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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「クスクス粒の秘密」:チュニジア系フランス人大家族の日常と、世代を超えて受け継がれる移民のエネルギーをスリリングな展開で描く

フランス映画 チュニジア映画

「クスクス粒の秘密」(原題:La graine et le mulet、別題:Couscous、英題:The Secret of the Grain)は2007年公開の、フランス・チュニジア合作のドラマ映画です。アブデラティフ・ケシシュ監督・脚本、アビブ・ブファーレ、アフシア・エルジら出演で、造船所をリストラされた60歳のチュニジア移民の男と様々な問題を抱えるその家族が、船上レストランの開店に向けて奔走する姿をスリリングに描いています。2007年ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞、2008年セザール賞で4部門を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:アブデラティフ・ケシシュ
脚本:アブデラティフ・ケシシュ
出演:

  • アビブ・ブファーレ(スリマーヌ)
    60歳の港湾労働者。マグレブからの移民。最初の妻、スアドと離婚。愛人のラティファとその娘リムが切り盛りする場末のホテルで暮らしている。
  • アフシア・エルジ(リム)
    ホテルの女主人ラティファの娘で、20歳の移民二世。しっかり者で、スリマーヌを父と慕い、彼の船上レストラン開業を手伝う。
  • ブラウイア・マルズーク(スアド)
    スリマーヌの最初の妻で。大家族の女家長的存在。息子と同じ集合住宅の別の階に住み、日曜日には大家族のためにクスクス料理を作る。
  • ファリダ・ベンケタシュ(カリマ)
    スリマーヌとスアドの上の娘。マグロの缶詰工場で働いており、夫との間に子供が二人いる。
  • サミ・ジトゥーニ(マジッド)
    スリマーヌとスアドの上の息子。ロシア移民のジュリアと結婚するが浮気している。自分の家族を顧みない一方で、親の大家族の一員として楽しんでいる。
  • サブリナ・オアザニ(オルファ)
    スリマーヌとスアドの下の娘。大家族の子どもたちの面倒を見ている。
  • ハメド・べアブデスレム(リアド)
    スリマーヌとスアドの間下の息子。思春期で、父親の船上レストランの改装を手伝いながら、リムにのぼせ上がっている。
  • アリス・ユーリ(ジュリア)
    若いロシア系の移民。マジドと不幸な結婚生活を送っている。夫の親族から孤立し、捨て置かれていると感じており、実の兄弟が心の支え。
  • アティカ・カラウイ(ラティファ)
    スリマーヌの愛人。娘リムとともに場末のホテルを切り盛りしている。
  • アブデルハミッド・アクトゥーシュ(ハミッド)
    ラティファのホテルの常連客、ミュージシャン。

  ほか

あらすじ

フランス南部の港町セートで港湾労働者として働くチュニジア移民のスリマーヌ(アビブ・ブファーレ)は、60歳で年を重ねるごとに仕事は辛くなり、リストラの波も押し寄せます。前妻スアド(ブラウイア・マルズーク)との間に子どもと孫がいますが、家族からは疎まれていると感じています。そんな中、彼は古い船を買い取って船上レストランを始めることを思い立ち、彼の愛人の娘リム(アフシア・エルジ)がそれを手伝います。それぞれが問題を抱えるスリマーヌの家族たちは総出で開店パーティーの準備をしますが、予定していた自慢のクスクスが届きません。家族は団結してなんとか窮地を切り抜けようとしますが・・・。

レビュー・解説

移民当事者の視点で複雑な家族の日常生活を美化することなく描き、一種、喜劇的とも言えるスリリングな展開の中で、世代を超えて受け継がれていく結束やエネルギーを俳優たちが熱演、彼らの体温が感じられるようなユニークで魅力的な作品です。

 

アブデラティフ・ケシシュ監督はチュニジア系移民二世で、六歳の時に父に連れられてフランスのニースに移住しています。「父とムスタファ・アドゥアニ、フランシス・アルノーに捧ぐ」と映画の最後に献辞が出ますが、本作は様々な苦労を経てそれなりの生活ができるようになったケシシュ監督が、移民一世の父と同じ苦労をした同世代の移民に感謝の念を込めて制作した作品です。平和そうな邦題からはほのぼのとした話が連想されますが、サクセスストーリーでも移民一世を美化する話でもなく、予想外のスリリングな展開の中、何とかしようと世代を超えて結束していく移民のエネルギーが、終盤のチュニジア風の民族音楽と激しいベリーダンスで最高潮を迎えるという展開になります。

 

フランスの移民は約800万人、それを上回る移民二世がいるとも言われ、合わせるとフランスの人口の二割以上になると見られます。かつてフランスの植民地だった国々からの移民が多く、マグリブ(モロッコ、アルジェリアチュニジア西サハラ北アフリカ北西部に位置するアラブ諸国)からの移民が三割近くを占めます。フランス人5人にひとりが移民もしくは移民二世なわけで、移民を扱ったフランス映画も少なくありません。

 

移民を描いた数多いフランス映画の中で、「クスクス粒の秘密」は、

  • 移民当事者の視点で描かれている
  • 社会環境や、差別、偏見の描写はあるが、必ずしも主眼ではない
  • 離婚、リストラ、浮気、育児ストレスなどの移民の生活を美化していない
  • シリアス・タッチではなく、一種、コミカルに展開する
  • 世代を超えて受け継がれる、移民のたくましさやエネルギーを讃える

といったユニークな作品であり、また、家族を描くことにより、移民のコミュニティにとどまらず、普遍的な共感が得られる作品になっています。

この映画は、フランス南部、セットの港町を舞台にしているが、その社会環境を描きたかった。自分はそんな環境で育ったが、誰もそれを映画化していなかった。自分のよく知っている世界、自分の愛する大事な世界を描けば、それが観客にも伝わり、何を見ているのか、理解できると思う。

自分自身の家族に基づいて映画を作りたかった。スリマーヌは仕事を得るために国を離れ、子の世代には生活も良くなるだろうと頑張った自分の父や同世代の男たちの象徴だ。彼らのヒロイックな側面を描きたかったんだ。(アブデラティフ・ケシシュ監督)

 

ケシシュ監督は、センセーショナルな映画「アデル、ブルーは熱い色」(2013年)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを獲得、一躍、有名になりましたが、食と性によってエネルギーを表現する点が本作と共通しています。「アデル、ブルーは熱い色」は性を主眼としたものですが、何か食べるシーンをしつこいほど映し出し、主人公の生命力を感じさせます。一方、「クスクス粒の秘密」は食がメインですが、終盤の圧巻のベリーダンスが性的なエネルギーを感じさせます。

 

ケシシュ監督は演技経験の少ない俳優を多用しますが、これはプロの俳優を嫌っているわけではなく、彼の撮影方法が時間がかかる為、長期間拘束することが難しいプロの俳優をなかなか使えないことに由来します。「アデル、ブルーは熱い色」では、交差点ですれ違う数十秒のシーンを100テイクも撮り直し、また、映画全体の撮影時間は800時間、撮影期間は当初の予定2ヶ月に対して5ヶ月もかかっています。本作も、終盤の船上レストランでのディナーシーンは、各テーブルでカメラを意識しない会話が同時進行、これを固定カメラで捉えながら絵になる部分をハンディカメラで追う形で撮影していますが、この部分だけで撮影に1ヶ月以上かけています。同様、序盤のおむつの話、大家族での食卓での会話、中盤の楽士たちの雑談、女たちのキッチンでの会話、終盤の夫の浮気に慟哭する妻などもそうですが、こうした日常のシーンをアップを多用して執拗に描写していくのは彼独特のスタイルです。プロット上の重要性もさることながら、登場人物の性格やぬくもり、熱気やエネルギーといったものが、否が応でも肌に感じられます。

 

主役のスリマーヌはプロの俳優が演じる予定でしたが、撮影前に急死、急遽、アビブ・ブファーレが起用されました。彼はケシシュ監督の父親が働いていた建設現場の同僚ですが、スリマーヌ同様、寡黙な男で、敗北、抵抗、愛、悲しみといった年輪に重なる様々な表情を、実に味わい深く見せています。また、ヒロインのリム役を演じたアフシア・エルジも演技経験がほとんどなく、エキストラ希望でした。しかし、彼女の中に光るものを見出したケシシュ監督は、その資質と才能を活かすために脚本を書き換え、リム役を膨らましています。彼女はベリーダンスについてもほとんど知らす、毎日、数時間練習して習得したといいます。新人女優の資質を見出し、とことん作品に活かす展開も、アデル・エグザルホプロスの魅力をフルに引き出した「アデル、ブルーは熱い色」に似ています。ケシシュ監督の目に狂いはなく、アフシア・エルジはこの映画に後にも評価の高い作品に出続けています。

 

アビブ・ブファーレ(スリマーヌ)

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スリマーヌは60歳の港湾労働者。マグレブからの移民。最初の妻、スアドと離婚し、愛人とその娘リムが切り盛りする場末のホテルで暮らしている。アビブ・ブファーレは、ケシシュ監督の父親が働いていた建設現場の同僚で、作中のスリマーヌ同様、寡黙な男。敗北、抵抗、愛、悲しみといった年輪に重なる様々な味わい深い表情を見せる。

 

アフシア・エルジ(リム)

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リムはスリマーヌの愛人ラティファの娘で、母ととともに場末のホテルを切り盛りする20歳の移民二世。しっかり者で、スリマーヌを父と慕い、彼の船上レストランの開業を手伝う。演じるアフシア・エルジは、ほとんど演技経験のないエキストラから、ケシシュ監督に見出され、ヒロインに抜擢された。素晴らしいパフォーマンスを見せており、彼女がいなければ本作の成功はなかったかもしれない。

 

ブラウイア・マルズーク(右、スアド)

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スアドはスリマーヌの最初の妻で、大家族の女家長的存在。息子と同じ集合住宅の別の階に住み、日曜日には大家族のためにクスクス料理を作る。

 

大家族での食事

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日曜日には大家族が集い、さして広くない部屋にぎゅうぎゅう詰めになって一緒に食事をする。クスクスはこれに欠かせないメニューだ。浮気性の夫に捨て置かれていると感じているジュリアは参加しないとゴネるが、義姉に説得される。家を出た形になっているスリマーヌは顔を出さないが、息子たちがおすそ分けを届けてくれる。

 

大家族のつながりを象徴するマグレブ由来のクスクス料理

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クスクスは小麦粉から作る粒状の粉食、及びその食材を利用して作る料理。発祥地の北アフリカマグリブ近辺)から中東にかけての地域と、それらの地域から伝わったフランス、イタリアなどのヨーロッパ、およびブラジルなどで食べられている。

 

情熱的なベリーダンス

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スリリングなストーリー展開と相まって、チュニジア風の民族音楽ベリーダンスがさまざまな問題を乗り越えようとする移民のエネルギーとたくましさを象徴する終盤は圧巻。

 

原題の「La graine et le mulet」は、「穀物とラバ」という意味で、それぞれスリマーヌの元妻とスリマーヌを暗示しています。mulet にはボラという意味もあります。スリマーヌが家族に配って回る魚ですが、リム以外にはさして歓迎されません。職場でも仕事が遅いとお荷物扱いのスリマーヌは、家族にも疎まれているようで、手料理のクスクス(穀物)が家族に大人気の元妻と対称的です。でも、ラバは辛抱強く、頑固です。子供たちの代には幸せになれると信じ、黙々と働き続けてきた父に対するケシシュ監督の親しみと愛情が感じられるタイトルです。

撮影地(グーグルマップ)

 

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関連作品

アブデラティフ・ケシシュ監督作品のDVD(Amazon

  「アデル、ブルーは熱い色」(2013年)

 

移民を描いたフランス映画Amazon

  「トリコロール/白の愛」(1994年)フランス・ポーランド・スイス合作

  「憎しみ」(1995年)

  「クスクス粒の秘密」(2007年)フランス・チュニジア合作

  「パリ20区、僕たちのクラス」(2008年)

  「預言者/アンプロフェット」(2009年)

  「パリ警視庁:未成年保護部隊」(2011年)

  「最強のふたり」(2011年)

  

ル・アーヴルの靴みがき」(2011年)フィンランド・フランス・ドイツ合作

  「ある過去の行方」(2013年)

  「ディーパンの闘い」(2015年)

 

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