「SWEET SIXTEEN」(原題:Sweet Sixteen)は、2002年公開のイギリスの映画です。スコットランドを舞台に、服役中の母親との明るい将来を夢見ながらもなかなか思い通りにならず、大人の世界を知る一途な少年の姿を、ケン・ローチ監督がリアルにほろ苦く描いています。第55回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、脚本賞を受賞した作品です。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァーティ
出演:マーティン・コムストン(リアム)
ウィリアム・ルアン(ピンボール)
ゲイリー・マコーマック(スタン)
ミッシェル・クルター(ジーン)
アンマリー・フルトン(シャンテル)
ミッシェル・アバークロンビー(スーザン)
トミー・マッキー(ラブ)
ジョン・モリソン(ダグラス)
マーティン・マッカーディー(トニー)
カラム・マカリース(カルム)
ジュニア・ウォーカー(ナイトクイム)
ゲイリー・メイトランド(サイドキック)
ほか
あらすじ
もうすぐ16歳になるリアム(マーティン・コムストン)は、学校にも行かず、毎日親友のピンボール(ウィリアム・ルアン)とふらふらと遊んで暮らしていました。リアムの母ジーン(ミッシェル・クルター)は、麻薬の売人でもある恋人スタン(ゲイリー・マコーマック)の犯罪を庇ったために刑務所に入っていた。そんな彼の夢は、母や姉シャンテル(アンマリー・フルトン)と湖畔にある新しい家に住むことでした。なんとか数週間後の母親の出所までに手付金を稼ごうと頑張るリアムでしたが、必死のあまりスタンの麻薬を盗んで売り捌くようになります・・・。
レビュー・解説
SWEET SIXTEEN と一見、ラブストーリーのようなタイトルですが、犯罪の街に住む16歳の少年の母への一途な思いの顛末を、ほろ苦く描いた見事な作品です。
舞台となったイギリス、スコットランドのグラスゴーは、かつて殺人の首都と呼ばれたほど犯罪の多い街でした。そんな街の労働者階級に育ったリアムは学校にもいかず、煙草を売っておこずかいを稼いでるような少年です。祖父や継父はそんな子供を叱るどころか、麻薬の密売の片棒を担がせようとし、嫌がると二人がかりで殴る蹴るの乱暴を働くような環境です。
そんな祖父や継父に、リアムはいたずらしたり、悪さで仕返ししたりしますが、服役中の母が出所したら一緒に暮らして母を悪事から守りたいと、少年らしい一途な思いを持っています。
とこらが、姉はシングル・マザー、母は悪事の片棒を担がせる継父から離れることができないと、この街でなかなか愛が成就しません。ヤクザの親分が見込むほど肝が据わっているリアムは、そんな街で愛する母と姉親子と一緒に暮らす為に、悪事に手を染めながらも遮二無二頑張ります。
ケン・ローチはプロの俳優を使わない監督で、本作品も土地の人を起用して撮影しています。脚本も全話ではなく必要な分しか渡さず、脚本にはないサプライズを仕組んだり、同じシーンを何度も撮り直すといった方法を駆使しながら、とても素人俳優とは思えないリアルで臨場感溢れる、見事な作品に仕上がっています。
また、土地の人によるグラスゴー近辺のスコットランド訛りは、イギリス英語の流れではあるものの、これ英語?と思うほど強烈です。また、現地の労働者階級の日常会話を取り入れ、「fxxk 」という言葉が300回以上も使われているのです。にもかかわらず、この強烈に訛った会話さえ愛おしく感じるのは、ケン・ローチ監督の見事な演出によるものでしょう。
例え、犯罪の街に育ち荒っぽい経験をしたとしても、一途な少年が経験するほろ苦さは普遍的なものであるという、シビアの現実を描きながらもケン・ローチ監督の暖かな眼差しが感じられます。
マーティン・コムストン(手前)
マーティン・コムストンは地元のプロ・サッカー選手。ケン・ローチ監督はアマチュアの俳優を見事に使いこなしています。
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