「誰よりも狙われた男」(原題:A Most Wanted Man)は、2014年公開のイギリス・アメリカ・ドイツ合作のサスペンス映画です。ジョン・ル・カレによる同名小説を原作に、アントン・コルベイン監督、アンドリュー・ボーヴェル脚本、フィリップ・シーモア・ホフマン、レイチェル・マクアダムスらの出演で、ドイツのハンブルクを舞台に、対テロ諜報チームを率いる男がテロリストの資金源の証拠を掴んで行く姿をスリリングに描いています。2014年2月に急逝したフィリップ・シーモア・ホフマン最後の主演作です。
目次
スタッフ・キャスト
監督:アントン・コルベイン
脚本:アンドリュー・ボーヴェル
原作:ジョン・ル・カレ「誰よりも狙われた男」
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン(ギュンター・バッハマン)
レイチェル・マクアダムス(アナベル・リヒター)
ウィレム・デフォー(トミー・ブルー)
ロビン・ライト(マーサ・サリヴァン)
グリゴリー・ドブリギン(イッサ・カルポフ)
ホマユン・エルシャディ(ファイサル・アブドゥラ博士)
ニーナ・ホス(イルナ・フライ)
ダニエル・ブリュール(マキシミリアン)
あらすじ
ドイツの港湾都市ハンブルク。同国の諜報機関でテロ対策チームを率いるベテラン捜査官ギュンター・バッハマン(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、イッサ・カルポフ(グリゴリー・ドブリギン)というイスラム過激派組織の一員と見られる若い密入国者をマークします。政治亡命を訴えるイッサは、人権団体の若手弁護士アナベル・リヒター(レイチェル・マクアダムス)と知り合い、彼女を介して銀行家であるトミー・ブルー(ウィレム・デフォー)との接触をもくろみますが、バッハマンは彼を拘束せずに監視を続けます。イッサの動向を追い掛けることでテロ資金源となっている人物にたどり着こうと考える彼は、CIAの協力を得ますが・・・。
レビュー・解説
原作者のジョン・ル・カレは、作家生活50年以上に及ぶスイギリスのスパイ小説の大家です。スイスのベルン大学とオックスフォード大学のリンカーン・カレッジで学び、イートン校で2年間教鞭を執った後、外務省に入り、MI6に所属、冷戦時代のピークであった1950年代〜1960年代に主に西ドイツで諜報部員として働きました。外交官として働く傍ら、その経験を元に小説を書き始め、1961年(29歳)のとき発表した「死者にかかってきた電話」で小説家としてデビュー、1963年の「寒い国から帰ってきたスパイ」でエドガー賞長編賞を受賞し、世界的に評価を得ます。イギリスの諜報部員を描いた小説といえば007が有名ですが、自身が英諜報部員であったジョン・ル・カレの冷戦時代のスパイ小説はそれとは趣が異なり、スパイの生々しい現実を描いています。冷戦後はグローバル化や格差の問題を取り上げ、多国籍企業の暴走とそれを助ける諜報機関を描いたル・カレは、映画「ナイロビの蜂」の原作者となりました。本作では米軍により2001年に逮捕され、5年間に渡り不法に拘留、拷問、虐待された、イスラム系トルコ人で、ドイツの合法的な居住者である Murat Kurnaz をモデルに、対テロ諜報戦を描いています。
テロを撲滅するには、資金源を絶つ事にことによりテロ組織を弱体化する必要があると言われています。9.11の直後には、G8首脳共同声明でテロ資金対策の重要性が強調され、また、各国に対しテロリスト等に対する資産凍結等の措置を求める安保理決議が採択されています。また米国は昨年、イラク政府と協力し、ISIS支配地域にある約90行の銀行を閉鎖、さらに国際金融システムへのアクセスを断つため、ISISと関係のある30人以上の金融関係者らを制裁対象に加えています。このほかにも隣国との国境を封鎖、国境の向こうで決済を行ったり、金融機関に資金を預けたりすることを難しくしています。テロの脅威に直面する作今、マネー・ロンダリングに目を光らせ、テロの資金源に迫って、それを絶つ事が諜報機関の大きな役目になりつつあります。
映画としてはテロとの闘いを武力で制圧するのがわかりやすいでしょう。しかしながら、表面化したテロを武力で制圧するのでは、いつまでたってもテロをなくす事ができないのです。テロの容疑者を泳がせながら地道にテロ組織の資金源に迫って行く様を、アメリカ的やり方を風刺しながらリアルに描く本作には、諜報部員のヒロイズムもありません。これは自身が諜報部員の経験を有し、リアルな諜報戦や諜報部員の現実を描くのを得意とするジョン・ル・カレの原作に依るものなのです。
最後の主演となったフィリップ・シーモア・ホフマンですが、起死回生を狙う風采の上がらない諜報員を如何にも彼らしく演じており、また、レイチェル・マクアダムスも人権団体の若手弁護士ながら時折、大人の女性を感じさせる素晴しい演技です。ウィレム・デフォーも申し分ありません。強いて難点を挙げれば、メインキャストがアメリカ人(レイチェル・マクアダムスはカナダ出身)の英語劇であることです。ドイツ訛りの英語を話すなど工夫はしているようですが、ベルリンやハンブルグでロケを行い、ニーナ・ホス、ダニエル・ブリュールなど、ドイツの一流俳優も出演しているだけに、ちょっと惜しいです。ヨーロッパ主導で制作すれば、異なったキャスティングのドイツ語劇になったかもしれません。もっとも、アメリカから見ればアメリカ人がアメリカのやり方を風刺するところに意味があるかもしれません。
フィリップ・シーモア・ホフマン(ギュンター・バッハマン:左)と
ニーナ・ホス(イルナ・フライ:右)
レイチェル・マクアダムス(アナベル・リヒター)
ウィレム・デフォー(トミー・ブルー)
ダニエル・ブリュール(マキシミリアン)
撮影地(グーグルマップ)
エンディングが撮影された場所
関連作品
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