令だぞ。お腹の脂肪を。お腹に脂肪が?少しだけある。

  

トゥルーマンが住んでいる町は、シーヘブンという天国のように綺麗で、ゴミひとつ落ちていない街です。フロリダのシーサイドという街で撮影されたものですが、ハリウッド映画のセットのように見えます。隣人も良い人たちばかりです。そこに「シリウスおおいぬ座9番星)」と書かれたライトが落ちて来ますが、トルゥーマンはそれが何を意味するか、この時点ではわかりません。

 

主人公の名前トゥルーマン(Truman)の起源は、「信頼できる男」という意味の中世英語です。作り物のような街で、作りものではない彼の物語が展開していくわけですが、この映画の多層構造を突き破って演じることができるのはジム・キャリー以外にいないと感じさせる素晴しいパフォーマンスです。一方、準主役とも言えるエド・ハリスも、番組のクリエーター兼エグゼクティブ・プロデューサーのクリストフを善人/悪人とは異なる軸で、見事に演じています。

 

トゥルーマンの周囲の人々は生中継ドラマを演じる、いわば劇中劇の俳優です。ドラマの制作スタッフと視聴者のシーンを除けば前半のほとんどが「劇中劇」という構成になっており、これに映画の中の現実がオーバーラップして来るところが見どころです。

いずれも、映画の多層性と役者の技を感じさせる見応えのあるシーンです。

 

ローレン・ガーランド/シルビアを演じるナターシャ・マケルホーンは目が魅力的な女優ですが、さして多くない出番でトゥルーマンと幸せになって欲しいと感じさせる、素晴しいパフォーマンスです。一方、メリル・バーバンク/ハンナ・ジルを演じるローラ・リニーは幾分地味な女優ですが、「ユー・キャン・カウント・オン・ミー」(2000年)、「愛についてのキンゼイ・レポート」(2004年)、「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」(2007年)と三度もアカデミー主演/助演女優賞にノミネートされた演技派の女優です。この映画では、劇中劇を演じきれなくなっていくハンナを見事に演じています。

 

リアリティがこの映画のひとつのテーマになっており、ピーター・ウィアー監督は前半の劇中劇のシーンをほとんどを隠し撮り風に構成するという離れ業をやってのけています。さらに実際に映画館でこの映画を上映する際に、観衆をリアルタイムに撮影してカットバックで映画に挿入しながら上映するというアイディアもあったそうです。技術的な問題でこのアイディアは実現しなかったのですが、視聴者が望むリアリティとは、ある意味、共有と共感であり、ピーター・ウィアー監督は20年も前にそれを見抜いていたことになります。

 

奇異な設定の映画ですが、描かれているのは真実の追求、脱出、裏切り、ラブストーリーといった普遍的な人間の営みです。ピーター・ウィアー監督の優れた演出と、ジム・キャリーらの突き抜けた素晴しい演技が、難しい設定の脚本を名作と呼ばれる映画に押し上げていることは間違いないでしょう。

 

ジム・キャリートゥルーマン・バーバンク)

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エド・ハリス(クリストフ)

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ローラ・リニー(メリル・バーバンク/ハンナ・ジル)

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ノア・エメリッヒ(マーロン/ルイス・コルトラン)

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ナターシャ・マケルホーン(ローレン・ガーランド/シルビア)

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撮影地(グーグルマップ)

 

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関連作品

ピーター・ウィアー監督作品のDVD(Amazon

  「いまを生きる」(1989年)

  「フィアレス」(1993年)

  「マスター・アンド・コマンダー 」(2003年)

 

ジム・キャリー出演作品のDVD(Amazon

  「マスク」(1994年)

  「ライアー ライアー」(1997年)

  「エターナル・サンシャイン」(2004年)

 

ローラ・リニー出演作品のDVD(Amazon

  「ユー・キャン・カウント・オン・ミー」(2000年)

  「ミスティック・リバー」(2003年)

  「愛についてのキンゼイ・レポート」(2004年)

  「イカとクジラ」(2005年)

  「アメリカを売った男」(2007年)

  「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」(2007年)

  「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」(2015年) 

   「ハドソン川の奇跡」(2016年)

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