「スモーク」:ブルックリンの煙草屋に集う三人の男達のヒューマン・ドラマをユーモラスに描いた群像劇
「スモーク」(原題:Smoke)は、1995年公開のアメリカ、日本、ドイツ合作の映画です。現代アメリカ文学を代表する小説家の一人、ポール・オースターが書き下ろした短編「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」を原作に、ウェイン・ワン監督、ポール・オースター脚本、ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハートらの出演で、ニューヨーク、ブルックリンの街角の煙草屋に集う三人の男を巡る、ユーモアと人情味あふれる人間ドラマを描いています。第45回ベルリン国際映画祭審査員特別賞を受賞した作品です。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:ウェイン・ワン
脚本:ポール・オースター
原作:ポール・オースター著「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」
出演:ハーヴェイ・カイテル(オーギー・レン、ブ煙草店を経営、写真撮影が趣味)
ウィリアム・ハート(ポール・ベンジャミン、作家、オーギーの常連客)
ハロルド・ペリノー・Jr(トーマス・コール、ギャングに追われる黒人少年)
ストッカード・チャニング(ルビー・マクノート、18年前にオーギーと交際)
フォレスト・ウィテカー(サイラス・コール、トーマスの父、スタンドを経営)
ジミー・ローズ(ジャレッド・ハリス、オーギーの店で働く長髪の青年)
アシュレー・ジャッド(フェリシティ、ルビーの娘、スラム街で男と暮らす)
ドリーン・コール(エリカ・ギンペル、サイラスの妻、美容師を営む)
ヴィクター・アルゴ(ヴィニー、オーギーの経営する煙草の販売店のオーナー)
ミシェル・ハースト(エマ、トーマスの叔母。両親のいないトーマスを育てた)
マリク・ヨバ(チャールズ・クリム、通称ブチ切れクリム、トーマスを追う)
ほか
あらすじ
ニューヨークのブルックリンの街角で小さな煙草屋を営むオーギー・レン(ハーヴェイ・カイテル)は、10年以上、毎日同じ時刻の同じ場所で写真を撮影しています。煙草屋の常連で、オーギーの親友でもあるポール・ベンジャミン(ウィリアム・ハート)は作家ですが、数年前に銀行強盗の流れ弾で妻を亡くして以来仕事が手につかず、悩んでいます。道端をボンヤリと歩いていたポールは、危うく自動車に轢かれそうになったところを一人の少年に救われます。ラシードと名乗るその少年(ハロルド・ペリノー・ジュニア)に感謝したポールは、彼を自分の家に泊めてやります。2晩泊まった後にラシードは家を出て行きますが、その数日後にラシードの叔母を名乗る女性が現れます。ラシードの本名はトーマス・コールといい、偽名を使って各地を転々としていました。
オーギーの所に、昔の恋人ルビー(ストッカード・チャニング)がやって来ます。実は、二人には18歳の娘(アシュレイ・ジャッド)がいて、麻薬に溺れ、手に負えないので助けて欲しいと言います。その頃、トーマスは生き別れた父親のサイラス(フォレスト・ウィテカー)が営むガソリンスタンドを訪れ、ポールの名前を偽名として使い、サイラスの下でアルバイトしてを始めます。ポールを再訪したトーマスは、実は強盗現場で落ちていた六千ドルを拾ったのでギャングに追われていると明かします。ポールはトーマスを家に置き、オーギーに頼んで店で使ってもらいますが、トーマスはオーギー秘蔵の密輸キューバ葉巻を台無しにしてしまいます・・・。
レビュー・解説
罪、嘘、別れ、親子、友人といったテーマが、形を変えながら、時に強く、時に弱く、リフレインされる、よく構成された群像劇です。ハーヴェイ・カイテルとウィリアム・ハートの円熟した演技と語りが光ります。
タイトルの「スモーク」は、煙とか、喫煙するといった意味で、主人公がタバコ屋であることに由来します。喫煙に対する風当たりが強い作今ですが、「喫煙は罪の暗喩である。分かっているが、どちらも止められない。」と言った人がいます。そうした意図かどうか、わかりませんが、この映画では様々な罪や嘘が挿入されています。
冒頭、ウィリアム・ハート扮するポール・ベンジャミンが、煙の重さを計るという、他愛もない話をします。タバコ屋に集まって他愛もない話をする人々の関係は、さながら重さがないような煙のようでもありますが、実は、そうした他愛もない話が、世知辛い都会で生きる人々の救いになっているかもしれませんね。
原作者のポール・オースターは、1990年にニューヨーク・タイムズからクリスマス・ストーリーの執筆を依頼されました。ニューヨークに関するもので、クリスマスの新聞に1ページ丸々使って掲載するものでした。ポールは短編を書いたことがありませんでしたが、どうしてもやってみたくて、これを引き受けました。アイディアが浮かばず苦労しましたが、机の中の小さな葉巻に気づいたポールは、ブルックリンでそれを彼に売った男のことを考えました。友人の一人でしたが、彼を良く知っていたわけではなく、週に何回か顔を合わせ、彼の面白いおしゃべりを聞く仲でした。彼らは家族のように毎日の生活の一部にはなりませんが、彼らがいるから都会での生活が耐えられると考えたポールは、彼を題材に「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」を書きました。
新聞でこれを読んだウェイン・ワン監督がポールに電話し、映画にできないか?と聞いてきました。映画好きで監督を良く知るポールはこれを了承し、ニューヨークに来た監督をブルックリンに案内、どのように長編映画に発展させるか話し合いました。サンフランシスコに帰った監督は、脚本家を雇い、ラフな脚本を送って来ました。ポールが妻とそれを読んで、こうしたらもっとよくなると伝えたところ、監督に「それをタイプしてくれ」と言われました。監督が資金集めに東京に行った際に、それ見たプロデューサーがポールの大ファンで「彼が脚本を書くなら引き受ける」と言い、他の地域でも資金を集めやすい事から、ポールは映画に本格的に巻き込まれることになりました。
最初のドラフトは映画になったものとは全く異なるようなものでしたが、ポールは監督とともに、一年半かけて何度もドラフトを書き直し、二人とも机上の脚本はこれで完成という所まで詰めました。ところが、これを読んだロバート・アルトマン監督に、「素晴しいが、もうひとひねり必要」と言われました。ポールの作品の読んだ事があり、作品が好きで、気にかけてくれるのだろうと考えたポールは、ロバート・アルトマン監督の指摘はもっともと考え、新たな登場人物を追加するという変更を加えました。「それに気づかなかった俺は、なんて馬鹿だったのだろう。」と、後にポールは語っています。
ポールが書いた原作の短編は、終盤にハーヴェイ・カイテル扮するオーギー・レンの経験談として語られた後、それをモノクロで映像化した回想シーンが流れ、この映画の最大の見せ場となっています。当初、オーギー・レンの語りに回想シーンがカットバックで入っていたのですが、言葉を生業とするポールは、言葉が切れ、失われていくようでしっくり来ませんでした。監督と話し、二人はモノクロのシーンをエンドロールの背景にすることにしました。内輪の試写が終わるや否や、ポールはロバート・アルトマン監督に腕を強く掴まれ、「モノクロの回想シーンの上にクレジットを流してはいけない。これがクライマックスなんだ。」と言われたと、ポールは恥じています。
ハーヴェイ・カイテル(オーギー・レン)
ウィリアム・ハート(ポール・ベンジャミン)
動画クリップ(YouTube)
ウィリアム・ハートの語り(煙の重さ)
撮影地(グーグルマップ)
オーギーの経営するタバコ店があった場所(正面の角、今はパイの店になっている)
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関連作品
スモークの原作本(Amazon)
「スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス」 (新潮文庫)
Paul Auster "Auggie Wren's Christmas Story" (Kindle版)
「ミーン・ストリート」(1973年)
「タクシードライバー」(1976年)
「テルマ&ルイーズ」(1991年)
「バグジー」(1991年)
「レザボア・ドッグス」(1992年)
「ピアノ・レッスン」(1993年)
「パルプ・フィクション」(1994年)
「ムーンライズ・キングダム」(2012年)
「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014年)
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