夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「人魚姫」:環境保護のメッセージを込めたSFファンタジーで中国歴代最多興行収入を記録、世界の観客を笑わせたチャイニーズ・コメディ

「人魚姫」(原題:美人魚、英語題:The Mermaid)は、2016年公開の中国のSFファンタジー&コメディ映画です。チャウ・シンチー監督、ダン・チャオ、リン・ユンら出演で、美しい自然が残る香港郊外の青羅湾に住む人魚族と、この湾のリゾート開発プロジェクトのトップである若い実業家やそのパートナーとの運命的な関わりを描いています。公開11日後に中国の歴代興行収入の第1位を記録、アジア映画歴代興行収入の記録も塗り替え、世界で1億人以上の観客を動員した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:チャウ・シンチー
脚本:チャウ・シンチー/ケルヴィン・リー/ホー・ミョウキ/ツァン・カンチョン
   ルー・ジェンユー/アイヴィ・コン/フォン・チーチャン/チャン・ヒンカイ
出演:ダン・チャオ(リウ・シュエン)
   リン・ユン(シャンシャン、人魚姫)
   キティ・チャン(ルオラン)
   ショウ・ルオ(タコ兄)
   ツイ・ハーク(リー氏)
   ジェン・ジーン(ジェン社長)
   ファン・シュージェン(人魚の長老)
   クリス・ウー(ロン・ジェンフェイ)
   ほか

あらすじ

美しい自然が残る香港郊外の青羅湾。若き実業家リウ(ダン・チャオ)は、この美しい自然保護区域を買収。リゾート開発のために海中に設置した超強力ソナーで海洋生物を湾から排除し、埋め立て許可を取り付けます。そんな中、環境破壊のために行き場を失い難破船に逃げこんだ人魚族は、絶滅の危機に瀕しています。幸せな日々を取り戻すため、リーダーのタコ兄(ショウ・ルオ)の指揮のもと、一族はリウ暗殺作戦を決行します。可憐な人魚シャンシャン(リン・ユン)を人間に変装させ、リウへの急接近を試みますが、あえなく失敗してしまいます。しかしリウは、傲慢な女性投資家ルオラン(キティ・チャン)へのあてつけにシャンシャンをデートに誘い、やがて純真なシャンシャンに心癒され、急速に惹かれていきます。カネだけが愛の対象だったはずのリウと、なぜか彼を殺す気になれないシャンシャン。募る思いとは裏腹に、人魚族は欲に駆られた者たちによる激しい武力戦に巻き込まれていきます・・・。

レビュー・解説

現代のおとぎ話とも言えるSFファンタジーに拝金主義の戒めと環境保護へのメッセージを込め、公開11日で中国の歴代興行収入第一位を記録、全世界で1億人以上の観客を動員した、世界に通用するチャイニーズ・コメディです。

 

笑いにはお国柄が出ますが、中国のコメディはアクが強く、見る人を選ぶ印象があります。本作も導入部が中国風ナンセンス・コメディですが、本編は特にこうしたものに理解がなくてもフルに楽しめる、世界に通用するチャイニーズ・コメディになっています。また、中国が抱える大きな社会問題へのメッセージがしっかりと込められており、感心してしまいます。かつてのイメージを覆し世界に通用するインド映画がコンスタントに製作されるようになりましたが、地場に世界最大の市場規模を持つ中国映画にも世界に通用する作品が続くことを期待させる作品です。

 

目覚ましい経済発展を遂げ、日本のGDPを追い越してアメリカに継ぐ第二の経済大国となった中国ですが、GDPに占める不動産投資額の比率は二割を超えると言われています。GDPの1%にも満たない日本の不動産投資額に比べて異常に大きく、不動産投資に依存する中国経済の成長が懸念されています。本作でも自然の残る美しい青羅湾の買収、リゾート開発計画が描かれていますが、さらに中国は約14億人と世界一の人口を抱えながら、排出規制や廃棄物収集などの制度面が追いついておらず、生活ゴミも都市化とライフスタイル変化に伴い質的・量的変化に大きく変化していると言われています。こうした中国の不動産バブルや環境破壊は世界の関心事となっていますが、本作のように、拝金主義への戒めと環境保護へのメッセージが込められた映画が中国人自身によって制作され、内外の観客をこれまでになかったほど動員している状況は感慨深いです。

 

チャウ・シンチーは「少林サッカー」(2001年)、「カンフーハッスル」(2004年)など、コメディを得意とする香港出身の中国の映画監督ですが、本作は中国が抱える大きな社会問題を背景に、まさに時宜を得た作品です。また、人魚姫をモチーフにしたおとぎ話風のSFファンタジーを、彼が得意とするコメディ仕立てで面白可笑しく楽しんでいるうちに、観客は拝金主義の戒めや環境保護へのメッセージを受け取ることになります。結果、本作は公開11日後に中国の歴代興行収入の第1位を記録、アジア映画歴代興行収入の記録も塗り替え、世界で1億人以上の観客を動員するという偉業を成し遂げています。

人魚姫は現代都市で起きるおとぎ話で、現実的な面とファンタジー的な面の2つの面がありますが、根本的にはラブストーリーです。僕はおとぎ話が好きで、僕の作品は実はすべておとぎ話です。おとぎ話には“善人は報われる”、正義は勝つという大原則があり、僕はそれを信じているからです。

僕は映画を作るときはいつも観客に喜んでもらえるかどうかを気にしています。観客が一番大切です。

もし地球上に1滴もきれいな水がなく、一口分のきれいな空気もなかったとしたら、いくらお金があっても何の役にも立たない”と僕は信じています。我々は地球の環境を大切に守っていかなくてはなりません。(チャウ・シンチー監督)

https://movie.jorudan.co.jp/news/inter_161222_01/ 

 

ヒロインのシャンシャンを演じたリン・ユンは、オーディションで12万人の中から抜擢されましたが、12万人という規模感がいかにも中国です。彼女には独特のセンスがあり、またコメディの才能もあって、シンチー監督のヒロイン像と一致したといいます。リウ・シュエンを演じるダン・チャオもコメディのセンスが高く、また、洞察力に優れ、監督とともに演技の為のディスカッションやリサーチを重ねたといいます。予算が7千万ドルと決して多くない為か、あまりリアルでないCGも散見されますが、ナンセンス・コメディ的なテイストも併せ持った本作では、さしてマイナス要素になっていないように見受けられます。

演出するときはいつでも困難にぶち当たるものですが、CGは演出意図に基づいて使用しています。

どんなCGやセット、ギャグもすべて映画の外装であり、最後に残るのは情の一文字です。深いエモーションがなくて成功している映画を僕は知りません。(チャウ・シンチー監督)

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ダン・チャオ(リウ・シュエン)

ダン・チャオ(鄧超、1979年〜)は江西省出身の中国俳優。妻は女優の孫儷。「王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件」(2010年)などに出演している。

 

リン・ユン(シャンシャン、人魚姫)

リン・ユン(林允、1996年〜) は、浙江省出身の中国の女優。ほとんど演技経験のないまま、オーディションでチャウ・シンチー監督に抜擢され、「人魚姫」に出演する。ど監督の他の作品にも出演している他、2017年公開予定のディズニー制作の初の中国語映画「The Dreaming Man ( 假如王子睡着了)」にも出演する。

 

キティ・チャン(ルオラン)

キティ・チャン(張雨綺、1987年8月8日〜)は、山東省出身の中国の女優。中国徳州生まれ。夫はワン・チュアンアン監督。チャウ・シンチー監督に見出され、「ミラクル7号」(2008年)のヒロインに抜擢されてデビュー、本作が9作目。

 

ショウ・ルオ(タコ兄)

ショウ・ルオ(羅志祥、1979年〜) は、台湾の歌手、俳優、タレント。歌、ダンス、ドラマ、映画、司会と幅広い活動で中国を代表するマルチアイドル。ファッションブランドも手がける。1996年にユニット「四大天王」の一員としてデビュー、その後、様々な活動を経て2003年にソロデビュー。映画「西遊記〜はじまりのはじまり〜」(2013年)などに出演している。

 

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関連作品

チャウ・シンチー監督作品のDVD(Amazon

  「少林サッカー」(2001年)

  「カンフーハッスル」(2004年)

 

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  「ラストエンペラー」(1987年)

山の郵便配達」(1990年)

  「菊豆」(1990年)

  「秋菊の物語」(1992年)

  「活きる」(1994年)

  

「變臉(へんめん)/この櫂に手をそえて」(1996年)輸入盤、リージョン1、日本語なし

  「あの子を探して」(1999年)

  「初恋のきた道」(1999年)

  「鬼が来た!」(2000年)

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  「南京!南京!」(2009年)Amazonビデオ

  「ブラインド・マッサージ」(2014年)

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  「芳華-Youth-」(2017年)

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