夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「NARC ナーク」:過酷なドラッグの潜伏捜査を背景に、殺伐とした現実と刑事の心理をざらりと描き出すサスペンス&ドラマ

NARC ナーク」は、2002年公開のアメリカのクライム・サスペンス映画です。ジョー・カーナハン監督、レイ・リオッタジェイソン・パトリックら出演で、危険な潜入捜査に挑む麻薬捜査官のハードな世界を描いた R指定のドラマです。タイトルの「NARC」は、麻薬捜査官(Narcotics Officer)を表すスラングです。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ジョー・カーナハン
脚本:ジョー・カーナハン
製作:レイ・リオッタ/ジュリアス・R・ナッソー/トム・クルーズ/ポーラ・ワグナー
出演:ジェイソン・パトリック(ニック・テリス刑事)
   レイ・リオッタ(ヘンリー・オーク警部補)
   シャイ・マクブライド(チーヴァース警部)
   アラン・ヴァン・スプラング(マイケル・カルヴェス刑事)
   アン・オープンショー(キャスリン・カルヴェス)
   トニー・デ サンティス(ハーラン医師)
   ジョン・オーティス(オクタヴィオ・ルイズ)
   カーソン・ダーヴェン(レオ・リー)
   ビショップ(ユージーン「Deacon」シェップス)
   バスタ・ライムス(ダーネル 「Big D Love」 ビアリー)
   リチャード・シェヴァラウ(ラトロイ・スティーズ
   ステーシー・ファーバー(キャスリン・タニー)
   ほか

あらすじ

デトロイトの麻薬捜査官ニック・テリス(ジェイソン・パトリック)は、任務中に市民を誤射してしまいます。悔恨の念から18か月休職しますが、2か月前に同僚のマイケル・カルヴェス刑事が殺害され、その捜査の為に殺人課の刑事として復職を命じられます。被害者のパートナーであり、荒くれ者で知られる殺人課のオーク警部補(レイ・リオッタ)と組み、事件の容疑者を特定する為に捜査を進めるうちに、二人は信頼で結ばれていきますが・・・。

レビュー・解説

ドラッグの潜伏捜査を取り巻く過酷な状況を背景にした刑事の人間ドラマを、ジェイソン・パトリックレイ・リオッタが熱演、荒涼とした現実と刑事の心理をざらりと描き出す演出が秀逸です。

 

監督・脚本のジョー・カーナハンは、エロール・モリス監督のドキュメンタリー映画「シン・ブルー・ライン」(1988年)に描かれた、アメリカでは珍しくない警官殺害事件とその背後にある人間ドラマに触発され、この映画の脚本を書いたと言います。タイトルの「NARC」は、麻薬捜査官(Narcotics Officer)及び転じて密告者を表すスラングです。アメリカはドラッグの流通が多く、警察官が実際にドラッグを購入して検挙するおとり捜査が広く行われており、「21 ジャンプ・ストリート」(2012年)や「デンジャラス・バディ」(2013年)でも、「おまえ、ナークか?」というネタが出てくるほどポピュラーな言葉です。相対的にドラッグの流通量が少ない日本では、おとり捜査でドラッグを購入できる権限が厚生労働省麻薬取締官に限定されており、警察官はドラッグを購入できず、かなり状況が異なります。いずれにせよ、悪の組織に潜入して捜査することは危険で過酷な任務であり、本作ではその過酷さがドラマの背景となっています。

 

舞台となるデトロイト自動車産業で栄えたアメリカ中西部有数の世界都市で、自動車産業の衰退とともに人口が減り、失業率、貧困率が高く、犯罪都市としても有名です。自動車産業関連の職を求めて南部から移住してきた人とその子孫である黒人が、デトロイト市内の人口の8割近くを占めます。裕福な人々が郊外の治安の良い衛星都市に移り住むことにより市内の空洞化に拍車がかかり、市内の住宅の1/3が廃墟か空き部屋で、空き地や巨大な廃墟となったビルが多く見受けられます。貧困率が高く、子供の6割が貧困生活を強いられており、市民の半分が読み書きもできません。フォーブスがアメリカで最も危険な街と名指ししたほど治安が悪く、人手不足のため警官が通報を受けてから現場に到着するまでの平均時間は、一時間近いと言われています。

 

こうした荒んだ舞台、背景の中で、対称的な二人の刑事の人物と心理が描き出されていきますが、極限状態での人間のドラマは俳優の心をくすぐるのか、ジェイソン・パトリックレイ・リオッタも無給に等しいギャラでこのインディーズ映画に出演しており、脚本を気に入ったというトム・クルーズもプロデューサーに名を連ねて全面的に協力しています。特に、11キロ増量した上に重ね着をし、目の下には人工皮膚をつけて中年のオーク警部補の役作りをしたレイ・リオッタの演技には目をみはるものがあります。リオッタは、マーチン・スコセッシ監督の「グッドフェローズ」(1990年)が出世作となりましたが、「グッドフェローズ」では当時30代の半ばのリオッタを、40代半ば過ぎで油の乗り切ったロバート・デ・ニーロジョー・ペシが支えています。それから10年以上たち、この映画では逆に30代半ばのジェイソン・パトリックを、40代半ばを過ぎたリオッタを支える立場になっており、リオッタが10年余りの間に重ねてきたキャリアが感じられます。

 

ジェイソン・パトリック(ニック・テリス刑事)

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レイ・リオッタ(ヘンリー・オーク警部補)

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デトロイトのイメージがこれ以上、悪化するのを避けるためか、許可がおりず、撮影のほとんどはカナダのトロントで行われています。しかし、巧みに選ばれたロケ地がデトロイトの荒んだ雰囲気がよく出ており、氷点下の寒さの中でのハンドヘルド・カメラによる撮影がリアリティを醸し出しています。デトロイトでは一日だけ、通りでの聞き込みのシーンが撮影されました。エキストラは使わず、実際の通行人に聞き込みをしています。危険な地域での撮影の為、警官のエスコートがつき、バッジが偽物であることがわかると何をされるかわからない為、本物のバッジが貸与されたと言います。スタンバイする本物の警官が駆けつけるのに一分はかかるという状況下で、スリリングな撮影だったようです。

撮影地(グーグルマップ)

 

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「シン・ブルー・ライン」(1988年)・・・輸入盤、リージョン1,日本語なし

 

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  「ロストボーイ」(1987年)

  「スリーパーズ」(1996年)

 

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  「グッドフェローズ」(1990年)

  「ジャッキー・コーガン」(2010年)

  「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」(2012年)

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