この本は、以前に町山氏の映画評を一冊読んでみようと思って手にしたものです。 私は恋愛映画も特に抵抗なく観ますし、また、
- 「アニー・ホール」(1977年)
- 「日の名残り」(1993年)
- 「エターナル・サンシャイン」(2004年)
- 「リトル・チルドレン」(2006年)
- 「ブルーバレンタイン」(2010年)
など、好きな作品をカバーしていたので、購入したものです。
- オクテのオタク男はサセ子の過去を許せるか?★『チェイシング・エイミー』
- ウディ・アレンは自分を愛しすぎて愛を失った★『アニー・ホール』Annie Hall★020
- 忘却装置で辛い恋を忘れたら幸福か?★『エターナル・サンシャイン』
- 愛を隠して世界を救いそこなった執事★『日の名残り』
- 女たらしは愛を知らない点で童貞と同じである★『アルフィー』
- 恋するグレアム・グリーンは神をも畏れぬ★『ことの終わり』
- ヒッチコックはなぜ金髪美女を殺すのか?★『めまい』
- 愛は本当に美醜を超えるか?★『パッション・ダモーレ』
- 嫉妬は恋から生まれ、愛を殺す★『ジェラシー』
- トリュフォーも恋愛のアマチュアだった★『隣の女』
- 不倫とは過ぎ去る青春にしがみつくことである★『リトル・チルドレン』
- セックスとは二人以外の世界を忘れることである★『ラストタンゴ・イン・パリ』
- 完璧な恋人は、NOと言わない男である★『愛のコリーダ』
- 愛は勝ってはいけない諜報戦である★『ラスト、コーション』
- 幸福とは現実から目をそらし続けることである★『幸福』
- 最大のホラーは男と女の間にある★『赤い影』
- キューブリック最期の言葉はFUCKである★『アイズ ワイド シャット』
- 結婚は愛のゴールでなく始まりである★『ブルーバレンタイン』
- 恋におちるのはいつも不意打ちである★『逢びき』
- フェリーニのジュリエッタ三部作は夫婦漫才である★『道』
- 認知症の妻に捧げる不実な夫の自己犠牲★『アウェイ・フロム・ハー』
- 苦痛のない愛はないが愛のない人生は無である★『永遠の愛に生きて』
この本に書かれているのは、甘い恋愛映画ではありません。ほとんどが恋愛の失敗例で、しかも映画監督、脚本家、原作者が実際に経験した、痛い恋愛の思い出が基になっていたりします。扱っている映画は、
- 1940年代 1作品
- 1950年代 2作品
- 1960年代 2作品
- 1970年代 4作品
- 1980年代 3作品
- 1990年代 5作品
- 2000年代 5作品
と幅広く、時代に関わらず「痛い恋愛」という視点で映画の評論を纏めるという、面白い構成になっています。一章(一作品)平均13ページで、最近の著作、例えば「映画と本の意外な関係」の一章(一作品)平均9ページより内容が詳しめで、突っ込んだ考察が成されています。
実はこの本、同氏の「映画と本の意外な関係」の前に購入したのですが、主に自分が観た映画の章を読んで、放ったらかしになっていました。その後、「映画と本の意外な関係」を一気に読んで、時間のある時に残りの部分を読みました。映画の観方がいろいろであるのと同様、本の読み方もいろいろですが、映画を鑑賞した後に自分自身でいろいろ調べる癖のある私にとって、既に観ていた「アニー・ホール」、「日の名残り」、「エターナル・サンシャイン」、「リトル・チルドレン」、「ブルーバレンタイン」といった作品に関する氏の評論は必ずしも強い興味を覚えるものではなく、むしろ観直すならフリーハンドで自身の解釈の揺らぎを楽しみたいと思いました。まだ観ていない作品に関する評論も、敢えて旧作を観る気にさせるものではありませんでした。
これは決して氏の評論のレベルが低いとかいうことではなく、トラウマ恋愛映画を研究したいわけでもなく、また特に旧作を探索しているわけでもない私が、「氏の映画評を一冊読んでみよう」と思った時に、最近の話題作をカバーした「映画と本の意外な関係」の方がすらすらと読め、既に観た映画を記憶の片隅から呼び起こして反芻し、観るかどうか迷っていたものはやはり観てみようかと再び興味を覚える楽しみを味わうことができた、というだけのことです。
町山氏は「自分は映画そのものより、映画について調べる方がもっと好きなのかもしれません」と語っていますが、早稲田大学法学部出身で、雑誌編集の経験もある文系オヤジの彼の読書量と情報処理能力には頭抜けたものがありそうです。しかし、そうした能力に裏付けられた評論を、むしろさりげなく、親しみのもてるユーモラスな語り口で、時に熱く、面白く、戦闘的に語ることが、彼の魅力ではないかと私は思っています。さらに言うならば、1940年代から2000年代までと幅広い時代から痛い恋愛を描いた名作映画を取り上げてこってり目に解説した「トラウマ恋愛映画入門」よりも、最近の話題作についてさっぱり目に仕上げている「映画と本の意外な関係」の語り口に好感を持つのは、私自身、いろいろ調べた上で文章に纏めるのに精一杯で、特に後者の評論に顕著な町山氏のさりげなさ、ユーモア、メリハリの効いた表現を私自身が心がける余裕を持てないからかもしれません。
関連作品
「トラウマ恋愛映画入門」が取り上げる作品のDVD(Amazon)
「アルフィー」(1966年)
「愛のコリーダ」(1976年)
「アニー・ホール」(1977年)
「パッション・ダモーレ」(1980年)
「ラストタンゴ・イン・パリ」(1982年)
「日の名残り」(1993年)
「アイズ ワイド シャット」(1999年)
「エターナル・サンシャイン」(2004年)
「リトル・チルドレン」(2006年)
「ラスト、コーション」(2007年)
「ブルーバレンタイン」(2010年)
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