夢は洋画をかけ廻る

洋画のレビューや解釈、解説、感想、撮影地、関連作品などを掲載しています。タイトルは、松尾芭蕉最後の句と言われる「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」由来です。病に伏してなお、夢が枯野をかけ廻るとは根っからの旅人だったのですね。映画はちょっとだけ他人の人生を生きてみる、いわば人生の旅のようなもの。願わくば、芭蕉のような旅の達人になりたいものです。

「私にだってなれる! 夢のナレーター単願希望」:語りの世界や話し方の癖を描きながら、業界の裏側をチクリと風刺する可笑しなコメディ

「私にだってなれる! 夢のナレーター単願希望」(原題:In a World...)は、2013年公開のアメリカのコメディ&ヒューマン・ドラマ映画です。 レイク・ベル監督・脚本、レイク・ベルらの出演で、ハリウッドのナレーター業界の裏側を舞台に、「In a World...」の名調子で知られた今は亡き映画予告編の伝説的ナレーター、ドン・ラフォンティーヌの後継者に名乗りを上げるべく、オーディションに挑むヒロインの奮闘をコミカルに描いています。

 

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目次

スタッフ・キャスト

監督:レイク・ベル
脚本:レイク・ベル
出演:レイク・ベル(キャロル)
   ディミトリ・マーティン(ルイス)
   フレッド・メラメッド(サム)
   ロブ・コードリー(モー)
   ミカエラ・ワトキンス(ダニー)
   ケン・マリーノ(グスタフ)
   ドン・ラフォンテーヌ(アーカイブ映像)
   キャメロン・ディアス(クレジットなし)
   ほか

あらすじ

声優として成功を収めた父サム(メラメッド)の陰でくすぶる娘キャロル(ベル)は、訛り矯正の仕事をしながら声優を夢見ていました。そんなある日、キャロルのもとに映画の予告編の仕事が舞い込んで来ます。売れっ子声優グスタフ(マリーノ)や父サムが嫉妬する中、一気に上昇機運に乗った彼女は、やがて超大作映画4部作のナレーターのオーディションを受けるチャンスを得ます。それは、「神の声」と呼ばれた今は亡き声優界の大物ドン・ラフォンティーヌの決め台詞、「In a world...(〜の世界では)」を復活させるビッグプロジェクトでもありました・・・。

レビュー・解説 

よく練られた脚本で、ナレーションや日常の話し方を描きながらハリウッドの業界をチクリと風刺、女性らしい視点も見え隠れする、女優レイク・ベルの脚本家・監督しての才能が開花した、面白おかしいコメディ&ヒューマン・ドラマです。

 

ナレーターの名を知らなくても映画の予告編のナレーションに素晴らしさに感動したことのない人はいないと思います。本作は伝説の予告編ナレーター、ドン・ラフォンティーヌに注目するとともに、その後継争いを通じてハリウッドのナレーション業界の裏側をチクリと風刺しています。女性監督らしい視点も感じられる楽しい映画ですが、何よりも本作を素晴らしいものにしているのは、ナレーションのみならず、随所に散りばめられた声やアクセント(訛り)に関する描写で、それが映画に深みを与えています。メジャーな映画ではありませんが、なかなか楽しめる作品です。

 

レイク・ベルは、アメリカの女優、映画監督、脚本家、プロデューサーで、本作が彼女の監督デビュー作になりますが、彼女自身の体験やこだわりが色濃く反映されています。

私はナレーションに取り憑かれていたわ。長いこと、ナレーションの業界に入り込む道をつけようとしていたの。ロスアンジェルスに足を踏み入れるや否や、偉大なナレーション俳優の一人になれると思っていた。でも、すぐにわかったの、それは閉鎖的な業界だって。きっちりと織り込まれ、デザインも形もしっかりしていて、首をつっこむ隙なんてない。他の業界と同じよ。

ある意味、人々を世界を旅したように感じさせる素晴らしい夢よ。私は若い頃、世界の人々がどんな話し方をするのか聞きたくて、旅をしていたわ。レストランでびっくりするようなアクセントで話すウェイターがいると、私はすぐに虜になったわ。私はそんなちょっとしたアクセントを集めたの。それを口にすると、誰か別人になったような気がしたわ。(レイク・ベル監督)

  

単に書きたいからこの脚本を書いたというレイク・ベルは、家族関係や仕事や人生のフラストレーションなど、克服したい諸々を抱えていましたが、単に吐き出すのでなく、次に誰に会いたいのかということを念頭に置いていたそうです。出来た脚本を見た彼女のエージェントは、他の監督に脚本を売るのではなく、彼女自身が監督することを勧めました。恐らく、これが大正解だったのではないかと思います。ナレーションのみならず、声やアクセントに思い入れのあるレイク・ベルならではの想いが、映画のディテイルに生きています。例えば、ひどい日本訛りの英語を話す男が出てくるのですが、これが本物の日本訛りです。恐らく、日本人を使って日本訛りを強調して話させているのではないかと思います。他の監督ならば、日系もしくはアジア系アメリカ人を使って、無国籍っぽい「らしさ」でごまかされてしまうかもしれません。それでは、この映画の面白みが半減です。

 

また、レイク・ベルは主役を演じるだけではなく、なんと、サムとグスタフが電話で話をするユダヤ人男性の老エージェントの声も演じています。

私はいつも姿なき声に魅せられてきたわ。どう見えるかではなく、どう聞こえるかという世界よ。どんなキャラクターでもなれるの、性にも、国籍にも、社会的な名声にもよらずにね。(レイク・ベル監督)

 

キャロルの父を演じるのフランク・メラメッドの声も素晴らしいです。彼は、独特の声の持ち主としても知られており、その声を活かしてUSAネットワーク、CBSスポーツ、スーパーボウルなどの解説からコマーシャル、テレビ番組のナレーションまで、ナレーターやアナウンサーとしても活躍しています。

 

普段、発声や滑舌、話し方といったことを気にすることのない私ですが、そこには素晴らしいプロの世界があります。またプロだけではなく、一般人もこうしたことを学ぶことにより、コミュニケーション能力が高まることは想像に難くありません。願わくば、柔軟性があり、習得しやすい子供の頃から、こうした教育ができるような環境が実現できるといいのではないかと思います。

 

レイク・ベル(キャロル)

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アメリカの女優、映画監督、脚本家、プロデューサー。「ベガスの恋に勝つルール」(2008年)、「恋するベーカリー」(2009年)、「抱きたいカンケイ (2011年)、「ミリオンダラー・アーム 」(2014年)、「マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり」(2015年)に出演。本作が監督デビュー作。

 

ディミトリ・マーティン(ルイス)

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アメリカのコメディアン、俳優、ミュージシャン。「アナライズ・ミー」(2002年)で映画デビュー、「ウッドストックがやってくる」(2009年)などに出演している。

 

フレッド・メラメッド(サム)

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アメリカの俳優。学生時代から演劇を学び、舞台活動を開始、当時から賞を獲得するほどの実力で、その後も由緒ある劇場で舞台を踏み、ブロードウェイデビューも果たし、舞台版「アマデウス」にも出演している。独特の声の持ち主としても知られており、その声を活かしてナレーターやアナウンサーとしても活躍、USAネットワークからCBSスポーツ、スーパーボウルなどの解説からコマーシャル、テレビ番組のナレーション等に活動の場も広げている。ウディ・アレン監督の作品の常連俳優でもあり、同監督の作品には「ハンナとその姉妹」や「ラジオ・デイズ」などをはじめとする7作品に出演している。

 

ロブ・コードリー(モー)

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アメリカ合衆国のコメディアン、俳優。学生時代から演劇を学び、ニューヨークに出てナショナル・シェイクスピア・カンパニーなどで演劇活動を続けるが、即興コメディ集団に参加したことをきっかけにコメディのセンスが開花、テレビで活躍するようになる。「アダルト♂スクール」(2003年)で映画デビュー、「ライラにお手あげ」(2007年)、「俺たちフィギュアスケーター」(2007年)、「ベガスの恋に勝つルール」(2008年)、「バッドトリップ! 消えたNO.1セールスマンと史上最悪の代理出張」(2011年)、「ウォーム・ボディーズ」(2013年)、「プールサイド・デイズ」(2013年)などに出演している。存在感があり、今後、ますます活躍しそうな俳優。

 

カエラ・ワトキンス(右、ダニー)

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アメリカの女優、コメディアン。演劇学校を卒業後、ニューヨークで働くが、キャリアを積むことが難しく、ロスアンジェルスや地方の劇場で長い下積み生活を過ごす。その後、テレビ番組の「サタデーナイトライブ」やシチュエーション・コメディで頭角を現し、「カレには言えない私のケイカク」(2010年)、「恋人はセックス依存症」(2012年)、「おとなの恋には嘘がある」(2013年)などの映画にも出演している。

 

ケン・マリーノ(グスタフ)

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アメリカの俳優、コメディアン、監督、脚本家。テレビ番組のコメディアンとして成功する。「恋のトルティーヤ・スープ」(2001年、テレビ映画)、「ぼくたちの奉仕活動」(2008年)、「ヴェロニカ・マーズ [ザ・ムービー](2014年)、「グースバンプス」(2015年)などに出演している。

 

ドン・ラフォンティーヌ(アーカイブ映像)

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アメリカの男性声優、ナレーター、アナウンサー、元音響技師兼編集技師。映画の予告編のナレーションを中心に5000本以上の作品に出演した。技術の発展より、通信による録音が可能になってからは、自宅に録音スタジオを作り、1日に7本から10本程度の仕事をこなし、映画俳優組合の記録上、最も忙しかった声優であったと言われている。例え、名は知らなくても、この声に聞き覚えのない映画ファンはいないはず。

 

キャメロン・ディアス(クレジットなし)

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劇中劇「Amazon Games」の予告編に、主役としてクレジットされている。

動画クリップ(YouTube) 

  • 得意なアクセントを生かせ〜「私にだってなれる! 夢のナレーター単願希望」

    キャロルは、「ナレーションは女の仕事ではない、得意なアクセントを生かすことを考えろ」と父親に諭される。スターウォーズの有名なセリフを、キャロルがロシア訛りで披露している。
  • セクシー・ベイビー・ボイス〜「私にだってなれる! 夢のナレーター単願希望」

    「セクシー・ベイビー・ボイス」は、声のピッチをあげ、思春期前の女の子のように話す話し方。キャロルが、真似をして返している。音としては異なるが、日本の女性が語尾を伸ばして話す心理に似ていると思われる。
  • 映画予告編名ナレーション集(ドン・ラフォンテーヌ他)

    この声に聞き覚えのない映画ファンはほとんでいないはず。予告編のナレーションは芸術だ。数々の予告編が出てくるので、何の予告編か当てながら見るのも楽しい。

撮影地(グーグルマップ) 

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関連作品

レイク・ベル出演作品のDVD(Amazon

   「天才犬ピーボ博士のタイムトラベル」(2014年)

   

「マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり」(2015年)・・(楽天市場

 

ディミトリ・マーティン出演作品のDVD(Amazon

  「コンテイジョン」(2011年)

 

フレッド・メラメッド出演作品のDVD(Amazon

   「シリアスマン」(2009年)・・・リージョンフリー、日本語なし

  「ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男」(2014年)

  「ヘイル、シーザー!」(2016年)

 

ロブ・コードリー出演作品のDVD(Amazon

 

「バッドトリップ! 消えたNO.1セールスマンと史上最悪の代理出張」(2011年)

  「ウォーム・ボディーズ」(2013年)

  「プールサイド・デイズ」(2013年)

 

カエラ・ワトキンス出演作品のDVD(Amazon

  「恋人はセックス依存症」(2012年)

  「おとなの恋には嘘がある」(2013年)

 

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  「ぼくたちの奉仕活動」(2008年)

  「ヴェロニカ・マーズ [ザ・ムービー]」(2014年)

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