夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ジュリエッタ」:メロドラマ風の序盤、母娘の縦糸を織り込む中盤、娘の失踪の謎に迫る終盤、女性像を色彩豊かに描くヒューマン・ドラマ

ジュリエッタ」(原題:Julieta)は、2016年公開のスペインのヒューマン・ドラマ映画です。アリス・マンローの短編集「ジュリエット」に収録された三つの短編(ジュリエット三部作)に基づき、ペドロ・アルモドバル監督、エマ・スアレス、アドリアーナ・ウガルテら出演で、母親から娘への愛、娘の思いを、色彩豊かな映像とともに描いています。第89回アカデミー賞外国語映画賞で、スペイン代表に選出された作品です。

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ペドロ・アルモドバル
脚本:ペドロ・アルモドバル
原作:アリス・マンロー短編集「ジュリエット」の「チャンス」、「すぐに」、「沈黙」
出演:エマ・スアレス(現在のジュリエッタ
   アドリアーナ・ウガルテ(過去のジュリエッタ
   ダニエル・グラオ(ショアン、ジュリエッタの夫)
   インマ・クエスタ(アバ、彫刻家)
   ミチェレ・ジェネール(現在のベアトリス)
   ダリオ・グランディネッティ(ロレンソ、現在のジュリエッタの交際相手)
   ロッシ・デ・パルマ(マリアン、過去のジュリエッタの家政婦)
   スシ・サンチェス(サラ、ジュリエッタの母親)
   ピラール・カストロ(クラウディア、ベアトリスの母親)
   ホアキン・ノタリオ(サムエル、ジュリエッタ父親
   ナタリー・ポサ(フアナ)
   マリアム・バチール(サナア、ジュリエッタの両親の家政婦)
   ブランカ・パレス(18歳のアンティア)
   プリシージャ・デルガド(過去のアンティア)
   サラ・ヒメネス(過去のベアトリス)
   ほか

あらすじ

  • マドリッドに暮らすジュリエッタは、恋人のロレンソとポルトガルに引っ越す準備をしています。彼女は、通りで偶然、彼女の娘アンティアの子供時代の友人ベアトリスに会います。18歳の時に失踪したアンティアがスイスで暮らしており、子供が三人いることをベアトリスから聞いたジュリエッタは、再び娘と連絡をとろうという欲望に突き動かされ、スペインを去る計画を取り止めます。そして、アンティアがジュリエッタに連絡をとる唯一の手掛かりとなる、かつて彼女が娘を育てたマドリッドのアパートに引っ越します。
  • アンティアからの便りを待つ一方で、娘が疾走した原因を整理する必要があると感じたジュリエッタは、母であり、配偶者であり、娘であった彼女自身の人生を日記に書き始めます。それは、漁師でアンティアの父であるショアンとの出会いから始まります。ジュリエッタは、列車で相席となった老人から逃れ、食堂車へ行ったことを回想します。彼女はそこでショアンと出会い、彼は漁師の暮らしや昏睡状態にある妻の話をします。その時、老人が飛び込み自殺を図り、列車は急停止します。ジュリエッタは老人の死について自分自身を責め、ショアンはそれを慰め、二人は列車の中で結ばれます。その後、彼女が働く学校にショアンから手紙が届き、彼女は彼を訪ねます。ジュリエッタは妻を亡くしたショアンと関係を取り戻し、彼の子供が出来たことを告げます。
  • 二年後、ジュリエッタと娘のアンティアはジュリエッタの両親を訪ねます。ジュリエッタの母はアルツハイマー病を患っており、父は若くて美しいメイドと関係していました。やがて大きくなったアンティアが夏のキャンプに出かけます。ショアンがアバと親密であることを家政婦が匂わし、ジュリエッタとショアンは言い争いになります。彼女は家を飛び出し、ショアンは漁に出かけますが、海は嵐になります。ジュリエッタはニュースでショアンが死んだことを知り、パニックになります。一方、アンティアは夏のキャンプでベアトリスという少女と仲良くなります。傷心のジュリエッタマドリッドに行き、アンティアにショアンの死を伝え、そこにアパートを借り、ショアンの家を処分します。
  • 18歳になったアンティアは瞑想を始め、三ヶ月間、ピレネー山脈にこもると宣言します。三ヶ月後、ジュリエッタが迎えに行くと、娘は母に行き先を知らせぬよう言い残して既に去っています。娘を失ったジュリエッタは苦しみ、アンティアを探し出そうとしますが、見つからず、19歳、20歳、21歳の誕生日に何も書かれていないバースデーカードが届いたきりでした。怒った彼女はアパートを引き払い、彼女の生活から娘の痕跡を消そうとします。多発性硬化症で死期の近いアバを訪ねたジュリエッタは、アンティアが両親の言い争いがショアンの死をもたらしたことを知っており、原因となったジュリエッタとアバを責めていたこと、その場に居合わせなかった罪の意識を固く心の中に秘めたことを、アバから聞きます。アバの葬儀でロレンソに会ったジュリエッタは娘の喪失感を紛らわすかのように、ロレンソとの関係を楽しみます。ジュリエッタは何も話しませんでしたが、ロレンソはジュリエッタには何か秘密があると感じます。
  • 時は現在に戻り、ロレンソはポルトガルに行ってしまい、かつて娘と行った場所をひとり訪ねて歩くジュリエッタの精神状態は悪化します。ジュリエッタと遭遇したベアトリスは、アンティアとレズビアンの関係にあったことを告げます。瞑想に篭った後、アンティアはそれを恥じていることをベアトリスに伝え、ジュリエッタの前から姿を消したように、ベアトリスの前からも姿を消したと話します。その後、ジュリエッタは道で倒れ、ポルトガルから戻ったロレンソがそれを見かけます。ロレンソは、ジュリエッタのアパートにアンティアから手紙が届いてるのを見つけ、病院にいるジュリエッタに届けます・・・。

レビュー・解説

メロドラマ風の序盤、母娘の縦糸を織り込む中盤、娘の失踪の謎に迫る終盤というダイナミックな展開を、スペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督が迫力の女優陣とともに色彩豊かに描くヒューマン・ドラマです。

 

若いジュリエットが昏睡状態の妻を持つ漁師と情事に陥るという序盤のメロドラマ的展開に一瞬、面食らいます。中盤、ジュリエットが娘を連れて両親を訪問、アルツハイマー病を患う母を横目に家政婦と関係する父を目の当たりにしたジュリエットは、反感を覚えます。ジュリエット自身、病気の妻を持つショアンとの情事を経験しているわけですが、いざ、自分の父親の情事となるとこれを許すことができません。終盤は18歳で失踪してしまった娘の謎を追うミステリータッチの展開になりますが、ここにも親子の関係、彼我の痛みが絡んできます。異なる時代の異なるエピソードを、異なる俳優で描きながら、一貫したトーンと色彩感覚で見応えのあるドラマに仕立て上げる様が見事です。

もともとアリス・マンローという作家は、家族の内なるドラマを描いたものが多くて、それが僕の惹かれた理由でもあった。僕の作品にはミステリータッチのものが多いけれど、それは人生というものがミステリーだから。人間どんなに芯が強くても、どんなに楽観的でも、運命というものには逆らえない。運命は謎に満ちていて、それを理解することはできない。それはときに苦痛を伴うけれど、もちろん辛いばかりではないと思う。(ペドロ・アルモドバル監督)

 

主な登場人物

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母と娘の関係が三つのエピソードの縦糸となっている

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ジュリエッタをベテランと新進の女優が時代に応じて演じ分ける

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迫力の女優陣、色彩感覚が素晴らしい

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カナダのノーベル賞作家アリス・マンローが2004年に発表した短編集「ジュリエット」収録作品のうち、ジュリエット三部作と呼ばれる三編、「チャンス」、「すぐに」、「沈黙」を原作にしています。

  • 「チャンス」:ジュリエットが列車の旅をするうちに情事に陥る
  • 「すぐに」:ジュリエットが娘を連れて両親を訪れる
  • 「沈黙」:大人になり失踪した娘からの便りを願うジュリエット

主人公はジュリエットですが、これらの短編はそれぞれ独立しており、三つの異なった時代が描かれています。 列車の中で映画を撮りたいと思っていたアルモドバル監督は、「チャンス」の列車の中で人生でもっとも素晴らしいことが起きるシーンに引き込まれ、巡り合う二人のキャラクターを活力に一気に映画化できると思ったそうです。そして、このユニークなストーリーでいかに観客の心をつかむことができるかをまず考えたと言います。

 

序盤は列車の中が舞台

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原作は北米が舞台で、アルモドバル監督も北米を舞台にメリル・ストリープを主演に迎えて英語劇を撮るつもりでした。しかし、ニューヨーク州の海岸近くでロケハンするものの、しっくり来なくてしばらく頭を冷やします。結局、英語で手掛けないほうが良いと感じ、舞台をスペインに移し、スペインの地形に合わせて脚本を構成、スペインの俳優を起用したスペイン語劇に変更しました。メリルストープ主演で北米を舞台にした英語劇でも観てみたい気もしますが、これらの変更により、若干トーンは異なるものの女性賛歌三部作などこれまでのアルモドバル監督の作品ともある程度の連続性が出るなど、結果として良い決断だったのではないかと思われます。

 

ペドロ・アルモドバル(1951年〜)は、スペインの映画監督・脚本家・プロデューサーです。22歳のとき8mmカメラを購入、1974年に最初の短編映画を撮ります。1980年に自主制作した初の長編映画がカルト的人気を博し、以後ほぼ1年に1本のペースで作品を発表します。独特なストーリーと世界観、強烈な色彩感覚などから国内外で熱狂的なファンを獲得、7本目の「神経衰弱ぎりぎりの女たち」(1988年)でヴェネツィア国際映画祭脚本賞を受賞、アカデミー外国語映画賞にノミネートされます。息子を失った母親を描いた「オール・アバウト・マイ・マザー」(1999年)でアカデミー外国語映画賞を受賞、続く「トーク・トゥ・ハー」で非英語映画としては「男と女」(1966年)以来となるアカデミー脚本賞を受賞します。このに作品に続いて製作された「ボルベール〈帰郷〉」(2006年)は、カンヌ国際映画祭脚本賞と主演女優賞(ペネロペ・クルスカルメン・マウラ、ロラ・ドゥエニャス、ブランカポルティージョ、ヨハナ・コボ、チュス・ランプレヴら6名の主演女優全員)を受賞します。女性賛歌三部作と言われるこの三作は、アルモドバル監督をスペインを代表する映画製作者として揺るぎないものにしました。大胆なプロットでかつ繊細に女性を描く彼は、同性愛者であることを公言しており、

どうしてかと訊かれても困るけれど、僕にとっては女性の方が理解しやすい。もしかしたら、子供の頃女性に囲まれて育ったからかもしれないね。(ペドロ・アルモドバル監督)

と語っています。彼の作品はメロドラマやポップカルチャーのスタイルを利用しながら、人間の欲望や情熱、家族や個人のアイデンティティといった問題をテーマを描くことが多く、複雑な脚本やブラック・ユーモア、色彩感豊かな映像が特徴的です。

 

エマ・スアレス(現在のジュリエッタ

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エマ・スアレス(1964年〜)は、マドリッド出身のスペインの女優。演技とは全く縁のない環境で生まれ育ったが、独学で勉強、1993年、1996年、2007年、20010年にスペインのアカデミー賞に相当するゴヤ賞の主演女優賞にノミネート、1996年に受賞している実力派。2016には本作で同賞の主演女優賞を受賞した他、別作品で助演女優賞にノミネートされている。

アドリアーナ・ウガルテ(過去のジュリエッタ

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アドリアーナ・ウガルテ(1985年〜)は、スペインの女優。作家の曽祖父、作家・舞台美術家の祖父を持つ。2006年にスペインのアカデミー賞に相当するゴヤ賞で最優秀新人女優賞にノミネートされている。

 

ダニエル・グラオ(ショアン、ジュリエッタの夫)

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ダニエル・グラオ(1976年〜)は、スペインの俳優。

 

インマ・クエスタ(左、アバ、彫刻家)

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インマ・クエスタ(1980年〜)は、バレンシア出身のスペインの女優。「ブランカニエベス」(2012年)などに出演している。2011年、23013年、2015年とスペインのアカデミー賞に相当するゴヤ賞の主演女優賞にノミネートされている。


ミチェレ・ジェネール(現在のベアトリス)

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ミチェレ・ジェネール(1986年〜)はバルセロナ生まれのスペインの女優。父がイギリス系、母がフランス系のスペイン人で、いずれも俳優。 主にスペインの映画、テレビで活躍している。

 

ダリオ・グランディネッティ(ロレンソ、現在のジュリエッタの交際相手)

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ダリオ・グランディネッティ(1959年〜)はアルゼンチンの俳優。主にアルゼンチン映画に出演していたが、1998年以降、国外の作品にも出演するようになる。いくつものスペイン映画に出演しており、テレビドラマにゲスト出演することもある。ペドロ・アルモドバル監督作品では「トーク・トゥ・ハー」(2002年)に出演、他にアルゼンチン・スペイン合作の「人生スイッチ」(2014年)などに出演している。2012年には文化・教育番組で、国際エミー賞を受賞している。

 

ロッシ・デ・パルマ(マリアン、過去のジュリエッタの家政婦)

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ロッシ・デ・パルマ(1964〜)は、マヨルカ島出身のスペインの女優。数多くのペドロ・アルモドバル監督作品に出演している。

 

スシ・サンチェス(左、サラ、ジュリエッタの母親)

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スシ・サンチェス(1955年〜)は、ヴァレンシア出身のスペインの女優。スペインの舞台、映画、テレビに中心に幅広く活動している。2013年にスペインのアカデミー賞に相当するゴヤ賞の助演女優賞にノミネートされている。

 

サウンドトラック

 「ジュリエッタ」サウンドトラックCD輸入版(Amazon

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ペドロ・アルモドバル監督と組むことが多く、またアカデミー賞始め、数多くの賞のノミネート、受賞経験があるアルベルト・イグレシアスによる、叙情感溢れるサウンドトラックです。

1 La tela roja by Alberto Iglesias
2 La esquina by Alberto Iglesias
3 En el mismo lugar II by Alberto Iglesias
4 Tren de invierno, 1985 by Alberto Iglesias
5 Cortejo fúnere en la nieve by Alberto Iglesias
6 Antía concebida by Alberto Iglesias
7 Rumbo a lo desconocido by Alberto Iglesias
8 La madre andaluza by Alberto Iglesias
9 Tatuaje by Alberto Iglesias
10 El origen del hombre by Alberto Iglesias
11 Tempestad by Alberto Iglesias
12 El cadáver incompleto by Alberto Iglesias
13 Silencio by Alberto Iglesias
14 Caminé como un zombie I by Alberto Iglesias
15 En el mismo lugar I by Alberto Iglesias
16 Julieta y las niñas by Alberto Iglesias
17 La casa blanca by Alberto Iglesias
18 Despedida de Antía by Alberto Iglesias
19 Ava en el hospital by Alberto Iglesias
20 Caminé como un zombie II by Alberto Iglesias
21 Los cuadernos del silencio by Alberto Iglesias
22 Si no te vás by Chavela Vargas
23 Epílogo by Alberto Iglesias

撮影地(グーグルマップ)

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関連作品

ジュリエッタの原作本Amazon

  アリス・マンロー短編集「ジュリエッタ」(Amazon

 

ペドロ・アルモドバル監督 x ダリオ・グランディネッティのコラボ作品(Amazon

  「トーク・トゥ・ハー」(2002年)

 

ペドロ・アルモドバル監督 x ロッシ・デ・パルマのコラボ作品(Amazon

  「欲望の法則」(1987年)

  「神経衰弱ぎりぎりの女たち」(1988年)

  「私の秘密の花」(1995年)

  「抱擁のかけら」(2009年)

 

ペドロ・アルモドバル監督作品のDVD(Amazon

  「グロリアの憂鬱」(1984年)

  「マタドール〈闘牛士〉 炎のレクイエム」(1986年)

  「ライブ・フレッシュ」(1997年)

  「オール・アバウト・マイ・マザー」(1999年)

  「バッド・エデュケーション」(2004年)

  「ボルベール〈帰郷〉」(2006年)

  「私が、生きる肌」(2011年)

 

インマ・クエスタ出演作品のDVD(Amazon

  「ブランカニエベス」(2012年)

 

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  「人生スイッチ」(2014年)

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