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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」:住み慣れた家を買い換えようとする老夫婦をモーガン・フリーマンとダイアン・キートンが好演

「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」(原題:5 flights Up)は、2015年公開のアメリカのドラマ映画です。ジル・シメントの全米ロングセラー小説「Heroic Measures」を原作に、リチャード・ロンクレイン監督、モーガン・フリーマンダイアン・キートンら出演で、足が不自由になった時に備え、エレベーターのない集合住宅の部屋を売りに出そうとする老夫婦を描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:リチャード・ロンクレイン
脚本:チャーリー・ピータース
原作:ジル・シメント「Heroic Measures」
出演:モーガン・フリーマン(アレックス・カーヴァー)
   ダイアン・キートン(ルース・カーヴァー)
   シンシア・ニクソン(リリー・ポートマン)
   クレア・ヴァン・ダー・ブーム(若き日のルース)
   コーリー・ジャクソン(若き日のアレックス)
   キャリー・プレストン(ミリアム・カーズウェル)
   アリシア・レイナー(ブルー・レギンズ)
   スターリング・ジェリンズ(ゾーイ)
   ジョシュ・パイス(ジャクソン)
   マイケル・クリストファー(ラリー)
   ダイアン・チースラ(メイ)
   ほか

あらすじ

ニューヨークのブルックリンの街を一望できる集合住宅の最上階。画家のアレックス・カーヴァー(モーガン・フリーマン)と元教師の妻ルース(ダイアン・キートン)はこの理想的な家に住んで40年になりますが、この建物にはエレベーターがありません。アレックスが日課としている愛犬ドロシーとの散歩を終え、階段を上って6階の我が家へ帰宅すると、姪のリリー(シンシア・ニクソン)が来ています。夫の今後を心配したルースがエレベーターのある住居へ引っ越そうとアレックスを説き伏せ、今の住まいを売ることにしたのです。明日が購入希望者の為の内覧会で、やり手不動産ブローカーのリリーが、その準備に来たのです。そんな折、ドロシーに異変が起こり、夫妻は行きつけの動物病院へとタクシーを走らせますが、マンハッタンへ渡る橋の上でタンクローリーが道をふさいで、車はなかなか進みません。ようやく獣医に見てもらったドロシーは、ヘルニアで手術が必要と言われてしまいます。翌朝、やる気満々のリリーがお客を連れてやって来ます。内覧会は一風変わったニューヨーカーたちで大賑わいです。早速いくつかのオファーが入り、ルースとアレックスは新居候補を探し始めますが、タンクローリー事故は一夜にしてテロ事件へと様相を変えていきます・・・。

レビュー・解説

愛犬の病気やテロなど不安感の漂う中で、高齢で足が不自由になった場合に備えて家を買い替えるという、暗くなりがちなテーマを、モーガン・フリーマンダイアン・キートンが夫婦役で円熟のパフォーマンス見せる、ハート・ウォーミングなコメディです。

 

家を売ったり、買ったりするのは面倒この上ないのですが、エレベーターのない集合住宅に住むカーヴァー夫妻は、足が不自由になった時に備えて家を売る決断をします。不動産取引は生き馬の目を抜くような世界、老夫婦にとっては大変な決断です。原作のタイトル「Heroic Measures」は、思い切った手段という意味ですが、老夫婦が家を買い替えることを意味しています。

 

姪が不動産ブローカーなのは心強いですが、バリバリの姪とマイペースな老夫婦ではテンポが微妙に合いません。そうこうしているうちに、愛犬が病気になったり、タンクローリー事故がテロ事件の様相を呈してきて、客の出足や不動産価格に影響しそうになったりで、ドタバタします。さらに内覧会には個性豊かなニューヨーカー達がやってきます。まあ、このあたりは典型的なコメディなのですが、見どころはモーガン・フリーマンダイアン・キートンの円熟したパフォーマンスと、そこに刺激を入れるシンシア・ニクソンのパワフルな演技です。

 

原作小説を読んで絶対に映画化しなければと思ったリチャード・ロンクレイン監督がモーガン・フリーマンに声をかけ、二人で話し合って第一選択で相手役をダイアン・キートンに決めたと言います。

シルバー・パワー全開ですね。みなさん、老後に備えなければならない年代ですが、ちっとも辛気臭い映画にならないのはさすがです。意外なことにモーガン・フリーマンダイアン・キートンは初共演ですが、二人ともブロードウェイが大好きで、撮影現場では椅子に座ってよくデュエットでハモり、テイクの合間にも二人で歌ってるという絶妙のケミストリーで、映画でも本物の夫婦に見えます。

 

姪のリリー・ポートマンを演ずるシンシア・ニクソンも、1966年生まれと決して若くはないのですが、二人の大先輩の前に出ると小娘のようです。彼女は「セックス・アンド・ザ・シティ」(テレビ:1998〜2004年、映画:2008年)のミランダ役で知られていますが、実は子供の頃ら、映画に出演したり、舞台に立ったりしている経験豊富な女優で、老夫婦を相手にニューヨークらしいビジネス・ウーマンぶりを発揮、長いシーンや彼女が引っ張るシーンもある難しい役を見事にこなして、うまい具合にスパイス役になっています。大先輩を前に、存分に演技できて、楽しかったのではないかと思います。

 

さて、カーヴァー夫妻が住んでいる集合住宅は、ブルクリンのウィリアムズバーグ橋を渡ってすぐのところにあります。地上6階建ての最上階で、ブルックリンウィリアムズバーグ橋とその向こうにマンハッタンが見える、眺めの良い部屋です。原題の「5 Flights Up」は、階段を5つ上がるという意味で、彼らが6階まで階段で上ることを意味しています。最寄りの地下鉄の駅まで徒歩10分、取引価格の相場がなんと1億円です。

 

ニューヨーク市

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ニューヨーク市は東京23区の1.3倍程度の面積、中心部のマンハッタン島は、山手線内、或いは新宿、千代田、中央、港の都心4区と同程度の面積で、カーヴァー夫妻の家はブルックリンの北部、マンハッタン島からウィリアムズバーグ橋を渡ってすぐの所にあります。

 

かつてのブルックリンは治安が悪く、貧困層が多く住む地区というイメージがありました。カーヴァー夫妻も、そんな場所だから安く買えたわけです。ところが、ここ10年ほどでイメージが大きく変わりました。マンハッタンに比べて安い家賃に魅力を感じたアーティストたちが、ウィリアムズバーグなどに移り住むようになり、少しずつ「おしゃれなエリア」として注目されるようになったのです。以来、ブルックリンには、倉庫を改装したおしゃれなホテルや、こぢんまりとした個性派レストラン、地元密着型のオーガニックフード店や書店、最先端の流行を発信するショップなどが続々とオープン、いまや世界の若者が注目するほどになり、再開発も進みつつあります。

 

日本の不動産市場は全体の87%が新築で、13%が中古住宅の販売ですが、アメリカの不動産市場は91%が中古住宅で、新築はわずか9%、中古でも価値が下がらず、マーケットとともに価格が上昇していきます。中古の物件の価格が10年で2倍になることもあるそうです。カーヴァー夫妻が40年も住んだ部屋の相場が約1億円という背景にはそんな事情があります。因みに、ニューヨークの空室率は1.5%前後、東京が15%前後。日本もアメリカも消費文明の最右翼で、新しいもの好きなのですが、こと不動産に関して言えば、日本は売れない新築を無理して作っている感じがしないでもありません。

 

話は変わりますが、10年ほど前に政府や金融機関が口を揃えて投資を推奨したことがあります。狙いは高齢者の資産で、タンス預金を市場に引っ張り出せば、景気回復にもつながり、金にもなるというものです。高齢者の資産といっても日本の話ですから、いわゆる資産持ちになんてほとんどいない、減る一方の年金の穴埋め程度というのが実態だと思いますが、「墓に金を持っていっても使えねぇぞ」などとひどいことを言う人もいました。定期預金代わりにとどれだけの高齢者が投資したかわかりませんが、その後のリーマン不況などで資産が目減りした人も少なくないはずです。さらに市場に出た資金は企業の内部留保となり、景気も雇用も回復していません。それでも政府関係者や金融関係者は目減りしない給料をしっかりもらっているわけですから、ここでも回らない金を無理して回しているような・・・。

 

この映画を見ていて感じたのは、カーヴァー夫妻が売ろうとしているのは「不動産」ではなくて、思い出のたくさん詰まった「家」だということ。彼らは資産は40年の間に思いがけず大きく増えわけた訳で、住み替えるには好機とも言えるのですが、価値観は各人各様で、単一解があるわけではありません。もし、自分の親が同じような問題に直面したら、尊重すべきなのは一般論ではなく両親の考え方であり、将来、自分がそのような立場になったら、自分にとって何が重要なのか、よく考える必要がありそうです。先の投資の例で言えば、高齢者が持っているのは「資産」ではなくて「生活資金」だったりする訳で、政府や金融業界が「資産運用」と口を揃えて言ったところで、利害が一致しない限り無理して考えを合わせる必要もないでしょう。

 

モーガン・フリーマン(右、アレックス)とダイアン・キートン(左、ルース)

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シンシア・ニクソン(リリー・ポートマン)

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撮影地(グーグルマップ)

 

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関連作品

「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」の原作本Amazon

  ジル・シメント著「眺めのいい部屋売ります」

 

モーガン・フリーマン出演作品のDVD(Amazon

  「グローリー」(1989年)

  「ドライビング Miss デイジー」(1989年)

  「許されざる者」(1992年)

  「ショーシャンクの空に」(1994年)

  「セブン」(1995年)

  「ベティ・サイズモア」(2000年)

  「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)

  「バットマン ビギンズ」(2005年)

  「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(2007年)

  「ダークナイト」(2008年)

  「イルカと少年」(2011年)

  「ダークナイト ライジング」(2012年)

 

ダイアン・キートン出演作品のDVD(Amazon

  「ゴッドファーザー」(1972年)

  「ゴッドファーザー PART II」(1974年)

  「アニー・ホール」(1977年)

  「マンハッタン」(1979年)

  「マイ・ルーム」(1996年)

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