夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「グリーンルーム」:ネオナチ集団に楽屋を包囲されたパンクバンドの恐怖を、揺るぎない構想・構成、一流俳優で描く、見応えあるスリラー

グリーンルーム」(原題:Green Room)は、2015年公開のアメリカのバイオレンス・スリラー映画です。ジェレミー・ソルニエ監督・脚本、アントン・イェルチンイモージェン・プーツら出演で、ネオナチ集団の巣窟でライブに出演した売れないパンクバンドが、運悪く殺人現場を目撃したことから、集団に命を狙われる恐怖をスリリングに描いています。

 

 「グリーンルーム」のDVD(Amazon

iTunesで観る*1  iTunesで観る*2

 

目次

スタッフ・キャスト

監督:ジェレミー・ソルニエ
脚本:ジェレミー・ソルニエ
出演:アントン・イェルチン(パット)
   イモージェン・プーツ(アンバー)
   パトリック・スチュワート(ダーシー)
   アリア・ショウカット(サム)
   ジョー・コール(リース)
   カラム・ターナー(タイガー)
   メイコン・ブレア(ゲイブ)
   マーク・ウェバー(ダニエル)
   ほか

あらすじ

パット(アントン・イェルチン)率いる売れないパンクバンド「エイント・ライツ」は、車のガソリン代にも事欠くほどの極貧ツアーで各地を旅しています。そんなある日、彼らに久々にライブハウスでの公演が決まり、オレゴン州の片隅にあるライブハウスに向かいます。観客はゴロツキばかりという殺伐とした雰囲気の中、「エイント・ライツ」は挑発的な曲を果敢に演奏し、どうにか出番を終えますが、楽屋で殺人現場を目撃してしまいます。パット達はすぐさま逃げ出そうとしますが、スキンヘッドの従業員たちによって楽屋に閉じ込められてしまいます。実はこのライブハウスはネオナチの巣窟で、ライブハウスのオーナーであり、ネオナチのリーダーであるダーシー(パトリック・スチュワート)は、パットら全員を抹殺するよう部下に命じます。命を狙われる羽目になったパット達は、一緒に閉じ込められた少女アンバー(イモージェン・プーツ)とともに、数でも装備でもかなわないネオナチ集団に立ち向かわざるを得なくなります・・・。

レビュー・解説

ネオナチ集団によって楽屋を包囲されたパンクバンドの恐怖を、しっかりとした構想、構成、一流のキャストで描く、見応えのあるスリラー映画です。

 

ジェレミー・ソルニエ監督は、「ブルー・リベンジ」(2013年)などで知られるアメリカの映画監督、撮影監督、脚本家です。パンクのエネルギーと芸術性を愛する彼はパンクバンドのメンバーとして、多くのコンサート会場を回りました。そうした経験から、彼はパンクのエネルギーを捉えた映画で、コンサート会場の楽屋に閉じ込められたバンドのスリラーを描きたいという思いにとりつかれていました。2007年には、ヘヴィー・メタル・バンドが地下室でレコードを逆に演奏し、悪魔を召喚するというダーク・コメディの短編映画をを撮ったりしています。その後、「ブルー・リベンジ」(2013年)の成功に気を良くした彼が、この機会にとかねてからの想いを一気に長編映画化したのが本作で、タイトルの「グリーンルーム」は英語で楽屋を意味しています。

 

ネオナチの巣窟でライブ演奏したパンクバンドが楽屋で殺人現場を目撃してしまう

f:id:DaysLikeMosaic:20171025050318j:plain

 

1990年代、パンクやハードコアの一派としてスキンヘッドのネオナチが登場しますが、その思想や組織は他のバンドと大きく異なりました。制服を着た彼らは兵士の様でひと目でわかり、ギャングや犯罪とも関係していたと言われます。スキンヘッドと言えば、ネオ・ファシズムや人種偏見に反対するスキンヘッド集団 SHARP(Skinheads Against Racial Prejudice)も存在しますが、ソルニエ監督はパンクバンド時代に反感を抱いたスキンヘッドのネオナチを、本作の悪役に仕立て上げています。

 

映画が描く世界観や環境は、ソルニエ監督が20年来、慣れ親しんだものでしたが、具体的なストーリーをどう展開させていくかは、全く考えていませんでした。彼は、馴染みの深い世界観や環境に新たなエネルギーを注ぎ込み、楽屋のドアの両側のキャラクターの世界に思いを巡らせました。おかげで彼は、二十年間、行き場のないまま自分の中で泡立っていたものが何かわかり、大いに楽しむことができたと言います。彼はロジックや人間的な選択にこだわりながら双方のキャラクターを動かす一方、様々なジャンル映画的表現手法をいたずらに弄することは避けており、先が読めずはらはらするものの、展開はシンプルで力強いものになっています。

 

「ブルー・リベンジ」、「グリーン・ルーム」とタイトルに色が入る作品が続いた為に、色の名前が入る三部作かと期待する人もいますが、これは偶然で、作風としてはさらにその前作の「Murder Party」(2007年、日本未公開)から、無力な登場人物が悲喜劇に巻き込まれる点が共通しています。我々は何かしらスキルを持った映画のキャラクターに慣れていますが、本作に登場するバンドメンバーは普通の人間で、彼らが楽屋に閉じ込められ、ジタバタする様はまさに悲喜劇です。

 

本作の展開には思わず息を飲み、手に汗握りますが、これは

  • キャラクターへの感情移入
  • いくつかのルールを破ること

によってもたらされると、ソルニエ監督は言います。すべてのルールを破るのではなく、バランスを崩すのが目的です。例えば、登場人物を向かうべきところではないところに向かわせることで、キャラクターに感情移入した観客はどこに連れられていくのかわからず、恐怖を感じます。また、全身血まみれなど、衝撃的なシーンもありますが、こうしたシーンや人が死ぬシーンは、それ自体を娯楽として見せるというよりは、破壊力のあるボディブローの様に登場人物を追い詰める道具として使われています。

 

一方、バンドを追い詰めるネオナチは、必ずしもサディスティックな集団ではありません。彼らは他人に無関心ですが、意図せぬ事件によって自己保存の為にバンドメンバーを追い詰めます。彼らの残酷な行いはすべてやむを得ない、現実的な出来事として描かれています。もし最初の事件を消すことができれば、彼らは何事もなかったように家に帰り、いつもどおりの静かな時間を過ごすでしょう。ちょっとした事件によってそんな彼らと普通の人間が戦わざるを得なくなるという、現実的な設定にインパクトがあり、怖さがあります。

 

一見、B 級映画の様ですが、このようにしっかりと構想、構成された作品で、キャストも、

と、一流どころを起用するなど、見応えのある作品です。特に、イギリスの名門劇団「ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー」の主演俳優を歴任、テレビドラマ「新スタートレック」(1987〜1994年)のピカード艦長役、映画「X-メン」シリーズ(2000年〜)でプロフェッサーX役で有名なパトリック・スチュワートは、パンクバンドを描くインディーズ映画においそれと出演依頼できる俳優ではありませんが、本作の脚本がたまたま大胆な役、面白い役を捜していたパトリック・スチュワートの目にとまり、実現したキャスティングです。

 

アントン・イェルチン(パット)

f:id:DaysLikeMosaic:20171025024054j:plain

アントン・イェルチン(1989〜2016年)は、アメリカの俳優。旧ソ連レニングラード(現サンクトペテルブルク)に生まれる。両親はフィギュアスケートのペアで、1989年に一家は難民としてアメリカへ移住。4歳から演技を学び、アンソニー・ホプキンスと共演した「アトランティスのこころ」(2001年)で広く知られるようになる。「スター・トレック」シリーズ(2009年〜)など大作に出演したが、2016年、自宅で事故死しているのが発見された。享年27歳。

 

イモージェン・プーツ(アンバー)

f:id:DaysLikeMosaic:20171025024108j:plain

イモージェン・プーツ(I1989年〜)は、ロンドン出身のイギリスの女優。父親はテレビプロデューサー。「Vフォー・ヴェンデッタ」(2006年)で映画デビュー。「ソリタリー・マン」(2009年)で母の恋人の男と一夜の遊びで関係したものの、しつこい男に嫌気がさし、母にバラしてしまうという、小悪魔的少女を演じ、強い印象を残す。「僕と彼女とオーソン・ウェルズ」(2008年)、「ジェーン・エア」(2011年)、「フライトナイト/恐怖の夜」(2011年)、「25年目の弦楽四重奏」(2012年)などで着実にキャリアを積み、本作ではたまたま楽屋に居合わせたパンク少女を演じているが、ただなるぬ存在感を放ち、後半に向けて準主役的な役割を果たしている。「俺たちポップスター」(2017年)、「スウィート・ヘル」(2017年)などにも出演している。

 

パトリック・スチュワート(ダーシー)

f:id:DaysLikeMosaic:20171025024121j:plain

パトリック・スチュワート(1940年〜 )は、ヨークシャー出身のイギリスの俳優。イギリスの名門劇団「ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー」にて主演俳優を歴任、テレビドラマ「新スタートレック」(1987〜1994年)でピカード艦長を、映画「X-メン」シリーズ(2000年〜)でプロフェッサーXを演じ、広く知られる。2010年にエリザベス女王より、ナイトの称号を叙勲している。

 

メイコン・ブレア(ゲイブ)

f:id:DaysLikeMosaic:20171025024137p:plain

メイコン・ブレア(1974年〜)は、ヴァージニア州出身のアメリカの俳優、脚本家、映画監督、プロデューサー。 ソルニエ監督とは幼馴染で、前作の「ブルー・リベンジ」では主役を演じている。「この世に私の居場所なんてない」(2017年)で監督デビューし、脚本、出演、プロデュースの4役をこなしている。本作ではライブハウスのオーナーでネオナチ集団のボスの部下を演じているが、他のネオナチとは異なる存在感を巧みに演じている。

サウンドトラック

 「グリーンルームサウンドトラックCD輸入版(Amazon

iTunesで聴く*3 Amazon MP3で聴く*4

ネオナチの巣窟と知ってか、知らずか、パンクバンドはライブで「Nazi Punks, Fuck Off」という過激な曲を歌っい、会場には緊張感がみなぎります(アルバムの7曲め)。

1 Weapons Ready by Brooke Blair, Will Blair
2 What Have I Become? by The Ain't Rights
3 Corpus Rottus by Corpus Rottus
4 Oregon Coast by Brooke Blair, Will Blair
5 Balefire by Brooke Blair, Will Blair
6 Prowling Leather by Midnight
7 Nazi Punks, Fuck Off [Explicit]
  by The Ain't Rights

8 Red Laces by Brooke Blair, Will Blair
9 Pour a Floor by Brooke Blair, Will Blair
10 Blades and Fangs [Explicit]
  by Brooke Blair, Will Blair

11 Coronary by The Ain't Rights
12 Inevitable Failure by Hochstedder
13 Mosh Pit by Brooke Blair, Will Blair
14 Mopping Up by Brooke Blair, Will Blair
15 Let's Pretend Brooke Blair, Will Blair
16 Savage Pressure by Battletorn
17 Takin' Out the Trash by Patsy's Rats
18 Melted by Patsy's Rats
19 Odin Himself by Brooke Blair, Will Blair
20 Fresh Air by Brooke Blair, Will Blair
21 The Residence by Brooke Blair, Will Blair
22 We Need the Police
  by Brooke Blair, Will Blair

23 Sinister Purpose by C.C.R (Album Only)
24 Toxic Evolution (Bonus Track)
  by The Ain't Rights

関連作品

ジェレミー・ソルニエ監督 x メイコン・ブレアのコラボ作品Amazon

  「ブルー・リベンジ」(2013年)

 

アントン・イェルチン出演作品のDVD(Amazon

  「スター・トレック」(2009年)

  「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」(2013年)

  「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(2013年)

  「アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発」(2015年)

  「スター・トレック BEYOND」(2016年)

イモージェン・プーツ出演作品のDVD(Amazon

  「Vフォー・ヴェンデッタ」(2006年)

  「僕と彼女とオーソン・ウェルズ」(2008年) 

  「ソリタリー・マン」(2009年)

  「ジェーン・エア」(2011年)

  「フライトナイト/恐怖の夜」(2011年)

「25年目の弦楽四重奏」(2012年)

  「俺たちポップスター」(2017年)

  「スウィート・ヘル」(2017年)

 

パトリック・スチュワート出演作品のDVD(Amazon

  「エクスカリバー」(1981年)

  「ファースト・コンタクト/STAR TREK」(1996年)

  「X-メン」(2001年)

  「X-MEN2」(2003年)

  「X-MEN: フューチャー&パスト」(2014年)

    「LOGAN/ローガン」(2017年)

 

メイコン・ブレア出演作品のDVD(Amazon

  「この世に私の居場所なんてない」(2017年)・・・監督・脚本・出演

 関連記事

dayslikemosaic.hateblo.jp 

dayslikemosaic.hateblo.jp 

dayslikemosaic.hateblo.jp

dayslikemosaic.hateblo.jp

dayslikemosaic.hateblo.jp

dayslikemosaic.hateblo.jp

*1:本文に戻る 

グリーンルーム (字幕版)

グリーンルーム (字幕版)

  • ジェレミー・ソルニエ
  • ドラマ
  • ¥2000

*2:本文に戻る

グリーンルーム(字幕版)

グリーンルーム(字幕版)

 

 

*3:本文に戻る

Green Room (Original Motion Picture Soundtrack) - Brooke Blair & Will BlairiTunes

*4:本文に戻る

Green Room (Original Motion Picture Soundtrack) [Explicit]Amazon MP3)