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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「裸足の季節」:黒海沿岸に住む5人姉妹の思春期の喜びと憂い、秘めた力と性差別への抵抗を美しい映像で描いた、女性監督ならではの作品

トルコ映画 フランス映画 ドイツ映画

裸足の季節」(原題:Mustang)は、2015年公開のトルコ・フランス・ドイツ合作のドラマ映画です。デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督・共同脚本、ギュネシ・シェンソイらの出演で、トルコの小さな村に舞台に、古い慣習と封建的思想のもと一切の外出を禁じられた美しい5人姉妹が、自由を取り戻すべく奮闘する姿を描いています。第88回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
脚本:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン 、 アリス・ウィノカー
出演:ギュネシ・シェンソイ(ラーレ、末娘)
   ドア・ドゥウシル(ヌル、四女)
   トゥーバ・スングルオウル(セルマ、次女)
   エリット・イシジャン(エジェ、三女)
   イライダ・アクドアン(ソナイ、長女)
   ニハル・コルダシュ(祖母)
   アイベルク・ペクジャン(エロル)
   ブラック・イーイット(ヤシン)
   ほか

あらすじ

  • 10年前に両親を亡くした美しい5人姉妹、長女ソナイ(イライダ・アクドアン)、次女セルマ(トゥーバ・スングルオウル)、三女エジェ(エリット・イシジャン)、四女ヌル(ドア・ドゥウシル)、そして末っ子の13歳のラーレ(ギュネシ・シェンソイ)は、祖母(ニハル・コルダシュ)と叔父エロル(アイベルク・ペキジャン)のもと、イスタンブールから約1000km離れた黒海沿岸の小さな村で暮らしています。
  • ラーレの大好きなディレッキ先生がイスタンブールの学校へと異動になった日、姉妹たちは下校の途中、海で無邪気に男子生徒の肩にまたがり、騎馬戦をして遊びます。帰宅すると、隣人から告げ口された祖母が怒りの形相で「男たちの首に下半身をこすりつけるなんて!」と、ソナイから順番に折檻していきます。
  • この日以来、姉妹たちは外出を禁じられ、派手な洋服やアクセサリー、化粧品、携帯電話、パソコンも没収されます。文字通り「カゴの鳥」となった彼女たちは、花嫁修業を強いられます。地味な色の服を着させられ、料理を習い、掃除をし、毎日のように訪ねてくる村の女たちが花嫁として必要なことを伝授していきます。
  • 次々と見合い話がまとめられ、迎えた婚礼の日、セルマはやけ酒を煽り、涙を流します。「結婚したくないなら逃げて」と話しかけるラーレに、セルマは、「どこへ逃げればいいの? イスタンブールは1000キロ先よ」と諦めたようにつぶやきます。そしてこの夜が、5人姉妹が揃う最後の日となります。ラーレは祖母のへそくりから金を盗み、アリバイ工作のため自分の髪を切って人形に縫いつけ、運命を切り開くための計画を強行します・・・。

レビュー・解説

黒海沿岸の小さな村で暮らす5人姉妹の、思春期の喜びと憂い、内に秘めたエネルギー、そして女性差別的慣習への抵抗を、新人とは思えない美しい映像としっかりとした構成で描き、トルコ女性への思いを込めた女性監督ならではの作品です。

 

主人公の5人姉妹〜「裸足の季節

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左から、トゥーバ・スングルオウル(セルマ、次女)、ドア・ドゥウシル(ヌル、四女)、エリット・イシジャン(エジェ、三女)、イライダ・アクドアン(ソナイ、長女)、ギュネシ・シェンソイ(ラーレ、末娘)。オーディションで選ばれた5人は、三女エジェを演じたエリット・イシジャンを除いて演技初体験だが、新鮮で力強い素晴らしいパフォーマンスを見せている。   

 

地中海性気候に近いトルコの黒海沿岸、小さな村の木造の家に暮らす5人の少女を美しく映し出す映像は、イギリスの写真家デビッド・ハミルトンの写真集「サントロペの夏」*3を彷彿とさせます。この写真集は、サントロペの海岸沿いの人里離れたカントリーハウスに7人の若い女性が寝起きを共にし、朝食を食べたり、ドレスアップしたり、海に浸かったり、枕投げをしたりするのを、二日間に渡って撮影したものです。ハミルトンの映像は耽美的なものですが、本作はより生気に溢れ、思春期の少女たちの喜びと憂い、内に秘めた熱いパワーといった存在感を、生き生きとかつ、繊細に描いています。また、木々の肌触りと吹き抜ける風を感じさせるようなウォーレン・エリスのサウンドトラックは、緑に囲まれた木造の家と自然豊かな黒海沿岸の風景をより際立たせています。イスタンブールの朝の風景に流れる音楽も美しく叙情的で、思わず、黒海沿岸やイスタンブールに行ってみたくなります。

 

長女ソナイの結婚披露宴〜「裸足の季節

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左から、イライダ・アクドアン(ソナイ、長女)、トゥーバ・スングルオウル(セルマ、次女)、ドア・ドゥウシル(ヌル、四女)、ギュネシ・シェンソイ(ラーレ、末娘)、エリット・イシジャン(エジェ、三女)

 

原題の「Mustang」は、野生馬という意味です。人間になかなか服従しない独立心旺盛な野生馬は、未だにトルコに残る女性差別的慣習に抵抗する5人の姉妹を象徴しています。トルコの少女たちは髪を長くするのが一般的で、ざっくりとしたラフで自然な感じの彼女らのヘアスタイルは、さながら野生馬のたてがみのようでもあります。差別的慣習に反抗するパワフルなエネルギーをイメージしたというエルギュヴェン監督は、物語をしっかりと構成し、単に美しいだけではないメッセージを持った作品に仕上げています。一般にサウジアラビアなどイスラム圏では女性差別的ですが、トルコやパキスタンは女性の社会進出が進んでいる方です。そんなトルコでも、一部には未だに差別的慣習が根強く残っているようです。

 

原題は「Mustang」(野生馬)

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放課後に浜辺で遊ぶ姉妹たち〜「裸足の季節

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本作の冒頭で、少女たちが少年たちの肩車に乗ったことで厳しく叱責されるシーンがあります。これは、エルギュヴェン監督自身が10代の頃に実際に経験したことですが、その時、彼女は恥ずかしくて顔を伏せ、まったく反抗できなかったといいます。

  • だからこそ、私は登場人物をヒロインにしたかった。彼女たちの勇気が報われるものにしたかったのです。私は5人の少女を、5つの頭を持つ怪物だととらえていていました。物語から一人ずつ脱落していくたびに、頭を失くしていくのですが、最後に残った者が成功するというイメージを持っていました。姉たちが罠にかかってしまったからこそ、一番年下のラーレは彼女たちの運命を拒絶しました。ラーレは、私が夢見たすべてを凝縮した存在です。
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    (注)エルギュヴェン監督がイメージしていたのは、複数の頭を持つギリシャ神話のヒュドラ。首を切り落とすと、その脇から2本の首が生えてくるという。姉たちが次々と慣習に屈する度に、末娘のラーレは強くなっていく。因みに、ラーレはトルコの国花であるチューリップを意味する。
  • 現代のトルコにおいて、女性であるとはどういうことなのかを考えたいと思っていました。トルコではこれまでになく、女性の地位が社会的な問題となっています。私がトルコを離れフランスに頻繁に滞在していることで持った視点が重要な役割を担っていると思います。
  • 毎回帰国するたびに、驚くほどの閉塞感を感じます。女性であることに関するすべてが、絶えず性的なものに落とし込められているのです。女性もしくは少女の行動のすべてが、性的な衝動に駆られているかのように解釈されるのです。たとえば、ある学校では男女の生徒が同じ階段を使うのを禁止されたそうです。女性を家事にだけ従事させて子供を生産する機械に貶めるという社会的思考も現れています。トルコは1930年代という早い時代に女性に参政権を与えた国の一つだったのに、哀しいことです。(デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督)

 

エルギュヴェン監督は、トルコのアンカラ生まれ、ヨハネスブルグ大学で文学、修士課程でアフリカ史を専攻後、フランス国立映画学校で監督を専攻します。卒業制作の短編「Bir Damla Su (Une goutte d’eau)」(「水滴」の意)では、自ら演じる若いトルコ人女性が家父長的な考え方と男性の権威主義に反抗する姿を描いています。卒業後、1992年のロサンゼルス暴動を題材にした長編デビュー作「Kings」の制作にかかりますが、お金がかかり過ぎ、頓挫します。資金集めをやっていた時に本作を着想しましたが、もしもダメだったら映画作りを諦めようと考えていたそうです。カンヌ映画祭のアトリエで一緒っだったアリス・ウィノカー(「博士と私の危険な関係」(2012年)の監督・脚本)に、「バカなこと言うんじゃない!」と焚き付けられ、ひと夏で約50ページの草稿を書き上げたと言います。彼女の叱咤激励がなければ本作はなかった訳ですが、さらに撮影直前にエルギュヴェン監督は妊娠します。それは災難だと、元からのプロデューサーが他のプロデューサーやスポンサー、制作スタッフに言いふらし、手を引いてしまいます。しかし、他のプロデューサーが踏ん張り、彼女の出産前に撮影を完了することができました。長編デビュー作でアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたシンデレラ・ガールと思いきや、メイキングは波乱万丈だったようです。

油断すればすべて失ってしまいそうな状況は、かえって私のモチベーションを高めてくれました。映画を救わねば、この困難な状況を乗り越えなければ、とスタッフ全員が思いました。人は危機的な状況において、並外れた能力を見せるものです。カミソリの刃の上にいるような強烈な冒険でしたが、絶え間なく奇跡が起こっていたんです。(デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督)

 

頓挫したプロジェクト「Kings」も、本作の成功で復活、ハル・ベリー主演で撮影が始まっています。

 

ニハル・コルダシュ(祖母)

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両親を失った孫娘を育てた。理解はあるが、娘達が年頃になったために厳しくせざるを得ず、結婚を急ぐ。

 

アイベルク・ペクジャン(エロル)

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両親を失った5人姉妹をひきとるが、理解はない。性的虐待の疑いが描かれている。

 

ブラック・イーイット(ヤシン)

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気のいいトラック運転手。サッカー観戦に行く5人姉妹を乗せてバスを追いかけるなど、5人姉妹を助けてくれる。ブラック・イーイットはドイツ映画「ヴィトリア」(2015年)にも出演している。

サウンドトラック

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1.Mustang
2.The Tunnel Home
3.Under Siege
4.There's A Game On
5.Robes De Couleur Merde
6.Aunts Prepare
7.Window To The World
8.The Colt Bolts
9.Les Proies
10.Time To Run, Time To Drive
11.Lale's Theme
12.Hopçe

撮影地(グーグルマップ)

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