夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「シチズンフォー スノーデンの暴露」:全米を揺るがした事件の決定的瞬間を即時記録、本人の言葉、表情が生々しい迫力のドキュメント

シチズンフォー スノーデンの暴露」(原題:Citizenfour)は、2014年公開のアメリカのドキュメンタリー映画です。ローラ・ポイトラス監督、スティーヴン・ソダーバーグ製作総指揮、エドワード・スノーデン、ローラ・ポイトラス、グレン・グリーンウォルドら出演で、国家による一般市民を対象にした違法なプライバシー侵害を告発した元CIA職員エドワード・スノーデンを追い、国家権力を敵に回してでも公表しようとする映画監督とジャーナリストの姿を描き出しています。第87回アカデミー賞で、長編ドキュメンタリー賞を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ローラ・ポイトラス
脚本:ローラ・ポイトラス
製作総指揮:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:エドワード・スノーデン
   ローラ・ポイトラス
   グレン・グリーンウォルド
   ウィリアム・ビニー
   ジェイコブ・アッペルバウム
   ユーウェン・マカスキル
   ジェレミー・スケイヒル
   ほか

あらすじ

イラク戦争グアンタナモ収容所についてのドキュメンタリー映画で高い評価を得るとともに、当局からの監視や妨害を受けてきた映画監督ローラ・ポイトラスは、2013年1月に「シチズンフォー」と名乗る人物から暗号化されたメールを受け取ります。それは、国家安全保障局NSA)等が、米国民の膨大な通信データを秘密裏に収集している、という衝撃的な告発でした。2013年6月、ローラは「シチズンフォー」の求めに応じて、旧知のジャーナリスト、グレン・グリーンウォルド、ガーディアン紙の記者ユーウェン・マカスキルとともに香港へ向かいます。ホテルで彼らを待っていたのは29歳の元CIA職員エドワード・スノーデンでした。一部始終をローラのカメラが記録する中、

  • NSAや他国の機関が、どのような仕組みでテロや犯罪への関与と無関係に、あらゆる国民の電話、メールからインタネーットの検索ワードまで、すべての通信記録を収集・分析しているのか
  • 政府の監視活動にIT企業がいかに協力し、情報を提供しているのか

といった驚くべき真実が次々と暴露されていきます。さらに驚いたことに、スノーデンは自ら内部告発者として名乗り出ることを望んでいました。なぜ彼は、自分や恋人の身に重大な危険が及ぶことが予測されたにもかからず、この告発に至ったのか。当局の追跡がスノーデンに迫る中、6月5日、グレンは契約していた英国紙ガーディアンに最初の記事を掲載します。そのスクープはたちまち大反響を巻き起こし、さらに6月10日、スノーデン自身が告発者であることを名乗り出ます・・・。

レビュー・解説

極秘情報の暴露を是とするとするか、プライバシー無き管理社会を是とするか、アメリカを揺るがしたスノーデン事件の決定的瞬間をリアルタイムに記録、本人の言葉、表情、人柄など、一人の人間が内部告発に踏み出す際の活字ではなかなか伝わらないものをスリリングに映し出す、ドキュメンタリーの底力を感じさせる作品です。

 

スノーデン事件に関しては、正直のところ

  • 9.11を契機に米政府はテロ捜査の為に国民の通信を盗聴できるようになった
  • スノーデンが暴露したことはあって不思議のないことで、今更の観もあった
  • 身の危険を顧みない暴露の背景には、組織との確執があったのかもしれない

くらいの認識しかありませんでした。後にスノーデンが語ったところによると、彼が冒すリスクにはその価値があるだろうかと、彼も最後まで悩んでいたと言います。

世間の人はそれが何か?と肩をすくめるだけで、世の中はいままで通り動いていくんじゃないかと思っていました(エドワード・スノーデン

 

しかし、アメリカ国民にとっては、盗聴の条件が大問題でした。即ち、2001年の愛国者法及び2008年の関連法規改正では、

  • 米国人を監視対象とする場合は、当該米国人が米国内と米国域外のいずれに所在するかを問わず、外国諜報裁判所の承認が必要とされる
  • 外国人を監視対象とする場合は、外国諜報裁判所の個別的な承認無しに、米国域外に所在する外国人への監視活動を行うことができる

となっており、一般市民が無条件に監視されることはないというのが米国民の理解でした。ところが、スノーデンが暴露した情報は、米国人も対象となり得る無制限かつ包括的な情報収集活動を政府が秘密裏に行われていたというものでした。具体的には、

  • 国内及び国際電話通信に付随するメタデータを大量に収集していた(通信記録で内容は含まれないが、他の情報を突き合わせると個人の行動を特定できる)
  • 米国域外に所在する外国人のインターネット通信に付随して米国人との交信記録が収集されていた(プリズム(PRISM)という暗号名で、NSA は年間2億5千万件もの通信情報をプロバイダから直接収集、通信内容も収集していたと見られる)

さらにスノーデンによってもたらされた情報に関連して、

  • マイクロソフトYahoo!GoogleFacebook、PalTalk、YouTubeSkype、AOL、アップルなどのIT企業が、NSAの通信傍受に協力させられていた
  • NSAは、日本やフランスやイタリア、ギリシャ、メキシコ、インド、韓国、トルコなどの同盟国を含む38ヶ国の大使館の盗聴を行っていた
  • ドイツのメルケル首相ら35人の外国首脳を、長年にわたって盗聴していた

ことなども明らかになっています。

 

恐らく、NSAはテロ捜査や抑止に躍起になる余り、法を拡大解釈して大量の情報を一括収集していたものと思われますが、テロ捜査とプライバシー保護の狭間でギリギリの判断をしたアメリカ国民にとってはやり過ぎと映ったようです。2014年には、事件を報道したガーディアン紙とワシントン・ポスト紙がピューリツァー賞を受賞、2015年には本作がアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞、そして同じく2015年、ついに、

  • 大量収集プログラムを停止する
  • 情報収集の範囲と情報保存期間を限定し、対象者への影響を最小限に留める
  • 通信監視活動及び外国諜報裁判所の透明性を高める

ことを定めた米国自由法が成立、アメリカ国民に対するNSAの活動が制限されることになります。外国に対する盗聴が無くなるわけではないですが、これらはスノーデン事件がもたらした結果と言って良いでしょう。

 

しかしながら、アメリカ国民が10人に10人、彼の行動を支持しているわけではありません。司法省は彼の逮捕状を取得、情報漏洩罪など数十の容疑で捜査しており、ITの重鎮、ビル・ゲイツも彼に批判的です。2013年に行われた世論調査では、

  • スノーデンを内部告発者とする有権者が55%、裏切り者とする有権者は34%
  • アメリカの30歳以上の大人の57%は「スノーデンの罪を問うべき」とし、30代以下の若者では56%が「正しいことをした」としている

となっています。現在、彼は帰国もままならず、ロシアで滞在許可を取得しながら生活を続けています。映画を見る限り、スノーデンは理知的な青年で、このように無傷ではいられないことを十分に承知した上で、秘密の暴露に及んでいます。彼は、思想的には個人の自由を重視するリバタリアンですが、動機は純粋で、

  • アメリカ政府や諜報機関の実態に失望、
  • 不正を正すには暴露するしかない
  • 政治的人間ではない彼の様な一介の技術者には、議会で証言する術がない
  • アメリカの歴史を見れば、「正しいこと」は必ずしも「合法なこと」ではない

など、冷静、周到に考えた上で行動を起こしています。

 

タイトルの「シチズンフォー」はスノーデンのハンドルネームで、市民4の意味です。これはトーマス・ドレイク、ウィリアム・ビニー、J・カーク・ウィーブに次いで、NSAの不正を内部告発する第4の市民であることを表しています。これらの先駆者は、公式的な仕組みや内部の仕組みでNSAの不正告発を試みましたが、いずれも失敗しています。 映画の中でスノーデンは、

Snowden: You're not going to bully me into silence like you've done to everybody else. And if nobody else is gonna do it, I will. And hopefully, when I'm gone, whatever you do to me, there will be somebody else who'll do the same thing. It'll be the sort of internet principle, of the hydra; you can stomp one person, but there's gonna be seven more of us.

スノーデン:他の人々を押し潰したようには、私を黙らせることはできない。誰もやらないなら、私がやる。もし私が潰されたら、同じことをする人が現れてくれるだろう。私はインターネット上のヒュドラのようなもの、一人を押し潰せば七人が新たに生まれる。

と語っていますが、政府の不正を見逃すまいとする迫力を感じます。

 

こうした迫力ある姿勢に、映画「フェア・ゲーム」(2010年)のジョーの演説を思い出します。この映画は、事実無根の疑惑を根拠にイラクに宣戦布告したブッシュ政権内部告発した元ニジェール大使に報復する為に、彼の妻である女性CIAエージェントの身分を政府高官が暴露するという実にえげつない実話(プレイム事件)を描いたもので、終盤の元ニジェール大使の演説が感動的です。その一部を引用すると、

国家の責任とは、限られた権力者の手の中にあるのではない。
一人一人が国民としての義務を忘れない限り、我々は強く、圧政に屈することはない。
道路の穴の報告も、一般教書の嘘を追求も、声に出せ。
質問するんだ!
真実を要求するんだ。
民主主義は安易に与えられはしない。
だが、我々は民主主義に生きる。
義務を果たせば、子供達もこの国で暮らせる。
アメリカに祝福を。

アメリカの民主主義は誰かによって与えられたものではなく、常に勝ち取って来たものであり、今後も勝ち取り続けていかねばならない死んでしまう、生物のようなものであることを感じさせます。スノーデン事件は、いわばサイバー戦争の氷山の一角ですが、

  • 平和が訪れるまでどれだけの告発者が犠牲になるのか、
  • 彼らは名誉回復できるのか、
  • 日本はこうした問題にどういう立場をとりうるのか

など、いろいろと考えさせられる作品です。

 

エドワード・スノーデン

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グレン・グリーンウォルド

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アメリカ合衆国のジャーナリスト、弁護士、作家。スノーデンは、当初、グリーンウォルドに接触したが、盗聴を避けるためのセキュリティソフトのインストールで話が停滞し、やむなくローラ・ポイストに接触した。彼女の取り計らいで、グリーンウォルドはソフトをインストール、ネット上で接触し、香港での三者の面会が実現した。映画では、彼のパートナーが空港で拘束され、取り調べを受ける場面も収められている。

 

ローラ・ポイトラス

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鏡の中でカメラを構えている。本作では、主としてグレン・グリーンウォルドがインタビューを行い、ローラは撮影に回っている。ローラ・ポイトラス(1964年-)は、アメリカのドキュメンタリー映画監督、プロデューサー。「My Country, My Country」(2006年、日本未公開)で、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされている他、一連の作品で数多くの賞を受賞している。スノーデン事件に関しては、彼からの接触を受け入れた鍵となる役割を果たしており、ガーディアン紙とワシントン・ポスト紙の報道のピューリツァー賞受賞に貢献、さらに本作で第87回アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞している。イラク市民に戦争が与えた影響を追った「My Country, My Country」以降、彼女自身がアメリカ政府の監視対象リストに載せられ、空港での拘束、尋問、所持品検査などを繰り返し受けている。度重なる嫌がらせに対し、彼女は2014年に、情報公開法に基づき、その理由の公開を要求します。これに対する回答が無かった為、彼女は2015年に司法省と諜報機関を相手に訴訟を起こしている。過去、他のジャーナリストが書いた事により、彼女への嫌がらせが緩んだこともあるが、こうした明確な抵抗の意思を見せないと事態が好転しないアメリカの実態が伺われる。

撮影地(グーグルマップ)

 

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関連作品

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  グレン・グリーンウォルド著「暴露 スノーデンが私に託したファイル」

  
ルーク・ハーディング著「スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実」

 

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  「インサイダー」(1999年)

  「インフォーマント!」(2009年)

    「フェア・ゲーム」(2010年)

 

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「My Country, My Country」(2006年、日本未公開)・・・輸入版、日本語なし

  「The Oath」(2010年、日本未公開)・・・輸入版、日本語なし

  「Risk」(2016年、日本未公開)

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