夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「AMY エイミー」:才能と成功の皮肉な関係、酒と薬物への依存、27歳の天才的女性歌手の素顔と死の背景が浮かび上がるドキュメンタリー

「AMY エイミー」(原題:Amy)は、2015年公開のイギリス・アメリカ合作のドキュメンタリー映画です。カリスマ性と抜群の歌唱力でファンを魅了し、多くのミュージシャンから愛され、2008年のグラミー賞で5部門受賞を成し遂げるなど輝かしいキャリアを誇る一方、さまざまなスキャンダルで注目を浴びる中、2011年に27歳の若さで亡くなった歌手エイミー・ワインハウスの知られざる素顔と波乱の人生を、未公開フィルムやプライベート映像とともに、アシフ・カパディア監督が映し出しています。第88回アカデミー賞で、長編ドキュメンタリー賞を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:アシフ・カパディア
出演:エイミー・ワインハウス
   ミッチ・ワインハウス
   マーク・ロンソン
   サラーム・レミ
   トニー・ベネット
   ほか

あらすじ

2003年にデビューアルバムをリリースしたエイミー・ワインハウスは、圧倒的な歌唱力と歌声で一躍トップスターの仲間入りをします。10代でレコード会社と契約を結び、弱冠20歳で完成させたデビュー・アルバム「Frank」で大きな評価を得た後、続くセカンド・アルバム「Back To Black」が全世界1200万枚のセールスを記録、シングル「Rehab」も大ヒットし、第50回グラミー賞で年間最優秀レコードをはじめ5部門で受賞するなど大成功を収めますが、2011年に27歳の若さでこの世を去ります。華々しいキャリアの一方、スキャンダラスな私生活にもフォーカスされる機会の多かった彼女の知られざる真実を、これまでに公開されたことのない映像やプライベート映像などで振り返ります。

レビュー・解説

才能と成功の皮肉な関係、ドラックやアルコールへの依存、悲しくもセンセーショナルな27歳の天才的女性シンガーの素顔とその死の背景が赤裸々に浮かび上がる、優れたドキュメンタリーです。

 

ダイナ・ワシントン、サラ・ヴォーントニー・ベネットキャロル・キングジェイムス・テイラーらの音楽を聴いて育ったというエイミー・ワインハウスの歌声が素晴らしいです。思春期にニューソウル、ヒップホップ、カリビアン・ミュージックの影響を受け、現代風になっているものの、50年代のジャズ、60年代のソウル・ミュージックをベースとするサウンドには、時間をかけて熟成されたかのような暖かみが感じられます。

彼女の歌を聞いた時、本物だと思った。まるで65歳の熟練のジャズ歌手みたいな歌い方だ。18でこれじゃ、25になった時、どうなるんだと思った。(サラーム・レミ)

映画には、彼女が自身のどろどろとした身を切るような体験を詞にし、曲をつけていく様子が描かれていますが、できた曲は思いのほか、あっさりとしています。彼女は曲にすることにより吹っ切れると言い、生々しい辛さは完全に昇華されています。

 

機能不全家族に育ち、過食症になっても誰にも気づかれなかったという彼女は、ジャズやソウルが心の支えとなり、歌うことで救われていました。そんな彼女に、プロになることや有名になることへの執着は感じられませんが、精神的な未熟さに対してアンバランスなほど歌の完成度が高いように思われます。成功への執着があればそれなりに備えたのでしょうが、彼女は愛に飢えた子供のまま、不用意に有名になり、莫大なお金を稼ぐようになります。

彼女はスターになって、天狗になるどころか戸惑ってた。不安と恐怖でいっぱいだったんだ。自分を取り巻く状況に『どうしたらいいの?』と言ってたよ。 (ヤシーン・ベイ)

  

酒やドラッグに溺れるようになりますが、映画を見る限り、いざとなると彼女はきちんと仕事に取り組みことができ、更生の可能性は十分にあったように見受けられます。

僕にとっては魔法のような時間で、彼女も意欲的に仕事した。だから噂が理解できなかった。なぜ優柔不断な問題児と言われるのか。(マーク・ロンソン)

古くから彼女を知る友人たちや最初のマネージャーは、彼女を更生施設に入れるべきと考えましたが、彼女が頼りにする夫や父親、新しいマネージャーらはそうしないことを選択します。彼らにとって彼女は金づるであり、夫に至ってはドラッグは彼女を引き止めておくのに好都合なものでした。彼女は共依存的関係にある人々に翻弄され、本当に彼女の為を思ってくれる人々の声は彼女には届きませんでした。

彼女は聡明で、才能があり、とてもユーモアにあふれた人という素晴らしい人なのに、どうして悲劇的な人生になってしまったのか。誰でもそうだと思うけれど、愛に関しては誰でも無防備になってしまうものだ。エイミーは愛されることを求めていて、それゆえにしばしば人生において間違った選択をしてしまったんだ。誰も恋に落ちることをコントロールすることはできない。エイミーもブレイクという男を愛してしまっただけなんだ。アーティストやクリエイティブな人間が超がつくほど繊細だというのは本当だと思う。 (アシフ・カパディア監督)

 

映画では、好きなはずの歌が彼女の心の重荷になっていく様が描かれています。気が進まなくても、彼女はツァーに出て歌わなければなりません。酒やドラッグを過剰摂取して倒れれば歌わずにすむので、彼女は酒やドラッグに溺れます。ビリー・ホリデイジャニス・ジョプリン、カレン・カーペンター、ホイットニー・ヒューストンなど、悲劇的な最後を迎えた女性シンガーは彼女が初めてではありませんが、素晴らしい才能が必ずしも幸せを約束し、長く人々を楽しませるを意味しないことが残念です。

彼女は紛れもない本物のジャズ歌手だ。エラ・フィッツジェラルドビリー・ホリデイに匹敵する素晴らしい才能だった。彼女が生きていたら言いたい。『生き急ぐな。生き方は人生から学べる。』 (トニー・ベネット

 

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ロンドンの同じ地区に住む、「地元の普通の女の子」であったエイミーが亡くなった時、ただ遠巻に見ているだけだったアシフ・カパディア監督は、彼女に何があったのか、本当はどんな女の子だったのか、調べなければいけないと思い、家族や友人、音楽関係者への長時間にわたる取材を行います。しかし、本作にはこれらの人々がアップで登場し、長々とエイミーについて語るというシーンはありません。彼は代わりに、エイミーがホテルや自室でリラックスしてギターを弾き、ノートに歌詞を書く様子や、幼なじみの友人たちとのパーティー、スタジオでのレコーディング風景、ライヴ直前の舞台裏など、エイミーのプライベート映像や未発表曲などにより彼女を描き、彼女がノートに書いていた数々の歌詞を通じて、隠された出来事や感情を明らかにしています。

この映画のリサーチには3年を費やした。映像をみたり、親しかった人たちに話を聞いたり。110人以上の人に会ったよ。歌を聞いて、歌詞を検証し直したりしていた。彼女の書く歌詞は特別だった。文学的であり、詩的だった。そしてなにより個人的なものだった。日記のようにね。あまり知られていないけれど、彼女はとても書くことにおいて才能があったと思うよ。彼女は人生を歌で表現した。歌は、彼女のアイデンティティの証だった。だから、この映画を観たファンが、すでに知っていて何度も聴いている彼女の歌を聴いたとき、もっと深く、解釈できるようになったらいいと思ったんだ。(アシフ・カパディア監督)

 

カパディア監督は、彼女の何百もの録音されたインタビューを聞き、本作で何を描くか決めたと言います。監督の意図が明確に反映されたドキュメンタリーですが、恐らく彼のエイミーに関する解釈は間違っていないでしょう。センセーショナルで悲しい題材を、しっかりとした取材に基づいた明確な解釈で描く、説得力のある優れた作品です。

サウンドトラック

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1. Opening
2. Stronger Than Me
3. Poetic Finale
4. What Is It About Men
   [Live @ North Sea Jazz Festival]

5. Walk – Antonio Pinto
6. Some Unholy War [Downtempo version]
7. Holiday Texts
8. Kidnapping Amy
9. Like Smoke [Demo]
10. Tears Dry On Their Own
11. Seperacao Fotos – Antonio Pinto
12. The Name Of The Wave – Strange Cargo
13. Back To Black [Acapella / Album Medley]
14. Cynthia
15. Rehab [Live on Jools Holland]
16. In the Studio
17. We’re Still Friends [Live @ Union Chapel]
18. Amy Lives
19. Love Is A Losing Game
    [Live @ Mercury Awards]

20. Arrested
21. Body and Soul
22. Amy Forever
23. Valerie [Live @ BBC]

撮影地(グーグルマップ)

 

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関連作品

エイミー・ワインハウスのアルバムAmazon

 Amy Winehouse「Frank」輸入版

  Amy Winehouse「Back to Black」輸入版

 Amy Winehouse「Lioness: Hidden Treasu」輸入版

 

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 「アイルトン・セナ~音速の彼方へ」(2010年)

 

ドラッグやアルコールが原因で夭逝したミュージシャンの映画のDVD(Amazon

  「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」(2009年)

「ブルーに生まれついて」(2015年)

  「ホイットニー 〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜」(2018年)

 

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