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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「リザとキツネと恋する死者たち」:不条理舞台劇をダークファンタジーに脚色、ロマンスに憧れる健気な女性を描く和風スパイスのコメディ

「リザとキツネと恋する死者たち」は、2015年公開のハンガリーのダークファンタジー&コメディ映画です。栃木県那須に伝わる「九尾の狐」伝説をモチーフに、ウッイ・メーサロシュ・カーロイ監督、モーニカ・ヴァルシャイら出演で、彼女だけに見える幽霊の昭和歌謡の日本人歌手「トミー谷」と日本の恋愛小説が心のよりどころの孤独で健気な奥手の女性が、キツネの呪いがチラつく不思議な連続殺人事件に巻き込まれる騒動を描いています。世界三大ファンタスティック映画祭のうち、第35回ポルト国際映画祭でグランプリ、第33回ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭で審査員&観客賞を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ウッイ・メーサロシュ・カーロイ
脚本:ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ/バーリント・ヘゲドゥーシュ
原作:ジョルト・ポジュガイ「Liselotte és a május」
音楽:アンブルシュ・デヴィハージ
出演:モーニカ・バルシャイ(リザ)
   デヴィッド・サクライ(トミー谷)
   ゾルターン・シュミエド(ヘンリク)
   ガーボル・レヴィツキ(ゾルタンの上司)
   サボルチ・ベデ・ファゼカシュ(ゾルタン)
   ピロシュカ・モルナール(マルタ)
   ほか

あらすじ

  • 1970年代、ハンガリーの架空の都市。リザ(モーニカ・バルシャイ)は、元日本大使の未亡人マルタ(ピロシュカ・モルナール)の家に住み込み、専属看護師として働いて12年になります。日本の恋愛小説が、孤独なリザの心のよりどころです。彼女にしか見えないユーレイの日本人歌手トミー谷(デヴィッド・サクライ)が唯一の友人で、外出する機会もない彼女を軽妙な歌で元気づけてくれます。おいしいスープを作るリザに、マルタは願いを聞いてあげようと上機嫌です。日本の恋愛小説にあるような甘いロマンスに憧れる無垢で繊細なリザは、30歳の誕生日を迎え、2時間だけ外出することを許してもらいます。さびしそうなトミーを尻目に、リザはおしゃれをして嬉しそうに出かけます。憧れのメック・バーガーで、ハンバーガーにかぶりつくリザには、傍らのカップルがまぶしく見えます。
  • リザのいないマルタの家ではトミーがマルタのそばに座っていますが、マルタには見えません。クッキー缶に手を伸ばしたマルタはベッドから転落し、そのまま動かなくなります。マルタの死後、家の中の調度品をすべて持ち出した親族は、マルタの貯金が在り処をリザに聞き出そうとしますが、何も答えない彼女を見て、貯金目当てにマルタを殺したのではないかと警察に訴えます。悲しみにくれるリザに疑いの目を向ける警察は、地方から転勤してきたばかりの刑事ゾルタン(サボルチ・ベデ・ファゼカシュ)に捜査をまかせます。マルタのいない家に一人住むことになったリザは、新たな人生を歩むべくロマンスを求めますが、出会うのはまずそうな料理を好む男など、個性的個性的な男ばかりで、彼らが恋を始めようとするとキツネの影が忍び寄り、次々と死んでしまいます。
  • ますます疑われるさなか、貯金を使い果たしてしまったリザは下宿人を募集、そこに刑事ゾルタンがおさまります。リザの生活を知るにつれ、ゾルタンは殺人の影がみじんもないことに気付き、いつしかゾルタンの眼差しは疑いから温かいものへと変化していきます。そんなゾルタンを見るトミーに、リザを渡すまいとする嫉妬の炎が燃え上がります・・・。

レビュー・解説

1970年代のレトロなハンガリーを舞台に昭和歌謡風のオリジナル曲をスタリッシュにフィーチャー、 原作の不条理舞台劇に日本の「九尾の狐」伝説を取り込んでダーク・ファンタジーに、さらにロマンティック・コメディへとダイナミックに脚色された本作は、一見、荒唐無稽ですが、無垢で健気な主人公というしっかりとした軸を持ち、アキ・カウリスマキ監督やウェス・アンダーソン監督の作品の様な質の良さを感じる作品です。

 

原作となったジョルト・ポジュガイの舞台劇「Liselotte és a május」は、心優しい30代の孤独な女性があらゆる手を使ってパートナーを得ようとするものの、最初のデートで相手が死んでしまうという、ほろ苦い不条理ブラック・コメディです。当初の脚本は原作に近く、トミー谷も主題歌を唱うだけでしたが、資金源(共同プロデューサー)からの勧めもあり、本作が長編デビュー作となるウッイ・メーサロシュ・カーロイ監督は脚本を大きく書き換え、日本映画や文学、Jポップなど日本のカルチャーに造詣のある彼のCMディレクターとしての才覚が一気に開花した作品です。

 

この映画は原作の舞台劇に、

  • リザだけに見える幽霊としてトミー谷を登場させる
  • 日本の「九尾の狐」伝説をモチーフとして取り込む
  • 奇妙な人物や料理を登場させる

ことにより、不条理コメディをダーク・ファンタジーに変え、さらにエンディングも変えてロマンティック・コメディになるという荒唐無稽な展開になっています(映画ではやり直す形でふたつのエンディングが描かれています)。

 

最も際立っているのが、トミー谷のキャラクターです。名前からすると舞台芸人のトニー谷がモデルの様ですが、映画のトミー谷は衣装も歌も踊りも実物よりもはるかに洗練されており、曲調と相まってグループサウンズを彷彿とさせます(踊りのステップはエルヴィス・プレスリーを真似ています)。彼の劇中歌の数々は昭和歌謡のカバー曲のように聞こえますが、ハンガリー人の作曲家エリック・スモが作曲したオリジナルだというから驚きです(作詞は日本人)。

  • Doki Doki(Thump, Thump)*3
  • Dance Dance Have A Good Time*4
  • Believe to the End*5
  • Out She Comes up She Goes*6 
  • ・・・

リザをフィーチャした曲、

  • Forever(My Love)(featuring Liza)*7

も、なかなか良いです。また、トミー谷が歌って踊るシーンは、CMやPVとしても通用しそうなくらいインパクトがあります。

 

一方、三つ編み女子から美しい女性に変貌してくいく、内気で優しく健気なリザを、舞台俳優でもあるモーニカ・バルシャイがぶれることなく演じ、この映画をしっかりと締めています。派手なトミー谷についつい目が行きますが、私生活でカーロイ監督のパートナーでもある彼女が、しっかりしたパフォーマンスで本作の成功に大きな役割を果たしています。因みに、映画が大好評で素晴らしいレビューが載った伝えても彼女は素っ気なく、お陰でカーロイ監督は浮かれることなく地に足をつけてデビュー作の成功を迎えることができたそうです。実は彼女は、私生活でもしっかりとしたパートナーなのかもしれません。

 

さらにカーロイ監督は、リザの無垢さに社会主義時代のハンガリーを重ね合わせることにより、映画に厚みをつけています。ハンガリー旧ソ連の支配から開放されたのは1989年で、本作の舞台となる1970年代はまだ社会主義でした。そこに自由主義世界の象徴とも言えるハンバーガー・ショップや女性ファッション誌のコスモポリタンを登場させて、これに憧れるリザを描くことは、解放当時に同じような思いをしたハンガリーの人々の共感を呼びます。ロシアにせよ、中国にせよ、社会主義の国の市場が自由化されると、決まってマクドナルドの出店がニュースになりましたが、ファーストフードや女性ファッション誌は、庶民が手を伸ばせば届く憧れの自由の象徴であり、1989年というそれほど遠くない過去を懐かしく思ったハンガリーの人々も少なくないのではないかと思います。ファンション誌を手にハンバーガー・ショップに通い、ロマンスを夢見るリザについて、カーロイ監督は次のように語っています。

愛というのはピンク色の夢ではありません。愛を得るためには一生懸命努力しなくてはいけない。けれども、努力する価値のあることであり、努力すればご褒美をもらえるということを、この作品で伝えたいと思います。(ウッイ・メーサロシュ・カーロイ監督) 

 

因みに、那須の「九尾の狐」伝説とは、インド、中国を荒らし回った妖怪、九尾の狐が日本へ渡来、「玉藻の前」という美女に化身し、帝の寵愛を受けながら帝の命を奪って日本を我が物にしようとしたが、陰陽師に正体を見破られ、「白面金毛九尾の狐」の姿となって那須野が原へ逃げ込んだというと話です。その妖狐の呪いでリザに近づく男性が次々に死んでいくのではないかと、彼女は思い込むわけですが、リザが出会うのは、

  • まずそうな料理を好む男
  • 棚に閉じこもる男
  • 女と見れば近づく男

と個性的な男ばかりです。

 

ロマンスに憧れるリザは男が女に惚れる料理のレシピを手に入れますが、どう見ても美味しそうではありません。

  • 鯉のメイプルシロップ煮
  • メロンスープのディル添え、新玉ねぎ入り
  • キノコのジャム煮
  • 豚肉入りのチョコプディング
  • ミント風味のレバー
  • 甘酢入りの紅茶

しかし、まずそうな料理を好む男が、吸い寄せられるようにかぶりつきます。悪趣味なメニューがなんとも言えません。

 

<ネタバレ>

狐の呪いに取り憑かれたと信じ込んだリザは自殺を図ります。実は、リザを愛するトミー谷は実は死神で、すべては彼女を手元に置く為の策略でした。本当に自分を愛してくれているのはゾルタンだと気づいた彼女は、ゾルタンの元に帰りたいと懇願しますが、一生、ゾルタンにつきまとうとトミー谷に脅されます。ゾルタンを守る為に、リザはトミー谷の元に残ること決意しますが、その途端に呪いが解けて、リザは生き返ります。無私の相思相愛が、呪いを解く鍵だったのです。それから10年たち、リザは愛するゾルタンと娘と一緒に那須を旅しています。車の後ろに潜むトミー谷は、リザがゾルタンの好きなフィンランドの歌、「イエヴァン・ポルッカ」(ロイマツ・ガールのフラッシュ・アニメで有名)を口ずさむのを聞いて、クサリます。

<ネタバレ終わり>

 

モーニカ・バルシャイ(リザ、30歳になったばかりの無垢で健気な専属看護師)

 

デヴィッド・サクライ(右、トミー谷、リザにしか見えない幽霊)

 

サボルチ・ベデ・ファゼカシュ(ゾルタン、殺人事件の刑事、リザの家に下宿する)

 

ピロシュカ・モルナール(マルタ、日本大使の未亡人、リザの雇い主)

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ゾルターン・シュミエド(ヘンリク、マルタの甥、女と見ればすぐに近づく)

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メロンスープのディル添え、新玉ねぎ入り(男が女に惚れる料理)

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尻尾を出す妖狐

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サウンドトラック

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Liza the Fox-Fairy (Original Motion Picture Soundtrack) - Various ArtistsiTunes

1. Filmrészlet / Róka...Tündér...Vagyok…
2. Doki Doki (Thump Thump) 
3. Kezdődik a Mese
4. Filmrészlet / A Rákhús Hamburger Már Régen Kihűlt… 
5. Liza Dal 
6. Filmrészlet / Lekváros Gombapörkölt? 
7. Dance Dance Have A Good Time 
8. Geronimo / Jäätynyt Sade 
9. Filmrészlet / Mi Ez a Házibuli? 
10. Out She Comes Up She Goes 
11. Ludvig Úr 
12. Nasu 
13. Believe To The End
14. Zoltán Szerelmes 
15. Filmrészlet / Az Én Átkom Is Megtörhető? 
16. Funky Booeeiing 
17. Henrik Bossa 
18. Filmrészlet / Ma Nem Fogok Meghalni 
19. Róka Horror 
20. Filmrészlet / Kávéfőző
21. Zoltán Western 
22. Filmrészlet / Néha Úgy Tűnik... 
23. Forever (My Love) 
24. Dance Dance Have A Good Time (Sero Muki Remix) 

動画クリップ(YouTube

撮影地(グーグルマップ)

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関連作品

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  「タクシデルミア~ある剥製師の遺言~ 」(2006年)

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