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夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「まぼろし」:長年連れ添った夫の喪失を受け入れることができない妻をシャーロット・ランプリングが好演する、哀しくも情感溢れる作品

「まぼろし」(原題:Sous le sable)は、2000年公開のフランスのドラマ映画です。フランソワ・オゾン監督、マリー シャーロット・ランプリングら出演で、長年連れ添った夫が夏の砂浜で行方不明になった中年女性の内面に迫り、複雑で繊細な心の変遷を透明感あふれる映像で描き出しています。

 

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目次

スタッフ・キャスト 

監督:フランソワ・オゾン
脚本:フランソワ・オゾン/エマニュエル・ベルンエイム/マリナ・ドゥ・ヴァン
    /マルシアロマーノ
出演:シャーロット・ランプリング(マリー)
   ブリュノ・クレメール(ジャン)
   ジャック・ノロ(ヴァンサン)
   アレクサンドラ・スチュワルト(アマンダ)
   ピエール・ヴェルニエ(ジェラール)
   アンドレ・タンジー(スザンヌ
   ほか

あらすじ

パリで幸せに暮らす、連れ添って25年の50代の熟年夫婦のマリー(シャーロット・ランプリング)とジャン(ブリュノ・クレメール)は、例年のように南フランスのランド地方にヴァカンスに出掛けますが、マリーが浜辺で昼寝している間にジャンが忽然と消えてしまいます。ヘリコプターを使って捜索するもジャンを発見することはできず、マリーは大学で英語を教えるパリでの生活に戻ります。大きなショックを受けたマリーは、パリに戻ってもジャンの幻影を作り出し、あたかも彼がいるかのように話しては、ジャンとの日常生活が続いているように暮らします。心配した親友の英国人アマンダ(アレクサンドラ・スチュワルト)は出版社を経営するヴァンサン(ジャック・ノロ)を紹介、2人は仲良くなり、関係を続けますが、夫の幻影と暮らすマリーには不倫関係のようでもあり、違和感がありました。そんなある日、ジャンと似ている死体が上がったので確認に来てほしいと警察から連絡があり、マリーはジャンの母のスザンヌ(アンドレ・タンジー)に相談に行きます・・・。

レビュー・解説 

長年連れ添った夫が夏の砂浜で行方不明になる中年女性を描いたフランソワ・オゾン監督の「まぼろし」は、哀しくも情感溢れる作品で、夫の喪失を受け入れることができない50代の女性の微妙で複雑な心の葛藤を、シャーロット・ランプリングが見事に演じています。

 

フランソワ・オゾン監督は、子供の頃に見た事件に触発され、この映画を製作しました。9歳か、10歳の頃、彼は両親とともにフランスのランド県で休暇を過ごしており、そこの浜辺で60代のオランダ人のカップルと毎日、すれ違っていました。ある日、その男性が泳ぎに行ったまま戻って来ず、海上にはヘリコプーターが飛び、浜辺では女性がライフガードに懇願していました。フランソワ・オゾンとその兄弟はショックを受け、誰も泳ぎに行かず、休暇の終わりは悲惨なものになりました。その後も、ひとり残された女性の姿が彼の頭から離れず、どうなったんだろうと、彼はずっと思い続けていました。この映画はそうした記憶のバリエーションであり、死体がないのにどう悲しむのかが、中心テーマになっています。彼はエンディングを決めないまま撮影を開始し、撮影地や俳優や編集を見ながら物語の後半を想像したら面白いだろうと考えました。この映画は、予算不足の為、途中で6ヶ月間、撮影を休止せざるを得ませんでしたが、夏と冬に撮影されたシーンが逆に効果を生み出しています。

 

50代の女性を描いた映画は意外に少なく、ぱっと思い出せるのは58歳の女性を描いた「グロリアの青春」(2013年)くらいですが、主人公にシャーロット・ランプリングを起用した理由について、年相応に見える美しい女性は彼女以外にはほとんどいないかったと、フランソワ・オゾン監督は語っっています。

マリーを見ている人が恋に落ちるような美しい女性にしたかったんだ。技巧を凝らしたメイクをせず、フィルターも使わず、しわの美しさを撮りたかったんだ、最初からそう思っていたんだよ。(フランソワ・オゾン監督)

 

あたかも夫が健在なように振る舞うマリーを周囲の人は気遣いますが、これはあながち異常なことではありません。喪う悲しみに耐えられず、失うことを受け入れることができないのです。行方不明で死体も上がっていないとすればなおさらのことですが、喪う悲しみに耐えられないという意味では同じことでしょう。

 

この映画のテーマは喪失です。映画の終盤、夫が行方不明になった海岸を訪れたマリーは、泣きながら砂をまさぐります。それは、あたかも失われたものを再び手のひらに感じようとしている様でもあります。喪失とは愛する実体を感じることができなくなる、深い悲しみです。原題の「Sous le sable」は「砂の下」の意味ですが、実感を求めて砂をまさぐる彼女にとって、夫のいない砂の上の現実世界は「まぼろし」に過ぎないのかもしれません。

 

シャーロット・ランプリング(マリー)

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ブリュノ・クレメール(左、ジャン)

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ジャック・ノロ(左、ヴァンサン)

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アレクサンドラ・スチュワルト(アマンダ)

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撮影地(グーグルマップ)

 

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関連作品

フランソワ・オゾン監督xシャーロット・ランプリングのコラボ作品Amazon

  「スイミング・プール」(2003年)

 

フランソワ・オゾン監督作品のDVD(Amazon

  「海をみる」(1998年)

  「8人の女たち」(2002年)

  「しあわせの雨傘」(2010年)

「危険なプロット」(2012年)

  「彼は秘密の女ともだち」(2014年)

 

シャーロット・ランプリング出演作品のDVD(Amazon

  「ジョージー・ガール」(1966年)

  「地獄に堕ちた勇者ども」(1969年)

  「愛の嵐」(1974年)

  「さらば愛しき女よ」(1975年)・・輸入版、リージョン2、日本語なし

  「評決」(1982年)

  「鳩の翼」(1997年)

  「家の鍵」(2004年)

    「メランコリア」(2011年)

  「ブリューゲルの動く絵」(2011年)

  「17歳」(2013年)

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