夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「アイ・ウェイウェイは謝らない」:中国の言論統制と戦う一人の芸術家、活動家を通して、様々なことを問いかける優れたドキュメンタリー

アイ・ウェイウェイは謝らない」(原題:Ai Weiwei: Never Sorry)は、2012年の公開のアメリカのドキュメンタリー映画です。アリソン・クレイマン監督が、中国を代表する現代芸術家として存在感を発揮する一方、自国に対して痛烈な批判を繰り返すことでも知られるアイ・ウェイウェイの姿を追ったドキュメンタリーです。2012年のサンダンス映画祭で、審査員特別賞を受賞した作品です。

 

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スタッフ・キャスト

監督:アリソン・クレイマン
脚本:アリソン・クレイマン
出演:アイ・ウェイウェイ
   チェン・ダンチン
   ガオ・イン
   グー・チャンウェイ
   ほか

あらすじ

  • アイ・ウェイウェイは中国随一の著名な現代芸術家であると同時に、声高な自国批判者でもあります。2008年北京オリンピックの「鳥の巣」スタジアムのデザインを手掛けながらも、オリンピックを糾弾したことで危険分子として注目されるようになりました。さらに、2008年5月の四川大地震における校舎倒壊と5,000人以上の学童の死について独自の調査を行なった為、中国政府との対立が決定的となります。
  • 本作は、アイ・ウェイウェイが四川での調査に着手し、政府の監視の目が厳しくなってゆく2008年12月からスタートします。2009年8月には、深夜に警察に急襲されるという事態に発展し、暴行を受けた彼は脳内出血、緊急外科手術を受けます。翌月にはミュンヘンでヨーロッパ初の大規模個展が開催され、地震で亡くなった学童たちを追悼するために、9,000個の通学カバンで作られたインスタレーション「追悼」が紹介されます。地元警察の暴力を告発し、学童たちの死を調査するという公私両面の正義追求のため、四川省省都成都を繰り返し訪れるアイ・ウェイウェイには、終始、私服刑事たちの尾行と監視がつきまといます。
  • その一方で、彼の芸術家としてのキャリアは急上昇します。ロンドンのテート・モダンのタービンホールで新作を展示するという名誉ある依頼を受け、2010年には手仕事で作られた磁器製のヒマワリの種一億粒をテート・モダンに敷き詰めるという大規模プロジェクトを実現します。そこに使われた種は、彼のこれまでの取り組みの総和とも言える、大衆伝達・大衆参加の持つ力の象徴です。
  • それから間もなく、中国政府が圧倒的な力で反撃します。2011年初め、全国規模の反政府者弾圧を背景に、上海のスタジオを無残に取り壊されたアイ・ウェイウェイは、81日間に渡って当局に身柄を拘束されます・・・。

レビュー・解説

下手に作り込むことなく、事実を押さえ、アイ・ウェイウェイ本人に語らせていくナチュラルな演出の本作は、中国の言論統制と戦う一人の生身の芸術家、活動家の姿を通して、様々なことを問いかける優れたドキュメンタリーです。

 

アイ・ウェイウェイは、中国の現代美術家・キュレーター・建築家・文化評論家・社会評論家で、中国の現代美術が始まったばかりの1980年代から美術家として活躍し、中国の美術および美術評論を先導して世界各地で活動する一方、社会運動にも力を入れています。著名な詩人であるアイ・チンを父に、同じく詩人のガオ・インを母に北京で生まれ、アイ・チンは文化大革命で非難され中国共産党から除名、一家で新疆ウイグル自治区強制収容所に送られました。アイ・チンが様々な迫害を受ける記録映像も、本作に収められています。アイ・ウェイウェイは、1981年から1993年までアメリカに移り、主にニューヨークを中心に、パフォーマンスアートやコンセプチュアル・アートの制作に取り組み、個展を開催、グループ展に参加します。1993年、父の病気のため中国へ戻り、その後、中国を拠点に活動、2007年の北京オリンピックの主会場である通称「鳥の巣スタジアム」の建設に際し、芸術顧問としてスイス人建築家ユニットヘルツォーク&ド・ムーロンと共同制作を行います。後に、政治的プロパガンダとしてのオリンピック失望し、開催に反対する考えを示しますが、黙殺されます。映画は、アリソン・クレイマン監督がアイ・ウェイウェイに出会った2008年以降を中心に構成されています。

 

監督、プロデューサー、撮影、共同編集と本作の中心人物であるアリソン・クレイマンはフリーのジャーナリストで、ドキュメンタリー映画作家でもあります。2006年から2010年まで中国に暮らし、その間にラジオ/テレビ番組特集を制作、本作がドキュメンタリー長編映画デビュー作となります。北京で暮らしていた彼女のルームメイトがアイ・ウェイウェイの写真展の準備を手伝っていたのがきっかけで、彼の映像を撮るようになりました。

2008年の12月のある朝、午前7時か、8時ころ、私とルームメイトと彼女の上司は、スタジオでウェイウェイの到着を待っていました。彼が部屋に入ってきた時、私は既にカメラを回していました。長編ドキュメンタリーという大きなプロジェクトになりましたが、私と彼の関係は、最初の日から「アリソンはカメラを回している」でした。

最初の数週間で、彼は四川大地震について語り、彼のブログの検閲について語りました。彼について知りたいと思うことが、思った以上にたくさんあり、彼を描いた90分の映画が出来ると思いました。彼の周囲にいることは楽しく、彼の話は驚異的で、議論を呼ぶものでした。(アリソン・クレイマン監督)

 

彼らが出会った時は、ちょうどアイ・ウェイウェイが政府によってブログを閉鎖され、メッセージを発する場をツィッターに求めていた時期でした。アイ・ウェイウェイにとっても、ドキュメンタリーの被写体になることは、メッセージを発する手段として好都合だったのかもしれません。しかし、カメラに向かって安易なパフォーマンスをすることはなく、カメラが回っているいないに関わらず、彼の言動が変わることはなかったと言います。芸術や活動に関することばかりではなく、彼の愛人とその子供も本作に登場しますが、妻との三角関係についても、彼は実直に答えています。本作は都合よく彼の生き方を繕ったものではなく、むしろ、一人の生身の芸術家、活動家を捉えたものです。中国の言論統制はどうなのか、アイ・ウェイウェイは芸術家なのか、活動家なのか、芸術と政治の関係とはどうなのか、彼の生き方はどうなのか、人間としての彼はどうなのか等、様々なことを問いかけてくる作品です。

 

アイ・ウェイウェイ(左)

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活動家でもある

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四川大地震の犠牲になった子どもたちの名簿

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犠牲者を発表しない中国政府に業を似やしたアイ・ウェイウェイは独自に調査をし、犠牲者をブログで公表するが、中国政府がブログを閉鎖する。

 

四川で警官の暴行を受け脳内出血、緊急外科手術を受ける

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四川大地震で犠牲になった子どもたちを、ランドセルのインスタレーションでアピール

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ひまわりの種を模した陶器を床に敷き詰めたインスタレーション

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彼の作品には、大衆、民衆といったテーマが底にある。

 

愛人と子供も出演

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インタビューで妻の愛人の三角関係を問われて、実直に答えるなど、等身大のアイ・ウェイウェイが描かれている。

 

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