夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「10 クローバーフィールド・レーン」:プロモーションでミソをつけたが、実は大部分が密室劇の、しっかりと作り込まれた筋の良い作品

10 クローバーフィールド・レーン」(原題:10 Cloverfield Lane)は、2016年公開のアメリカのSF&サスペンス映画です。J・J・エイブラムスがプロデュースしたヒット作「クローバーフィールド/HAKAISHA」と同じ、「クローバーフィールド」の名を冠し、ダン・トラクテンバーグ監督、マット・ストゥーケン/ジョシュ・キャンベル脚本、J・J・エイブラムスら制作、メアリー・エリザベス・ウィンステッドジョン・グッドマンら出演で、交通事故にあった女性が見知らぬ男に連れ去られ、シェルターでの共同生活を余儀なくされる体験を描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ダン・トラクテンバーグ
脚本:マット・ストゥーケン/ジョシュ・キャンベル
制作:J・J・エイブラムス/リンジー・ウェバー
出演:

  ほか

あらすじ

  • 服飾デザイナー志望のミシェル(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)は、ある日、婚約者と喧嘩し、部屋を飛び出します。車で国道をひた走り、ルイジアナの森と畑が広がる一帯にさしかかったところで日が暮れます。給油後、再び走り始めると、ラジオから南部海岸一帯が原因不明の停電に襲われているとのニュースが流れます。携帯電話にかかってくる婚約者からのしつこい電話に気を取られた時、ミシェルの車は追突され、ガードレールを越えて転落します。
  • 目が覚めたミシェルは、怪我を負った右足に治療を受けた状態で地下室に繋がれ、監禁されていることに気づきます。事故から丸一日たっており、監禁されている部屋に腰に銃を下げた初老の大男ハワード(ジョン・グッドマン)が入って来て、ここは自分の農場の地下だといいます。ミシェルはここから出して欲しいと懇願しますが、「外は攻撃で、放射能化学兵器か、何らかの有毒物質で汚染されているから駄目だ」と、ハワードは拒否します。
  • ハワードの案内で、この地下室は核戦争に備え物資を蓄えたシェルターで、出口は鍵がいくつも付いた2重ドアで守られており、勝手に出ることは困難なことが分かります。出口の窓から見える外界に人影はなく、ハワードが飼っていた2頭の豚の死骸が見えます。ミシェルに追突した見覚えのある白いトラックも見えます。地上の大きな音が地下室に響き、外で異変が起きていることが伝わってきます。地下室には、このシェルター作りを手伝ったエメットと言う青年もいます。
  • ミシェルはハワードに従順なフリをして地上に出る鍵を盗みますが、バレてしまい、鍵を持って出口まで走ります。二重扉のひとつを解錠、もうひとつを解錠しようとした時、外から顔の皮膚が爛れた女が中に入れて欲しいと懇願します。ハワードの恐怖と外界の恐怖の板挟みに凍りついたミシェルは、仕方なくシェルターで三人の生活を続けます。ハワードは、ミシェルの車を誤って横転させてしまったことを告白し謝罪、自分の娘ミーガンのことなど、身の上話を始めます。
  • シェルターの空調機が故障、体の細いミシェルがダクトを通り抜けて空調室に入ります。彼女は 小窓の内側にHELPと血塗られた傷がつけられているのを発見、さらにハワードに見せられた写真の娘ミーガンが付けていた耳飾りを見つけます。写真をエメットに見せると、少女はミーガンではなく行方不明になった友人だと言います。ハワードとミーガンらしき女性の別の写真では、女性はハワードがミシェルに着せたのと同じTシャツを着ています。
  • ミシェルとエメットは協力、シェルターを脱出する為に即席の防護服を作ります。異変に気づいたハワードは、過塩素酸が入った容器の蓋を空け、二人が防護服作りに使ったハサミとガムテープを見せて、脅します。エメットは咄嗟に嘘をついて謝罪しますが、ハワードに射殺されます。脱出を急ぐミシェルは、防護服を作っていることをハワードに気づかれ、ダクトに逃げ込みます。彼女は空調室で防護服を着込み、液化窒素で錠前を破壊、外に出ることに成功します・・・。

レビュー・解説

出演者の卓越したパフォーマンスによる密室劇で大部分が構成される本作は、プロモーションやタイトルのネーミングでミソをつけましたが、しっかりと作り込まれた、知的で緊張感に溢れる、筋の良い作品です。

 

日本での劇場公開時には、あまり評判の良くなかった映画です。否定的な評価は、

といったものですが、そもそも「クローバーフィールド/HAKAISHA」も、本作の予告編も見ていない、ネタバレもそれほど気にしない私は、存分に楽しむことができました。映画評価サイト Rotten Tomatoes では、批評家、観客ともに、元祖「クローバーフィールド/HAKAISHA」よりはるかに高い評価を与えている、筋の良い作品です。

 

本作の元となった脚本は、オープン・マーケットに売りに出されていた「The Cellar」という超低予算映画向け密室劇の脚本でした。2012年のヒットリストに載ったこの脚本をパラマントが購入し、J・J・エイブラムスの所有する製作会社バッド・ロボット・プロダクションズで書き換えられました。バッド・ロボットのクリエイティブ・チームには「クローバーフィールド/HAKAISHA」(2008年)の続編を制作するというアイディアもありましたが、「パシフィック・リム」(2013年)、「GODZILLA ゴジラ」(2014年)が公開されたため、怪獣映画の領域での勝負を避け、ボツとなりました。また、当初は監督・共同脚本にデイミアン・チャゼルが参加していましたが、「セッション」のプロジェクトに資金がついた為、途中で抜け、代わりにダン・トラクテンバーグが監督して迎えられました。

 

バッド・ロボット・プロダクションズはカリフォルニアのサンタモニカにあり、「クローバーフィールド/HAKAISHA」の原題、Cloverfield は、会社の近くの Cloverfield Boulevard に因んでつけられたものです。Boulevard は並木道とか、大通りといった意味です。これに対して本作の 10 Cloverfield Lane の Lane は田舎の狭い道路、通りといった意味で、無理に日本風の住所に当てはめると、字詰草ヶ原十番といった感じでしょうか。「クローバーフィールド/HAKAISHA」が大都会(ニューヨーク)で起こった大事件であるのに対し、「10 クローバーフィールド・レーン」は田舎で遭遇した事件というニュアンスになります。公開直前に決めたこのタイトルをエイブラムス、トラクテンバーグ監督の両名はいたく気に入っていたようですが、日本の観客にはこのニュアンスが余り伝わらなかったのかもしれません。

 

紆余曲折もあった本作ですが、低予算映画にしては質が良く、十分に楽しめる映画です。大部分を密室の心理劇が占めますが、信じて良いのか悪いのか良くわからない、怪しげな元軍人をジョン・グッドマンが巧みに演じています。モデル並みの身長、プロポーション、風貌を持ち、出演傾向からスクリーム女優とも呼ばれるメアリー・エリザベス・ウィンステッドですが、密室を脱出し、トーンがガラッと変わる終盤を含めて、大きな目を活かして実に良く演じています。シガニー・ウィーバーが演じた「エイリアン」のリプリーのように逞しくなっていくのかなと、将来を想像したくなるほどです。また、密室の中にも敵?、外に脱出しても敵?という設定の中での主人公の選択は、非常に興味深いものです。

 

YouTube でトラクテンバーグ監督による密室からの脱出劇の短編を見たエイブラムスが、30代前半と若く長編未経験の彼を本作の監督して引っ張ってきたようですが、彼の起用は大成功だったのではないかと思います。買ってきた評判の良い脚本に「クローバーフィールド」をとってつけたようでもあり、終盤のトーンがガラッと変わる本作ですが、トラクテンバーグは下手に抗うことなく素直に撮っており、主人公の将来のさらなる変化(成長)を予感させるエンディングにも好感が持てます。彼は、予告編でのモンスターのほのめかしは、本編の急激な展開の違和感を和らげているとも語っています。

 

J・J・エイブラムスアメリカのプロデューサー、クリエイター、ドラマ・映画監督、脚本家、俳優、作曲家、製作会社バッド・ロボット・プロダクションズのオーナーで、

などを手がけています。彼は、本作について、

その精神、ジャンル、心、恐怖という要素、コメディの要素、奇異さの要素など、この映画の遺伝子と感じられる数多くの要素は、「クローバーフィールド/HAKAISHA」が生まれたのと同じ土壌に由来するものだった。(J・J・エイブラムス

と、語っています。

 

関連性(縛り)が薄く、自由度の高い作品に、本作の様にブランド力のあるタイトルを付けて、新進の監督に機会を与えることは注目すべきアプローチです。しかし、彼が挙げるものの代名詞として「クローバーフィールド」を用いるのには少し無理があり、観客の厳しい評価に繋がった面もあるように思います。「クローバーフィールド」はいわば、エイブラムスのひとつの商品ブランドですが、監督も脚本もキャラクターも俳優も異なる作品に、共通する何かを埋め込み、観客がその何かを楽しみに「クローバーフィールド」が冠された映画を見に行く為には、もうひと工夫、必要そうです。もっとも、本作の続編「 God Particle」(2017年公開予定)は、Cloverfield の名を冠しておらず、エイブラムスはこうした縛りよりも自由を重んじているようにも見受けられます。いずれにせよ、新人監督を発掘、質の良い低予算作品を実現、興行的にも成功、そして次回作への注目を集めた本作は、大成功だったと言えるでしょう。

 

メアリー・エリザベス・ウィンステッド (ミシェル)

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アメリカの女優。ホラー映画「ファイナル・デッドコースター」や「デス・プルーフ in グラインドハウス」、「遊星からの物体X ファーストコンタクト」、「リンカーン/秘密の書」など、ホラー系映画への出演が多いことから、スクリーム女優とも呼ばれる。そういう意味では、ホラー要素もある本作ははまり役だが、そのパフォーマンスは「スクリーム女優」の枠に押しとどめておくにはもったいないと感じさせる。

 

ジョン・グッドマン (ハワード)

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バートン・フィンク」(1991年)、「ビッグリボウスキー」(1998年)と、コーエン兄弟監督作品で有名になった俳優。「カーズ」(2006年)、「モンスターズ・ユニバーシティ」(2012年)など、アニメ作品への出演も少なくない。本作のハワードは、作品の成否を握るといっても言いほど重要な役で、グッドマンの出演交渉は真っ先に行われたという、まさに彼のはまり役である。

 

ジョン・ギャラガー・Jr (エメット)

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アメリカの俳優。ミュージカル「Spring Awakening」、「アメリカン・イディオット」など舞台への出演で知られ、トニー賞を受賞している。ウディ・アレン監督の「人生万歳!」など、映画にも出演している。本作では、ハーワードとは対照的な、ちょっと軽い感じの優男を好演している。

 

シェルター内部

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かなり立派なシェルターで、部屋数も多い。

動画クリップ(YouTube

ラクテンバーグがアップしてた脱出劇の短編「Portal: No Escape」

撮影地(グーグルマップ)

 

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関連作品

J・J・エイブラムス監督・脚本・制作作品のDVD(Amazon

  「M:i:III」 (2006) 監督・脚本

  「クローバーフィールド/HAKAISHA」 (2008) 製作

  「スター・トレック」(2009) 監督

  「SUPER8/スーパーエイト」(2011) 監督・脚本・製作

  「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(2011) 原案・製作

  「スター・トレック イントゥ・ダークネス」 (2013) 監督・製作

  「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」(2015) 製作

スター・ウォーズ/フォースの覚醒」 (2015) 監督・脚本・製作

     「スター・トレック ビヨンド」(2016) 製作

 

メアリー・エリザベス・ウィンステッド出演作品のDVD(Amazon

  「グラインドハウスデス・プルーフ in グラインドハウス」(2007年)

  「ダイ・ハード4.0」(2007年)

  「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」(2010年)

  

「スマッシュド ~ケイトのアルコールライフ~」(2012年)・・・Amazonビデオ

  

「The Spectacular Now」(2013年、日本未公開)・北米版、リージョン1,日本語なし

 

 

ジョン・グッドマン出演作品のDVD(Amazon

  「赤ちゃん泥棒」(1987年)

  「バートン・フィンク」(1991年)

  「ビッグ・リボウスキ」(1998年)

  「アーティスト」(2011年)

  「アルゴ」(2012年)

  「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年) 

  「パトリオット・デイ」(2016年)

  「アトミック・ブロンド」(2017年)

 

おすすめ会話劇、密室劇のDVD(Amazon

  「十二人の怒れる男」(1957年)

  「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」(1995年)

  「8人の女たち」(2002年)

  「ビフォア・サンセット」(2004年)

  「パニック・フライト」(2005年)

  「パリ、恋人たちの2日間」(2007年)

  「月に囚われた男」(2009年)

  「おとなのけんか」(2011年)

  「MI5:消された機密ファイル」(2011年)

  「ビフォア・ミッドナイト」(2013年)

  「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」(2013年)

  「エクス・マキナ」(2015年)

  「スティーブ・ジョブズ」(2015年)

  「ミス・シェパードをお手本に」(2015年)

  「おとなの事情」(2016年)

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