夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」:大学の先輩や仲間との希望に満ちた新生活の始まりをヴィヴィッドに描く秀作

「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」(原題:Everybody Wants Some!!)は、2016年公開のアメリカのコメディ映画です。リチャード・リンクレイター監督が自身の記憶を色濃く反映した「バッド・チューニング」(1993年)、「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年)の精神的な意味での続編とされる作品で、自身の監督・脚本、ブレイク・ジェナー、ゾーイ・ドゥイッチ、タイラー・ホークリン、グレン・パウエルら出演で、1980年の夏、野球推薦で大学に入学することになった主人公の新生活の始まりを通し、大人の扉を開けるひと時の輝きを捉えた青春群像劇です。

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スタッフ・キャスト

監督:リチャード・リンクレイター
脚本:リチャード・リンクレイター
出演:ブレイク・ジェンナー(ジェイク)
   ゾーイ・ドゥイッチ(ビバリー
   グレン・パウエル(フィネガン)
   タイラー・ホークリン(マクレイノルズ)
   ライアン・グスマン(ローパー )
   ワイアット・ラッセル(ウィロビー)
   テンプル・ベイカー(プラマー)
   J・クィントン・ジョンソン(デイル)
   ウィル・ブリテン(ビューター)
   ジャストン・ストリート(ジェイ)
   フォレスト・ヴィッカリー(コーマ)
   ターナー・カリーナ(ブラムリー)
   オースティン・アメリオ(ネスビット)
   ほか

あらすじ

  • 1980年9月。野球推薦で大学に入学することになった新入生のジェイク(ブレイク・ジェナー)は期待を抱きながら、大人への一歩を踏み出そうとしています。
  • 高校時代はスター選手だったジェイクが、お気に入りのレコードを抱えて野球部のメンバーが住む家に着くと、4年生のマクレイノルズ(タイラー・ホークリン)とルームメイトのローパー(ライアン・グスマン)から好意的とはいえない歓迎を受けます。同居する先輩たちは、野球エリートとは思えない風変わりな奴ばかりです。謎めいたマリファナ愛好者で「コスモス」の熱狂的ファンのウィロビー(ワイアット・ラッセル)、ノーラン・ライアンの再来を自認する妄想癖の塊のようなナイルズ(ジャストン・ストリート)、ギャンブル狂のネズビット(オースティン・アメリオ)、仲間から「ビューター」という田舎者っぽいあだ名を付けられた噛みタバコ好きで気さくなビリー(ウィル・ブリテン)、カリスマ的だが早口で陰のあるフィネガン(グレン・パウエル)・・・。
  • そんな中、面倒見の良いフィネガンが新生活のツアーガイド役を買って出ます。大学を巡るツアーは、当然のように女子寮に行くことから始まります。車で流しながらフィネガンが2人組の女の子にアタックしますが、あえなく拒否されます。ジェイクは同じ新入生で演劇専攻のビバリー(ゾーイ・ドゥイッチ)に一目惚れ、彼女もジェイクに好意的です。
  • ツアーを終えて野球部の家に戻ったジェイクですが、長い初日はまだ終わりません。チームのメンバーは、めかしこんで地元のディスコに出かけます。続いて、カントリー・バーに繰り出し、カウボーイハットをかぶってダンスを踊ります。さらにパンクのライブにも出かけます。チームの自主練習の後も、仲間たちと遊びに繰り出します。

レビュー・解説

大学での新生活が開始する三日間、先輩や新しい仲間たちとの希望に満ちた日々を、気鋭の若手俳優を起用、懐かしいロック音楽とともに、ヴィヴィッドに描いた秀作です。

 

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リチャード・リンクレイター監督の「バッド・チューニング」(1993年)は、1976年のテキサスの田舎の高校を舞台に、先輩による洗礼の儀式から必死に逃げつつも高校生活に期待する新入生、新入生を追い回しながら自分たちの未来に不安も抱く先輩たち、そして夜の歓迎パーティで、ロック、アルコールにドラッグと青春を謳歌する若者たちの一日を描いた作品です。一方、「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年)は、6歳の少年の成長とその家族の変遷を、主人公や両親を演じた俳優など、同じキャストとともに12年にわたって撮り続けるという斬新な手法で描いた作品です。いずれもリンクレイター監督の自身の記憶を色濃く反映した作品ですが、本作はこれらの作品の精神的な意味での続編とされる作品です。

 

「バッド・チューニング」も本作も、進学して新生活が始まる瞬間をスナップ・ショットのように切り取った作品ですが、前者はパーティに集まる高校生たちを描いているのに対して、本作は同居する大学の野球部の面々との関わりを描いています。野球部にもいろいろな人間がいて、いわゆる「体育会系」のステレオタイプではありません。個人の生活を優先し、友人との結びつきはスマホでという現在とは違って、どこに行くにも仲間と一緒で、無駄とも思える時間を一緒に過ごしながら、人間関係を築いていく様子を垣間見ることができます。

 

新生活への不安や期待も、高校と大学では異なります。高校は半ば義務教育のようであり、親元から通う生活は制約も多く、学校には怖い先輩がいたりします。親元から離れる大学生活は 、いつ寝ていつ起きようが全く自由で、自分が何になるのか自分で選択する、大学が嫌なら辞めて働くことさえ出来る世界です。

 

記憶は往々にして音楽と強く結びついており、リンクレイター監督は当時の音楽を聞きながら脚本を書いたと言います。サウンドトラックもこだわって選択しており、タイトルの「エブリバディ・ウォンツ・サム!!」は、ハードロック・ヘヴィメタル系の先駆者であるヴァン・ヘイレンの同名の曲に由来しています。

ヴァン・ヘイレンの最初の頃のアルバムは特別だ。ヘア・メタル・バンドにコピーされたのは彼らのせいではない。彼らが最初でオリジナルだ。いくつかの意味を持つタイトルと、この曲が好きだ。ちょっといやらしいけど、皮肉やユーモアが込められて面白いんだ。「エブリバディ・ウォンツ・サム!!」、若くていろんなことが起きるのを待ち構えている、期待しているんだ。ヴァン・ヘイレンには先駆者の純粋さがある、僕はいつもそう見ていたし、この映画が描いているのはそういうことなんだ。(リチャード・リンクレイター監督)

 

本作の脚本は、当初、新入生の一年間を描いていましたが、180ページにも及んだ為、気に入った部分を選んで、授業が始まる直前の三日間に凝縮されています。実在の人物を参考にしながら、複数の人物を複合したキャラクターで構成されています。主人公のジェイクは自身が野球部員だったリンクレーター監督の分身であり、その実体験も随所に挿入されています。

 

冒頭、レコードを抱えて新しい家に入るシーンは、当時の多くの大学生が経験したものです。リンクレイター監督が乗っていた車はガラクタで何の価値もありませんでしたが、ステレオとレコードは彼の全てだったと言います。今なら、全てスマホに入ってしまうものです。

 

仲間と大声で「ラッパーズ・デライト」を歌いながら、車で流すシーンがありますが、これも実際にあった話です。後部座席に座っていたリンクレイター監督は、この曲を白人の中流家庭の子弟が歌うのはおかしいと思ったそうですが、ラップがまだ珍しい頃の話です。他にも、チームの面々はディスコに行ったり、カントリーの店に行ったり、パンクのコンサートに行ったりと、みんなで連れ立って、何でも楽しんでしまいます。

 

また、演劇部のパーティに行くジェイクが、嫌々ながら野球部のメンバーを誘うシーンも実話です。

演劇部の人々に惹かれて、劇作コースを取ったんだ。僕は野球の世界と演劇の世界をクロスさせたくなかったんだけど、それにも関わらず、野球部の連中は来たんだよ。(リチャード・リンクレイター監督)

ジェイクが嫌々ながら野球部の連中を誘い、なんだかんだ言いながら野球部の連中が押しかける展開は、アメリカ人はストレートだという通説を覆すようで(?)笑えます。

 

本作に出演する俳優は気鋭の若手で、日本ではあまり名が知られていない人が多いのですが、「バッド・チューニング」にも無名時代のベン・アフレックマシュー・マコノヒーミラ・ジョボビッチレネー・ゼルウィガーなどが出演しています。本作の出演者も、10年後には世界的な大スターになっているかもしれません。

 

ブレイク・ジェンナー(ジェイク)

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ブレイク・ジェンナー (1992年〜)は、アメリカの俳優、歌手。リアリティ番組Glee プロジェクト〜主役は君だ!」で優勝、テレビドラマ「Glee/グリー」に出演。

 

ゾーイ・ドゥイッチ(ビバリー)。

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ゾーイ・ドゥイッチ(1994年〜 )は、アメリカの女優。母親が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年〜)で主人公の母を演じた女優リー・トンプソン、父親が「プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角」(1985年)を監督したハワード・ドゥイッチ、姉は女優でミュージシャンのマデリーン、大おじは俳優のロバート・ウォーデンという映画一家。ロサンゼルス・カウンティ芸術高等学校在学時代から、テレビや映画に出演し始める。

 

グレン・パウエル(フィネガン)

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グレン・パウエル(1987年〜)はアメリカの俳優、作家、プロデューサー。テレビドラマ・シリーズ「スクリーム・クィーン」(2015–16年)、映画「ドリーム 私たちのアポロ計画」(2016年)などに出演。

 

タイラー・ホークリン(左、マクレイノルズ)

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タイラー・ホークリン(1987年〜)は、アメリカの俳優。7歳の頃から野球を始め、アリゾナ州立大学、ノースウッズリーグの野球チーム等でプレイする。9歳から演技を始め、「ロード・トゥ・パーディション」(2002年)に出演、その後も、「ホール・パス/帰ってきた夢の独身生活<1週間限定>」(2011年)に出演するなど、テレビ、映画で活躍している。

 

ライアン・グスマン(ローパー )

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ライアン・グスマン(1987年)は、アメリカの俳優。映画「ステップ・アップ4:レボリューション」(2012年)、「ステップ・アップ5:アルティメット」(2014年)、「ジェニファー・ロペス 戦慄の誘惑」(2015年)などに出演。

 

ワイアット・ラッセル(ウィロビー)

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ワイアット・ラッセル(1986年〜)は、アメリカの俳優、元プロ・アイスホッケー選手。父親は俳優のカート・ラッセル、母親は女優のゴールディ・ホーン。俳優のオリヴァー、ケイト・ハドソンは異父兄・姉、俳優でミュージシャンのビル・ハドソンは異父兄。俳優のビング・ラッセルは祖父。「肉」(2013年)、「コールド・バレット 凍てついた七月」(2014年)、「22ジャンプストリート」(2014年)などに出演。

 

テンプル・ベイカー(左、プラマー)

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アメリカの俳優。3歳の時から野球を始める。テキサスのヴァンダービルト大学在学中に、演技経験のないまま本作のオーディションを受け、採用される。

 

J・クィントン・ジョンソン(デイル)

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アメリカの俳優。ブロードウェイの舞台にも出演。

 

ウィル・ブリテン(ビューター)

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ウィル・ブリテン(1990年〜)は、アメリカの俳優。「 女教師」(2013年)などに出演。

 

ジャストン・ストリート(左、ジェイ)

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アメリカの俳優。父はかつてのテキサス大学のクォーター・バック、ジェイムズ・ストリート、兄はメジャーリーグの野球選手ハストン・ストリート。映画「My All-American」(2015年、日本未公開)で父を演じた他、「バーニング・オーシャン 」(2016年)にも出演。

 

フォレスト・ヴィッカリー(コーマ)

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アメリカの俳優、プロデューサー。

 

ターナー・カリーナ(ブラムリー)

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アメリカの俳優、作家。

 

オースティン・アメリオ(ネスビット)。

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アメリカの俳優、作家。 テレビドラマシリーズ「ウォーキング・デッド」 (2010年〜)などに出演。

 

ドーラ・マディソン・バージ(中央、ヴァル)

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ドーラ・マディソン・バージ(1990年〜)は、アメリカの女優。テレビドラマ・シリーズ「シカゴ・ファイアー」(2015年〜)など、テレビや映画で活躍。

サウンドトラック

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1. マイ・シャローナ/ザ・ナック
2. ハート・オブ・グラス/ブロンディ
3. テイク・ユア・タイム/S.O.S.バンド
4. ハートブレイカー/パット・ベネター
5. オルタナティヴ・アルスター/スティッフ・リトル・フィンガーズ
6. エヴリワンズ・ア・ウィナー/HOT CHOCOLATE
7. エヴリバディ/ヴァン・ヘイレン
8. レッツ・ゲット・シリアス/ジャーメイン・ジャクソン
9. ビコーズ・ザ・ナイト/パティ・スミス
10. 甘い罠/チープ・トリック
11. ホウィップ・イット/ディーヴォ
12. ロミオの歌/スティーヴ・フォーバート
13. グッド・タイムズ・ロール/カーズ
14. ラッパーズ・ディライト/シュガーヒル・ギャング

動画クリップ(YouTube

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関連作品

リチャード・リンクレイター監督作品のDVD(Amazon

  「バッド・チューニング」(1993年)

  「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」(1995年)

  「ウェイキング・ライフ」(2001年)

  「スクール・オブ・ロック」(2003年)

  「ビフォア・サンセット」(2004年)

  「僕と彼女とオーソン・ウェルズ」(2008年)

  「バーニー みんなが愛した殺人者 」(2011年)

  「ビフォア・ミッドナイト」(2013年) 

  「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年)

 

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  「スウィート17モンスター」(2016年)

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