「ブラッド・シンプル」(原題: Blood Simple)は、1984年公開のアメリカのクライム・スリラー映画です。コーエン兄弟のデビュー作で、アメリカ南部の田舎町を舞台に妻の浮気が招く殺人事件を描いています。同年に北米各地の映画祭で披露され、1985年度のサンダンス映画祭審査員大賞、インディペンデント・スピリット賞の監督賞と主演男優賞を受賞した作品です。
目次
スタッフ・キャスト
監督:ジョエル・コーエン
脚本:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
出演:ジョン・ゲッツ(レイ)
フランシス・マクドーマンド(アビー)
ダン・ヘダヤ(ジュリアン・マーティ)
M・エメット・ウォルシュ(ローレン・フィッセル)
ほか
あらすじ
アメリカ南部、テキサスの片田舎で酒場を経営するマーティ(ダン・ヘダヤ)は短気でケチで、従業員に嫌われています。若い妻アビー(フランセス・マクドーマンド)は夫に不満で、従業員レイ(ジョン・ゲッツ)と浮気をします。マーティは浮気を疑い、私立探偵のローレン・フィッセル(M・エメット・ウォルシュ)に2人を調査させます。2人がベッドにいる写真を探偵から見せられたマーティは、腹立たしげに金を払います。マーティはレイを問いつめますが、失敗、怒ったマーティは探偵にアビーとレイの殺害を依頼し、魚釣りに出かけます。数日後、探偵からの電話で仕事場に戻ったマーティは、撃たれてベッドに横たわる2人の写真を見せられます。探偵に金を渡した直後、マーティは探偵に撃たれます。その夜、マーティと会う為に酒場を訪れたレイは、床に落ちているアビーの拳銃と撃たれたマーティを発見します。アビーの仕業と早合点したレイは、畑に穴を掘り、まだ息のあるマーティを埋めてしまいます・・・。
レビュー・解説
コーエン兄弟のデビュー作は、彼らの作品の中では、どちらかというとハード・ボイルドなクライム・スリラーに近い印象です。プロットも良く出来ており、何が起こるのかと最後までぐいぐいと引き込まれ、彼らの才能を感じます。一方で、田舎町が舞台で、登場人物も人間臭く、どこかしらユーモラスな印象を受けるのは、彼らの他の作品と共通しています。ハードボイルドの探偵と言えば、ダシール・ハメットのタフで非情な主人公や、会話や比喩の妙味、独特の感傷的味わいを持つレイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウを連想しますが、本作に出てくる人物はいずれとも異なり、恐らくはこれがコーエン兄弟流のひねりなのではないかと思います。
兄弟は、「ノー・カントリー」や「トゥルー・グリッド」でもテキサスを舞台にしていますが、「ブラッド・シンプル」の舞台をテキサスにした理由について、ジョエル・コーエン監督は次のように語っています。
我々は特別な環境が欲しかったんだけど、テキサスにはたくさんのポケットのあるんだ、少なくてもアメリカ人の観客にとってはね。それは、ある意味、誇張された想像上のテキサスだ。安普請のモーテルとか、ネオンが光る酒場とか、地平線まで延びるハイウェイとかね。それはパリから遠く離れた、分かりやすいテキサスだ。でも、それは「悪魔のいけにえ」の舞台となったテキサスの近くではない。「ブラッド・シンプル」はホラー映画じゃないんだ。
映画の見どころはいくつかありますが、そのひとつは、やはりコーエン兄弟流のテキサス風スタイリッシュとも言える、テキサスの描き方でしょう。
ブーツとハイヒールと銃
レイの部屋
探偵の車
車から見るテキサスの夕焼け
バーで酔いつぶれる男
マーティの土産の魚
夜のハイウェイ
マーティを遺棄した現場
コーエン兄弟は、この映画の企画を多くの制作会社に持ち込みましたが、すべて断られ、インデペンデントの映画として制作されました。この点に関して、ジョエル・コーエン監督は次のように語っています。
「ブラッド・シンプル」は、完全にインデペンデントにファイナンスされています。我々はパートナーシップを結び、プレイベートな投資を仰ぎました。それは、時間がかかり、ストレスの溜まるプロセスです。一年もかかりました。それは、恐らく映画を作る上で最も大変な部分でしょう。我々がやって功を奏したのは、映画を作る前に二分間の予告編を作る事でした。これを見込み投資家に見せたのですが、いわば、セールスマンがドアに靴をねじ込む戦術のようなものです。
そんな苦労が実り、「ブラッド・シンプル」は低予算ながら、完成度の高い映画として好評を博し、1985年度のサンダンス映画祭審査員大賞、インディペンデント・スピリット賞の監督賞と主演男優賞を受賞しました。その後、兄弟はハリウッド大手スタジオの20世紀フォックスと契約、話題作を次々と公開し、国際的な知名度を上げる事になりました。因に、本作でアビーを演じたフランシス・マクドーマンドは、以降、他のコーエン兄弟の作品に良く出演していますが、1994年にジョエル・コーエン監督とめでたく結婚と相成りました。
ジョン・ゲッツ(レイ)
フランシス・マクドーマンド(アビー)
ダン・ヘダヤ(ジュリアン・マーティ)
M・エメット・ウォルシュ(ローレン・フィッセル)
関連作品
フランシス・マクドーマンド出演作品のDVD(Amazon)
「赤ちゃん泥棒」(1987年)
「ダークマン」(1990年)
「あの頃ペニー・レインと」(2000年)
「ワンダー・ボーイズ」(2000年)
「ムーンライズ・キングダム」(2012年)
「スリー・ビルボード」(2017年)
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