夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「唇を閉ざせ」:8年前に惨殺された妻が生きている?ハリウッドではありえないラブストーリ仕立てのフランス流クライムサスペンス

「唇を閉ざせ」(原題:Ne le dis à personne)は2006年公開のフランスのサスペンス&ドラマ映画です。アメリカの作家ハーラン・コーベンの同名小説を原作に、殺されたはずの妻から届いたメールの謎を追う男を描いています。第32回セザール賞において、作品賞をはじめとする9部門でノミネートされ、そのうち監督賞(ギヨーム・カネ)、主演男優賞(フランソワ・クリュゼ)、作曲賞、編集賞の4部門で受賞を果たした作品です。

 

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監督:ギヨーム・カネ
脚本:ギヨーム・カネ/フィリップ・ルフェーヴル
原作:ハーラン・コーベン「唇を閉ざせ」
出演:フランソワ・クリュゼ(アレックス・ベック、小児科医)
   マリ=ジョゼ・クローズ(マルゴ・ベック、アレックスの妻、8年前に惨殺)
   アンドレ・デュソリエ(ジャック・ローランタン、マルゴの父、引退した警官)
   クリスティン・スコット・トーマス(エレーヌ・パーキンス、アレックスの友人)
   フランソワ・ベルレアン(エリック・レフコヴィッチ、ヴェルサイユ署の警視)
   ナタリー・バイ(エリザベス・フェルドマン、弁護士、アレックスを弁護)
   ジャン・ロシュフォールジルベール・ヌヴィル、地方議会議長、児童財団総裁)
   マリナ・ハンズ(アンヌ・ベック、アレックスの姉、乗馬選手)
   ジル・ルルーシュ(ブリュノ、アレックスに恩を感じているゴロツキ)
   フィリップ・ルフェーヴル(フィリップ・メナール、レフコヴィッチの部下)
   フローレンス・トマシン(シャルロット・ベルトー、カメラマン、マルゴの親友)
   オリヴィエ・マルシャル(ベルナール・ヴァレンティ、アレックスを監視する男)
   ギヨーム・カネ(フィリップ・ヌヴィル、ジルベールの息子、8年前に殺された)
   ミカエラ・フィッシャー(ザック、女殺し屋)
   ほか

 

【あらすじ】

小児科医アレックス(フランソワ・クリューゼ)は妻マルゴ(マリー=ジョセ・クローズ)と訪れた湖畔で突然何者かに襲われ、湖に沈められます。奇跡的に助けられた彼でしたが、マルゴはその後惨殺死体で発見されます。しかし、8年後、彼は妻と自分の関係を示す「M+A」と書かれたメールを受け取ります。そこには「このことは誰にも言わないで」という一言が書かれており、リンクをクリックすると、少し歳を重ねたが元気なマルゴらしき姿が映っている動画が再生されます。妻が生きているのではないかと考えたアレックスは、彼女の死体を確認した唯一の存在である、妻の父で元警官のジャック(アンドレ・デュソリエ)に死体の状態を尋ねますが、マルゴの死を否定する可能性を得ることはできませんでした。アレックスは一人で、マルゴの居場所と殺人の裏に隠された秘密を求めて調査を開始しますが、その頃、マルゴの死体が発見された場所から新たな死体が見つかり、アレックスは警察に容疑者扱いされます。さらに真実に迫ろうとするアレックスは、彼を監視している謎の男たちに陥れられ、マルゴの親友シャルロットを殺した容疑者として警察に追われることになり、彼を監視するグループもアレックスを拉致しようとします・・・。

 

一歩間違えば単なる血なまぐさいサスペンス映画ですが、ギヨーム・カネ監督のディレクション、甘さと切なさが漂うサウンド・トラック、内面を映し出すフランソワ・クリューゼの卓越した演技力が、物語の底に流れる甘く切ないラブストーリーを見事に表出させています。

 

典型的なサスペンス映画と思って見始めたのですが、甘く叙情的なサウンドトラックにじわっと惹かれていきます。筋を追う事に目を奪われていると、殺された妻を8年も思い続けている男の気持ちを思いやる余裕もなくなりますが、フランスの名優、フランソワ・クリュゼの演技が見る者をぐいぐいと引き込んでいきます。血なまぐさいサスペンス映画に、臆面もなく情を絡め、見事なラブストーリーに仕立て上げていくのは、フランス映画ならではでしょう。

 

当初、原作者のハーラン・コーベンは、マイケル・アプテッドによる監督を条件に、ハリウッドに映画化権を売りに出しました。この頃、原作に惚れ込んだギヨーム・カネ監督がコーベンに電話、彼の解釈を伝えました。「原作は第一にラブストーリーで、その次にサスペンスだ」というカネの物語に対する情熱とビジョンは、ハリウッドにはないものでした。ハリウッドでの映画化が流れ、コーベンはカネに連絡し、彼にチャンスを与えることにしました。

 

ギョーム・カネはフランスの俳優、映画監督で、1994年からテレビに出演しはじめ、アメリカ・イギリス合作映画「ザ・ビーチ」(1999年)にも出演し、英語圏の観客にも知られています。1996年から短編映画を監督、、2002年の「僕のアイドル」で長編監督デビュー、第28回セザール賞の新人監督作品賞にノミネートされています。両親が馬のブリーダーで、自身も乗馬の選手になりたかったという彼は、本作で騎手を演じています。

 

殺された妻を8年も思い続けている男アレックスを演じるフランソワ・クリュゼは、フランスのアカデミー賞に相当するセザール賞に、受賞を含めて10回もノミネートされているベテランの実力派俳優です。日本で公開されたフランス語映画歴代1位のヒット作となった「最強のふたり」(2011年)で、頸椎損傷で首から下が動かない主人公を顔の表情だけで演じたのを記憶している方も多いのではないかと思います。本作を撮影した時、クリュゼは既に50歳を過ぎていますが、警察に追われて逃げるシーンでは全力疾走で、これがまた格好いい。運動不足の中年は30代でもこうは走れないでしょう。表情豊かな俳優ですが、体を使った演技にも素晴らしいものがあります。

 

傑出した俳優はフランソワ・クリュゼだけではありません。殺された妻マルコを演じるマリ=ジョゼ・クローズはカナダ出身の女優で、「みなさん、さようなら」(2003年)では主人公の愛人役でカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞するほどの実力者です。「潜水服は蝶の夢を見る」(2007年)でも主人公を支える言語療法士を独特の存在感で演じて際立っていましたが、本作でも夫が8年も思い続けるに魅力的な妻を見事に演じています。

 

レックスの友人で姉のレズビアンの恋人エレーヌを演じるクリスティン・スコット・トーマスは、「フォー・ウェディング」(1994年)で英国アカデミー賞助演女優賞を受賞、「イングリッシュ・ペイシェント」(1996年)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたイギリスの大女優です。自分が出演した作品のフランス語版を自ら吹き替えることもあるほどフランス語が堪能で、2003年に大英帝国勲章を、2005年にレジオン・ドヌール勲章を受章しています。本作では、主人公を支える、レズビアンで男と女の関係ではない魅力的な女性を演じ、物語に華と優しさを添えています。

 

その他、敏腕女性弁護士を演じるナタリー・バイや、アレックスに恩を感じているゴロツキを演じるジル・ルルーシュ、マルゴの父を演じるアンドレ・デュソリエ、刑事を演じるフランソワ・ベルレアンなど、それぞれのキャラクターをうまく出しており、フランス映画らしい彩が感じられます。

 

フランソワ・クリュゼ(アレックス・ベック、小児科医)

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マリ=ジョゼ・クローズ(マルゴ・ベック、アレックスの妻、幼なじみ、8年前に惨殺)

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アンドレ・デュソリエ(ジャック・ローランタン、マルゴの父、警官を引退したばかり)

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クリスティン・スコット・トーマス(エレーヌ・パーキンス、アレックスの友人)

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フランソワ・ベルレアン(エリック・レフコヴィッチ、ヴェルサイユ署の警視)

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ジル・ルルーシュ(ブリュノ、アレックスに恩を感じているゴロツキ)

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撮影地(グーグルマップ)

アレックスの勤める病院

アレックスが警察に追われて渡ったパリ環状線

アレックスが妻を待った公園

 

「唇を閉ざせ」のサウンドトラック(Amazon)・・・リンク先で試聴できます

 Ne le dis à personne (Bande originale du film)

 

「唇を閉ざせ」の原作本(Amazon

  Harlan Coben "Tell No One"

 

フランソワ・クリュゼ出演作品のDVD(Amazon

  「ラウンド・ミッドナイト」(1986年)

  「最強のふたり」(2011年)

 

マリ=ジョゼ・クローズ出演作品のDVD(Amazon

  「みなさん、さようなら」(2003年)

  「潜水服は蝶の夢を見る」(2007年)

 

クリスティン・スコット・トーマス出演作品のDVD(Amazon

  「フォー・ウェディング」(1994年)

  「リチャード三世」(1995年)

  「イングリッシュ・ペイシェント」(1997年)

  「ゴスフォード・パーク」(2001年)

  「ずっとあなたを愛してる」(2008年)

  「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」(2009年)

「危険なプロット」(2012年)

 

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唇を閉ざせ(字幕版)

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