夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「マジカル・ガール」:日本的魔法少女をフックに、男女の欲望の連鎖を多重的な螺旋構造と独自のトーンで描くフィルム・ノワール的悲喜劇

「マジカル・ガール」は、2014年公開のスペインのフィルム・ノワール風ダーク・コメディです。日本のテレビアニメ「魔法少女ユキコ」に憧れる少女をフックに、カルロス・ベルムト監督・脚本、ホセ・サクリスタン、バルバラ・レニーら出演で、4人の男女の欲望の連鎖から生まれる悲喜劇を描いています。2014年のサン・セバスティアン国際映画祭で作品賞と監督賞を受賞、第29回ゴヤ賞では作品、監督、脚本を含む7賞にノミネートされ、主演女優賞(バルバラ・レニー)を受賞した作品です。

 

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スタッフ・キャスト

監督:カルロス・ベルムト
脚本:カルロス・ベルムト
出演:ホセ・サクリスタン(ダミアン)
   バルバラ・レニー(バルバラ
   ルイス・ベルメホ(ルイス)
   イスラエル・エレハルデ(アルフレード
   ルシーア・ポリャン(アリシア
   エリサベット・ヘラベルト(アダ)
   ミケル・インスーア(オリベル)
   テレサ・ソリア・ルアーノ(アデーラ)
   ダビド・パレハ(ハビエル)
   エバ・リョラッチ(ラウラ)
   ハビエル・ボテット(ペポ)
   ロレーナ・イグレシアス(心理学者)
   マリソル・メンブリーリョ(マリソル)
   フリオ・アロホ(運転手)
   アルベルト・チャベス(店主)
   フリアン・ヘニソン(宝石店員)
   マリーナ・アンドルッチ(バルバラの子ども)
   マリーア・マルティン・クエバス(赤ちゃん)
   ほか

あらすじ

  • 12歳の少女アリシア(ルシア・ポジャン)は、白血病で余命わずかです。そんな彼女の願いは、大好きな日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の衣装を着て踊ることです。それを知った父親のルイス(ルイス・ベルメホ)は、娘の願いを叶えようとしますが、それは7千ユーロもする、失業中の文学の教師にはとても手の出ない、一点物の高額商品でした。金策もままならない彼は、やむなく宝飾店への強盗を決意します。
  • 宝飾店の窓を叩き割ろうとした時、彼に吐瀉物が降り掛かります。それは、精神科医の夫と暮らしながらも心に闇を抱える女性バルバラバルバラ・レニー)が、大量の薬を酒で流し込み、気分が悪くなって窓から吐き出したものでした。バルバラは逃げようとするルイスを呼び止め、自宅に招き入れます。汚れた服を洗濯すると、バルバラはルイスに抱いてくれるよう求め、2人は関係を持ちます。彼女の豪奢な暮らしを知ったルイスは、翌日、「秘密を夫に知られたくなければ金を出せ」とバルバラを電話で脅迫します。
  • 夫に知られたくないバルバラは、裏の仕事をするかつての仲間、アダ(エリザベト・ヘラベルト)を訪れ、一日限りの「仕事」を得て豪邸で暮らす車椅子の男の暴力的な嗜好に耐えます。バルバラから7千ユーロを受け取ったルイスはアリシアに衣装を買い与えますが、魔法のステッキがないことに彼女が落胆していることに気付きます。ステッキの購入費用の2万ユーロが必要なルイスに再び脅迫されたバルバラは、やむなく豪邸を再訪、前回とは比べ物にならないほど傷を負い、刑務所から出たばかりの元教師ダミアン(ホセ・サクリスタン)に救いを求めます。過去に因縁があり、バルバラに会うことを恐れていたダミアンですが、彼女の変わり果てた姿に心を動かされ、ルイスを尾行し始めます・・・。

レビュー・解説

魔法少女」を強力なフックに、時間的、空間的に異なる男女の欲望の連鎖を多重的な螺旋構造でスリリングに描いた本作は、日本的要素、スペイン的要素、現代的要素、古典的要素、悲喜劇的な要素などを巧みに取り込みながら独自のトーンを醸し出す、斬新なフィルム・ノワールです。

 

人間の欲望や脅迫の連鎖を描いたカルロス・ベルムト監督は、日本的なmagical girl (魔法少女)という概念を本作の強力なフックにしています。magical girl (魔法少女)とは、

  • 10代の前半以下の少女がターゲットの漫画やアニメに登場する、
  • 魔法の力で別の自分になり、
  • ミニ・スカートなど体が露出が多く、可愛らしい衣装を纏い
  • 魔法のステッキなど、可愛らしいアイテム(武器)を使う

少女の総称です。一般的なイメージは「キューティ・ハニー」や「セーラー・ムーン」ですが、ベルムト監督は願いを叶えることの代償を描いたファンタジー「魔法少女まどか☆マギカ」のダークなイメージを重ね合わせ、本作のフィルム・ノワール的ストーリー展開にマッチさせています。また、魔法の力で別の自分になる魔法少女は、いざとなると大胆な行動を起こす(或いは第三者の大胆の行動を誘発する)女性の二面性の象徴とすると、彼は考えています。

 

三部構成で展開されるストーリーには、現代的で日本的なフックとは対照的に、キリスト教における人間の三つの敵が重ね合わせられています。

  1. 世界(=金、娘の願いを適える金を得る為にルイスがバルバラを脅迫する)
  2. 悪魔(バルバラの精神的不安定)
  3. 肉(=性、バルバラの魅力に抗しきれないダミアン)

因みに、三つの敵はしばしばキリスト教の信仰の対象である三位(父(神)、子(キリスト)、精霊)に対置されますが、フィルム・ノワール(虚無的、悲観的、退廃的なテイストを持つ犯罪映画)が基本の本作では、信仰による救いは描かれていません。

 

エルムト監督はさらに、時間的、空間的に異なる男女関係と欲望の連鎖を螺旋構造で多重的に描いています。

  • 過去のバルバラ(生徒)→過去のダミアン(教師)
  • 現在のアリシア(娘)→現在のルイス(父、失業中の教師)
  • 現在のバルバラ(精神的に不安定な人妻)→現在のダミアン(刑期を終えた元教師)

また、

も重ね合わせています。因みに、娘のアリシアの名は「不思議の国のアリス」のアリスに、父親のルイスの名はその作者ルイス・キャロルに由来しています。

 

螺旋構造で多重的に描く欲望の連鎖と男女の関係

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アリシアバルバラも魔法世界ではなく、現実世界の人間として描かれており、魔法は使われませんが、冒頭、少女時代のバルバラが教師のダミアンの悪口を書いたメモを手の中から消すマジックを見せます。これは、バルバラ魔法少女的運命を背負っていたことを暗示します。さらに、現在のバルバラは全身傷だらけですが、その理由は明らかにされず、また、金を得るために男の暴力的な嗜好に耐えるシーンも映し出されません。これは、敢えてそのプロセスを見せないことにより、願いと不幸の引き換えを魔法のようにミステリアスに見せる演出です。

 

螺旋構造で多重的に描く男女関係と欲望の連鎖が本作の大きな魅力ですが、

  • 魔法少女という日本的なイメージにあわせて、長山洋子の「春はSA・RA・SA・RA」や美輪明宏の「黒蜥蜴の唄」(ピンク・マルティーニのカバー)をサウンドトラックに使い、個性を際立たせる
  • ルイスに合う為にダミアンがドレスアップするシーンなど、不釣り合いにスタイルッシュな場面にフラメンコの「la niña de fuego」(炎の少女)を流し、コメディ要素とスペイン的な要素を織り込む

など、単調で古臭いフィルム・ノワールにならぬように、全体のトーンを巧みにコントロールしています。

 

<ネタバレ>

バルバラとダミアンの過去の因縁は明示されていませんが、彼女の「魔性の女」的魅力に惑わされたダミアンがバルバラを守るために殺人を犯し、服役していたことが示唆されます。二度とバルバラに近づきたくないダミアンでしたが、瀕死の重傷を負ったバルバラからルイスに暴行を受けたと聞かされ、ルイスの元に向かいます。ルイスに銃を渡し、自分を殺して服役する様に迫りますが、ルイスはバラバラの不倫をネタに恐喝しただけだと暴露します。バルバラを破滅させる秘密が握られていることを知ったダミアンは、バルバラを守る為に、ルイスとその場に居合わせたバーの店員を撃ち殺します。不倫の証拠が録音された携帯電話を取りにルイスの自宅に向かったダミアンは、魔法少女の衣装とステッキを纏ったアリシアに出くわし、彼を凝視する彼女を撃ち殺します。

エンディングで病室のバルバラを見舞ったダミアンは、証拠の携帯電話を手の中で消してみせます。これは冒頭、少女時代のバルバラが不都合なメモを手の中で消したマジックに対応するものですが、ダミアンも罪という不幸と引き換えに願い(=バルバラを守る)を叶えた人間であることを象徴的に示しています。

「2+2=4という絶対的真理は何があっても変わらない」という趣旨のナレーションから、この映画は始まります。劇中、アリシアの三つの願いは、

  1. 誰にでも変身できる
  2. 魔法少女のドレス
  3. 13歳になること

であることが示され、また、彼女は「父と一緒にいられるから、病院が好き」とも言います。一方、アリシアに「魔法ができたら何に使う?」と聞かれたルイスは、

  • 透明になる
  • 触られるなくなる

と答えます。つまり、「不幸と引き換えに願いを叶える」ことにより、「病院が好き」で「誰にでもなれる」はアリシアバルバラとなり、「透明で触られない」存在になった父とともにバルバラの病室にいることができます。アリシアが殺される前にダミアンを凝視した様に、じっとダミアンを凝視するバルバラをアップで映し出し、エンドクレジットに切り替わります。即ち、冒頭のナレーションは、例え、アリシアとルイスが殺されても、二人は存在し続け、

2人(バルバラとダミアン)+2人(アリシア+ルイス)=4人

であることに変わりはないことを暗示しています。実に周到に構成された作品です。

<ネタバレ終わり>

 

ホセ・サクリスタン(ダミアン)

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バルバラ・レニー(バルバラ

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ルイス・ベルメホ(ルイス)

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ルシーア・ポリャン(アリシア

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サウンドトラック

動画クリップ(YouTube

  • フラメンコ「炎の少女」が流れる中、ルイスとの対決に備えドレスアップするダミアン

    燃える少女の渇きと苦しみを、自分の心の泉で癒やし、救いたいというフラメンコの歌である。因みに、エンドクレジットに流れる美輪明宏の「黒蜥蜴の唄」(ピンク・マルティーニのカバー)は、ダイヤのように固く冷たい私の心を溶かすような愛に出会ったら、いっそ死んでしまいたいという歌である。

 

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