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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ロブスター」:極端な設定と強烈な演出で不可思議かつスリリングに展開、社会と男女関係の心理を問う野心作

「ロブスター」(原題:The Lobster)は、2015年公開のギリシャ・フランス・アイルランド・オランダ・イギリス合作のSF恋愛映画です。ヨルゴス・ランティモス監督、ヨルゴス・ランティモス/エフティミス・フィリップ共同脚本、コリン・ファレルレイチェル・ワイズ、レア・セドゥら出演で、パートナーを見つけるためにホテルに拘束された独身の男が体験する出来事と、新たな恋の行方を描いています。第68回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した作品です。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:ヨルゴス・ランティモス/エフティミス・フィリップ
出演:コリン・ファレル(デイヴィッド)
   レイチェル・ワイズ (近眼の女)
   ジョン・C・ライリー (滑舌の悪い男)
   ベン・ウィショー(足の悪い男)
   ジェシカ・バーデン(鼻血を出す女)
   レア・セドゥ(独身者のリーダー)
   アリアーヌ・ラベド(メイド)
   アンゲリキ・パプリア(薄情な女)
   エマ・オシア(鼻血を出す女の親友)
   オリヴィア・コールマン(ホテルのマネージャー)
   マイケル・スマイリー(独身者)
   ロジャー・アシュトン=グリフィス(医者)
   イーウェン・マッキントッシュ(ホテルの警備員)
   ほか

 あらすじ

家庭を持ち、子孫を残すことが義務付けられた近未来。妻に捨てられてしまった男デイヴィッドは、社会のルールに従い、街はずれにあるホテルへと送られます。そこでは45日以内に自分の配偶者となる人を見つけなければならず、見つけられなかった場合は自分で選んだ動物に姿を変えられて森に放たれることになります。デイヴィッドは他の参加者と共に配偶者となる人を見つけようとしますがうまくいかず、独身者の暮らす森へと逃げ込みます。森では独身者のリーダーが決めた「恋愛禁止」のルールがありますが、彼はそれを破り、独身者の一人である「近眼の女」と恋に落ちてしまいます・・・。 

レビュー・解説

極端な設定と強烈な演出で一見不可思議ながらスリリングに展開する本作は、社会と男女関係と心理という普遍的な問題を扱う、野心的な作品です。

 

人は群れをなして暮らす社会的な動物ですが、人間社会はその維持、繁栄の為に、時に個人に対して様々な圧力を生みます。「ロブスター」では、

  • 独身者にパートナーを見つけることを促す社会的な圧力
  • 相手を見つけるべく、独身者が自分自身に課する圧力

に焦点をあて、

  • 独身者はホテルに収容され、45日以内に相手を見つけないと、動物に変えられる
  • 独身者はパートナーを得るべく、相手との共通点を見出すことに必死になる
  • ホテルから脱走した独身者のコミュニティでは恋愛禁止である
  • 相手との関係に執着するあまり、共依存に陥る

という極端な設定で、社会的圧力と反発、男女関係の心理について問いかけています。

 

タイトルは、主人公デイヴィッドが相手が見つからない場合にロブスターになることを希望したことに由来します。彼はロブスターを希望する理由として、

  • 100年以上生きる
  • 貴族のように高貴である
  • 生涯を通して生殖可能である
  • 海が好きで、10代の頃から水泳や水上スキーが得意

を挙げています。

 

当初、この映画の脚本には、主人公がロブスターになって別れた妻とその新しいパートナーに食べられてしまうというオチがついていたそうです。それはそれで面白そうですが、このオチは脚本検討の早い段階で消え、二人の共同脚本家はあらゆる展開の可能性を検討したといいます。実際、恋愛と社会のあり方を囲い込むなど、この脚本はストーリー展開に論理的な枠組みを持っていることがわかります。

 

「ロブスター」の枠組み

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主人公のデイヴィッドは、妻に逃げられ、ホテルに収容された冴えない中年男で、コリン・ファレルはこの役を演じる為に約9キロ増量しています。独身者のコミュニティのリーダーをレア・セドゥ、そこでデイヴィッドと恋に落ちる近視の女をレイチェル・ワイズと、スター女優が演じていますが、リアリティを出すためにほとんどが自然光、ノーメイクで撮影されています。極端な設定にもかかわらず、見るものをグイグイと惹きつけるのは、プロットの展開の妙とともに、彼らの現実感溢れるパフォーマンスによるものでしょう。

 

コリン・ファレル(デイヴィッド)

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レイチェル・ワイズ (近眼の女)

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ジョン・C・ライリー (滑舌の悪い男)

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ベン・ウィショー(足の悪い男)

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ジェシカ・バーデン(鼻血を出す女)

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レア・セドゥ(独身者のリーダー)

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アリアーヌ・ラベド(メイド)

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アンゲリキ・パプリア(薄情な女)

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エマ・オシア(鼻血を出す女の親友)

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どう考えれば良いのか? 

「ロブスター」は、「さて、どう考えればいいと思う?」と言わんばかりに、目の前に大きな問題をボンと放り出して来ます。果たして正解があるのかどうか、ヨルゴス・ランティモス監督は次のように語っています。

何が理想であるか、私にもわかりません。我々にとってより有益な問いは、我々がどのように社会を作って来たのか、その中でどのように振る舞って来たのか、人々に何を期待し、どう扱うのかです。この世に生まれ、教育を受け、様々なことに慣れ親しんでいますが、それに疑問視することができます。何がより正しいか、人々は考える権利があります。反乱を起こすことも、ルールに従うことも常に正しいとは限りません。自分で考えて、自分に当てはまらないことを明確にしなければならないのです。

何やら、民主主義の発祥の地であるギリシア出身の監督らしいく、哲学的な(?)問いかけですが、彼の意図に従って少し考えてみました(以下は映画の枠組みに従った筆者個人の考え方で、映画が示す結論ではありません)。

人間はロブスターのように生きることができるのか?

「貴族のように高貴で、100年以上生き、生涯を通して生殖可能」なロブスターは、ある意味、魅力的な存在でもあります。本作ではデヴィッドは人間にとどまろうと努力し、ロブスターのような生き方について表立った問題提起はなされていませんが、面白いのでちょっと考えてみました。もし人間のままでロブスターのように生きられるならば、それはひとつの理想かもしれません。しかし、人間とロブスターには大きな違いがあります。ロブスターは一度に一万個から十万個の卵を産み、一年ほど卵を腹に抱えて育てた後、一気に大自然に放ちます。つまり、大自然の中で成長する過程で卵や幼生が淘汰されても種が保存できるように数多く産むシステムで、彼らはいわゆる育児をしません。したがって、交尾した雄が雌に添い遂げて育児をすることもありません。一方、人間は一度に生む子供の数は通常、一人と少なく、育児にも手間がかかります。種の保存の為には、女性の出産後も男性が女性に連れ添い、女性とその子供に対して社会的、経済的な保護を行う必要があります。

相手を見つけないとならないのか?

恋愛→結婚→出産→育児がワン・パッケージで考えられていた時代とは異なり、現代は妊娠・出産を伴わない自由恋愛が可能な時代です。個人的体験としての恋愛はともかくとして、社会的利益が不確かな恋愛を促す為に社会が個人にプレッシャーをかける意味はあまりありません。また、アメリカでは60ドルもあれば精子バンクから受胎の為の精子を入手できますので、社会が独身者に対して相手を見つけるように理不尽なプレッシャーをかけることは非効率的なことです。社会は、恋愛や結婚の関係にあろうがなかろうが、持続可能性に直接的に貢献する出産と育児を行う男女をより手厚く保護すべきです。これは税収の一部を出産や育児のコストに充当する富の再分配によって実現するもので、独身者にも持続可能な社会に貢献してもらうことを意味します。人々は、

  • 出産や育児を直接分担せず、納税で持続可能な社会に貢献するか
  • 税の減免や各種補助を受けて出産・育児を直接分担する

のいずれかを選択でき、社会は再分配率で出生率を調整して持続可能な社会を実現します。社会はそれ以外のプレッシャーを独身者にかけるべきではありません。

恋愛をしてはならないのか?

恋愛は自然な人間の本能であり、自由恋愛であろうが、出産・育児を前提としたものであろうが、社会に迷惑をかけない限り、社会は恋愛を制約すべきではありません。また、従来の結婚は、基本的に男女の一生を縛るものでしたが、最近では、

  • 生理学的に恋愛感情が持続するのは、女性が男性の助力を必要とする出産後数年までである
  • 女性の自立により、経済的問題が解決できれば、以降は必ずしも男性の助力を必要としない

と言われています。社会は従来の結婚の枠にとらわれず、婚外子精子バンクの利用、代理出産なども視野に入れて、出産や育児保護を厚くすることを考えれば良いのであり、恋愛や結婚に干渉すべきではありません。また、女性の自立に伴い、人生半ばでの離婚はより自然な現象となってくると思われますが、これは人生半ばからの新たな恋愛の機会を提供するものでもあります。人々が中年以降の生き方にも選択肢を持ち、豊かな後半生を実現できるようにする為にも、社会は恋愛を制限すべきではありません。

共通点を見出さなければならないのか?

相手との共通点を持つことにより、お互いに惹かれ合い、うまくやっていける機会が増えると考えられます。それは人生の目的ではありませんが、恋愛関係に限らず、社会生活を営んでいく上で有益な、人間関係を円滑にするスキルのひとつです。人間関係を円滑にするスキルは、若い人のパートナー獲得のみに必要なものではありません。女性の自立により離婚が容易になる中で、関係を維持していく為にも生涯有効となるスキルです。また、主人公のデイヴィッドのようにパートナーと離別しても、人生半ばで新たな恋愛の機会を得る、生涯有効なスキルでもあります。但し、生涯独身でもかまわない、仲間も必要ないという人にはさして重要ではないスキルかもしれません。

男女関係はどうあるべきなのか?

人間は幸か不幸か、恋愛→結婚→出産→育児といった一連のプロセスを分離することができるようになりました。結婚や出産、育児を前提としない自由恋愛も可能ですし、人生半ばで離婚し、新たなパートナーと後半生を過ごすこともできます。一般に恋愛は競争であり、ロブスターの雄も受精させる雌を巡って熾烈な争いを繰り広げますが、人間結婚→出産→育児という枠に縛られることなく、友情から自由恋愛まで幅広い男女関係を構築することができます。たった60ドルの価値しかない精子を提供をする為に(あるいは提供を受ける為に)、相手探しに腐心し、厳しい競争を繰り広げることは、もはや人間にとってあまり意味のないことかもしれません。むしろ、相手とうまくやっていけるスキルを身につければ、様々な男女関係をから自分に合ったものを選択して、動物より豊かに人生を過ごすチャンスに恵まれていると言えます。特定の人との関係に固執して、共依存に陥る必要もないのです。どのような関係を選択するかはあくまでも個人の自由で、社会に求められているのは個人に理不尽なプレッシャーをかけることではなく、恋愛の結果であろうがなかろうが出産と育児を手厚く保護し、社会が持続可能な出生率をコントロールすることです。

撮影地(グーグル・マップ)

  • デイヴィッドが送り込まれたホテル

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関連作品

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  「籠の中の乙女」(2009年)

 

コリン・ファレル出演作品のDVD(Amazon

  「マイノリティ・リポート」(2002年)

  「ヒットマンズ・レクイエム」(2008年)

  「クレイジー・ハート」(2009年)

  「セブン・サイコパス」(2012年)

 

レイチェル・ワイズ出演作品のDVD(Amazon

 アバウト・ア・ボーイ」(2002年)

  「ナイロビの蜂」(2005年)

  「MI5:消された機密ファイル/PAGE EIGHT」(2011年)

  「愛情は深い海の如く」(2011年)

 

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  「ルルドの泉で」(2009年)

  「シモンの空」(2012年)

  「マリー・アントワネットに別れをつげて」(2012年)

  「アデル、ブルーは熱い色」(2013年)

  「美女と野獣」(2014年)

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