夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「お嬢さん」:抑圧された女性の闘いがドラマ性を醸し出す、ひねりの効いた豪華で美しく重厚感のあるエロティック・クライム・サスペンス

「お嬢さん」(原題:아가씨 、英題:Handmaiden)は、2016年公開の韓国のエロティック・クライム・サスペンス映画です。イギリスの作家サラ・ウォーターズの歴史犯罪小説「荊の城」を原作に、パク・チャヌク監督、キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌンら出演で、20世紀初頭の朝鮮半島を舞台に、莫大な財産の相続権を持つ美しい令嬢と、その財産を狙う詐欺師、孤児の少女らの思惑が交錯する様を、複数の登場人物の視点で描いています。 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:パク・チャヌク
脚本:パク・チャヌク/チャン・ソギョン
原作:サラ・ウォーターズ「荊の城」
出演:キム・ミニ(秀子お嬢様)
   キム・テリ(スッキ、珠子)
   ハ・ジョンウ(藤原伯爵、詐欺師)
   チョ・ジヌン(上月)
   キム・ヘスク(佐々木夫人)
   ムン・ソリ(秀子の叔母)
   ほか

あらすじ

1939年、日本統治下の朝鮮半島。世間とは隔絶した辺鄙な土地に建ち、膨大な蔵書に囲まれた豪邸から一歩も出ずに、支配的な叔父(チョ・ジヌン)と暮らす華族令嬢・秀子(キム・ミニ)。ある日、秀子のもとへ新しいメイドの珠子こと孤児の少女スッキ(キム・テリ)がやって来ます。実はスラム街で詐欺グループに育てられたスッキは、秀子の莫大な財産を狙う“伯爵”と呼ばれる詐欺師(ハ・ジョンウ)の手先です。伯爵はスッキの力を借りて秀子を誘惑し、日本で結婚した後、彼女を精神病院に入れて財産を奪うという計画を企てていました。計画は順調に進みますが、スッキは美しく孤独な秀子に惹かれ、秀子も献身的なスッキに心を開き、二人は身も心も愛し合うようになっていきます・・・。

レビュー・解説

抑圧された状況にある女性が戦う姿に魅力を感じるという監督の演出が一貫したドラマ性を醸し出す、エンターテインメント性が高くひねりの効いた、豪華で美しく重厚感のあるエロティック・クライム・サスペンス映画です。

 

ひねりの効いた、豪華で美しく重厚感のあるエロティック・クライム・サスペンス

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葛飾北斎春画「蛸と海女」や、中国の艶書「金瓶梅」の一節も登場するエロティックな映画ですが、抑圧された女性の戦う姿が豪華で美しい映像で描かれており、韓国では観客の8割が女性だったと言われます。原作の前半が持つ素晴らしい内容をハッピーエンドで受ける形で映画にしたかったと言うチャヌク監督は、読み終える前に映画化を決意したと言います。原作は、19世紀のイギリスのヴィクリア朝時代の犯罪を描いた歴史小説で、第二部で視点が変わることが大きな魅力ですが、その魅力は本作にも生かされています。

(原作の)第二部を読んだときに、一部で見たことをなぞるけど、別の観点から見ることになり、真相を知り事件の全体を知ることになります。こういう構造は興味深いし教訓を与えてくれることだと思いました。物事は一方的な視点では全体像がわからないので違う角度から見るということは、映画の中でもやらなければいけないと思いました。(パク・チャヌク監督)

https://cinema.ne.jp/recommend/ojosan2017030106/

この視点の変化は、いったいどちらの思惑が正しいのか、いったいどういう結末になるのかといった、疑心暗鬼でスリリングな演出効果も生み出しています。

 

舞台は19世紀のヴィクトリア朝時代のイギリスから1930年代の韓国に翻案されていますが、原作が階級格差を背景にしていたのに対して、本作ではさらに支配・被支配の関係にある日韓両国をまたがる話として、社会背景により深みが出ています(1910年から1945年まで、当時の大韓帝国大日本帝国の統治下にあった)。

実はBBCのドラマで作られたものがあり、私が違う脚本を書いても似てしまうのではないかと思い設定を変えました。そうすることで原作にはないもう一つの意味のある壁ができました。もともとは階級の差というのが二人にはありましたが、そこに国籍の壁というのができました。しかもただの国籍の差ではなく、敵対し合う二国間の壁ができ、物語として豊かになったと思います。さらに、いまの出来上がった「お嬢さん」を見ますと、韓国式の韓服を召使が着ていますし、日本とヨーロッパの要素を織り交ぜた空間も出てきます。そういうところでも豊かになっていたと思います。(パク・チャヌク監督)

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チャヌク監督が翻案に費やしたパワーは並大抵のものではありません。社会背景を調査し設定に取り込むだけではなく、日韓の二ヶ国語を主たる言語として使用し、作中に登場する和洋折衷の建物にも意味が込められています。

この物語の中で重要な要素である身分制度がまだあり、そして精神病院が設立されていた時代ということで、1930年代にしたんですね。人々が当時、近代化をどういうふうに受け入れていたかという部分は、もちろん原作にはないものだったので、かなり探求しました。日本や諸外国との関係性なども調査して、背景を設定していきました。

基本的には貴族が使う日本語、古い言葉遣い、あと朗読のシーンがあるので文語体といったところには気をつけました。かっこつけて読むようなシーンでは、気取って読んでいるんだけども、恥ずかしい単語を入れることで観客へ衝撃を与えるということにもこだわっています。同じような言葉でも極道が口にするのと、礼儀正しい、美しい貴族が口にするのとでは全然違いますからね。

美術監督と私が構想したのは、まずスッキが朝ごはんを食べたりしていた、使用人の住居がありますよね? あそこは朝鮮式の建物になっています。あれは上月(チョ・ジヌン)と佐々木(召使いの女性)が初めて住んだ家です。当初はふたりで住んでいましたからね。ただ、上月は日本人になりたいと思っていた親日派朝鮮人なので、後に洋館と和館を作ってそこへ移り住み、朝鮮式の建物は使用人に渡したという設定を考えました。それは自分のもともとのアイデンティティーを軽蔑して、強いものに巻かれるという親日派の人たちの心理を表現しているものでもあります。あと当時の朝鮮では、西洋文明が入ってきたことは入ってきたんですが、日本を通して日本の文化とともに入ってきたので、暴力的に移植されたようなイメージがあるんです。韓国の近代性の出発というのは伝統を軽蔑することから始まって、強制的に、あるいは暴力的に西洋の文化と日本の文化を受け入れることになったので、自発的に受け入れてきたわけではありませんでした。そういったことも、西洋の建物と東洋の建物を並べることによって表現できるのではないかと思ったんです。(パク・チャヌク監督)

https://cinema.ne.jp/recommend/ojosan2017030106/
https://www.gizmodo.jp/2017/03/ojosan-park-chan-wook-interview.html

韓国人と言っても、知日家もいれば反日家もいるでしょうが、こうした歴史や演出の意図を知ることは、韓国の人々の心情理解の一助になるのではないかと思います。

 

また、原作が女性二人にフォーカスしたものであるのに対して、本作では男性二人にも焦点を当てて人物描写を深め、男女四人を主人公にした作品に仕上げる一方、ユーモアも交えるなど、チャヌク監督はある面において、原作を凌ぐほどの作品に纏め上げています。

基本的には人生を映画で描きたい、人間を正確に描くことが、私の大切な目標になっています。なので、常にどうしたら典型的な人物ではなく、そして単純な描写を避けられるか?ということを考えているんです。人間というのは複雑な存在なので、単純な描写とか典型的な人物というのはありえないと思います。そこで大事になってくるのがユーモアです。到底笑えそうもない悲劇的な状況の中、あるいはとても恐怖におののいている瞬間でも、人はきっと笑うことができます。それくらい人は複雑なものだということを、ユーモアを通して見せられると考えているんです。私は同じユーモアはといっても、予想できない状況の中で沸き起こる笑いを大事にしています。(パク・チャヌク監督)

https://www.gizmodo.jp/2017/03/ojosan-park-chan-wook-interview.html

チャヌク監督は、出世作の「オールドボーイ」(2003年)で日本の漫画「ルーズ戦記 オールドボーイ」を翻案、韓国を舞台にした作品を描いて世界的に高い評価を得ていますが、本作でもイギリスのヴィクトリア朝の歴史犯罪小説を見事に翻案してみせており、主人公の秀子の名は日本の女優、高峰秀子に、スッキの名前は原作のスーザンにちなむなど、国境を超えて自由に創作する確かな国際感覚を感じさせます。

 

キム・ミニ(秀子お嬢様)

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キム・テリ(スッキ、珠子)

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ハ・ジョンウ(藤原伯爵、詐欺師)

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チョ・ジヌン(上月)

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サウンドトラック 

 

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1. 富士山の下から来たその木
2. 古い傷と新鮮なピンクの傷
3. 公爵夫人ジュリエット
4. 私の名前はナム・スッキ
5. イギリスの建築家が設計した洋館
6. この匂いだったのね(セリフ)
7. お嬢さんは、私のお嬢さん
8. 毎晩寝る前にまた思い出す金額
9. 若く妖艶な美人
10. 卓越して美しいもの
11. ロープと口ひげ
12. ここに来るんじゃなかったのに
13. 無知の境界線
14. 偽物に心を奪わなんて
15. お嬢さんは侍女の人形(セリフ)
16. その中に入った甘いもの
17. 良いだけなのよ
18. 結婚式
19. お嬢さん遊びましょうか?
20. ここで一週間···ついに!
21. 生まれて来なければよかったのに
22. 私たちのヒデコがお嬢さんに申し上げるならば
23. あの時私は少し狂っていて
24. この子はどうしてこうなのか
25. あなたは絶対に逃げようと考えないで
26. カマクヌン(文盲)
27. 生まれついたもののようです
28. 世紀末の歌
29. 悲しみばかり青い大空の下に
30. 私の人生を台無しにしに来た私の救援者(セリフ)
31. 私のタマコ、私のスッキ
32. 火だ!
33. 白いたばこ三本
34. 極上の快楽
35. 惜しんだ本5冊
36. 小さな恩功4つ(セリフ)
37. 滴の海
38. イムが来る音

 

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関連作品

「お嬢さん」の原作本Amazon

   サラ・ウォーターズ著「荊の城」(上)

   サラ・ウォーターズ著「荊の城」(下)

 

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  「オールド・ボーイ」(2003年) 日本漫画が原作

  「美しい夜、残酷な朝」(2004年)オムニバス映画

  「親切なクムジャさん」(2005年)

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  「夜の浜辺でひとり」(2017年)

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