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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」:ストリートアートの舞台裏を見せながら、一部愛好家の過大評価を風刺するドキュメンタリー

「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」(原題: Exit Through the Gift Shop)は、2010年のイギリスのドキュメンタリー映画です。世界で最も有名なグラフィティ・アーティストであるイギリスの覆面芸術家、バンクシーが初めての監督を務め、ストリートアートの制作現場や、展示会の舞台裏をユーモアを交えて描いています。第83回アカデミー賞で、長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:バンクシー
出演:ティエリー・グエッタ(ミスター・ブレインウォッシュ)
   スペース・インベーダー
   シェパード・フェアリー
   ゼウス
   バンクシー
   アンドレ
   ほか

あらすじ

ティエリー・グエッタはロスアンジェルスに住むフランスからの移民で、起きている間は片時もビデオカメラを離さないほど、撮影に取り憑かれています。フランスで、彼のいとこでアーティストのインベーダーに会ったことを契機に、シェパード・フレイヤーやバンクシーなどストリート・アーティストを撮り始めます。顔を隠し、声を変えて出演していた覆面芸術家のバンクシーは、ティエリーにセンスが無いことに気付き、逆に自分が監督して彼の映画を撮り始めたところ、自らストリートアーティストに挑戦したティエリーが思わぬ才覚を見せ始めます・・・。

レビュー・解説

深夜の闇に紛れて制作されるストリートアートの現場を見ることができるだけではなく、制作の舞台裏を見せながら一部愛好家の過大評価を鋭く風刺する、優れたドキュメンタリーです。

 

ストリートアートは、街をカンバスとしてペンキやスプレーで描かれる美術様式ですが、単に落書きとして扱われる事が多く、またアートを称しながらも土地や建物の所有者への犯罪行為(器物損壊)にあたる為、多くは深夜にゲリラ活動的に描き込まれます。

 

ティエリー・グエッタはフランスからの移民で、ロスアンジェルスで洋品店を営んでいましたが、ビデオ撮影マニアで、カメラを片時も離さず身の回りを撮影していました。フランスで彼のいとこでアーティストのインベーダーに会ったことを契機に、シェパード・フレイヤーやバンクシーなどストリート・アーティストの制作に同行、その撮影にのめり込んでいきます。

 

ティエリー・グエッタ(ミスター・ブレインウォッシュ)

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スペース・インベーダーの作品

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シェパード・フェアリーとその制作風景

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バンクシーは著名な覆面芸術家で自分のプロフィールを隠していますが、グエッタの人柄に惚れ、消される運命にあるストリートアートを映像に残しておくのも悪くないと、撮影を許すようになります。また、制作者は捕まらないよう現場からすぐに逃亡をするため、作品を見る人々の反応を確認できませんが、グエッタの撮影したビデオでそれを見ることができるのも魅力だったようです。私たちはストリートアートを見かけることはあっても、その制作現場を目にすることはまずないので、グエッタが撮った映像は非常に興味深いものです。

 

バンクシーも顔を隠し、声を変えて出演

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バンクシーは撮影したビデオを編集して映画にするようにグエッタに言いますが、実は撮影マニアのグエッタは撮るだけで、撮影した何千本ものビデオを編集した経験がありませんでした。グエッタが編集した映像を見たバンクシーは、彼にセンスが無いことに気づき、逆に彼がグエッタを撮り始めます。ところが、自分自身がストリートアートに挑戦することになったグエッタは、いきなり大規模な展示会を企画、大成功させてしまいます。ストリートアートの世界では新人は長い下積みを経るの通例で、グエッタの様にいきなり成功してしまうのは異例で、先輩格のシェパード・フェアリーやバンクシーも微妙です。

 

グエッタは自分で描くことはせずに、アイディアだけ出して、雇ったスタッフに描かせていました。グエッタはもともと洋品店を営んで成功しており、アート要素のある商品を安く仕入れて高く売るなど、商売のセンスがあったようです。また、長年、ストリートアーティストと行動を共にし、目が肥えており、何をやれば成功するのか見えていたのかもしれません。彼は、「ミスター・ブレインウォッシュ」という作家名でいきなり有名になり、マドンナのCDアルバム「セレブレーション」のカバーデザインまで手がけるようになります。

 

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本作の魅力のひとつはストリートアートの制作現場が見られることですが、同時に、グエッタのように経験がなくても過大評価され、一気に成功してしまうストリートアートの世界を鋭く風刺している点が、この作品を素晴らしいものにしています。因みに、タイトルの「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」は、売店のある美術館の出口を意味し、アートには商業主義がつきものであることを示唆しています。バンクシーは元々、商業主義とは無縁なアーティストですが、図らずもグエッタの商業的成功を後押しする形になってしまった為か、以降、自らドキュメンタリーを手がけることから手をひきます。

 

なお、本作はフェイクではないかという指摘がありますが、バンクシー監督はこれを否定、真実だとしています。もし、彼がフェイク・ドキュメンタリーを作るとしたらもっと手のこんだことを、しかもそれとわかるようにやるはずであり、映画に描かれているように成り行きで予期せぬ展開になったというのが真相でしょう。とりも直さず、予期せぬ展開が向こうからやって来るというのがドキュメンタリーの真髄であり、本作がアカデミー賞にノミネートされるほど評価されている理由です。

 

監督を務めたバンクシーは、ロンドンを中心に活動する覆面芸術家で、社会風刺的ストリートアートを世界各地にゲリラ的に描いています。

  • 自分の作品をMoMAメトロポリタン美術館、ブルックリン美術館、アメリカ自然史博物館などの片隅に自分の作品を勝手に展示、他の作品同様に作品解説のキャプションまで用意するなど手が混んでおり、しばらく気づかれないものあり、話題を呼んだ。

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  • 「街外れに狩りにいく古代人」という題名の、ショッピングカートを押す古代人とカートに槍が刺さった獣の絵が描かれた遺跡のかけら(壁画の一部)を大英博物館に勝手に展示、自らの個展の為にこの作品を一旦引き上げ、「大英博物館より貸与」とキャプションをつけた。後に、博物館はこれを正式なコレクションに追加した。

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  • イスラエルの治安部隊が空に向けて発砲で威嚇、かなりの銃が彼を狙う中、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ側の分離壁に子供が壁に穴を開けている絵や、穴の開いた壁から見えるビーチなどの絵を描いた。 

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  • ブリストルに裸の男がバスルームの窓からぶら下がっている壁画を制作、この作品は取り除かれるべきか否か、論争を巻き起こした。インターネット上の議論では97%の人々が取り除くべきでないと支持した為、そのままになっている。

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  • カリフォルニア州アナハイムのディズニーランドの「ビッグサンダー・マウンテン」の近くに、グァンタナモ米軍基地の囚人の格好(オレンジのジャンプスーツ、黒い帽子、手錠)をした人形を設置した。

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など、数多くのエピソードがありますが、本人は自分のプロフィールを隠そうとしており、本名をはじめとして不明な点が多い作家です。

 

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関連作品

バンクシー作品集Amazon

  バンクシー著「Wall and Piece」

 

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  「バンクシー・ダズ・ニューヨーク」(2014年)

 

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