夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「シング・ストリート 未来へのうた」:80年代ブリティッシュ・サウンドとフレッシュなキャスティングが心地よい、半自伝的青春音楽映画

「シング・ストリート 未来へのうた」(原題: Sing Street)は、2016年公開のアイルランドのコメディ&ドラマ映画です。ジョン・カーニー監督・脚本・制作、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ルーシー・ボイントン、ジャック・レイナーら出演で、1985年のダブリンを舞台に、不景気や両親の不和、転校でどん底にいたハイスクールの生徒が、一目惚れした女の子の気を引くためバンドを結成し、人生を変えていく様子を描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ジョン・カーニー
脚本:ジョン・カーニー
原案:ジョン・カーニー/サイモン・カーモディ
出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ
   (コナー・"コズモ"・ロウラー、主人公、バンドのボーカル)
   ラフィーナ(ルーシー・ボイントン。ヒロイン、ロンドンでの成功を目指す)
   ジャック・レイナー(ブレンダン、コナーの兄、コナーのロックの師匠)
   エイダン・ギレン(ロバート、コナーの父で、失業した建築家)
   マリア・ドイル・ケネディ(ペニー)コナーの母
   ケリー・ソーントン(アン) コナーの姉、大学で建築を学ぶ
   ベン・キャロラン(ダーレン、バンドのマネージャー兼カメラマン)
   マーク・マッケンナ(エイモン、 バンドのギター、コナーと一緒に作曲する)
   パーシー・チャンブルカ(ンギグ、バンドのキーボード、唯一の黒人)
   コナー・ハミルトン(ラリー、バンドのドラム)
   カール・ライス(ギャリー、バンドのベース
   イアン・ケニー(バリー、 いじめっ子、後にバンドのローディーとなる)
   ドン・ウィチャリー(バクスター校長、ハイスクールの校長、修道士)
   リディア・マクギネス(ミス・ダン、ハイスクールの美術教師)
   ほか

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 あらすじ

  • 1985年、ダブリンに住むロウラー家は、不況の為、建築家の父ロバート(エイダン・ギレン)が失業し、苦境に立たされています。喧嘩が絶えないロバートと妻ペニー(マリア・ドイル・ケネディ)は別居も考えており、ロバートは酒浸りです。ある日、ロバートは末息子コナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)に、学費節約の為、私立から公立の学校へ転校するように話します。ロバートは転校先のシング・ストリート・ハイスクールの評判を話しますが、コナーの兄ブレンダン(ジャック・レイナー)は、ばらばらの家族とコナーの転校に自嘲的です。そんな現状から逃れるように、ブレンダンとコナーはロンドンのポップ音楽へのめり込みます。
  • シング・ストリート・ハイスクールに転校したコナーは、校長のバクスター修道士(ドン・ウィチャリー)に校則違反の茶色い靴を咎められ、いじめっ子のバリー(イアン・ケニー)にも目を付けられます。散々なスタートを切ったコナーに、自称「校内コンサルタント」のダーレン(ベン・キャロラン)が声を掛け、二人は友人になります。彼らが下校しようとした時、コナーは、ハイスクールの向かいのフラットの入り口に立つ若い女性モデル、ラフィーナ(ルーシー・ボイントン)に気付き、一目惚れします。彼女の気を引く為、コナーは組んでもいないバンドのミュージック・ビデオ への出演を持ちかけ、ラフィーナの電話番号を手に入れます。ダーレンはバンドのマネジメントを引き受け、楽器に万能な友人エイモン(マーク・マッケンナ)をコナーに引き合わせます。
  • その後、街で唯一の黒人として誘われたンギグ(パーシー・チャンブルカ)、メンバー募集の張り紙を見てやってきたギャリー(カール・ライス)とラリー(コナー・ハミルトン)を加え、バンドは5人となり、学校名とかけてバンド名は「シング・ストリート」に決まります。彼らはエイモンの家で1980年代のバンドをコピーし始めますが、デュラン・デュランをコピーしたテープを聴いたブレンダンは、「他人の曲で女の子を口説くな、自分の曲を作れ」と弟を叱咤します。コナーはエイモンと作曲を始め、自作曲「Riddle of the Model」(モデルの謎)を完成させます。
  • メンバーはバラバラの衣装を着てミュージック・ビデオ撮影に臨み、ラフィーナは謎のモデル役とメイクを担当します。撮影後、コナーはラフィーナを家まで送り届け、キスをしようしますが、そこにラフィーナの年上の彼氏エヴァン(ピーター・カンピオン)がオープンカーで乗り付け、彼女を連れて走り去ってしまいます。ラフィーナは別れ際に、エヴァンとロンドンに出てモデルとして成功すると夢を語ります。2人が立ち去った後、コナーはラフィーナの住むフラットが、実は孤児のために作られた施設だと気付きます。帰宅して落ち込むコナーを、ブレンダンは勇気づけて応援します。
  • 数日後、コナーと再び会ったラフィーナは生い立ちをコナーに話し、新曲を書いて、自分がロンドンに発つ前にビデオを撮影してほしいと頼みます。海辺のダン・レアリーで2本目のミュージック・ビデオを撮影している最中、ラフィーナは「何事も半端はだめ」と作品のため海へ飛び込みます。コナーは海へ飛び込み泳げないラフィーナを助け、二人の間に信頼感が生まれ、キスを交わします。二人の交際を進展し、コナーの祖父のモーターボートでダルキー島へ向かいます。アイルランドを離れブリテン島へ向かうフェリーを見た二人は、ラフィーナの「ロンドンに行く」夢について語り合います。
  • 学校主催のプロムを初ライブに決めたメンバーは、新曲とミュージック・ビデオ作りに没頭します。コナーは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」ばりのミュージック・ビデオを撮ろうと妄想しますが、ラフィーナは撮影現場に現れません。彼女のフラットに向かったコナーは、ラフィーナエヴァンと共にロンドンへ旅立ったことを住人から伝えられます・・・。

レビュー・解説

80年代ブリティッシュ・サウンドの親しみやすい楽曲とフレッシュなキャスティングがテンポよく進むストーリーを盛り上げる、明るく心がこもったジョン・カーニー監督の半自伝的な音楽コメディ&青春ドラマ映画です。

 

ダブリンに生まれ育ち、アイルランドのロックバンド「ザ・フレームス」のベーシストやミュージック・ビデオ制作を経験したジョン・カーニー監督が、彼の母校を舞台に、彼がやりたかったけれどできなかったことを映画の中で実現した作品です。

自分自身を反映した作品を作りたかった。ただの音楽の物語にはしたくなかったんだ。映画では基本的に、僕が主人公の年頃にやりたかったけれどできなかった全てのことを映画の中で実現した願望充足の映画なんだ。僕が12、13の頃、お金もなくて、荒れた学校に行ってた。学校には僕のことをボコボコにしたい奴らが溢れていた。彼らは僕のことが理解できなかったんだ。その頃の僕ができなかったことをこの少年を通じて少し冒険できたらいいなと思って。そこからこの映画が幕をあけるんだ。僕が子どもの時、自分のバッグを赤ちゃんのように抱きかかえている女の子がいたんだ。独特の色気があって。彼女が13歳で僕が12歳の頃。毎日彼女とすれ違うんだけど彼女に近付き話しかける勇気がなかった。この映画は、そんなに若い年頃で誰かに話しかけ、好きな人に自分の存在をわかってもらうことがどんな気分なのかという話なんだ。この女の子に近づいたときに次に何が起こるのかは予想できない。その瞬間自分が弾けてしまいそうな感じになるんだ。この映画の撮影中は毎日その感覚が蘇ってきたよ。だからこの映画を作ったおかげで僕は彼女も射止め、バンドも結成し、弱虫だった少年ができなかった全てをかなえることができたんだ。この映画が何を言いたいかっていうと、幼い頃に何が起きたとしても、いじめっ子に狙われても、宿題をやらなくても、彼女がいなくても、ヘッドホンから音楽が流れていればそれで大丈夫だったんだってこと。(ジョン・カーニー監督)

 

物語の舞台は、1980年代のアイルランドのダブリンだ。 この映画の要素の多くが、ジョンの子供時代の体験から来ている。彼は一流の学校からシング・ストリートの学校へ転校した。コナーが、父親が失業して資金繰りが苦しくなったせいで、洗練された教育の場から荒っぽい世界へ放り込まれたのと同じようにね。すぐに袋叩きに遭い、弱みを握られ、自分を守るため、そしてかわいい女の子の興味を引くためにバンドを組んだのもジョンの体験に基づいている。(アンソニー・ブレグマン、プロデューサー)

 

演技経験よりも音楽経験のある音楽が好きな少年たちをオーディションで集め、彼らのキャラクターを重視、カーニー監督自身の経験にこだわることなく少年たちの個性を引き出し、ナチュラルで素晴らしい作品を作り上げています。

(家庭環境も実際と異なるが、)最も異なるのは、コナーがハンサムで正しいことができる、自信に溢れた少年だということ。僕とは全く違う。僕にも信ずるものはあったが、胸を張っては歩かなかったし、そうも見られてなかった。主役がフェルディアに決まった瞬間、映画がガラッと変わったんだ。服は体に合わせてカッティングすることが大切だ、俳優に無理強いしちゃいけない。僕は彼に乗ったんだ、彼の馬鹿げた自信にね。彼は面白くて現代的だ。最近の子供達は自信を持っている。利用した訳じゃないが、それに抗わなかったんだ。(ジョン・カーニー監督)

 

80年代にイギリスのロックバンド「ダニー・ウィルソン」のフロントマンとして活躍した、ソングライターのガリー・クラークが手がけるオリジナル曲も素晴らしいです。80年代は音楽と映画が一体となり、サウンドトラックがブームになった時代でもありますが、本作の楽曲はまさに映画のストーリーに密着した素晴らしい曲ばかりです。

80年代に作られたと思える音楽を作りたかったんだ。80年代はそれまでになかった新しい音楽を作り上げた最後の真の10年間だと思う。80年代の音楽みたいな、キャッチーでサビが印象に残る、素晴らしい音楽にしたかったんだ。ただ、コピーではなくオリジナルの音楽としてね。

80年代に聞いたガリー・クラークの音楽が好きだった。「ミート・ダニー・ウィルソン」は素晴らしいアルバムだ。

歌詞と曲は演出と同じくらい重要だ。少なくても正しい組み合わせが必要だ。これからも、いろんな映画で、いろんな作曲家と組んでみたい。(ジョン・カーニー監督)

 

また、80年代はミュージック・ビデオがストーリ性とファッション性を持ち始めた時代ですが、本作にはそんなビデオが劇中劇のように効果的に挿入されています。「The Riddle of the Model」のミュージック・ビデオは、バンド・メンバーたちの個性や憧れがうまく反映されており、また、「Drive It Like You Stole It」のビデオは、しょぼいリハーサルの現実とコナーが空想する映像の対比が素晴らしいです。

ミュージックビデオを撮影するために、80年代のビデオの構造やデザイン、そして編集を分析したんだ。最初のビデオは子供が撮ったように、わざとピントを外したが、3番目は洗練された80年代のビデオを彷彿させるものになったと思う。僕は、音楽を作っていくクリエイティブなプロセスが好きなんだ。子ども達がそれに目覚めて、活き活きしていく姿を撮ることができてよかった。(ジョン・カーニー監督)

 

<ネタバレ>

プロムでの演奏は成功裏に終わり、コナーはエヴァンに捨てられて戻って来たラフィーナとともに、モーターボートに乗ってイギリスに向かいます。リアルなストーリーがいつの間にかミュージック・ビデオにすり替わった様なエンディングを想定したと言うカーニー監督ですが、映画を観た人は極めてリアルに捉えているのが興味深いと言います。

有終の美を飾りたかったんだが、そこにはミュージックビデオや幻想的な要素があるんだ。二人は一緒にボートに乗るが、それは危険で、海に揺さぶられる。彼はまるで彼は勇敢な船長のようだ。でも、それはみんな彼の頭の中の出来事なんだ。(ジョン・カーニー監督) 

中盤、二人がコナーの祖父のモーターボートでダルキー島に行った際、コナーはラフィーナに「船長みたい」と言われます。終盤、プロムで最後の演奏をしている最中に、コナーとラフィーナが走り出すカットが挿入されます。これは舞い上がったコナーが、演奏しながら二人の旅立ちを空想し始めたと解釈することもできそうです。カーニー監督は彼の夢を映画の中で現実にしたわけですが、エンディングはカーニー監督の意に反してコナーが彼の夢を映画の中で現実にしてしまったのかも。

<ネタバレ終わり>

 

フェルディア・ウォルシュ=ピーロ(コナー・"コズモ"・ロウラー)

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主人公、バンド「シング・ストリート」のボーカル。ソプラノの歌手でもある彼は、ヴィジュアル系のステージ・メイクが様になる。

 

ラフィーナ(ルーシー・ボイントン)

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ヒロイン、ロンドンで成功することを目指すモデル。彫りの深い彼女は、モデルの濃いメイクが様になる。

 

ジャック・レイナー(左、ブレンダン)

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コナーの兄、コナーのロックの師匠。不和の両親に代わってコナーを導く。映画の最後に「すべての兄弟たちに捧ぐ」という献辞が出るが、カーニー監督は実際、兄や姉に多くを導いてもらったと言う。

 

ベン・キャロラン(右、ダーレン)

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バンド「シング・ストリート」のマネージャー兼カメラマン。

 

マーク・マッケンナ(エイモン)

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バンド「シング・ストリート」のギター、楽器に万能、コナーの作曲を手伝う。

 

バンド「シング・ストリート」のメンバー

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右から、
ベン・キャロラン(ダーレン、マネージャー兼カメラマン)
フェルディア・ウォルシュ=ピーロ(コナー・"コズモ"・ロウラー、ボーカル)

マーク・マッケンナ(エイモン、ギター)
コナー・ハミルトン(ラリー、ドラム)
カール・ライス(ギャリー、ベース)
パーシー・チャンブルカ(ンギグ、キーボード)

 

「バレエ・シューズ」(2007年)のルーシー・ボイントン

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1994年生まれで、当時13歳。本作撮影時は20歳、ティーン・エイジャーの役だが、すっかり大人の女性になった。「ミス・ポター」(2006年)の少女時代のポター役で映画デビュー、テレビ、映画で活躍、約10年のキャリアがあり、本作でも堂々したパフォーマンスを見せている。

 

【サウンドトラック】

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1 ロックン・ロール・イズ・ア・リスク / Jack Reynor
2 Stay Clean / モーターヘッド
3 The Riddle Of The Model / Sing Street
4 Rio / デュラン・デュラン
5 Up / Sing Street
6 To Find You / Sing Street
7 Town Called Malice / ザ・ジャム
8 Inbetween Days / ザ・キュアー
9 A Beautiful Sea / Sing Street
10 Maneater / ダリル・ホール
11 Steppin' Out / ジョー・ジャクソン
12 Drive It Like You Stole It / Sing Street
13 Up / Sing Street
14 Pop Muzik / M
15 Girls / Sing Street
16 Brown Shoes / Sing Street
17 Go Now / アダム・レヴィーン
18 Up / ザ・スコア

動画クリップ(YouTube

撮影地(グーグルマップ)

 

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関連作品

ジョン・カーニー監督作品のDVD(Amazon

  「ONCE ダブリンの街角で」(2007年)

  「はじまりのうた」(2013年)

 

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シング・ストリート 未来へのうた (オリジナル・サウンドトラック)

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