夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」:ワトソンは何故、虚像で花道を飾ったのか?他に類を見ない感動のミステリー&ヒューマン・ドラマ

Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」(原題: Mr. Holmes)は、2015年公開のイギリス・アメリカ合作のミステリー&ヒューマン・ドラマ映画です。ミッチ・カリンの小説「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件」(2005年)を原作に、ビル・コンドン監督、イアン・マッケランローラ・リニー真田広之ら出演で、自身を引退へと追い込んだ30年前の未解決事件の謎を解き明かそうと、93歳のホームズが再び推理に挑む姿を描いています。

 

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スタッフ・キャスト

監督:ビル・コンドン
脚本:ジェフリー・ハッチャー
原作:ミッチ・カリン「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件」
出演:イアン・マッケランシャーロック・ホームズ
   ローラ・リニー(マンロー夫人)
   マイロ・パーカー(ロジャー・マンロー)
   真田広之(梅崎タミキ)
   ハティ・モラハン(アン・ケルモット)
   パトリック・ケネディ(トーマス・ケルモット)
   ロジャー・アラム(バリー医師)
   フィル・デイヴィス(ギルバート警部補)
   フランシス・デ・ラ・トゥーア(マダム・シルマー)
   コリン・スターキー(ジョン・H・ワトスン)
   ニコラス・ロウシャーロック・ホームズ役の俳優)
   フランシス・バーバー(マダム・シルマー役の女優)
   ジョン・セッションズ(マイクロフト・ホームズ)
   サラ・クローデン(ハドスン夫人
   ほか

あらすじ

  • 1947年、を引退していた93歳の私立探偵のシャーロック・ホームズイアン・マッケラン)は、家政婦のマンロー夫人(ローラ・リニー)と彼女の息子ロジャー(マイロ・パーカー)と共に、サセックスの豊かな緑に囲まれた海辺の家でミツバチの世話をしながら穏やかな晩年を過ごしています。世間では助手のワトスンが執筆した小説「名探偵ホームズ」によって、彼の虚像が浸透していました。数年前、ホームズは兄の遺品からワトスンが書いた小説を見付け、それをきっかけに自身を引退に追い込んだアン・ケルモット夫人の事件を描いた映画を鑑賞します。実際の結末とは異なった描かれ方をしていることに気付いたホームズは、事件の真実を伝える為に手記の出版を決意しますが、老齢のホームズは既に記憶が衰え、過去を思い出すことが難しくなっています。ホームズは自身のファンである梅崎の求めに応じて日本を訪れ、記憶に効く山椒を受け取ります。その際、梅崎(真田広之)に「外交官だった父はあなたの助言で生涯、日本に戻らなかった」と責められますが、ホームズは梅崎の父を思い出すことが出来ません。
  • 帰国したホームズは手記の執筆に専念しますが、事件の核心を思い出すことができずに焦ります。ロジャーの洞察力に刺激を受け、ホームズは少しずつ記憶を取り戻しますが、ロジャーの名前さえ忘れてしまう為、ロジャーの名前をシャツの袖にメモするなど、記憶の限界が近付いていることを自覚しています。彼は薬草を注射して記憶を維持しようと試みますが、調合中に倒れてしまいます。ホームズは意識を取り戻しますが、安静にするように言い渡されます。数日後、ロジャーが書斎にあるワトスンの書棚からアン夫人の手袋を見つけ、記憶を取り戻したホームズは再び手記を書き始め、事件の真相を書き終えます。
  • 30年前、ワトスンと別れ一人になったホームズの元にトーマス・ケルモットが訪れ、彼の妻アン(ハティ・モナハン)について依頼を受けます。アンは二度流産したため塞ぎ込んでしまいアルモニカのレッスンを受けるようになりますが、その教師マダム・シルマーとの間に不穏な行動が見られるといいます。トーマスは黒魔術を用いて死んだ子供と会話しているのではないかと疑っており、ホームズは依頼を引き受けます。ホームズが妻を尾行すると、彼女は夫の筆跡を偽造した小切手で預金を下ろし、薬局で毒性の強い薬を買います。夫を殺害するのかと思われましたが、事態は思わぬ方へ転がります。ホームズは人生最大の失敗を犯して引退に追い込まれ、事件はそのまま未解決となります。ホームズから話を聞いたワトスンは結末を変えた小説を執筆し、アンの手袋を書棚に隠します。手記を書き終えたホームズは読んでもらおうとロジャーを探しますが、彼は全身をハチに刺されて意識を失っていました・・・。

レビュー・解説

何故、ワトソンは虚像を描いてホームズの花道を飾ったのか?老体に鞭打ってかつて自身を引退に追いこんだ事件の謎に迫るホームズをイアン・マッケランが好演、他に類を見ない感動のミステリー&ヒューマン・ドラマです。

 

邦題から、イアン・マッケラン扮するホームズが最後の事件を老獪に解決するものかと思いきや、この予想は見事に裏切られました。本作に登場するホームズは颯爽と事件を解決するどころか、記憶力が衰え、人の名前も忘れてしまう老人です。さらに過去の事件を調べるうちに彼の人間的な弱さが浮かび上がってくるなど、不覚にも涙してしまうほど感動的なヒューマン・ドラマに仕上がっています。因みに、ミッチ・カリンの原作本の原題は「A Slight Trick of The Mind」で、ちょっとした心理の罠の意味ですが、これは真実に執着するホームズが陥りやすい心の罠を暗示したものと思われます。

 

ビル・コンドン監督は、

と、伝記や事実に基づいた感動的なヒューマン・ドラマ映画を得意としています。シャーロック・ホームズは実在の人物ではありませんが、最近ではロバート・ダウニー・Jr.やベネディクト・カンバーバッチが演じて人気のキャラクターで、2012年には「世界で最も映画やテレビに描かれている文学作品の人物」としてギネスの世界記録に認定されています。

二位以下を大きく離してのトップで、同じ英国起源のハムレットは48回です。これだけ人々に愛されるキャクターであるがゆえに、コンドン監督のリアルで感動的な描き方が新鮮でより効果的です。

本作では、シャーロック・ホームズをあたかも実在の人物のように描いています。従来とは異なるこの世界観の中でジョン・ワトスンはホームズの理想化された虚像を描いていますが、本作に登場するホームズは生身です。彼は必ずしもすべての事件を解決しているわけではなく、失敗もします。また、習慣もワトソンが描いたものとは違い、彼が第二次世界大戦後のイギリスにいるという時代錯誤的な設定も、他の映画と異なります。(ビル・コンドン監督)

 

撮影時75歳のイアン・マッケランも素晴らしいです。93歳のホームズを演じているわけですが、老いには個人差もあり、20歳近い年齢差はさして問題ではありません。人間は生理的に老いを嫌いますので、むしろこれをうまく演ずる方が難しい課題です。マッケラン自身、75歳と老いを自然に演じられる年齢ですが、年老いたホームズを演じるにあたって100歳で亡くなった義理の母の姿を参考にしたと言われ、娯楽作品の中で老いをどう見せれば良いのか現役の役者として熟知している絶妙なパフォーマンスで、人生経験がもたらす叡智が感じられます。なお、マッケラン、ロバート・ダウニー・Jr.、ベネディクト・カンバーバッチの三人は、いずれもシャーロック・ホームズ作品とマーベル・シネマティック作品の双方に出演していますが、これはイアンの映画に対する立ち位置を端的に象徴しているようで興味深いです。

 

シャーロック・ホームズは19世紀後半に活躍したイギリスの小説家コナン・ドイルの創作の「シャーロック・ホームズ」シリーズの主人公で、架空の探偵です。彼の活躍する一連の作品は大ヒットし、推理小説の分野に一つの頂点を築きましたが、その魅力は今なお衰えず、世界中で読み継がれています。

  • 生年の記述がなく、ファンにより1853年前後と推定されており、本作でも1947年に93歳という設定から、1953年〜1954年生まれと想定されていることがわかる。
  • ホームズは化学実験が趣味で、脳の活性化の為にコカインやモルヒネを使う薬物依存があったが、ワトソンに止めさせられ、後に野山や草木に親しむ保守的な英国紳士風の趣味になった。衰える記憶力を回復する為に山椒を求めて日本に出かける本作のホームズの原点は、ここにある。
  • 若い時からバリツという、神伝不動流柔術講道館柔道の流れを組む複合型護身術を身につけており、日本との縁が少なからずあった。
  • ホームズは本作の中でワトソンが書き方を批判しているが、これは以前からの傾向で、ワトソンに怒られて、自分で執筆したこともある。

 

ホームズのモデルは、作者コナン・ドイルの医学部時代の恩師で外科医であるジョセフ・ベルとされています。ドイルは1877年にベルに出会い、彼の下で働いており、ベルは病気の診断には観察力が重要だと学生に説き、患者の外見から病名だけでなく、職業や住所、家族構成までを言い当てました。また、ベルは警察の捜査に関与、法医学の専門家とともに働いていました。ホームズは論理的な推論が得意で、徹底した現場観察によって得た手掛かりを、過去の事例に関する膨大な知識、物的証拠に関する化学的知見、事情通から得た情報などと照らし合わせて分析し、事件現場で起きたことを推測します。しばしば消去法を用い、「不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる」と述べています。NHKの「総合診療医 ドクターG」をたまに観ますが、愁訴を聴くだけではなく、患者を細かに観察し、消去法で診断を絞り込んでいく様は、まさにホームズの推理法そのものです。ホームズの観察の鋭さは、あるべき姿として学問の世界でもよく引用されますが、そもそもホームズのモデルが医師と診察、診断法とすれば、当然の帰結と言えます。

 

イアン・マッケランシャーロック・ホームズ

イアン・マッケラン(1939年〜)は、ランカシャー出身のイギリス俳優。舞台と映画、シェイクスピア演劇や現代劇、SF、ファンタジーと幅広いジャンルで活躍している。ケンブリッジ大学卒業後の1961年に舞台デビュー、1970年代から1980年代にかけて名優としての地位を確立、数多くの賞を受賞し、1990年にはナイトに叙勲され、サーの称号を得ている。映画にも活躍の場を拡げ、1981年に映画初主演、1990年代にはハリウッドに進出して世界的な知名度を得る。1995年には、ロイヤル・ナショナル・シアターで上演された「リチャード三世」をマッケラン脚本・主演で映画化、ゴールデングローブ賞主演男優賞英国アカデミー賞主演男優賞・脚色賞にノミネートされ、ヨーロッパ映画賞の主演男優賞を受賞している。2000年代に入ると「X-メン」にマグニートー役で出演し、以降のシリーズに出演している。2001年には「ロード・オブ・ザ・リング」でアカデミー助演男優賞にノミネートされ、以降、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ、「ホビット」シリーズに出演している。本作は「ゴッド・アンド・モンスター」(1998年)に次いで、二度目のビル・コンドン作品で、二人とも老人に近づいたわけだが、二人の解釈、演技、演出は出色である。また、映画の舞台となった1947年、マッケランは8歳とロジャーと同じくらいの年であり、同じ時代を生きたホームズを実在の人物として身近に感じやすかったと言う。1988年にゲイであることを公表し、LGBTの権利擁護キャンペーンを行っている。

 

ローラ・リニー(マンロー夫人)

ローラ・リニー(1964年〜)は、ニューヨーク出身のアメリカの女優。父親は劇作家。大学で学んだ後、ジュリアード音楽院で演技等を学び、ブロードウェイやオフ・ブロードウェイの舞台で活躍する。1992年に映画デビューし、「トゥルーマン・ショー」(1998年)などで注目されるようになる。コメディからシリアスまでこなす実力派女優で、「ユー・キャン・カウント・オン・ミー」(2000年)と「愛についてのキンゼイ・レポート」(2004年)、「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」でアカデミー賞にノミネートとされており、、2002年と2005年には舞台でトニー賞にノミネートされている。ビル・コンドン作品には出演するのは本作で4度目で、アン夫人とは対称的な家政婦を適確に演じている。

 

マイロ・パーカー(ロジャー・マンロー)

マイロ・パーカー(2002年〜)はイギリスの子役俳優。2014年にイギリスのインディペンデント系のSF映画長編映画デビュー、「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」(2016年)にも出演している。将来を感じさせる俳優で、共演のマッケランは「マイロは機知に富んだ若者のだ。彼は物怖じすることなくカメラの前に立ち、求められればまさに監督の欲するままに演じることできる。」と評している

 

真田広之(梅崎タミキ)

真田広之(1960年〜)は日本の俳優。子役からアクション・スターになり、演技派俳優になる。1999年から2000年にかけて、イギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー公演「リア王」(蜷川幸雄演出)に唯一の日本人キャストとして出演、イギリス演劇界の俳優達と全編17世紀の英語の台詞で共演、その演技力と日英両国の文化交流の架け橋としての功績が評価され、エリザベス女王より名誉大英帝国勲章を叙勲している。「たそがれ清兵衛」(2002年)がアカデミー外国語映画賞にノミネートされ、「ラストサムライ」(2003年)にも出演し、日本を代表する俳優の一人となる。

 

ハティ・モラハン(アン・ケルモット)

ハティ・モラハン(1978年)はロンドン出身のイギリスの女優。テレビ、映画、舞台で活躍する。父は映画監督、母は女優、姉は舞台監督。映画では「バンク・ジョブ」(2008年)、「美女と野獣」(2016年)などに出演している。本作では出演時間で、二人の子供を流産した美しくもミステリアスな妻の存在感を見事に醸し出している。

撮影地(グーグルマップ)

 

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関連作品

Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」の原作本Amazon

  ミッチ・カリン「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件」

 

ビル・コンドン監督 x イアン・マッケランのコラボ作品のDVD(Amazon

  「ゴッド・アンド・モンスター」(1998年)

 

ビル・コンドン監督 x ローラ・リニーのコラボ作品のDVD(Amazon

  「愛についてのキンゼイ・レポート」(2004年)

 

ビル・コンドン監督・脚本作品のDVD(Amazon

  「シカゴ」(2002年)脚本

  「ドリームガールズ」(2006年) 監督・脚本

 

イアン・マッケラン出演作品のDVD(Amazon)

  「リチャード三世」(1995年)

  「X-メン」(2000年)

  「ロード・オブ・ザ・リング」(2001年)

  「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」(2002年)

  「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」(2003年)

  「X-MEN2」(2003年)

  「X-MEN: フューチャー&パスト」(2014年)

 

ローラ・リニー出演作品のDVD(Amazon

  「トゥルーマン・ショー」(1998年)

  「ユー・キャン・カウント・オン・ミー」(2000年)

  「ミスティック・リバー」(2003年)

  「イカとクジラ」(2005年)

  「アメリカを売った男」(2007年)

  「マイ・ライフ、マイ・ファミリー」(2007年)

   「ハドソン川の奇跡」(2016年)

 

老人を描いた映画

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