夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「トリコロール/白の愛」:国境や言葉を超える愛の平等について、男性を主人公に叙事的悲喜劇のスケール感で大胆かつ象徴的に描いた名作

トリコロール/白の愛」(原題:Trois couleurs: Blanc、ポーランド語:Trzy kolory: Biały)は、1994年公開のフランス・ポーランド・スイス合作のドラマ映画です。フランス国旗の青、白、赤の三色をモチーフにした「トリコロール」三部作の2作目で、クシシュトフ・キェシロフスキ監督・共同脚本、ズビグニェフ・ザマホフスキ、ジュリー・デルピーら出演で、性的不能を理由に最愛のフランス人妻に離縁され、一文無しでパリの街に放り出されたポーランド出身の理容師が、故郷で一念発起、恥辱にまみれた過去から立ち上がる様を描いています。第44回ベルリン国際映画祭で監督賞を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ/クシシュトフ・キェシロフスキ
出演:ズビグニェフ・ザマホフスキ(カロル・カロル)
   ジュリー・デルピー(ドミニク・ヴィダル)
   ヤヌシュ・ガヨス(ミコワイ)
   ほか

あらすじ

  • パリ。片言のフランス語しか話せないポーランド人の理髪師カロル(ヤヌーシュ・ガヨス)は、性的不能が原因でフランス人の妻ドミニク(ジュリー・デルピー)に離婚を求められます。カロルは裁判所で時間がほしいと哀願しますが、ドミニクはもう愛してない、突き放します。一文無しで妻に放り出され、異国で地で途方に暮れていたカロルは、地下鉄の通路で同郷のミコワイ(ズビグニエウ・ザマホフスキ)に出会い、友情を温め始めます。人生に絶望して死にたがっている男に手をかす気はないかと、ミコワイがもちかけますがカロルは断わります。カロルはミコワイのトランクに隠れ、パリで見つけた少女の胸像とともにどうにか故郷のポーランドに帰りつきます。
  • 兄の元に身を寄せたカロルは再び働き始めますが、美容師稼業に見切りをつけ、やくざな両替屋の用心棒になります。盗み聞きした両替屋たちの土地買収の計画を出し抜くことを狙い、またフランス語も本格的に学び始めます。ミコワイに再会した彼は、殺してほしいと願っている男に会いたいと伝えますが、その男とはミコワイ自身でした。カロルの機転で死の恐怖を味わったミコワイは生まれ変わり、カロルはミコワイから借りた金で事業を回し大成功、ミコワイを共同経営者に迎えます。一方、大金持ちになったカロルが電話をしても、ドミニクは冷淡に電話を切ります・・・。

レビュー・解説

トリコロール」三部作第二作の中で、唯一、男性を主人公とする本作は、国境や言葉を超える愛における平等について、叙事的悲喜劇のスケール感で大胆かつ象徴的に描いた名作です。

 

晩年はフランスでも活躍したクシシュトフ・キェシロフスキ監督は、ポーランド出身の映画監督・脚本家で、「デカローグ」(1989-1990年)、「ふたりのベロニカ」(1991年)、「トリコロール」三部作(1993-1994年)などで知られています。「トリコロール」三部作はフランス国旗を構成する三つの色、青(自由)、白(平等)、赤(博愛)をモチーフにした、愛をテーマにした作品群で、

からなり、本作「白の愛」」では、国境や言葉を超えた愛における平等をテーマにしています。

 

「青の愛」が女性を主人公とし愛の喪失と再生を欧州統合の為の協奏曲と重ねて叙情的に描いているの対し、男性を主人公に国境を超えた愛をユーモアを交えながら大胆なプロットで描く本作は、少ない登場人物ながら叙事的悲喜劇のスケール感があります。キェシロフスキ監督は晩年、フランスでも活躍していますが、憧れてやってきたポーランドからの移民がフランスでやっていくことの難しさを見聞することは決して少なくなかったでしょう。国境を超えた愛は、

  • 金を持ち、
  • 相手の言葉を話し、
  • 相手が同じ苦労を経験する

ことにより、ようやく相手と通じ合い、対等になれるいう悲喜劇的なメッセージが埋め込まれた本作には、主人公と同じポーランド人としてのキェシロフスキ監督の価値観が強く反映されていると思われます。

 

主人公の名前はカロル・カロルですが、カロルという名前はポーランド語でチャーリーに相当します。これを演じたズビグニェフ・ザマホフスキによると、

キェシロフスキ監督のチャーリー・チャップリンへの傾倒を表しています。彼は私にチャップリンを真似ろとは言いませんでしたが、役作りの基礎としてチャップリンのテクニックを見るように言いました。役者は半分悲劇的で、半分喜劇的でなければならないと、ずっと私に言い続けました。(ズビグニェフ・ザマホフスキ)

冒頭、カロルの歩く足元を映し出すシーンがありますが、これはチャーリー・チャップリンの、歩き方によるユーモア表現を意識したものであることがわかります(歩き方そのものを真似ているわけではない)。

 

本作のテーマ・カラーは白で、

  • かつて相思相愛だった、結婚式の回想シーン
  • 雪に覆われた故郷のゴミ捨て場で「ついに帰ってきた」と叫ぶシーン
  • 愛するドミニクの代わりに持ち帰った胸像(胸像とは対等になれる)
  • カロルとミコワイが氷の上で戯れるシーン

など、対象との関係が対等であるシーンで使われています。

 

映画が描かれる以前の背景として、

  • カロルが理容師のコンテストで一位になった時にドミニクと知り合い結婚した
  • パリの(ドミニクが営む?)理容室で働いていたが、フランス語はほとんど話せない
  • (異郷の地での慣れない生活の為?)結婚してから性的不能になった
  • 兄は故郷ポーランドで理容室を営んでいる

などが明らかになりますが、「青の愛」同様、これらの背景描写は必要最低限で、映画の中のダイナミズムでストーリーが展開していきます。

 

「青の愛」では、主人公ジュリーと同じく自由を求めるルシールが唯一の友人となりましたが、本作でも主人公のカロルと同様、家族に関して悩みを抱えるミコワイが、重要な友人となります。また、伏線や象徴的表現を用いる点も、「青の愛」と共通しています。

  • 冒頭、離婚の申し立てを受けて向かった裁判所の前で、カロルは愛すべき鳩に糞をかけられる。これは、愛する妻に「もう愛していない」と無一文で放り出される屈辱的な体験の予兆。
  • 一文なしでパリの街に放り出されたカロルは、地下鉄の公衆電話からなけなしのコインで電話をかけるが、他の男との情事の声を妻に聞かされた彼は我を失い、電話代の2フランを返せと駅員に詰め寄る。
  • 故郷の兄の元に身を寄せたカロルは駅員に払い戻させた2フランを捨てようとするが、コインが手に吸い付いて離れないという不思議な体験をし、一念発起、理容師に見切りをつけ、金になる仕事を探し、フランス語の勉強を始める。
  • 死を願うミコワイはカロルの機転で再生する。両替屋の土地買収計画を出しぬいたカロルは命を狙われるが、遺産を教会に寄付するという遺書で資産を守る。この命を賭けた再生は、後の展開の伏線となる。

 

「白の愛」は「青の愛」は同時進行する独立したストーリーで、ジュリー(ジュリエット・ビノシュ)が夫の愛人の見習い弁護士を追って入ろうとした法廷で、「白の愛」の離婚申し立ての審理が行われているという設定です。本作では法廷に入ろうするジュリーを、法廷の中からロングショットで捉えています。また、「青の愛」同様、老人が空き瓶を捨てようとして投入口に手がとどかないというシーンも挿入されていますが、

  • 「青の愛」では陽の光と戯れ、自由を満喫するジュリーは、老人に気づかない
  • 「白の愛」では、寒空のパリに無一文で放り出されたカルロは、老人をせせら笑う

という、主人公の異なる反応を描かれています。これらは、三部作を緩く結びつける象徴的要素と言えます。

 

<ネタバレ>

カロルは故郷のポーランドで一念発起、金を稼いでフランス語も勉強しますが、ドミニクに電話をかけるも冷たく無視されます。可愛さ余って憎さ百倍となったカロルは、稼いだの財産の相続人をドミニクにした上で、自らの死を偽装、遺産相続でドミニクをポーランドにおびき寄せます。本来は葬儀の前にシンガポールに身を隠す予定でしたが、ドミニクに未練が残るカロルはポーランドに残ります。葬儀で涙するドミニクを遠くから眺めたカロルは、その夜、ドミニクの宿泊するホテルを訪れます。性的不能を脱したカロルはドミニクと愛を確かめ合いますが、翌朝、カロルが去ったホテルに警察が訪れ、遺産相続を目的にカロルを殺害した容疑でドミニクを拘束します。言葉の通じない異郷の地で収監されたドミニクに自らの危険も顧みず会いに行ったカロルに、ドミニクは鉄格子の窓越しに「私が牢から出たら、一緒にパリに行きましょう、いい?あるいはここに残って、また結婚するのよ。」と手話で伝えます。遠くからドミニクを見つめるカロルの目に、喜びの涙が溢れ、頬を伝います。

<ネタバレ終わり>

 

ドミニクと対等になる為にカロルは生命を賭さねばならなかった訳ですが、遡ればフランス国旗の意味する「自由・博愛・平等」はフランス革命のスローガンで、まさに民衆が生命を賭して手に入れたものです。そのフランスの人々が今、テロ攻撃により生命を脅かされているのは、国境や文化を超えた「平等」は、今なお難しい課題であることを意味しているのかもしれません。

 

本作の主役はズビグニェフ・ザマホフスキで、ジュリー・デルピーの出番が少ないのが残念です。彼女は「ビフォー」シリーズのセリーヌのイメージが強いのですが、本作では回想シーンの可愛らしい花嫁と、離婚を争う冷淡な妻という大きなギャップのある役を演じています。エンディングで見せる表情も素晴らしいです。彼女はパリ出身の女優、映画監督、脚本家で、両親が俳優、5歳から父の劇団の舞台に立っています。セザール賞有望若手女優賞に二度、ノミネートされますが、フランス映画界のいざこざや内紛に嫌気がさし、アメリカに住み、映画制作を学びます。リチャード・リンクレーター監督と出会い、「恋人までの距離」に出演、高い評価を得、アメリカの市民権を得、映画を監督、歌手としてCDアルバムを発表、「恋人までの距離」の続編で主演のと共同脚本を務め、アカデミー脚色賞にノミネートされます。さらに「ビフォア・サンセット」で自作曲の演奏を披露、「パリ、恋人たちの2日間」では監督・脚本・製作・編集・音楽・主演を務めセザール賞脚本賞にノミネートされるなど、多彩な才能を見せています。

 

ズビグニェフ・ザマホフスキ(左、カロル・カロル)と
ヤヌシュ・ガヨス(右、ミコワイ)

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ジュリー・デルピー(ドミニク・ヴィダル)

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サウンドトラック     

 「トリコロール/白の愛」サウンドトラックCD(Amazon

1. The Beginning
2. The Court

3. Dominique tries to go home

4. A chat in the underground

5. Return to Poland

6. Home at last

7. On the Wisla

8. First job

9. Don't fall asleep

10. After the first transaction

11. Attempted murder
11. Attempted murder
12. The party on the Wisla

13. Don Karol I

14. Phone call to Dominique

15. Funeral music

16. Don Karol II

17. Morning at the hotel

18. Dominique's arrest

19. Don Karol III

20. Dominique in prison

21. The end

撮影地(グーグル・マップ)

 

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関連作品

トリコロール三部作のDVD(Amazon

  「トリコロール/青の愛」(1993年)

  「トリコロール/白の愛」(1994年)

  「トリコロール/赤の愛」(1994年)

 

クシシュトフ・キェシロフスキ監督作品のDVD(Amazon

  「傷跡」(1976年)

  「終わりなし」 (1985年)

  「殺人に関する短いフィルム」(1988年)

  「愛に関する短いフィルム」(1988年)

  「デカローグ」 (1989-1990年)

  「ふたりのベロニカ」(1991年)

 

ジュリー・デルピー出演作品のDVD(Amazon

  「汚れた血」(1986年)

  「僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ」(1990年)
       ・・・北米版、リージョン1,日本語なし

  「恋人までの距離」(1995年)

  「ビフォア・サンセット」(2004年)

  「ブロークン・フラワーズ」(2005年)

  「ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男」(2006年)

  「パリ、恋人たちの2日間」(2007年)

  「ビフォア・ミッドナイト」(2013年) 

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