「レヴェナント: 蘇えりし者」(原題:The Revenant)は、2015年公開のアメリカの伝記映画です。マイケル・パンクの小説「蘇った亡霊:ある復讐の物語」を原作にアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督、レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディら出演で、アメリカの西部開拓時代を生きた実在の罠猟師ヒュー・グラスの半生と、彼が体験した過酷なサバイバルの旅を描いています。第88回アカデミー賞で、監督賞(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ)、主演男優賞(レオナルド・デカプリオ)、撮影賞(エマニュエル・ルベツキ)を受賞した作品です。
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目次
スタッフ・キャスト
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:マーク・L・スミス/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
原作:マイケル・パンク「蘇った亡霊:ある復讐の物語」
撮影:エマニュエル・ルベツキ
出演:レオナルド・ディカプリオ(ヒュー・グラス)
トム・ハーディ(ジョン・フィッツジェラルド)
ドーナル・グリーソン(アンドリュー・ヘンリー)
ウィル・ポールター(ジム・ブリッジャー)
フォレスト・グッドラック(ホーク)
ポール・アンダーソン(アンダーソン)
クリストッフェル・ヨーネル(マーフィー)
ジョシュア・バーグ(スタビー・ビル)
ドウェイン・ハワード(エルク・ドッグ)
メラウ・ナケコ(ポワカ)
ファブリス・アッデ(トゥーサン)
アーサー・レッドクラウド(ヒクク)
クリストファー・ロザモンド(ブーン)
ロバート・モロニー(デイヴ・ストマック・ウーンド)
ルーカス・ハース(ジョーンズ)
ブレンダン・フレッチャー(フライマン)
タイソン・ウッド(ウェストン)
マッカレブ・バーネット(ベケット)
グレイス・ドーヴ(ヒュー・グラスの妻)
ブラッド・カーター(ジョニー)
ほか
あらすじ
1823年、西部開拓時代のアメリカ北西部、極寒の荒野の中、狩猟をして毛皮を採取するハンターチームはネイティブアメリカンの一団に襲われ多大な犠牲にあいながら命からがら船で川を下ります。チームのひとり、ヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)はネイティブアメリカンの妻との間にできた息子、ホーク(フォレスト・グッドラック)とともにガイドとして同行しています。船を捨て山越えルートを選んだチームは森で野営します。翌早朝、グラスは見回り中に子連れの熊に襲われて喉を裂かれ、瀕死の重傷を負います。急ごしらえの担架でグラスを運びますが山越えには足手まといであること、瀕死でもあることから、隊長のアンドリュー・ヘンリーが死ぬまで見届け埋葬する者を募り、ホークとジョン・フィッツジェラルド(トム・ハーディ)、若いジム・ブリッジャー(ウィル・ポールター)が残ることになります。ジョンは2人がいない時にグラスを殺そうとします。これをホークが見つけ銃を向けますが、返り討ちにあい、殺されてしまいます。ジョンはジムを騙しグラスに軽く土をかけただけでその場を離れます。最愛の息子が殺されるのを見ていたグラスは奇跡的に一命をとりとめ、厳しい冬の寒さに耐え、交戦中の部族の熾烈な襲撃をかわしながら、ジョンを追って約300キロにわたる過酷な旅に出ます・・・。
レビュー・解説
妥協しない演出のもと、美しく厳しい自然を背景にデカプリオが渾身の演技を見せる、迫力の復讐劇ですが、欲を言えば脚本にわずかばかり挑戦が欲しい作品です。
イニャリトゥ監督と撮影のエマニュエル・ルベツキは自然光での撮影、特にマジックアワーと呼ばれる1日1時間半程度の黄昏時の撮影にこだわり、過酷なロケ地での撮影は9ヶ月間、延べ90日にも及ぶなど、妥協を配した演出・撮影だったようです。極寒の中で水に濡れることは非常に危険なので、安易に川の中に入る演出はちょっと抵抗がありますが、厳しく、美しい自然の描写が素晴らしく、またグラスが熊と戦うシーンのCGも実写かと思うほどです。本作で、念願のアカデミー主演男優賞を受賞したレオナルド・ディカプリオ、同助演男優賞にノミネートされたトム・ハーディのパフォーマンスも素晴らしいです。
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の作品は、どれも素晴らしいものです。「BIUTIFUL ビューティフル」(2010年)は観ていないのですが、
- 「アモーレス・ペロス」(2000年)
- 「21グラム」(2003年)
- 「バベル」(2006年)
- 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)
はいずれも、心に残る作品です。「アモーレス・ペロス」、「21グラム」、「バベル」は、ギジェルモ・アリアガが脚本を書いています。「BIUTIFUL ビューティフル」以降は、イニャリトゥ監督がアリアガ以外の脚本家と共同脚本の形で組んでいますが、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」を除けば、心に残る作品はアリアガの脚本です。イニャリトゥ監督の初期の作品は、アリアガの脚本なしには語れないと言っていいかもしれません。
何故、脚本の話をしたかと言うと、本作は
- イニャリトゥ監督の妥協しない演出
- エマニュエル・ルベツキの素晴らしい映像
- レオナルド・ディカプリオの迫真の演技
と、いずれも頭抜けていますが、脚本がちょっと弱い気がするのです。モデルとなったヒュー・グラスは、実は
- 結婚していたという記録も、子供がいたという記録もない
- ブリッジャーにも、フィッツジェラルドにも復讐していない
- 奇跡の生還から約10年後、先住民に襲われて命を落としている
のであり、この映画が史実に基づいているのは、熊に襲われ、仲間に見捨てられにもかかわらず、奇跡の生還をした部分のみです。即ち、
- 先住民の女性と結婚しており、子供(ホーク)がいた
- 妻が騎兵隊に、ホークがフィツジェラルドに殺された
- グラスがフィッツジェラルドに復讐する
というのは、すべて脚色です。もちろん、脚色してはいけないということではありませんが、
- グラスを先住民の女性と結婚をさせ
- その妻を騎兵隊に殺させ
- その子供をフィッツジェラルドに殺させ
- 愛するものを奪われたグラスに復讐させる
という脚色の構図は、マイナリティが関わる問題に関してグラスにいとも簡単に特等席を与えてしまっています。これでは単純な勧善懲悪の構図の作り方と、あまり変わりありません。人間のドラマは、そうした単純な構図に収まらないところにあるはず、イニャリトゥ監督、ルベツキの撮影、ディカプリオ、そしてトム・ハーディという、錚々たる面子ならば、もう少し期待したくなってしまいます。決して悪い映画ではない、素晴らしい映画なのですが、イニャリトゥ監督の他の作品と比較すると、どうしても要求水準が高くなってしまいます。
2000年以降、ハリウッド映画の予定調和的な世界が行き詰まる中、イニャリトゥ監督とアリアガのメキシコ人コンビの作品や、イギリス風味の効いた作品が、いい意味でハリウッド映画に影響を与えてきた気がしますが、すっかりのメジャーになったイニャリトゥ監督の今後の作品のあり方が注目されます。
レオナルド・ディカプリオ(ヒュー・グラス)
ウィル・ポールター(ジム・ブリッジャー)
ドーナル・グリーソン(アンドリュー・ヘンリー)
フォレスト・グッドラック(ホーク)
グレイス・ドーヴ(ヒュー・グラスの妻)
サウンドトラック
The Revenant(蘇えりし者)オリジナル・サウンドトラック盤(Amazon)
サウンドトラックは坂本龍一の作曲で、第59回グラミー賞にノミネートされています。
1. "The Revenant Main Theme" 2. "Hawk Punished" 3. "Carrying Glass" 4. "First Dream" 5. "Killing Hawk" 6. "Discovering River" 7. "Goodbye to Hawk" 8. "Discovering Buffalo" 9. "Hell Ensemble" 10. "Glass and Buffalo Warrior Travel" 11. "Arriving at Fort Kiowa" 12. "Church Dream" |
13. "Powaqa Rescue" 14. "Imagining Buffalo" 15. "The Revenant Theme 2" 16. "Second Dream" 17. "Out of Horse" 18. "Looking for Glass" 19. "Cat & Mouse" 20. "The Revenant Main Theme Atmospheric" 21. "Final Fight" 22. "The End" 23. "The Rvenant Theme" 24. "The Revenant Theme (Alva Noto Remodel)" |
動画クリップ(YouTube)
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関連作品
「レヴェナント: 蘇えりし者」の原作本(Amazon)
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品のDVD(Amazon)
「アモーレス・ペロス」(2000年)
「BIUTIFUL ビューティフル」(2010年)
「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)
レオナルド・ディカプリオ出演作品
「レイヤー・ケーキ」(2004年)
「インセプション」(2010年)
「裏切りのサーカス」(2011年)
「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」(2013年)監督・脚本
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)
「ダンケルク」(2017年)
ドーナル・グリーソン出演作品のDVD(Amazon)
「トゥルー・グリット」(2010年)
「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」(2011年)
「シャドー・ダンサー」(2012年)
「ある神父の希望と絶望の7日間」(2014年)・・・Amazonビデオ
「エクス・マキナ」(2015年)
「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年)
「バリー・シール/アメリカをはめた男」(2017年)